旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

ガミラス兵器群 2代目デスラー艦――復活のデスラー砲キャリア――

 

 

 2代目デスラー艦は一応、通称である。完全に大破した初代デスラー艦に代わるデスラー総統の旗艦であり、ガトランティスによって整備されたらしい戦闘艦だ。

 今回はこれを考察してみたい。

 

 

 

 ――データ――

 艦級名・艦名:不明(通称・2代目デスラー

 全長:235メートル
 全幅:74.6メートル
 自重:49,500トン
 武装:艦首デスラー砲1門、大レーザー砲×3門、艦首ミサイル発射管4門、艦首瞬間物質移送器1組、艦央部舷側上・三連装無砲身レーザー砲塔片舷1基、艦首三連装パルスレーザー機関砲片舷2基、同砲艦尾片舷2基、磁力機雷散布装置、アンドロイド兵部隊制御システム


 大帝星ガトランティス謹製の旗艦級戦艦。

 主砲はデスラー砲であり、最も有用な武器は瞬間物質移送器だ。全体的にブルーで、砲口が赤く塗られているのが特徴。基本的に初代デスラー艦と同様だが。これの半分をジオラマよろしくパパイヤの半身にうずめた感じが全体的な印象。
 あんまりガトランティスの技術が用いられている様子はなく、基本的にはガミラスの技術のままなのだろう。初代デスラー艦を改修して補修した可能性も十分にある。

 背景が劇中では語られていないため、仔細は不明

 自分を含めファンは何の疑いもなくデスラー艦だとか2代目デスラー艦だとか呼んでいるが、劇中では特に艦名はついていない。ゲーム版でもあまり洒落た名前ではないらしい。その一方、海外では指揮巡洋艦Spirit Of Gamilon〉などと大分カッコいい艦名がついている模様。

 

 

 全長の妥当性

 実は別に再設定をする必要はないガミラス艦全般が割合に無理な設定も描写も行われていないため、大して再設定する必要がないのだが、この艦は特に能力が限定的である為より必要性がない。

 艦橋の描写も、デスラー艦の艦橋自体が結構大型である為、別に気にするほどではない。つまり、能力を確保する意味での艦全長の再設定は必要ないのだ

 

 仮に拡大する必要が有るとするならば、ヤマトとの大きさの比較。

 ヤマトを妥当な数値に設定し直したとしても、230メートルはそれなりに大型であり――最悪拡大するとしても1.5倍程度か。ヤマト2の第3話でのガミラス艦隊集結において、戦闘空母とほとんど同じ全長であろうことが推測されるため、340メートルほどが妥当だろう。

 大型戦艦などと太田に指摘されたが、どう考えてもヤマトの方が巨大に描かれている。やはり、能力が限定的な戦闘艦であるからこそ、割合に小さい全長で済んでいると言えるのだろう。

 

 

 

 デスラー砲キャリア

 初代デスラー艦と同様に基本はデスラー砲のキャリア艦である。ある意味メダル―ザと同じ軸線の戦闘艦

 確かに大レーザー砲を所有しているが、正直そんな設定あったっけ? というレベルで、劇中では全く影も形もない。艦首のミサイル発射管だって使用はない。小砲塔群もヤマト接近によって砲撃を開始するという事も無く、結果お飾り状態に近い。

 

 結局、正常に運用できたのはデスラー砲と瞬間物質移送器ぐらい。

 まあ、端っからデスラー砲キャリアであるとすれば、別に自衛火器が大して役に立たなくとも大きな問題ではないともいえる。ある意味、順当。

 

 ヤマト2においては、アンドロイド制御に代わりデスラー機雷と磁力性制御システムの運用が見られた。こちらの場合は、そもそもガミラス人によって運用されているため少々話が異なる。ただ、18話で白色彗星から放出されることが有ったので、無人ないしリモートコントロールでの運用が可能なのかもしれない

 

 決戦砲のキャリア艦として、或いは指揮戦闘艦としてはスペック的にはメダル―ザより上である。事実上ほとんど同じ能力を基幹としているが、しかしデスラー艦の方が手数が多く自衛能力が高い。運用に難があったというのが正直なところだが、しかし端っから自衛火器が2門の固定砲台のみのメダル―ザよりかは能力が高いとするのが妥当だろう。

 が、結局のところデスラー砲の能力に頼った性能であり、しかも緊急的に小砲塔を作動させられなかったというのは……艦の制御システムに不備があるとしか言いようがない。

 

 

 劇中の活躍

 さらばとヤマト2では微妙に活躍が異なる。また、各戦闘でのデスラー艦の様子も異なる為、分けて述べる。


 さらばにおいてデスラー艦は終盤に登場。

 デスラー襲撃をバックに登場したガトランティス駆逐艦の主砲斉射によって戦闘開始。デスラー艦は遠方より、ガトランティス駆逐艦を瞬間物質移送器によってヤマト近傍空間に転送、これによってヤマトの全ての戦闘力を封じた。更に総統はその息の根を止める為にデスラー砲を発射――だが小ワープによってかわされてしまう。デスラー艦はこの体当たり突撃を避けることが出来ず、衝突し横っ腹にヤマトの艦首がめり込んでしまった。これにより白兵戦に突入する。

 戦闘自体は比較的デスラー艦側に傾いていたものの、古代と真田さんの活躍により主力兵力であったアンドロイド兵の制御機構が破壊されて以降は完全に逆転。艦橋に突入した古代と総統の対決は……

 さらばにおいて、終始艦自体の能力は失われなかった。失われてはいないが、しかし肝心の総統とタランが失われては……デスラー艦にはどうしようもなかった。


 ヤマト2においては第3話から登場、残存艦隊を取りまとめてテレザート星域へ赴いた。デスラー艦が戦闘に参加したのは第12話。このエピソードにおいてタランがあらかじめ“ちくわ”に仕込んでおいた装置を遠隔作動させる。これによってヤマトを拘束に成功。デスラー砲をお見舞いするも……サーベラーによってタイミングをずらされて不発。デスラー砲不発伝説がある意味確定的になった最初の事例だろう。

 第23話において再度ヤマトと戦闘、急降下爆撃機を瞬間物質移送器で送り込んでヤマトの戦闘力をあらかた削いだ。さらにデスラー機雷を送り込んで波動砲口をふさぎ、反撃の手を止めることに成功した。止めを刺すためにデスラー砲の使用に至るも――さらばと同様に小ワープでかわされ、激突。艦長が何を思ったのかうっかり舵を切り間違えてヤマトの艦首を思いっきり横っ腹で受け止めてしまい、白兵戦に突入することとなった。

 戦闘はタランの活躍により比較的優勢であった者の、機関部の損傷により艦は保てず。結果、古代との対決の後、艦を放棄することとなった。

 

 完結編においてなぜかゲスト出演。

 ガルマン・ガミラス本国も大変な事になっていたが、恐らくめどをつけたのだろう、ヤマトのピンチに大量の駆逐型ミサイル艦と共に駆け付けた。

 最後にはデスラー砲をお見舞いし、邪魔者を粉砕。そしてヤマトの最期を見届けた。

 

 

 機関部の損傷について

 さらばにおいては強固さを見せたが、ヤマト2においては機関部の損傷が発生するなどのもろさも見せた。


 機関部の損傷は船にとってほとんど致命傷に近い

 特に機関科員の損害というのは最悪で、他の科ならなんとか補充や兼務なんかもできなくはない。が、他の科に比べて専門性が高い上に案外危険性の高い機関科が戦死多数というのはマズイ。


 デスラー艦においても同じように機関部に損傷が発生し、機関科員が戦死したとあれば艦の維持は不可能になるだろう。 元来何とかなったはずの損傷でも担当がいなければ悪化した可能性も十分。いくら高度化された機関を持っていたとしても、結局制御するのは人間である。それは今も昔もこれからも基本は変わらないだろう。

 また、デスラー艦の機関に損傷が発生した理由はヤマトとの衝突というわけでは無く、十分な整備が行われておらず2回のデスラー砲発射に加えての衝突という想定以上の負荷がかかった為としても問題はない。

 

 ちゃぶ台返し的発想だが――

 実際は、デスラー艦は機関部に爆発が生じても爆沈はしなかった。そのあとずっと、爆沈しなかった。実は損傷は大したことが無かったんじゃね?

 これは……実はタランの報告が誇張されたものであるという説明の付け方が出来る余地を残す。つまり、タランが総統の御身を案じて、もしかしたら爆発するかもしれない艦に留まるよりも、第一空母へ旗艦を移した方が安全が確保できると判断したという可能性もある。

 また、復讐の鬼となっている総統が勝利条件をしてあげるのは恐らく、ヤマトクルーの殲滅だろう。だが、これは非常に困難でありまた、敗北を悟ったヤマト自身が自爆という選択を取った場合に総統まで巻き込まれてしまう。ヤマトが地球の為に戦い続けるのだからこの選択はあり得ないのだが、しかしあくまでガミラス人の視点から見れば――タランがそう判断しても不思議はないだろう。少なくともこの時点ではガミラスは地球の敵である事には違いない為、ヤマトが自らと引き換えに総統を討取るという可能性も排除できない。

 だから、総統からこの泥沼的戦闘から引き上げる為にわざと誇張した損傷を報告し、誇張した危険の為に脱出退艦を迫った。これも案外妥当な考察ではないだろうか

 

 


 戦闘においてデスラー総統は第一作の時に行った作戦をほぼそのまま返されてしまった。つまり、突撃を敢行して白兵戦に突入する事である。困ったことにこれが古代にひらめきを与え、むしろ総統自身の身を危険にさらすこととなった。総統もこの辺りは決して手抜かりはなく、さらばにおいてはわざわざアンドロイド兵を配備し、ヤマト2においても多数のガミラス軍人を乗り込ませて速やかにヤマト陸戦隊の攻撃に対抗した。

 


 デスラー艦は見た目が非常に目を引く。真っ青な艦体、独特な艦影……何より総統の旗艦である。しかし、ほとんど活躍らしい活躍も、大した粘り強さも見せられなかった。

 だが、この表現しがたい哀愁というのがなんともデスラー総統らしい。デスラー艦は総統を語る上で欠かせない戦闘艦である。だからこそ、この艦の人気が衰えないのであろう。

 

 

大帝星ガトランティスを探る ・地球侵攻、その目的




 ガトランティスがなぜ、地球侵攻を決意したのか。
 実は判然としない。

 だって、地球艦隊は大型艦・中型艦共に全艦拡散波動砲装備の超火力偏重タイプ。これと正面から戦うとすれば、ガトランティス艦隊の損害は免れない。そんなこと、誰だって精密なシミュレーションなどしなくても十分察しが付く。他の惑星を征服した方が簡単だ。

 そこそこ頭のいい原住民を奴隷にしたいのなら、それだって他の惑星を征服した方が簡単。波動砲の技術が欲しかったとしても、デスラー総統に贈ったデスラー艦ですでに習得済みと考えると……。

 ますます地球侵攻の合理性が無くなる。

 

 

 

 という事で今回はガトランティスにより地球大攻略作戦がなぜ行われたかについての考察をしてみたいと思います。
 一部は他の記事の繰り返しみたいになってますがご了承ください。

 


 では、侵攻しない選択肢を提案しうるか、損得から考えてみる。
 地球を征服する事がどれだけガトランティスの得になり、損になるのか。検証してみよう

 


 地球を征服する事によるデメリット。
 1、敗北。実際、その通りになった。
 そもそも、地球は波動砲という超強力な決戦兵器を全体にいきわたらせるという選択をとったえげつないほどの戦闘国家である。んな簡単に勝てるはずもない。

 

 他の勢力と異なり、地球は火力投射の強化を最優先課題として不足しがちな隻数を補おうとしたこれにより、地球艦隊は少数ではあるものの強力で比類なき火力を有する戦闘艦隊を作り上げたのである。以前、各艦種は専門的な兵装を有しており、艦隊を総合力として整備していると結論付けたが、他方で拡散波動砲巡洋艦以上に配備しているのは艦隊の火力を徹底して向上させる方策と言えるだろう。

 他に地球型の戦力を有するのはディンギル帝国のみだが、これはハイパー放射ミサイルを水雷艇と一部母艦に搭載したのみで、煎じ詰めると地球の全員サッカータイプの配備とは異なる。艦隊総力の火力向上を意味しないものでは無いだが、どちらかと言えば攻撃のスピードを上げる為の方策と言え、地球とは考えた方がかなり異なるのだ。

 

 史実に例を取れば、黎明期の日本艦隊

 これは対定遠級戦艦用に巨砲を積んだ三景艦(ホントは四景艦になる予定だったが、取りやめ)を用意し、それ以外の部分においては速射可能な砲を多数搭載した快速艦による襲撃で敵艦隊の攻撃を散らし、圧倒する。結構軽量級の戦闘艦に偏重していたが、その代わりに速射砲を載せて火力を増強したのである。

 戦力の配備としては必ずしも充実したものではないが、目的に特化した正しい戦力配備と言えた。同じように予算の無かったオーストリア海軍がまんべんなく戦力を整備しようとしたのとは好対照と言えるだろう。

 

 

 だが普通、艦隊は総力として充実していれば良く、それが前提。変に特化した艦隊では、能力が欠けて運用に支障がきたしてしまうかもしれない。攻撃に際して、弱点が明確に存在するという事は、自身も身を守りやすいが敵も攻撃しやすいという事。だから普通は無理のない充実した戦力を出来るだけ多数用意する。

 それを大規模に揃えて全宇宙を席巻しようとしたのが我らガトランティスであり、或いはボラーや暗黒星団帝国だ。

 

 史実を例に取れば、清の北洋水師

 この艦隊は決戦の要である定遠を中心に主力の補完として装甲巡洋艦、火力支援として防護巡洋艦を導入。駆逐艦水雷艇を後衛として作戦を立てた。戦いぶりは確かにまずかったかもしれないが、作戦の立て方や戦力の整備に関して言えば、李鴻章や丁如昌の出来る範囲内で最大限の熱意を込めて行ったもの。決して間違ったものではない。

 大規模な海軍であるイギリスドイツは、それぞれ火力重視の快速艦隊を、防護力中心の航洋性重視を編成。戦艦だけではなく巡洋艦駆逐艦などの戦列の補完戦力も手を抜かずに建造した。

 

 どの国も編成において国力の許す最大限に優秀な戦闘艦を、国家の方針に基づいて合理的に調達していた。一つの分野に偏ることなく、すべての状況に海軍全体として対処できるように過不足なく戦力を整備した。

 

 

 翻ってガトランティス

 問題なのは、これらの国家は地球艦隊と同じタイプの艦隊と戦う時、必ず圧倒的な戦力差を擁しなければならない事。同数の戦力しか用意できなかった場合、確実に戦力はこちらが下となる。

 

 地球艦隊はほとんどすべての艦艇に波動砲が搭載されている。さらばで土星宙域へ向けて出動した地球艦隊は戦艦36隻、巡洋艦81隻。合計で108門の波動砲があの宙域に集結しているのである。
 地球はとにかく波動砲の大火力を前方に無理やりにでも投射し、敵艦隊を地球側が攻撃できる最も遠い地点で撃破する事が最優先。数的不利を絶対的に強力な火力で優位に持ち込む。えげつないほどの攻撃重視、カタログスペック重視な建艦政策と言える。

 

 これは、敗北の危険性が十分にある。


 ガトランティスは元来艦隊戦によって敵を粉砕あるいは、敵艦隊を白色彗星によって粉砕し本星は艦隊で焦土化する。描写的にはどちらも艦隊よって粉砕するのが常と見ておかしくないだろう。
 しかし、である。ガトランティスの頼みとする大艦隊も、3桁の砲門数を誇る波動砲相手にどれだけの戦闘を行え得るのか疑問だ。ガトランティスには同等の射程を持つ火砲が存在しないのである。頭を使えばひっくり返せる、などという簡単な戦力差ではない。

 

 もしかしたら、ガトランティスはこれまで、ここまで火力偏重というか武装過多な艦隊とであったことがなかったのかもしれない。

 ガトランティスと同様の戦力構成や射程の艦隊相手なら、時間がかかっても征服できるだろう。充実していても小規模なら簡単に踏みつぶせよう。だが、小規模のくせに飛び道具で身を固めた武装過多な艦隊――こんな危険な勢力がたくさんあってはたまったものでは無い。

 

 勝てない事はないが、だが勝てないかもしれない。

 しかし、その程度の事でガトランティスが進路を変えるなど、あってはならない。大したことないデメリットと言えよう。

 

 

 

 2.反乱。これは地球を征服した後の話だ。

 まさか、艦隊が無傷で勝つという最善のシナリオ以外を想定しない事はありえないだろう。いくらサーベラーが高飛車であったとしても、あり得ないだろう。

 最悪に近いシナリオで話を進める。

 

 いくら地球艦隊が全滅したとはいえ、ガトランティスの大艦隊を打ち破ったことに他ならない。ガス体も取り払われ、都市帝国も大損害を負った。そして超巨大戦艦のお出ましまであったとしたら――もはやそれは勝利ではない。ステールメイトだ。

 完全勝利出なかった場合、ガトランティス側も圧倒的な降伏条件を突き付け難い。

 地球を搾取できなければガトランティスの再建は難しい。拡散波動砲やショックカノンの技術を手に入れ、それによってガトランティスを再び偉大にする必要がある。

 

 だが、地球の反発は想像に難くない。連邦大統領の様に、十分戦ったのだから対等な関係でもおかしくないと、地球人が言い出しかねない。

 普通は、征服された国と言うのは常に無条件。しかも強い国であればあるほど、その強さをくじくため徹底的に搾取されてしまう。だが、搾取される側としては不愉快以外の何物でも無い。

 

 

 もし、残存地球艦隊の数隻が反乱を侵したならば?

 ヤマト2であれば火炎直撃砲が存在するため、鎮圧は難しくはない。しかしさらばの場合はほとんど鎮圧の手段を持たない。こうなった場合――地球そのものを盾にするほかないが、ガトランティスのやり方を身をもって経験した地球人からすれば、地球人類を守る為の地球を見捨てるという選択もしかねない。

 地球の反乱を受けた場合、ガトランティスの戦力では鎮圧が難しいのだ。

 

 仮に艦隊戦力の中に地球人がまぎれていても同じ事。むしろ余計にややこしい事になってしまう。鎮圧しようにも、反乱軍に近づけないし場合によってはどこから反乱の第二波が発生するかわからない。

 地球のような強力な星であれば、反乱と言う選択肢も取れる。が、他の星はどうだろうか。本来は反乱などしようのない他の弱小勢力――これが地球人に勇気づけられて反乱を開始すれば、もう反乱のドミノ倒しが起きかねない。

 事実上領土を持たないガトランティスにこのような危険は薄いが、差し当たっての占領地だとしても反乱を起こされては面倒。

 地球征服にはこの危険が現実の物として存在するのだ。

 

 

 まあ、そうなったらさっさと逃げればいいだけだが。

 

 


 地球を征服する事によるメリット
 1.資源獲得

 常に都市帝国は新しい資源を補充しなければ、その維持が出来ない。食料や工業原材料など、あるいは人間も補充する必要が有るかもしれない。

 アンドロメダ星雲から太陽系までの経路は星系が少ない空間だ。直進した場合、この距離は無補給で進まねばならない。出来るだけ早く補給しなければ都市帝国が機能不全を起こす危険性が生じる。

 

 確かに、大幅にコースを外れれば恒星系に突入することも可能だが、有益な星ばかりとは限らない。ガトランティスは基本的に征服する場合、必ず前衛艦隊を配置する。彼らが付近の星系を探査するだろうが、ガトランティスが求めるのは文明のある星であって、無人の星などは大して意味がない。

 前衛艦隊を派遣し、補給地として有望な惑星を探した結果が地球だった。これだけでも十分理に適う。

 


 地球という存在を知った上ならばなおさら征服する必要がある。

 資源というのは物理的なモノだけではない。知識というのも一種の資源である。

 

 あの強力な波動砲に関する技術は、魅力的というほかない。ガトランティス艦艇に搭載されているどの艦砲より遠距離まで砲撃できる通常運用可能な決戦兵器である。征服することが出来れば、類似の技術を持った敵に対してもガトランティスの技術独力で勝利することもできるし、導入した波動砲を以て簡単に征服せしめることが出来る。
 波動砲以上に注目したいのがショックカノンだ。これは大抵の勢力の戦闘艦に対して貫通力を持つ。しかも射程が結構長く、衝撃砲発射許可の下りていなかった大戦艦は手も足も出なかった。この地味だが強力な兵器はぜひとも手に入れたいし、反対に地球は絶対に取られたくない技術だろう。

 

 ともかくとして、資源が必要なガトランティスにとって、この上ない資源供給源として地球は非常に魅力的であるという事。

 

 

 2.戦闘そのもの
 戦争に勝つには、強力な兵器が必要であるが、それよりももっと重要なのは数である。数を投入できなければ話にならない。

 数を投入するには人間も相当数郎乳する必要が有る。特に、Gスーツすら保有していない疑惑のあるガトランティスにおいて、マンパワーは何物にも勝る信頼すべき兵器であろう。屈強な兵士を維持するには金も食料も必要だ。

 が、ガトランティスにそんな余裕はない。


 だったら保有しなけりゃいいじゃん。

 と、遊牧民的な発想が発生してもおかしくなはい

 

 実際問題として退役軍人の処遇は常に騒動を巻き起こす。
 アメリカの退役軍人にまつわる問題は、国家を守った英雄に対する当たり前の奉仕と、平時における国家の負担とアンタッチャブル。金銭的な支援なのか精神的な支援なのか、何が必要なのかケースバイケースゆえに、整備が大変。

 で、結構票田だったりするから政治家はひやひやしながら退役軍人やその周辺人物に媚びをうっている。

 アメリカに限らず、どこの国でも問題だ。

 

 日本だって、自衛隊の生活になれてしまい、いざ退官したら何をしていいのかイマイチわからない――という人も少なくない。そういう問題を普通の人ならば金と真心のバランスを必死にとって何とが解消しようと知恵を振り絞る。

 


 が、古式ゆかしい人はそうではないちゃっちゃと新しい戦争を引き起こして面倒な彼らを前線に突っ込めば敵が問題を解決してくれる。

 この方針を一度取ってしまうと、軍人に対する福利厚生は戦える存在である限りに限るようになってしまい、平時の社会への復帰の道を閉ざしてしまうだろう。余程優秀でなければ、現役での福利厚生だって怪しくなる。

 そして、戦闘に役立たなくなった軍人の対処は、とにかく消えてもらう事であり、戦争をし続ける事となってしまう。

 

 仮に、ガトランティスがこのような対処を取っていた場合。戦争は資源収奪であると同時に、人口調整にも使われているという事になるガトランティスにとって、戦争はまるで新陳代謝を促す刺激――それ以上でも無ければ、それ以下でもないという事だ。


 アンドロメダ星雲から太陽系にかけての間で戦争の出来るような文明国家はない。前述の想定が正しければ、これは死活問題だ。残念ながら、テレザート攻略も前段階で達成したアンドロメタ星雲制覇に比べれば大したことない事業である事は間違いない。このアンドロメダ星雲制覇という大事業の余波として存在する大艦隊の消費を、早急に進めなければならない。

 そのためには、強力な戦闘艦隊を有している地球は格好の的。むしろ、強ければ強いほど、地球を征服する理由になる。メリットになるのだ。

 

 

 

 地球侵攻、その価値

 地球侵攻について
 一つ目の仮定は、テレザートでうまく消費しきるはずだった戦力が全然消費できずに、食料等の問題が発生していたという事。これならば偵察して強いとわかってもなお、むしろ強いくらいがいいと地球に狙いを定めた理由として十分。


 二つ目の仮定は、世代交代の必要性。ガトランティスからすれば、新しい兵器を使うには新しい世代を用意したいだろうし、旧世代がずっと居座られては迷惑。

 新しい世代を育成するには、都市帝国のキャパシティを超える人員を確保する必要がるが、その決定を簡単には下せないだろう。飢えたらヤバいさすがに帝国を危うくする決定を大帝が下そうとするならば、あの3馬鹿ですら大帝に反旗を翻す可能性がある。だいたい、あの大帝が何も考えずにこの手の決定を下すとは思えない。戦争の予定があれば、キャパシティを少し超えている状態でも消費するめどがつくゆえに、新世代育成の許可も出るだろう。

 だから地球とは敗北の危険を冒してでも戦闘をする必要が有った。

 

 何にせよ、ガトランティスにとって地球は、征服にともないデメリットよりもはるかに大きなメリットをもたらす惑星だった。

 仮に敗北の危険を冒したとしても、そのメリットを奪いに行くだけの価値を持った惑星だったといえるだろう。

 

 


 これらの想定をしてもなお、欠けている視点がある。

 なぜ地球を知ったのか。彼らは地球を目的としてかなり早い段階から進路を定めていた節がある。マジのガチにずっと同じ軌道をぐるぐる回っていては宇宙の制覇など出来るはずもないのだから、軌道はガトランティス自身が定めるところにより変更するだろう。軌道変更には目的が伴ってしかるべき。

 しかし、地球はガミラスと違い、有名どころの国家ではない。

 そんな地球の為にわざわざ軌道変更したとは思えない。仮に地球を目的に軌道変更したならば――何かしら、ガトランティスの耳に地球の名前が入る理由があるはず。 

 

 

 一つはデスラー総統
 さらばの明らかに格下扱いな待遇はおそらく……帝国は強い存在を尊重し、執念の男であるデスラーには敬意を払うがそれでは一個人であって、しかしガミラスの総統としては地球に負けた以上敬意を払うに値しない。という判断が下ったか。

 

 他方、2においては残存艦隊は結構な戦力を誇り、負けたとしても邪険にするのは失礼にあたると、判断された。これは呼びかけに現れており、さらばではデスラーと呼び捨てだが、2では総統と肩書で呼ばれていることからも合理性がある説明と言える。と思うの。


 このお方、どうしてもヤマトに復讐がしたい。
 ヤマトにリベンジするにはヤマトを引きずり出す必要が有る本当ならば自分が地球にもう一度遊星爆弾でも送り込みたいのだが、そこまでの戦力はない。

 ならば、ガトランティスの大方針である宇宙制覇の過程の一つとして地球に攻撃を加えてもらえばいい。ガトランティスにとって、地球は征服するに足る魅力を持った星だ。食指を伸ばさない理由がない。

 そうすれば確実に地球を救うためにヤマトは出撃する

 そこを叩けばいい。ガトランティス=大帝にとっては先ほどから述べている通り、いくらでも地球を攻める理由があるし、その上で障害となりうるヤマトを自分が仕留めるといえば大帝も邪魔はすまい。
 総統のプレゼンの結果、地球が侵略するに値する星であると、大帝が認識した可能性は十分ある。

 迷惑だなぁ~。

 

 

 二つ目の理由として、地球自身。
 ご存じの通り、一時期地球では宇宙研究の過程で信号を宇宙へと発信するのが流行った。カールセーガン氏がご存命だった頃の話。

 

 この頃はずっと宇宙に発信し続け、ボイジャーを打ち上げて、そこにメッセージをのせて遠い外宇宙へ送り出した。あるいはダイレクトに信号を発信した。そうして我々地球人は自ら発見してもらえるように必死に手を振って、のろしを上げた

 阻害されなければこれらのメッセージは令和の日本が手に負える範囲外の宇宙へと今も地球の存在を誇示しているのである。


 どこかの段階でガトランティスに200年前の発信のいづれかが届いたとしても、そんなにご都合主義な話とはならないだろう。

 

 

 三つ目はテレサ
 彼女が発した信号は全宇宙に広がり、受信可能な勢力全てに届いただろう。可能性として、テレザートに最も近い文明勢力が地球だけだった、と想定できる

 

 テレザート最・近傍空間は当然ガトランティスの勢力下におかれており、またアンドロメダ銀河側の空間にあった惑星国家はあらかたガトランティスに平らげられていてもおかしくはない。

 そうなると、ガトランティスの進行方向側でテレザートからの信号を受信できる最も近い位置にある文明が地球だけだった、だからガトランティスは地球に速やかに偵察艇を派遣して探った。

 その結果、征服するに足る惑星だと認識したため艦隊を発し侵攻した。これもありそうな話と言えるのではないだろうか。

 

 


 まとめます
 長々と述べたように、結構ガトランティスには地球を侵攻する理由がある。ガトランティスが地球を知る機会も結構ある。

 地球と戦い、負ける可能性もあるが勝つ可能性も十分ある。

 地球征服すればデメリットよりはるかにメリットを獲得できる。

 
 ガトランティスは何も、別に意味もなく宇宙を回っているわけでは無い。生きるために周回しているのでありまた、イデオロギーによって突き動かされている。ガトランティスは存在する限り宇宙を周回し侵略を続けなければならない。

 地球侵攻もガトランティス接触し得る存在の中で現状最も価値のある惑星だった。だから地球に狙いを定めた、それ以上でも以下でもない。

 ある意味、≪腹が減ったから飯を食う≫のと同じ、ごく自然な事だった。

 


 これで十分合理的な説明が出来たのではないだろうか。
 我ながらアニメに何ムキになってんだと思う……

 

戦闘考察XIV・月軌道地球防衛戦(ヤマト2)

 

 月軌道地球防衛戦とはヤマト2における最後の戦い。ガトランティスとヤマトによる、地球の未来を賭けた最終決戦である。

 登場人物全てが死力を尽くして戦う、命がけの戦いであった。

 

 


 ガトランティス側参加部隊:都市帝国→超巨大戦艦
 指揮官:ズォーダー大帝


 地球側参加部隊:ヤマト、コスモタイガー隊全力(3個部隊)、残存第11番惑星派遣隊
 指揮官:古代進、斉藤始

 

 

 戦闘経緯・経過
 第24話ラスト――地球の降伏によって都市帝国は首都洋上へと降下。この無防備な=奇襲をかける絶好のタイミングでヤマトは、デスラー総統からもたらされた都市帝国攻略のヒント、「真上と真下」を元に攻撃を敢行する。

 人類の命運を賭けた一戦


 首都の沖合300キロの洋上にて地球の降伏を待つ都市帝国に対し、大気圏突入直後にコスモタイガーを発進させ、さらにヤマト自身は都市帝国から非常に離れた地点で着水。潜水艦行動で都市帝国下部へと接近を試みる。

 第25話冒頭より――他方で連邦政府の降伏使節は、ヤマトからの通信を受け取った。地球人類の未来のために受諾した降伏――しかし、長官はヤマトが挑む最後の賭けに乗った。彼は首相の反対を押し切り船を反転させ、危険水域から離脱。


 ほとんど同時刻、まなじりを決して戦いを挑むヤマトクルーは都市帝国に対して最後の攻撃を開始した。第一にコスモタイガー隊は高空から上部を空襲、更に呼応する形でヤマトは魚雷を以て下部を雷撃、都市帝国を挟撃したのである。

 コスモタイガー隊の空襲に対しては気流による防衛を試み、効果を上げる。しかし、下部に対して攻撃を敢行するヤマトに対しては対抗する手段が無かった。たまらず都市帝国は浮上、全機能を以てヤマトを攻撃するため大気圏を突破、迎撃態勢を整えた。

 

 全機能を以て迎撃する都市帝国。これに対してヤマトは全機能、コスモタイガー隊を繰り出して攻撃を行うも、有効打を繰り出すことが出来なかった。恐らく、デスラー総統が散々にヤマトをいたぶったのが足かせとなったのであろう

 それでもヤマトは必死に攻撃を敢行、外部からの破壊に対して見切りをつけ、内部からの破壊を敢行すべく決死隊を編成。これを以て都市帝国の機能を内部より停止させる、大博打に打って出た。

 
 残存コスモタイガー隊の全力、残存空間騎兵隊の全力を投入した決死隊。突入以前の段階で歴戦の勇士をはじめとした多数の損失を出し、突入後も多数の損失を出す。

 しかし、隊長の執念とガトランティスの最高幹部らのオウンゴールにも助けられ、都市帝国の動力炉破壊に成功。その機能を停止することに成功した。
 そしてヤマトは持てる全ての力を注いで都市帝国を破壊する。

 

 ――はずだった。


 直後、都市帝国内部から漆黒の艦体を持つ超巨大戦艦が発進。
 第26話――ヤマトを威圧する大帝は、その超巨大戦艦の多数の砲を以てヤマトを散々になぶり、完膚なきまでに叩いた。そして地球にも砲口を向け、超大型主砲の連続砲撃によって地表を散々に抉る。
 その圧倒的な火力を前にして最早ヤマトに、地球に抗う術はなかった。
 


 しかし、そこへテレサが現れる。
 宇宙の平和の為、そして愛しい島大介の故郷を守る為に、彼女自身の最期の戦い。超巨大戦艦に対して、彼女は敢然と立ち向かい、そして刺し違えた

 

 

 描写の妥当性

 戦闘の全体として、手数の無いヤマトにとってはなりふり構っていられない。であるからして、ヤマト側の行動は――指摘のしようがない。

 ただ、指揮権が途中でどっか行ったのはマズイだろう。都市帝国突入作戦の最中、誰がヤマトを指揮するのか。これが不明確なのは最悪中の最悪だ。古代が戻ってこなかったときどうするのか……。

 まあ、さらばでも同様の事が言えるが、逆に幸いなのが指揮権委譲のシーンがなかった事であり、残留クルーの中の最先任士官(さらばでいえば島君辺り、ヤマト2でいえば相原君か南部君)に自動的に委譲したとこじつけられる。というか、そうしないとまずいだろう。そして、勝手に妄想こじつけられる幅を描写は確保してくれた。描き損ねてというのが発端だから皮肉だが。

 

 ガトランティス側の残念な戦闘は、サーベラーとゲーニッツの隠蔽・お手盛り体質。この影響が非常に大きい。だって、怒られるからって理由で普通、動力炉に敵が侵入しても情報を共有しない――などという行動は常識で考えてバカなんじゃねぇか? これは頭が悪いというより、おかしい。

 超巨大戦艦の登場に関して言えば、別に大帝専用の脱出手段であっても、都市帝国の新規建設のための手段でも、いくらでも説明可能である為省く。

 

 テレサの特攻に関して言えば、さらば以上に非常に簡単に説明が可能。つまり、島さんの為。テレザートを以て阻止しようとしたあの時は、まだ島が好きだからこそ生に未練があった。しかし、島に輸血をし、命の灯火が消えようとした――だからこそ、そしてガトランティスの地球制圧が目前に迫った時、彼女は決心した。

 ジェンダーに基づいた評価・表現をする事はこのご時世憚られるだろうが……腹をくくった女は強い。例えば“巴板額”、尼将軍、則天武后、テオドラーー歴史上様々な男何ぞ目じゃないほどの強い女はたびたび登場する。それぞれがそれぞれの理由で、決意し、困難に立ち向かう。

 テレサもこれと同じといえよう。

 

 ヤマト艦内に突然現れたのは――単純に転送。ワープが出来るのだから、問題はない。外へ出ていった時は……トンネル効果による壁抜けと、転送のタイミングが微妙に重なったからとこじつけ説明しようか。

 実は質量をもったホログラムとかいうヤバい技術の可能性も捨てない。

 

 あの巨大化のこじつけ説明は、先に述べたホログラム投影。あるいは、集団幻覚ないしヒステリー。

 だって、テレザート爆発の時点でズォーダー大帝を始めとしたガトランティス首脳部はテレサを死んでいると確信していた。それが、目の前にテレザリアムが現れたのである。そりゃ、パニックになっても不思議はない。特に、勝ったと思ったタイミングで天敵が現れたのである。そりゃ、錯乱しても不思議はない。

 他方、ヤマトクルーらも、ある意味――イメージのヴィジョンとしてテレサが見えていたとしても、それはそれ。

 

 この一連の戦闘は、ご都合主義はさほどないのだが……全体的に佳境なはずなのに中だるみな感がぬぐえない。であるからこそ、些細な齟齬や不和といったものが目について猛烈に作品の評価を落としたといえる。特に古代君の最後のセリフが取ってつけた感満載だった。

 これは終わり良ければ総て良し、の反対パターンと言っても過言ではないだろう。そりゃ、不満が残るわい。

 たとえるなら、2202のラスト。我々旧作ファンや2199ファンの大多数と意見の合致しない2202ファンの大多数と唯一意見が一致したのは、あの演説から古代と雪の絡みはいらんだろう、という点。彼らでさえ、あの最終話は蛇足だったなんて話をするが、それと同じ。

 メリハリつかないなら、バッサリ止めた方がいいと思う。

 喋らずバッサリぶった切った方が、よっぽどよかったと思う。

 

 

 意義
 この段階になると、もはや意義もへったくれもない。ただひたすら全力を挙げて戦うのみ。ただひたすら全力を挙げて迎撃するのみ。

 強いて拾い上げるならば――あきらめない心が大事、どんなチャンスにも貪欲に喰らい付くことが大事という事だろう。

 


 ガトランティス側損害:超巨大戦艦=ガトランティス滅亡
 地球側損害:残存第11番惑星派遣隊全滅、ヤマト大破、地球諸都市大破、テレサ死亡

 

大帝星ガトランティスを探る・監視艦隊

 

 

 監視艦隊とは不明瞭な組織である。実力組織であるのか、単なる行政組織の一つなのか。行政警察かそれとも憲兵なのか、判然としない。また、そのトップであるミルという人物もガトランティスにおいてはかなり異色の存在といえよう。
 今回はこの監視艦隊を考察したいと思う。

 

 

 

 監視艦隊とは何か、一見すると恐らく政治将校の類だろう。さもなくば憲兵か。正直、あまりわからない。

 政治将校とは一般的に知られているのはソ連の例だろう。ただ、これはソ連に限らず様々な国で設けられている。当然共産国はその類例に入るが、他にもイラクバース党ナチス・ドイツ、イランーーほら革命防衛隊、聞いたことあるでしょ? あれは国軍に対抗する政治将校団――にも存在している。
 任務は何かと言えば、往々にして独自の権力を形成しがちな軍を監視し、党や国家の統制下に置くため、ずっと派遣先の部隊を監視すること。まさに監視艦隊司令ミルの仕事と同じである。軍の指揮系統には属さず、司令官の政治信条が党と異なることが判明した場合は罷免することが出来る、かなり強力な権限を持った存在だ。
 一応、シビリアンコントロールの一種と言えなくもない。

 この源流と言えるものが二つあり、一つはコミッサール。もう一つは派遣議員だ。 

 

 このコミッサールは広い非戦闘系の将校一般をさすといっても過言ではない。そのため、補給部隊の将校も含む。だから、いわゆる政治将校とは異なる存在を指す事も多い為、注意が必要。また、コミッサールという語自体はピョートル大帝時代からある為、やはりいわゆる政治将校とは性格が多少異なるか。

 

 派遣議員は概ねいわゆる政治将校と言っていいだろう。正確には議会が派遣した当該地域における全権大使であるが、役割は軍や地方自治体の監視で国民公会の方針が隅々までいきわたる様に活動した。

 まあ、全権大使は余程大人物でなければどこの国どの時代でも調子こいて腐るものだが、この派遣議員も見事大半が腐った
 軍の監視・補給差配・編成差配・任免権・逮捕権に加えて、地方へ課した税の徴収もになう。故に軍司令官は軍団の維持や指揮権・生命の確保のために、自身の指揮権を派遣議員に内々に譲渡さなければならなかった。物凄い矛盾しかも地元の名士でも気に入らなければ革命税を法外な額と手段で徴収したりと、独裁者だってもう少し頭が良いふるまいをするレベルの事を平然とやってのけた。

 しかもこの無制限の権限の代償が公安に毎日の報告、議会への毎週の報告だけなのだから話にならない。
 こんな超弩級のクズが長期間のさばれるわけもなく、革命中盤に思いっきり粛清された。ざまあ。


 
 憲兵政治将校とはまるっきり異なる。
 憲兵は兵科の一種で、秩序維持と交通整理を担う軍の中の警察政治将校は党の為なら平気で法を曲げ、それを期待される立場だが、憲兵軍紀にひたすら忠実であることが求められる。何なら兵科から独立した、行政警察として存在を確立している例もある。

 これらは国家憲兵と呼ばれ、フランスの国家憲兵隊やイタリアのカラビニエリオーストリアの連邦憲兵なんてものがある。これらは元来国防省などの軍行政部門に所属し、その指揮かに入るのだが――平時においては内務省や司法省などの普通の行政機関の指揮を受ける。その普通の行政機関には各地方自治体も組み込まれており、知事も指揮権を有する。イメージとしては、軍隊ではなく、司法の実働部隊。
 ともかくとして、軍隊準拠の装備を持った、警察権を持ちそれを行使する存在。そういえば間違いはない。

 

 面白いのがアメリカ海軍
 ここ、憲兵に捜査権がない。確かに海軍憲兵(マスター・アット・アームズ)という保安要員は存在するが、基地司令部に所属し軽犯罪に対する捜査権や逮捕権は確保しているが、重大事件の捜査権は全て海軍犯罪捜査局=NCISが掌握している
 NCISは洋ドラ好きなら一度は耳にしたりドラマを視聴したことがあるだろう。あれ、である。さすがにあんなにヤバい事件ばかりが起きるわけはないし、まあまあフィクションを織り交ぜているが、あんな感じ。

 本物のNCISの局長が出演者と一緒に写真撮ったりしているのだから、当局も満足なクオリティに達しているという事なのだろう


 このNCISはかつての海軍長官ウィリアム・ハントが1882年に創設(当時は海軍捜査局=NIS)したかなり歴史のある部署で、普通の憲兵隊とは根本から異なる形での設立経緯がある。彼らは、海軍独自のスパイ活動と、国内に潜入したスパイへの警戒に加えて普通の保安任務を担った。軍属=民間人による組織であるが、軍に関してずぶの素人ばかりという事はなく、元海兵隊や元海軍兵等、元々は軍人だった人も結構多い。また、高位軍人の子息が捜査官だったりもするから、構成員が結構ドラマチック。

 

 

 翻ってガトランティス
 監視艦隊はどんな性質だろうか。名称や、その派遣経緯を考えれば、確実に政治将校だろう。下手をすれば督戦隊という可能性もあるかもしれない。


 督戦隊とは後方から前方の部隊を監視・鼓舞し、仮に逃亡を行えば射撃して命を以て懲罰する。判りやすく言うと人でなし集団。ソ連や中国が有名だろう。

 また、南北戦争なんかではアメリカは両軍共に配置していたらしい。結構意外だが、アレはアメリカ初の国家を二分した内戦だから仕方ない面もありやナシや。一部の書籍なんかではフィリピンで現地徴募兵の部隊を突っついていたという話もある。

 まあ、うがった見方をすれば――422部隊の後方に位置する部隊は、結構督戦隊よろしく銃口を向けていたかも。

 

  

 政治将校、憲兵、督戦隊、NCIS……比定できる組織はあらかた列挙できた。ただ、どうしても監視艦隊という全く描写されていない組織は、それだけでは全く任務も何もかも推測することはできない。

 ここは素直にミル司令の行動を含めて考察して精度を上げたい。

 

 

 

 ミルの行動

 ミルとは監視艦隊司令職にある青年だ。作品によってその見た目が大幅に変わる。あんまり、考察には関係しないと思うが。

 

 さらばにおいては、ガランティスの居並ぶ将校の中でひときわ若いとみられ、背格好も華奢白い制服でコートの裏地がパープル。今でいうジェンダーレス男子のような雰囲気で、声優は美男子役で有名な市川さん。

 作戦室でサーベラーに呼名され、デスラー総統の監視を拝命デスラー艦に乗り込み、その戦闘を監視。全くと言っていいほど戦闘には口を出さず、駆逐艦もろともヤマトを葬ろうとした時に声を上げた程度。が、「ミル司令、私はヤマトと戦ってい居るのだよ」と一蹴される。以降、素直に一切戦闘には口を挟まなかった。

 ヤマトとの衝突で思いっきり姿勢を崩すなど体幹の弱さを露呈。ヤマトによる白兵戦の展開と言う結構ヤバい展開にも口を挟まず、ロボット兵の差配もタランが行い、ミスは後ろでに腕を組んで見守っていた。

 戦闘終盤。デスラー総統の勝利が無いと判断したミル。彼は総統を叱責することすらせず、総統に呼び止められなければ無断でそのまま艦橋を退く――はずだった。退く理由は当然、デスラーによる戦闘の稚拙さと顛末を大帝に報告するため。だが、寸前で普通に銃撃。しかし、体幹の弱さに反してしぶとく、或いは恨みでデスラーを狙撃するも位置が悪く古代も雪も総統も巻き込んだ中途半端な銃撃。結果、ミルにとっては関係ないしどうでもいい雪が撃たれ、反対に自身はデスラー怒りの3連射に斃れた。

 

 ヤマト2においては眉がキリっと、顔の輪郭も体型も男らしくなった。が、若そうに見えるナスカに比べても美男系に描かれている。基本的に服装は同じだが、マントの裏地が赤に変更されている。声優は変わらず市川さんだが、ここはヴィジュアルに合わせて男らしい声に替えるプロの技。

 ヤマト2においても役割は監視。だが、さらば以上に総統にしてやられている

 ゴーランドが発信させた妨害電波を総統が阻害しようとしたのも結局止めず、≪シークレット空間X≫の事を知らなかったりと、あまり当てにはならなかった。いくら相手がデスラー総統とはいえ、職務遂行能力に大きな疑問が発露したエピソードといえよう。また、彼自身には特に権限はないらしく総統から艦隊を取り上げることはできなかった

 結局、彼がデスラー総統の戦闘を監視出来たとはいえず、むしろちゃんと戦っているタイミング(ちくわ惑星の時)で横槍をうっかり入れてしまう。これは本人もあまり意図はしていなかった模様で、サーベラーの指図での行動。しかも大帝の命令という嘘で動いてしまう……さすがにミルもサーベラーの命令だけでは作戦中止の要請はできないと思っていたらしい。だとしたら、ミル……君の権限は一体どんなものなんだい?

 横やりを入れた結果、総統怒りの受話器投擲が床に跳ね返っておでこにぶち当たる悲劇に見舞われた。とても、痛そう……。まあ、明らかにヤバいタイミングで、同盟国の国家元首の戦闘指揮を阻害したのだから、自業自得か。

 

 監視相手が同盟国の指揮官という事もあるだろうが、ミルが指揮権を発揮した事も捜査権や逮捕権を発揮した事も無かった。彗星帝国本国においてデスラー総統が逮捕されて以降、出番なし。

 つーか、いつ赴任した?

 

 本当は考慮の外なのだが、PS版も例に挙げたい可哀想だから

 PS版ではさらばのミルに輪をかけて女性っぽくした容姿で、ひときわ華奢。サーベラーと同じぐらい華奢。見ようによってはサーベラーより美人な感じもある。声を当てたのは緒方の姐さん。

 だからというわけではないが、PS版ミルは――おおむね碇シンジ君と考えてもらっていい。


 基本的にどの作品であっても、総統があの態度であるからミルの立場はかなり悪い。が、PS版ではさらにひどく、登場がヤマト2と異なりかなり後ろ倒しで、さらば準拠。しかもほとんど活躍という活躍はない。

 彼が声を上げたのはさらばと同様、駆逐艦ごとデスラー砲をヤマトにぶっ放そうとした時である。この時、やはり彼は総統を咎める。

 逃げちゃだめだ 逃げちゃだめだ 逃げちゃだめだ

 意を決したミル――だが、「いたのかね? 君の事などすっかり忘れていたよ」なんて総統に言われてしまっている。まるで作品展開や商品展開におけるシンジ君みたいな仕打ちしかも、よくよく考えてみると総統にミルと呼び捨てにされてしまっている。彼はさらばと同じ、同盟ではなく客将に近い立場なのに、である。さらにロボット兵のコントロール機構が破壊された時、ちょっとオーバーに反応してしまった為、総統のイライラのはけ口として嫌味を言われてしまう。

 

 さらばと同様にデスラー総統敗戦を悟った彼も、報告がてらに本国へ帰還しようとしたのだが――やっぱり撃たれてしまう。で、しぶとくリベンジを図ったが3発被弾しご臨終。一切いいとこなし、活躍ナシといってもいい。

 ここまでくると、さすがに可哀想……。


 
 そこ行くと天城カイト2202のミルはだいぶ権限が上積みされているから驚き。

 ナスカがまともな性格に変更されたあおりを食らったのか、原作ナスカのイラっと来る感じを引き継いだキャラへ変更。しかも声を担当なさった内山さんの斜に構えたセクシーボイスのおかげで輪をかけてイラっと来る……。

 艦隊の指揮を途中から奪うどころか、思いっきり戦闘に参加してる。しかも、ちょいちょいガトランティスガミラスの交渉を担ったりしているから、もう政治将校どころか派遣議員に近い。挙句地球との停戦交渉まで担うところだったから、タイプ・ズォーダーのブースト、恐ろしや。

 

 結局のところ、ミルの指揮権限は極めて小さく大したことはない。あの描写をそのまま受け入れ比定するならば、単純に連絡将校だろう。もう、監視とかそういうレベルの活動内容ではない、憲兵なんて言う大層なものでもないだろう。

 連絡将校とは二つ以上の組織がお互いに連携を取る際のある意味象徴的な存在として重宝される。ちゃんとした将校が任に当たる為、実際的な任務もこなせるから、あってよかった無いと結構困ると言う存在。

 

 

 正直ドンドンわからなくなってきたので、可能性の排除から推測を組み立てると――

 政治将校と言っても、元来はガトランティスには存在する必要性が薄い。ガトランティスイデオロギーは上から下まで浸透していて、疑問を呈する兵士は一人もいないからだ。確かに、他国から率いれた人間に対しては政治将校が居てもいいだろう。長い征服の歴史の中で別の勢力を併呑するという事も有ろう。

 だが、総統に対する対応がまるっきり政治将校とはかけ離れている。

 大ガミラスの総統と言えど客将である以上はガトランティスの法に従う必要が有る。だが――ミルは権限を全く行使できていない。デスラー総統の作戦に全て同意していたのなら別だが、その様子はない。なのに、彼の行動を全く阻止できていないのだ。

 監視艦隊を政治将校とするには実は結構難がある。同様の理由で、戦力持たない以上、督戦隊とするのも無理がある。

 

 憲兵は中々にいい線だが、その長をデスラー艦に座乗させる必要性がない。また、単独で乗り込ませる理由は輪をかけて存在しない

 総統は嫌がるだろうが、デスラー艦の乗組員のほとんどを憲兵隊が占めるというのならば、ミルが憲兵隊の司令官と言うのも妥当性が出てくる。が、乗り組みは全員ロボット兵で、しかもタランがその操作をしている。

 これ、ミルが憲兵隊の司令官だったら職務放棄状態……。そもそも適さない任務を与えられている状態……。監視艦隊が憲兵隊であるとするのは、妥当とは思えない。

 

 連絡将校ならば、下手に派手な動きをして組織同士の軋轢を生むよりも、見て見ぬふりをするという行動は、一定程度許容し得る。やり方が違うのだから、多少は多めに見る――互いのリソースを最大限活用するために受け入れているのだから、関係ないところで目くじら立てても意味がない。

 仮に警察権があるとしても、問題行動を記録するだけ記録して適宜必要な分だけ上に上げる、あんまりにもひどい行為に対しては権限を発揮して現行犯で取り締まりを行う、その程度で問題はないだろう。この権限が普通の警察と大差ないレベルであれば、それは基本的には彗星帝国ガトランティスの内部に対する影響力のみ。

 同盟国に対しては治外法権的に能力が制限されるだろう。特に、ガミラスは領土を失っているが国家としては一応存続している特殊な状態。ミルがガトランティスの法に照らし合わせた時、判断しかねたとあっても……無理からぬことだろう。それが総統の行動を容認ないし追認ばかりしていた理由としても不思議はない。

 監視艦隊=実情は単なる連絡将校説。どうして監視艦隊という名称かと言えば、所属の各将校がそれぞれ独自のネットワークを構築し、それによって監視対象を監視する……この場合は連絡将校というよりもCIAの国内活動と言った方が正しい気もする

 自国の将官支配下に置いた形骸化した同盟相手ならば、これでも十分機能するだろう。しかしてやはりデスラー総統。あの特殊な立場かつ大帝お気に入りの客将相手では、大帝の代理人として振る舞えない以上、その活動を制御するには監視艦隊の権限は小さかった。

 CIA寄りの想定であればなおの事、国外問題=デスラー総統の監視任務は当たり前。ただ、だからと言ってこれをどうこうできるほどの権限を監視艦隊司令が持っていなかったため、事実上手出しできなかった。CIAだって大統領の裁可なしに好き勝手は出来ないそれと同じように、上司であろうサーベラーや国家元首である大帝の裁可なしにミルの権限では何も判断できなくとも当然

 事前に命令を下しておけばよかっただけだが、大帝が総統に全幅の信頼を寄せている上にサーベラーも総統を侮っていたのだから万が一の時の処遇を事前に命令して居なくても、過失ではあろうが仕方がないのかもしれない。

 

 

 他方、NCISであっても不思議はない

 NCISは民間人とはいえ軍属であって厳密には民間人ではない。海軍に所属をしているが、普通の指揮系統ではない。どっかの部隊の指揮に入るという事も無い。が、実力組織と言うにはあまりに普通の警察装備。憲兵や海軍軍人・海兵隊員より上の立場と言えなくもないが、絶対的な立場ではない。

 監視艦隊もガトランティス軍に所属しているが、普通の指揮系統ではない。という点では同じだ。戦力は持っていないし、他の軍人に対して絶対的な権限を持つわけでもない。別の部隊の指揮下に入るという事はなく、軍の最高級指揮官たるサーベラー総参謀長の差配で派遣される。活動内容として想定されるのは内向きか外向きかは別にして査定や捜査やら妥当と思われる。その点もNCISに近い構造だろう。連絡将校よりも構造的な類似点はこちらが多いのではないだろうか。

 監視艦隊=NCIS説個人的にはこちらの説が好き。内向きの監視体制を重視すればこちらの説が中心となるだろう。外向きの監視体制を重視すればCIAに比定できる組織という事になる。

 

 


 ついでに言えばミルという人物も、中々に特殊。何故彼があのような描写だったのか――考察が必要だろう。ミルは普通の軍人とは一線を画すからだ。

 何といっても見た目が物凄く若い。明らかにおっさんな諸将、何なら髭面も多数いる中で、さらばのあの華奢なジェンダーレス。どう考えても前線で鍛えている感じではない。また、ヤマト2であっても何故だか美男子系に描かれた。

 見た目で判断してはいけないが、さらばもヤマト2も共々軍人と言うのもかなり怪しいレベルともいえる。

 ひょっとしたら、ミル司令はビックリするほどの拳法の達人だったり、ものすごい細マッチョの着やせタイプなのかもしれないが、見た目からは想像つかない

 仮に、ザバイバル戦車軍団の監視に当たったならば終始、司令部のどっかでジーっと兵士の様子を観察するにとどまるだろう。少なくとも前線まで出張って肉弾戦に参加したり、物資輸送の補佐をしたりという事はなさそう。

 彼は確実に、別の現場を受け持っていた指揮官が何かしらあって、鞍替えしたと言うようなタイプではない。直接的に言えばギブス捜査官やマック・テイラーのようなタイプではないというのが予想されるという事。

 

 司令職である以上、ミルは何かしら優秀な人材と思われる。

 だが、ミルが過去に一体どんな功績を成し遂げかは不明。あの若さで功績が打ち立てられるかも不明。そんな若輩の彼が司令官職に就いているという事は、彼が物凄く優秀でそれが上に認められたという事があろう。普通の指揮官とは異なり、事務的能力の高さの方が重視されるというのは業務内容から簡単に推測できる。であるならば前線で経験を積んでマッチョになる必要もないし、おっさんになる必要もない。ただ単に普通の業務で自らの優秀さを見せればいいだけだ。ダメそうな指揮官を監視、場合によっては監督できればいい。

 大事なのは自分の頭脳であり、格闘能力などは大して必要ない。普通にコスモガンが撃てる程度、身を守れる程度の訓練で十分だろうそう言う職場と推定できる

 あるいは、監視艦隊所属の将校が全員“司令”であるというパターンが考えられる。

 つまり、日本の検察の様に建前上は検察官一人一人が検察庁と同等の独立性を保持している。そういう前提があれば、輪番制か春か秋の人事異動で監視艦隊司令が大帝の閣議に参加するのが通常で、たまたま不運なミルが当たってしまった。と説明づけられる。

 この場合、ミルが若いのはたまたまという事なる。物凄いおじいさんな監視艦隊司令とか、物凄い若い女性の監視艦隊司令と言うのが居る、という事になろう。何なら物凄いマッチョな監視艦隊司令もいるかもしれない。

 

 

 監視艦隊は、艦隊を持っているのか。ほぼ確実に所有していないだろう。

 無論、連絡艇ぐらいは所有していても不思議はないが、敵艦を粉砕するような強力な戦闘艦や戦闘艦隊は所有していないだろう。持っていたところで大した意味はなく、普通に大帝直轄の部隊でも借りて反乱分子を殲滅すればいいだけ。

 ガトランティスのどの部隊も割合充実した艦隊であるから、通常戦力を用いての反乱分子との戦闘はかなり苦戦が予想される。潜宙艦も相手が身内となると、そう大きな役割を果たさないだろう。となるとメダルーザはのような特殊な戦闘艦艇が必要になってくる。当然、その手合いは技術開発部による試験がてらとか、大帝の勅命とか特殊な事情が無ければ利用はできない。

 監視艦隊が本気で反乱分子を殲滅するならば通常戦力を用いても意味がないだろう。だったら、通常戦力を保有する必要はない。必要に応じて、おあつらえ向きの戦力を仕立てればいいだけ。

 

 その意味じゃツッキー2202のミルが、アベルト君の艦を使って汚染艦隊を殲滅したのは結構理に適う。多分、カラクルム同士じゃ埒あかないし、ゴストークじゃ多数のカラクルムを倒すのはかなりきつい。また、火焔直撃砲も弱点が露呈しているから頼りにならない。手持ちの正規軍ではガトランティスはガトランティスから発生した反乱的行動を抑制できないのだ。

 だから、反乱分子を殲滅し得る艦隊があればそれを利用するという設定は2202ガトランティスの人でなし感を増幅するとともに、至極合理的な描写であるといえるだろう。ナイス、ツッキー。

 待てよ……アレはマレーナ白銀の巫女の差し金か。

 


 監視艦隊はガトランティスの中では、存外幅の効く部署ではないだろう。たとえサーベラー直轄の部署であったとしても。ほぼ普通の警察と言って差し支えない程度の権限しか有していなかった

 武人的な気質の強いガトランティスにとって、この手合いの人間が活躍する場は少なく、相対的に軽量級の将官となろう。実働部隊が無いのも痛い。これは、御前会議のシーンで結構後方にミルが並んでいた事とも整合性がつく。

 ただ、決して形骸化した統治機構の一つではなく、ガトランティスが他者との戦線を構築する上では十分に機能する部署。同族よりも他者へ向けた監視が中心の任務という事になるのだろう。だからその意味では今もって力のある部署という表現も可能だ。

 また、何らかの理由で政治的な動向を探る必要が生じた身内にもその監視の目が振り分けられる事は言うまでもない。あまりない事とは思うが。

 

  平時では権限が小さいのが監視艦隊。登用は幅広く平等であるのだろうが、性質上残念ながら常時大きな権限を渡すわけにはいかない

 仮に監視艦隊が強大化してしまうと、ガトランティス全体が警察国家的に閉鎖的になりかねない。この場合、統治や戦闘にもあまりいい影響をもたらさないだろう事は簡単に想定できる。また、統括する人間の専横が生じる危険もある

 統括するのは恐らくサーベラーだろう一見すると大きな後ろ盾だが、彼女の代理人として振る舞えなければそれはただの官僚に過ぎない。そして劇中に担ったのはサーベラーの代理人ではなくただの連絡官程度。サーベラーも大帝を奉じている点についてはその誠実さ、折り紙付きだ。この体制を維持するという点ではゲーニッツもまた、ある意味で協力者。故に監視艦隊が何らか強力な権限を付与される、或いは発動するという機会は劇中訪れなかった。

 この体制だと、内向きに対してはしばらくの間は間違いなく監視艦隊はごく普通の警察組織としてしか働かないだろう。そうすると権力闘争のキーパーソンになるような大活躍は見込めない。彼らが何らか大きな権限を有するのは緊急事態だけだろう、緊急事態であれば普段いまいち強く出れない監視艦隊がガトランティス全体を引き締める実働部隊として機能し得る。

 そんな感じの立ち位置だろう。

 

 

 

 監視艦隊は元々の発生は恐らく、内向きの組織だろう憲兵なのか派遣議員なのかは不明だが、何らかの取り締まり、警察組織の一種。元々の政治体制を安定化させるための秘密警察ではないが、不穏な分子を取り締まる組織ではあったはず。

 しかし、ガトランティスが拡大していくうちに外部=同盟や吸収した被征服勢力に対して監視する組織として傾向が変化。内部が安定していくうちに内向きの業務が縮小、基本は外向きの監視や遠方へと派遣して中央の目が届かなくなった組織のお目付け役ないし記録役として業務内容が幾らか変わった。

 そしてさらばの時期、大帝やサーベラーの命が無い限りは基本業務がこの傾向はかなり強くなりほぼ外向きの監視にシフト。任務の重大性から結果としてミルがデスラー総統の監視を行う事となった。

 この時の、より切迫度が高かったのであれば別に権限を移譲されて代理人として振る舞えるはずが、ほとんど平時に近い状況であったがゆえにただの警官かそれ以下の権限しか行使できずデスラー総統を文字通り監視する以上の事が何もできなかった。あのタイミングで何か独自の判断を下せば越権行為となったから、出来なかった。とまとめられる。

 

 もし、大帝あるいはサーベラーが現状を切迫度の高い状態であると判断すれば――監視艦隊は何らかの大きなパワーを行使出来たのかもしれない。だが劇中では訪れなかった。ある意味でそれは平和な証左だろうし、一方で戦争を始めているのに実は体制が平時に近い状態だったとも表現できる。

 結局、監視艦隊が何なのかは判然としなかったが……彼らがはっきりした性質を見せなかった事が一つ、ガトランティスが敗北という結果に直面する原因だったとも表現できるだろう

 

大帝星ガトランティスを探る ・国家体制――国家を覆う白いベール③

 

  なぜガトランティスは宇宙を周回し始めたのか。その原点は分からない。だが、周回する理由は容易に説明できる。

 

 

 

 宇宙を周回しながら征服を続けるというのも、重要な国家体制の一構造と評すことが出来る。


 もう一度言おう、ガトランティスは巨大軍事国家である。

 同時に資源の極めて乏しい帝国でもある。

 


 都市帝国は恐らく莫大な量の食料や資源を蓄積することが可能であろうが、生産することは難しいと考えられる。殊、鉱物資源に関しては全く見込めない。だって中身に超巨大戦艦を係留? しているのだから。


 旅を始めた原点は別にして、資源不足な都市帝国で宇宙を周回する場合、他の星を征服する他に資源を獲得する方法はない。この資源獲得は戦争と、国家体制の維持と、外部に対する統治と密接にかかわる

 

 資源獲得の為、他の星を征服する場合、内戦状態の惑星であれば苦も無く征服できるであろう。負けそうな国に支援を申し出て同盟を組むもよし、統一後に寝首を掻くのもよし、全部まとめて叩き潰すもよし。
 が、相手が確固とした惑星国家となれば話は別である。勝てばいいさ、勝てば。しかし、そうなるとは限らない。地球相手の惨敗ほどはあり得ないとしても、負けた時にどうするかを考えなければならない。まずしなければならないのは、撤退。

 この点、移動大本営である都市帝国はとても役に立つ。

 


 ガトランティスの戦い方の場合、勝った場合も実は結構問題がある

 大量の戦力を損失を恐れる事無く投入する。これは戦争を起こす側の心構えとしては実に見上げたもので、こうでなければ勝利を望んではいけない。が、損失を取り戻す必要が有る。損失がデカければデカいほど、征服した星を徹底的に搾取する必要が発生してしまうのだ。

 しかし、度の過ぎる搾取をした場合――ガトランティスは常に度が過ぎる――被征服国家は当然再起不能不良債権と化してしまう。国土は荒れ、国民は疲弊し、技術はすべて取られる。この出がらし国家相手にいつまでも遊んでいる必要などない。仮に、領土を持つとなると、何のために苛烈な搾取を行ったのかわからなくなってしまう。用の済んだ星からはさっさと移動するのが最良の判断となる。

 

 

 都市帝国を維持するために大戦争を行い、その損失を補うために星を枯らす。

 星を枯らすがゆえに留まる事は出来ず、宇宙をさまよう他ない。そして都市帝国を維持するために――

 まるでデスギドラかキングギドラだ。

 

 ガトランティスにとって、戦争は国内統治の手段にもなりえる。
 敵を征服するには大量の兵力が必要である。遊牧的国家は基本的に国民皆兵主義で、武装は当然ながら、兵士一個人の能力もカリスマ性も含めて重視する。遊牧的活動であるからこそ強大な戦闘国家足りえるが、ガトランティスもその例にもれず


 かなりマンパワーを重視しているらしいガトランティスでは、人口の確保は重要課題であろう。一方でその確保した人口を養えるだけの体力が都市帝国には存在しない。つまり、人口は一定程度増やし続けなければならず、一定年齢に差し掛かる前に消費し続けねばならないという事。
 これを実現する最適解が他国の征服だ。

 戦争は、人口を増やし続ける口実になる。キャパシティの無い都市帝国では、人口は一定以上増えてもらっては困るが、それでは資源獲得のための戦争が出来ない。だから戦争を理由として人口を一定数増加させる決定に合理性を付与させる。
 一方で、戦争は先軍的な国民皆兵国家において、余分な人口を合理的に消費する手段となる。損失ゼロな戦争など、人間が戦場に送られる以上あり得ない。

 

 大軍を維持し続ける理由は広大な領土を支配することであり、それが可能になるのは広大な領土を有している事だ。
 長い国境線を防衛するためには当然大軍が必要であるし、広大な領土だからこそそこから産する各種資源やあるいは人口が大軍を維持する根源となるのである。


 ただし、ガトランティスは事情が少し違う。

 ガトランティスの癖である、徹底した搾取がネックになってしまうのだ。この戦争遂行方法であると、仮に広大な領土を持つ巨大帝国となろうとした場合、先に不良債権化した荒廃した惑星を再建せねばならない。が、当該惑星の自力再建は不可能に近い。金もなけりゃ人もいないからである。どうしても再建しようとするならば、その惑星とは別の場所から資源を確保・投入しなければならない。

 都市帝国を維持するために潰した星を一個再建するのに、また別の星一個が必要になり、その星を確保するために都市帝国が攻撃を加え――エンドレス自転車操業

 

 

 これでは投資した分を回収するどころか戦線を拡大し続けねばならない。
 仮にうまく惑星を再建した場合、消費しかしない都市帝国が政治的に優位に立つとなると、奉仕する立場の植民惑星の不満が発生するのは当然だろうボストン茶会事件は記憶に――新しい?

 また、常に戦い収奪しなければ維持できない都市帝国が、潜在的キャパシティが大きい上にガトランティスの軍の一部を保有する植民惑星の反乱に直面した場合、なまじ同じ勢力である以上敗北の危険がある。


 これらの危険から逃れるには領土を都市帝国とその前面・背後のわずかな地域にとどめる事が最善の領土政策と考えられる。

 

 

 次いで政治的手段としての説明が仮定出来る。
 遊牧的形式の国家のみならず、ローマでは参政権を持つ国民は皆兵が基本である。かつての地球の民主国家も徴兵制による国民皆兵を維持していた。徴兵制廃止は単純に国家に対する危険性の低下や、予算削減に伴う人員削減、軍のプロフェッショナル化などが理由である。
 だが古来、国を守る義務を果たしたもののみ、国のかじ取りをする権利があるという考えが主流であった。

 この考え方をガトランティスが採用しているとすれば、戦う事は自らの価値を証明することとなり得る。

 

 民主主義の理想は円滑な世代交代。課題も円滑な世代交代。
 ろくでもない人間をはじくための手段として立候補には一定の制限が加えられているしかし、これが案外足かせとなって新世代――自分の若いころを考えれば金が無い事などすぐに推測できるだろうが――が現れない

 つまり、権威主義系独裁の日本を例に挙げれば、やたらに高い選挙供託金の存在が次世代を潰しているといえる

 他にも、親子は別人格であり、遺伝子で必ずしも有能さが継承されるとは限らないにもかかわらず、あの人の子だからという理由で党の公認がなされたり投票が行われたりする。つまり地盤・看板・カバンが無ければ勝つことは難しい。

 さらに小選挙区制の現在、与党の推薦・公認が無ければ勝つことは難しいが、推薦・公認はコネが無ければ獲得が難しいという現実がある。

 これでは円滑な世代交代など出来るはずもなく、貴族の再生産というまるで中近世ヨーロッパの貴族政や、李氏朝鮮が再現されているのが現代日本の民主主義である

 

 しかし、為政者側はこの方が簡単である。
 何とか誕生した新世代を潰し、しがらみで中堅を抑える事で長老が力を発揮し続ける状況が容易に誕生するからである。

 

 

 軍と参政権が密接に関われば、それは軍の士気を上げると同時に、国民の政治に対する意識を高めることとなる。決して悪い事ではない。
 軍人の士気を高めるのに、軍役と密接にかかわる形での参政権は役に立つだろう。そもそもの国家に対する奉仕と、奉仕の報酬が約束されていれば、当然士気の担保が出来る。軍の戦力維持には大量の兵士が、それも若い兵士が必要である。

 

 しかし、この意識が高いだけの未熟な参政権保有者は為政者にとって最も不安定な要素となる。若い以上に大量というのが一番恐ろしい。しかも、戦争で戦った英雄たちだ。

 政治家にとって彼らは戦争が終わればすべて不良債権となる。
 普通の市民生活には金が必要で、若い間は自分で稼ぐ必要が有るが都市帝国内で提供できるだろうか。年齢を重ねて軍人恩給を支払う段階ではえげつないほどの財政負担がガトランティスに降りかかる。


 出来るだけ早いうちに消費しなければならない。

 

 若人だけではなく、そこそこ年齢の行ったそれなりに財を築いた人間も為政者には危険因子である。

 積み重ねた財と政治に対する“経験”を持つ彼らは、どこかのタイミングで為政者の意図を無視した行動をしかねない。彼らの力もそがねばならない。

 


 この危険因子を説得で半減するのにイデオロギーが使える。
 この危険因子を物理的に半減するのに戦争が使える。
 イデオロギーを強化するのに戦争が使える。
 戦争を遂行するのにイデオロギーを使える。

 


 全宇宙を制覇するというイデオロギーで資源的な不足を覆い隠し、道義的責任をむしろ戦争する事がその責任を果たす手段へと変化させ、戦争によって強制的に世代交代を引き起こす。
 投資するべき先が無い以上、新興富裕層の誕生を抑えられる。

 年齢を重ねられる人間が限られる以上、政治に関心を持つ体制を脅かす危険因子は発生が抑えられる。

 同時に抱えておきたい上層部の行動に一定の自由を認める事で忠誠を担保できよう。

 


 政治の末端を担う一般民衆(一般兵)は目前に迫る戦闘とイデオロギーで目をくらますことで政治に影響力を行使させない、富も持たせない。

 一般民衆は政治に参加するために軍に入り、戦わねばならない。だが、割合に大量消費なガトランティスの戦闘では生存の確率はそう高くはない生き残れなければ参政権を獲得・行使できない

 生き残るのに手っ取り早いのは軍に入らない事だが、それは参政権を放棄することに他ならない

 このジレンマ的ウロボロスの環が、ガトランティスの一般大衆を蝕んでいる。そう評せるかもしれない。

 宇宙を周回することで、反乱や敗北さえなければ、一定の指導層が永遠に影響力を保持・行使し続ける事が出来るのである。

 

 


 時折話題に出したイデオロギーについてひとつ。
 イデオロギーとは、観念形態や理念体系の事である。こうでなければならないというヴィジョンであり、イデオロギーを表す端的な標語に理想を明確化する。


 大帝のキャッチ―な発言、例えば――

『全宇宙はわが故郷』
『血の一滴まで俺のものだ』

 これはガトランティスは全宇宙を制覇することを目的とし運命づけられた存在であることを示し、その頂点に君臨するのが大帝ズォーダーであると明確化させている。大帝の命により他者を制圧するのは、正義であると。

 


 実際、大抵の場合に勝利を得ているガトランティス人民の高揚感は、このイデオロギーと強烈なまでの親和性を持つと考えて不思議はないだろう。信奉する層がある程度増えれば、押し立てるイデオロギーが壮大であれば壮大であるほど、影響下にある人間を熱狂させ惹きつける。疑うことなどせずに、正しいとして信じ続ける。

 帝国の人民全員をイデオロギーに染め上げられなかったとしても、信者を国民の半数以上確保できれば、残りは勝手に同調圧力で黙る


 イデオロギーとは、ガトランティスの行う戦争の実体やその理由を全て覆いつくす。すべて人間の目を問題から目をそらさせる最強のツールである。場合によっては、為政者ですらこの弊害に気が付く前に飲み込まれ、本気でイデオロギーに基づいて行動しているかもしれない
 ある意味、このイデオロギーが無ければガトランティスの宇宙周回は不可能といえよう。大帝をはじめとした全てのガトランティス人がこのイデオロギーを信じ切らねば、戦いに明け暮れるなど、出来ようはないだろう。

 


 イデオロギーマンパワーを最大限発揮するブースターであり、小さな敗北を帳消しにする消しゴムであり、人々を狂わせる麻薬である。大きな敗北が無ければイデオロギーの力は消える事無い。少々の敗北は、イデオロギー達成の為のスパイスとしてむしろ利用可能である。しかし――
 敗北した時は途端に衰微し、衰微した時点で勝てる戦いも不思議と勝てなくなる。

 イデオロギーとはいわば、呪いみたいなものである。

 

 


 ガトランティスについて、文化も触れたいが――当然、全く不明である。しかし、推測できる描写もいくつかある。

 

 15話の晩餐会では国家元首から服装からして大した事のないレベルの将兵、命令違反疑惑のかけられたデスラー総統の側近タランまで招待され、どうも無礼講らしい

 この晩餐会は、驚くほど幅広い人間が集められ、頭を下げることすらしない、殆どホームパーティー状態だった。アメリカの大統領が開く記者晩餐会だってもっと格式があると思うのだが……。

 


 ガトランティス階級に厳しいかと言えば微妙なラインであり、帝国支配庁の長官が実務最高司令官である遊動艦隊司令長官に対して命令を強制している点からも――階級よりも個人の資質や能力・派閥による力の方が優越していると考えられる。
 一方で支配庁長官に支配惑星上の軍備について指揮権があるとすれば、遊動艦隊司令長官に一応相談しているというのは単なる3馬鹿の横のつながりか或いは、組織として有機的に横のつながりが存在しているともいえる。贔屓の引き倒しな気もするが。

 

 

 確かな事は、基本的に裏切りや投降を恥とすること。これはさらばやヤマト2全般を通しての描写である。
 捕虜となったメーダーは帰還を許されず、撤退してきたと思われたデスラー総統も大帝の信頼を失っている

 また、あの不明な監視艦隊司令も、徹底して裏切りを嫌う描写と言えよう。

 

 特に、最後の3馬鹿が超巨大戦艦に乗り込みを禁止されるシーンも同じ、敗北や裏切りを徹底的に嫌う描写と言えるだろう

 大帝の信頼を裏切り信頼を維持しようと小賢しい手を使ったサーベラーとゲーニッツ両名、その暴走を目の前で見ていながら止められなかったラーゼラーが巻き添え食って断罪されたが、これも同様と言える。

 

 

 反対に、頑張ってダメだった場合は意外にも寛容だったりする
 ヤマト2において愚策を重ねに重ねたナスカ。彼は大惨敗の後、潜宙艦でヤマトに対して決死の戦闘を挑み戦死した。しかし意外な事に、この時に重ねての叱責はなかった。敗北の衝撃と言うのもあるだろうが、敗北に対する必要以上の侮辱はなかったのだ。

 

 さらばでは第6遊動機動部隊を思いっきり失ったバルゼー。実際問題としてアンドロメダ以下の地球艦隊は強力であり、仮に善戦しても損害を被って結局負けるという可能性も十分あった。それを考慮されての事かは不明だが、彼は降伏勧告を行う使者として地球へ降下する任務を受ける。死を以て報いろという事はなかったらしい。

 ヤマト2において高官であるラーゼラーが、戦死したバルゼーに代わりこの役を受けている点、決して格の低い人間に渡される役目でない事は察しが付く。

 

 負けたことを悔いて自らを始末したゲルン提督死して大帝にお詫びを申し上げたバルゼー総司令をはじめ、基本的に男気や義理、執念を重んじる民族ないし国家といえよう

 何より、国家を失ったデスラー総統が温かく迎え入れられている。これは彼の執念を高く評価された事であり、敗北してそのままと言うのが、一番まずく、挽回しようとするその姿勢自体が評価の対象。という事かもしれない。

 


 だからこそ、あの破滅的なイデオロギーが正義であるする根拠になっていると言える。

 つまり、自分たちは誰に対しても正々堂々と恥じる事のない戦いを行う勇士であるからこそ、他者への征服も『マニュフェスト・デステニー』として広く浸透している。誰にも恥じない我々だからこそ、遅れた文明を倒して宇宙全体の文明的質を高め、対等になりうる文明のみをガトランティスの同盟や支配下に置く

 すべては、宇宙を制圧し、ガトランティスによる平和を成し遂げるための、崇高な戦いなのであると。

 このイデオロギーが、ガトランティスが内部に有するいびつな国家体をを完全に覆い隠し、国民が戦いに明け暮れる原因となっている。そう説明できるだろう。
 


 何とも、古代ローマアメリカのおせっかいというか、悪い側面を結晶化したような設定ですね。

 

 

大帝星ガトランティスを探る ・宇宙を巡る理由 ―ガトランティスのココロ―




 ガトランティスがなぜ、宇宙を巡るのか。
 実は判然としない。 

 それもこれも、ガトランティスの方針がかなりふわっとしているせい。

 だって、ガトランティスには全宇宙を征服するというとてもざっくりした目的しか無いのだから。

 イデオロギー、目的と手段の同化など色々と説明は可能なのだが……結構難しい内容になる。

 

 

 という事で今回はガトランティスがなぜ宇宙を席巻するのかについて考察をしてみたいと思います。
 一部は他の記事の繰り返しみたいになってますがご了承ください。

 

 

 

 前提

 これをはっきりさせないと、探ろうにも探れない。これはすべて描写から拾える、推測できる想定である。


 一つ目、重要な前提条件としてガトランティスを政治の構成要員が軍と同一であるローマ的な国家体制と想定する。
 二つ目、見た目通り都市帝国は資源の乏しい根拠地とする。

 


 まあ、政権の首脳部が全員軍司令官なんだから当然と言えるでしょう。

 ヤマト2ではサーベラー、ゲーニッツ、ラーゼラー、全員一度は司令呼びされた事のある連中である。そして彼らが大帝の直下で彗星帝国ガトランティスを取り仕切っていた。さらばでも構造としては大差ない。

 もう少し細かく見ると、響きだけ言えばイギリスの植民地省に類似したような文官官僚っぽい帝国支配庁も、突撃格闘兵団の配置転換をしていたことを考えると、端っから国防総省的な立ち位置という可能性が十分ある。もっと言えば、多分軍服など来ていないであろう2のサーベラーですら総参謀長の職につくのだから、文官と軍人の境界線が恐らくあいまい。

 確かな事は中央作戦室に詰めていた人間の中に政治家はいないという事。さらばにおいては”幕僚会議”において、彼らの示す懸念の内容が軍事が中心で、占領地の支配や国内統治の話題は一瞬たりとも現れなかった。ヤマト2に至っては同様の会議は開かれず、全ては中央作戦室における軍人たちの決定のみがガトランティスの方針として取り上げられていた。

 政治家なら、多少なりとも民意を気にするはずだが、その辺の事を全く考慮していない。しきたりや慣例は官僚と同等以上に政治家は気にするものだし、序列というのも実は政治家が一番気にする。

 が、ガトランティスではこれら全てが無視されている。階級も慣例も民意も何もかも、無視してそれぞれがそれぞれの能力や権限を最大限行使しているのだ。

 

 これらを考え合わせると、ガトランティスの最高幹部は全て軍人であるとするのが、合理的

 

 官僚の側面もあるが、それはあくまで軍政という意味で、軍人の行動を円滑にするための付帯特権のようなものとみるのが自然だろう。

 これら軍人をメンバーとする大帝の“幕僚”は当然大帝その人の指名により編成されるものといえよう。自身で指名したからこそ、求心力の維持の為にはそう簡単に罷免できない。あの愚か者も結局、都市帝国崩壊まで更迭できなかった、と説明づけられる。トランプ大統領とは逆パターン。彼が閣僚を罷免するのは求心力を保つためのカードというのが正確として近い。

 それはともかくとして、ガトランティスは極めて先軍的な政治体制、政治構成と結論付けられるだろう。

 

 都市帝国のキャパシティだが、あの都市帝国が内部は豊かな森を内包しているとは考えられない。恐らく、あっても公園程度であると予想される。川があったとしても、恐らく一次的な浄化をされた下水か何か程度だろう。

 だって中には超巨大戦艦が入ってるじゃん? 動力炉があるじゃん? 艦隊や防空戦闘機が居るじゃん? 

 あの都市帝国が、食べ物も飲み物も福利厚生も充実した拠点である可能性は皆無。

 
 この前提条件を付けた場合、侵攻の理由が明確に出来る。

 

 

 

 
 宇宙周回の目的
 ガトランティスにおいて存在が明確なイデオロギーは次の通り。


 〈全宇宙はわが故郷 旅は先祖の意志〉


 さらに、「我々に滅ぼされることに喜びを見つけるだろう」とまで、大帝は言い切っている。これこそが王道だと、言い切っている。これは2におけるセリフ。

 孫文臨時大総統が聞いたら怒るぞ。普通、この手合いの征服事業は覇道であり、王道とは他者との共生の旗振り役と担う事。

 さらばではもっと強烈である。全宇宙、生きとし生ける者、その血の一滴まで大帝の所有物であると。

 


 つまり、ガトランティスにとって征服は当たり前の行為であり、その終着点は文字通り全宇宙の制覇。超短期的目標が、目の前の惑星を征服する事。

 彼らにとっては、征服することは正義の行使であると言える。息をする事と同じであり、目的とかそんな話ではないのだ。

 ここまではっきりとガトランティスによる征服が正義と言われてしまっては、もう何も言い返せない。逆に彼らが侵攻しないという選択をする方が理解に苦しむ

 


 征服によって命脈をつなぐ国家が、全宇宙の征服に乗り出しては、真綿で首を締めるのではないのか。という見方もあるだろう

 だが、遊牧的国家であるガトランティスにとってはそこまで大きな問題ではない。遊牧的国家の性質、性格、周期からすれば、大したことはないのだ。

 

 ガトランティスによる苛烈な攻撃、苛烈な搾取。だが、一度文明をぶっ壊したとしても、殲滅はできないだろう。幾らか人口が残れば、文明は恐らく再建するだろう。

 であるならばもう一度収穫することが出来る

 再建して、爛熟したころ合いにまた現れ、再び苛烈な攻撃と搾取。ちょっとだけ人間を残しておけば、再び文明は立ち上がるだろう。

 

 確かに、何度も殲滅と再建を繰り返せば、その文明もいつかは滅びるだろう

 が、そんなことはどうでもいい。

 知ったこっちゃない。

 一つの軌道をぐるぐる回るにしても数千数万年、下手をすればもっと長い時間がかかる。一度破壊しても、この長い時間で文明が再建すれば、再び大きな収穫物を得ることが可能。

 さらに言えば、白色彗星の軌道を少しずつ変更していけば何垓年だか何那由他年かかるかは全くわからないが全宇宙をルンバの様に征服することは可能。しかしながら、再建と再征服の間には長い期間が置かれるため、征服し続けながらガトランティスが生き続けることは十分可能だ。

 宇宙に散らばる文明をぐるぐる回りながらお掃除する、本当にルンバのような使命感で席巻するのがガトランティスなのである。

 

 

 移動性国家なのだから、残念ながらその周辺域しか征服し影響力を行使することは難しい。本拠地の強力な支配力が無ければこの手合いの攻撃的国家は成り立たないのだ。つまり、ガトランティスの性質からすれば固定領土を持つことはほとんど不可能。

 さすがに点の支配などというみみっちいものではないが、ガトランティスは面での支配というよりも領域支配しかできないのだ。だから、うまく征服の度合いを加減できれば永久に宇宙を周回することも不可能ではない。永遠に国家を保たせる事も不可能ではない。

 むしろ、本当に徹底して征服して文明を破壊してしまえば、ものすごく気の遠くなるほど遠い未来の事だろうが、いつか宇宙を破壊による制覇をすることが出来る。この段階になって初めて、ガトランティス自身が困窮する。が、現実的にはそんなタイミングは永遠に訪れない。

 普通の星間国家とは様相が大きく異なるのだ。普通の国家なら戦争はためらわれるが、ガトランティスにとっては普通の事なのである。

 

 

 

 ガトランティスの生存スタイルでは、一つの星系に固定した勢力を築くことは難しい。それは、彼らの生存スタイルが遊牧国家そのもののスタイルだからである

 遊牧国家は基本的に、収奪をしつくさない。

 次の収穫が見込める程度に財を人を残す。この計画的・周期的国家の移動、制圧が遊牧国家の特徴である。全てが緩く、領域での支配であり土地や財物よりも、それらを収奪する原動力である人間を重視する。人間とその所有物を束ねる事ことが国家の形成であり、それらが散ってしまう事が国家の崩壊だ。

 この原始的遊牧国家のもう一段進んだ――農耕社会から見ればの話だが――段階では農耕国家の秩序や計画を取り入れて、遊牧の水物商売的な不安定さを農耕の比較的計画的で堅実的な収入でカバー、より巨大な国家へと成長を遂げる。

 

 

 だが、ガトランティスは違う。

 彼らは原初的遊牧国家そのもののスタイルを貫く。

 ガトランティスは軍事大国過ぎることが原因で星に根を下ろすことが出来ない。本拠地・都市帝国では大量の軍人を養いきれないし、征服地の統治を考慮しない戦闘スタイルでは発展もさせられない。そもそも軍人がほとんどのガトランティスではそれ以外の商売が成り立ちえず、必要性というのも感じられないだろう。

 また、本拠地を星系に置いた場合、財を星に置かなければならないつまり、仮に侵攻を受ける側になった場合は、本星に財も何もかも置いたままで逃げなければならない可能性が発生するという事。攻撃を集中すべき地点が極めて明白であり、所在が変更できないという事。ある意味、無防備ともいえる

 

 都市帝国のような移動性本拠地を持つことは、恒常的成長的発展は望めない。しかしその反面、いくらでも外敵から身を守ることが出来る。

 敵から退くことも、避ける事も、自由自在。本拠地が移動できるのだから、財物も一緒に移動できる。極めて効率的。

 

 

 この効率性をガトランティスが評価したとあれば、当然星系に根を下ろす必要はなくなるのだ。

 だから、永遠に遊牧スタイルを選択してゆく。

 

 

 

 この感覚があったならば、損得勘定以外で侵攻しないという選択肢は……あり得ないだろう。都市帝国のキャパシティがゼロに近い為、侵攻しなければ食べていけないのだから。

 何なら、イデオロギーの為に少しぐらい損してでも征服するという選択もあり得る。


 アメリカだってよせばいいのに世界の警察を気取って手を広げて、今頃になって後悔してて。それでも今までの責任とか正義とかで引くに引けない状況でしょう? 今の大統領はそういうの理解する思考がないみたいだけど、結局はそれまでの世界構造にがんじがらめになってうまく抜け出せないでいる。しかも中東の和平を破壊したのは大統領個人や宗教的支持者のイデオロギーがベースで、行動としてはもう……。さらに次の大統領が実利があるとはいえ、半分はイデオロギーで更に収拾のつかなくなることをしてくれたおかげで……もう……。

 とまぁ、イデオロギーで突き進んでしまう国は古今東西実例はたくさんある。古代ローマだって、日本だって、中華王朝だって、みんな実益半分イデオロギー半分で領土拡大に走ったのだから。

 

 


 なぜ侵攻し続けるのか、さらに掘り下げる。

 ガトランティス側に立って、惑星を征服することのメリットやデメリットを検証してみよう。実際にシミュレーションを行う事でそれぞれの行動の価値というものが明確化できる。

 


 侵攻のデメリット=敗北
 このリスクは、戦争をし続ける国家には常に付きまとうものである。どんな国も、勝ち続けることは不可能だ。ガトランティスも全く想定していなかったわけでは無く、白色彗星、都市帝国、そして超巨大戦艦と言う三段構えの対策を行っていた。

 ガトランティスが対峙する勢力の軍備は恐らく次の二つとなるだろう。軍備と政治体制は結構密接につながり、その如何によって侵攻のしやすさが変わる。

 つまり――

 

 専制国家:決戦兵器の使用は国家元首の特権

 類例:ガミラス帝国/デスラー砲、暗黒星団帝国/無限β砲、ボラー連邦/ブラックホール

 軍事大国:全艦に決戦兵器や準決戦兵器の配備

 類例:地球連邦/波動砲、大帝星ガトランティス/衝撃砲、ディンギル帝国/ハイパー放射ミサイル

 

 別にこれらにSUSとかを加えてもいいが、話がややこしくなるため省く。

 ともかくとして、これらの兵器配備の傾向が予想されるだろう。

 癖の強い専制国家は、まず国家元首のカリスマ性を削げばいい。会戦で旗艦を沈めれば一発だろう。しかも、必ずしも全ての周辺国家より優越した軍事力を持つとは限らない。うまく急所を突けば、或いは弱そうな地域から攻めていけば十分征服できる。時間はかかるかもしれないが、征服は可能だろう。それも比較的容易に。

 問題は軍事大国で、数の大小はあっても全ての艦が強力で対峙するのが面倒。下手に正面から戦ったら大損害を被りかねない。敵が愚か者の集団に見えても、使う武器が強力なのだから、万が一という事もあり得る。艦隊が負ければあとは白色彗星のみ。しかし、仮に何万隻の波動砲搭載艦が襲来などという悪夢が現実になった場合は、白色彗星でも対抗できないかもしれない、都市帝国でも対抗できないかもしれない。 

 


 ガトランティス万々が一敗北するとあれば、この軍事大国が相手のパターンだろう。この自らより強力な勢力に出会い、しかも敗北した場合、どうやってイデオロギーを維持するか。下手をすれば、敗戦による物理的損失よりヤバいかもしれない。

 正義を行使できない――うまくいけば、邪悪な力に一旦は阻止されたが、もう一度大帝の元に集い正義を行使すべく戦う、そうやって国民や軍の意識を再集結できればいいが……簡単ではない。

 また、敗北した場合は収入がゼロであり、損失を補填できない。ただでさえ少ない資源が、失われたままになってしまう。これでは挽回すべくリベンジもできず、別の目標と戦うにも不安が残る。

 一度の敗北でも、ガトランティスには致命傷になりかねない。ガトランティスは勝ち続けねばならないし、勝つためには戦わねばならない。このジレンマよ……。 

 


 メリット①=資源獲得

 都市帝国は当然資源の無い要塞と言って問題ないだろう。常に都市帝国は新しい資源を補充しなければ、その維持が出来ない。食料や工業原材料など、あるいは人間も補充する必要が有るかもしれない。これらを維持する為に、征服を行う

 

 例えば、アンドロメダ星雲から太陽系までの経路は星系が少ない空間である。直進した場合、この距離は無補給で進まねばならない。出来るだけ早く補給しなければ都市帝国が機能不全を起こす危険性が生じるのだ。

 早急に星を潰さねばならない。

 

 コース上にある星が有益な星ばかりとは限らない。ガトランティスは基本的に征服する場合、必ず前衛艦隊を配置する。これで十分、無駄足を踏むことは避けられる。

 そうして見付けた星が無人の星であっては……大して意味がない。

 奴隷労働力の供給源、ガトランティス保有していない知識や技術の収穫。これらは単純に星の解体して資源とするだけでは得られない。これらこそ、ガトランティスを強く発展させる礎――火炎直撃砲を見ればわかるだろう。

 

 だから、人間の住んでいる星こそ征服するに値する星。

 高度な文明があってこそ征服するに値する星。

 

 敗北のデメリットはかなりきついが、それを恐れていてはガトランティスを維持することは不可能。この喫緊の課題を先送りにして敗北の過少な危険を避けるよりも、一発玉砕覚悟で突っ込んでいっても全く損にはならないのだ。

 

 

 メリット②=戦闘そのもの
 戦争に勝つには、強力な兵器が必要であるが、それよりももっと重要なのは数である。数を投入できなければ話にならない。数を投入するには人間も相当数用意する必要が有る。特に、Gスーツすら保有していない疑惑のあるガトランティスにおいて、人間そのもの何物にも勝る信頼すべき兵器であろう。

 屈強な兵士を維持するには金も食料も必要だ。戦間期に養い、いざという時に戦ってもらう。必要があれば退役軍人も招集する――そのためにそれなりに恩給で報いる。これが普通の国だろう。

 が、ガトランティスにそんな余裕はない。


 だったら保有しなけりゃいいじゃん。

 と、モンゴル的というか遊牧民的な発想が発生してもおかしくなはい。国民皆兵だから退役軍人とかいう近代的発想が元々ないパターン。

 

 昨今知られるようになったが――実際問題として軍役を外れた人間の処遇は常に騒動を巻き起こす。

 アメリカの退役軍人にまつわる問題は、国家を守った英雄に対する当たり前の奉仕と、平時における国家の負担とかなり繊細な問題で、アンタッチャブル。金銭的な支援なのか精神的な支援なのか、何が必要なのかケースバイケースゆえに、整備が大変。それでいて、結構票田だったりするから政治家はひやひやしながら退役軍人やその周辺人物に媚びをうっている。

 アメリカに限らず、どこの国でも問題である。日本だって、自衛隊の生活になれてしまい、いざ退官したら何をしていいのかイマイチわからない――という人も少なくない。そういう問題を普通の人ならば金と真心のバランスを必死にとって何とが解消しようと知恵を振り絞る。国を守ってくれた英雄なのだから、それに報いるべきと。

 


 が、古式ゆかしい人はそうではない

 ちゃっちゃと新しい戦争を引き起こす。そうして面倒な退役軍人らを前線に突っ込み、敵が問題を解決してくれるのを待つ。

 この方針を一度取ってしまうと、軍人に対する福利厚生は戦える存在である限りに限るようになってしまう。また、常に戦争に従事する環境を造ってしまえば、彼らの平時の社会への復帰の道を閉ざしてしまうだろう。

 退役軍人という負担への対処は、とにかく現役時代に消えてもらう事であり、戦争をし続ける事。そうなってしまう。凄く、嫌な事だけど……。


 アンドロメダ星雲から太陽系にかけての間で戦争の出来るような文明国家が無ければ、国民が死なないという死活問題に直面してしまう。テレザート攻略も、結局アンドロメタ星雲制覇に比べれば大したことない事業である事は間違いない。

 ならば、征服するのが面倒そうな地球が、むしろ魅力的な征服地にも見えてくる。

 

 

 ガトランティスは、常に輸血を求めているといっても過言ではない。

 ガトランティスは、常に空腹であるといっても過言ではない。

 

 ガトランティスはその本拠地を維持するには他者を征服する以外に道はなく、それをするがために巨大な軍を維持する。

 巨大な軍が重荷になり始めたころ合いに、他者を征服するため投入し、そして本拠地を維持する。そこへ全宇宙を征服するというイデオロギーが加わることで、まさにウロボロスの円環が完成するのだ。

 

 

 ガトランティスがなぜ宇宙を周回するようになったかは不明だイデオロギーが理由か、或いはもっと別の物理的理由やあるいは生存圏の確保か。

 だが、周回するようになったその瞬間から、ガトランティスは他者を征服しなければならなくなった。この危うい生存スタイルであるからこそ、土地を持つことが出来なくなった。彼らにとって身を守る為の最善の方策が、他者の身を脅かすようになってしまったのである。

 

 

 土地を持つ、その選択をするにはガトランティスはあまりにも勢力が巨大。

 その選択をするにはガトランティスはあまりに組織が脆弱。

 その選択をするにはガトランティスはあまりに独善的な観念形成を経てしまった。

 

 

 大地は一人の必要を満たすだけの物は与えてくれるが、貪欲を満たしてはくれない

 byガンジー 

大帝星ガトランティスを探る ・国家体制――国家を覆う白いベール②大帝の成立

 

 

 もう少しだけ独裁者を加えたガトランティスの説明を行いたいと思う。

 だから我慢してください。独裁についてのめんどい話は今回で終わり――のはず。
 

 

 

 大権を持つ大帝の発生は徳や神聖性に関係ない法を元にした民主制の役職にあると仮定できる。


 軍指揮権行政権立法権一人の人間に集約できれば、国家の大まかな形を手に入れたも同然。それに加えて徴税権権威(ないし祭祀権)追加できれば、行政、立法、司法、経済、権威の全てを自らのうちに内包出来る
 これが達成できれば、ベースとなる政治体制が共和政であろうが社会主義体制であろうが、肩書が軍曹であれ市長であれ独裁者となる。

 むしろ、民主主義的な政治体制を根拠=法的な裏付けのある公職が、核として最もふさわしい。正当で民の支持を受けた専制であると印象付けられるからだ。この印象付けが、大事。

 

 

 独裁者誕生には後援者がいなければいけない。
 第一の後援者は軍隊である。権限だけではなく実際的に掌握したい。
 国の庇護者としての自身を前面に押し立てつつ、軍の給料を上げるなりの福利厚生を手厚くすれば、通常の民主主義ではどうしても嫌われがちで予算を削られがちな軍を手名付けることなど簡単。軍も、独裁者側に立つ事が国民が期待し、独裁者自身が国民の庇護者と振る舞うなら味方に付きやすい。給料を上げてくれる人間に逆らう意味はない。よっぽど無能で売国や、国民を踏みつけにする独裁者なら別かもしれないが。

 真面目な話、ローマ皇帝の何人かは親衛隊の給料をカットしたために反乱を起こされ殺害された。哀れガルバ。

 反対に、給料を上げた皇帝は不安な統治能力のくせに長期政権を実現した。カラカラ貴様ぁ……

 

 第二の後援者とは、国民の事である。独裁は国民の恐怖なり歓呼なりを以てしなければ成し遂げられない出来れば歓呼を背景に権力を掌握し、恐怖を背景に体制を固めたい。近代国家や先進国ならば軍隊に代わって第一の後援者となる。

 国民を惹きつけるには、初めに停滞した政治を批判して適当に敵を明確化して徹底批判する。相手は与党であっても、或いは野党であっても構わない。本当に敵である必要はない。自分の気に入らない相手なら誰でもいい

 次いで危機をあおる。最初にターゲットにした敵の動きが如何に売国的かを示しあげつらう。更に、彼らの示すビジョンに同じように売国の印象を植え付けられれば御の字。この辺りで出来れば敵と味方ともに実働部隊を用意したいしさせたい。例えばデモ隊とか。

 そして最後に未来を語る。別にヴィジョンを国民に見せる必要はないが、明るい未来を語らなければならない。その未来に国民を引っ張っていけるのは自分しかいないと国民に信じさせる。これが重要、宗教と同じだ。デモ隊という戦力と、信者と言う同調圧力この二つが用意できれば、まともな人間も反対の声を上げられなくなる。関わりたくないからね。

 

 二つの支援者を確保し、梯子を上る様にして政治の世界へと潜り込むのがカリスマであり独裁者。こうして力を得た独裁者は、民主主義の構造の中に入り込む。

 一度選ばれれば後はどうでもいい

 選挙で動員をかけて党所属の議員を増やして、強行採決を重ねればいい。国民が熱狂している間は、何をしても勝手に善い方向に解釈してくれる。ただひたすら「やっている感」を醸し出せばいいだけだ。ひたすら支持者を熱狂させればいいだけ。支持者の熱狂に押されて敵も勝手に燃えてくれる。そうすれば支持の永久機関が完成、体制は盤石となるのだ。

 そうしているうちに、適当に何らかの権限を行使して反乱分子を潰せばいい。さすがにやり過ぎかな、と思うことだって控えることはない。敵の有力者を始末するのを出来るだけ早く行い、同時並行的に身内の有力者も始末して見せしめにする。それが出来る事には国民も疑問を持つようになると思うが……どうせ、国民が疑問を持つ頃には独裁者は至上の権力を手に入れ、国民は恐怖で反抗できなくなる。

 後は体制・国民がどれだけストレスに耐えられるかというチキンレース。上手く行けば独裁体制は長く続くし、失敗すれば倒れる。それまでに独裁者は逃げ込む先を確保すればいい。アミンみたいに。

 

 

 対抗勢力として、確かにマトモな代議士(つまり政治家)は厄介な存在だ。

 国民の代弁者に徹するものも居れば、職務を放棄する論外も居る。選挙の時だけ頭を下げればそれで充分だと思う不届きものも居る。

 だが、彼らはあくまで国民の代表であって、どんな活動や所属政党であっても代議士が他の代議士を罵り、或いは軽視することは許されない。彼らを蔑んでいいのは、彼らの仕事を評価し得る唯一の存在である国民だけ。

 

 しかし、独裁者の元に国民の恐怖や歓呼があるならば、代議士など物の数ではない彼らは所詮当選しなければ只の人。代議士の集合体である議会など容易に抑えられる。一つ手を加えるなら、反対派の議員を糾弾し、賛成派の議員を支援すればそれで充分。敵が落選すれば議会はますます容易に抑えられる。

 国会で「反論させてください」などと盛んにわめくが、結局は論点ずらしに終始する。しかしそれでも支持者は名演説や名勝負として、考えなしに称える。反対派は、自分が支持している代議士がかつて同じような事をしても棚に上げて相手を批判するから、多くの支持は得られず内側で盛り上がるだけ。そして冷静な国民は何をやっても無駄だとあきらめる。

 かなしいかな、国民とは案外簡単に操作できる者なのだ信者は熱狂させればいい、敵も熱狂させればいい。まともな人間相手にはひたすら、醜態をさらして呆れさせればいい。

 

 

 
 民主主義の弱点は政治の専門家ではない人間が大きな役割を果たす事だ。しかも、その真偽眼は容易に濁る。大抵が脊髄反射で政治に参加する。


 専門家ではないからこそ冷静な視点が必要な国民だが、往々にして煽動されてしまというのは潜在的な危険だ。

 政治の専門家も、専門家であるがゆえに一般国民との乖離が生じやすく、往々にして説明不足であり、国民の信頼を得られていない(ま、専門家も自分なりの理想があってそれがベースで語るから万民向けじゃないし、国民も聞きたい事しか聞かないしね)
 結果として国民は常に口の上手い政治屋の手玉に載せられてしまう。下手すりゃ単なるイケメンでも十分当選してしまいかねない。

 もし、その煽動者が勘違い人間で、本気で自分しかこの国を救えないという信念を持ち、それが国民に伝播した場合はもはや宗教としか形容できず、この超越的なパワーは阻止するのが難しい。

 結局民衆は他の民衆に押される形で独裁を受け入れる事となる。

 

 

 これらのプロセス――ローマ的な知恵と、現代的な独裁者の発生要因の複合――をガトランティスが経験したならば。

 ガトランティスが本来民主的な国家体制であったと仮定して無理はないだろう。大帝はガトランティスの持つ元来の共和政的側面であり、その名残が閣下という敬称と考えれば筋が通る


 君主専制を否定する形で成立した共和政をベースにした場合、君主専制を否定するがために共和政を保持し続け、知らぬうちに独裁を擁護する事になっているという想定は自然。形だけ共和政だが、民主主義や合議の弱点である政治の鈍足さを解消するためのトップダウン方式を受け入れた事実上の独裁。国民にも政治家にも、共和政や君主制などと同じようにメリットが無いわけではない。だが間違いなく民主主義や共和政の理念からはかけ離れた存在だろう

 オクタヴィアヌスアウグストゥス)が創始した元首政と歴史的に呼ばれる、明らかに独裁者を指向した体制を元老院が支持した理由は彼が共和政の擁護者とした振る舞ったことに尽きる。独裁者的権限を持つといえど、共和政の擁護者を自認する彼がその座を退いたとき、一体どんな災厄が訪れるか再びの戦乱、その後は想像もつかない。共和制その物が滅びるかもしれない。

 その災厄を避けるため、元老院は共和政の擁護者を支援し続けるという選択肢以外を持ちえなかった。たとえそれが独裁者であると、知っていたとしても。知らないふりをして支持する他なかったのだ。

 知らぬはローマ市民ばかりなり――知ってた市民もいただろうけどね。

 

 

 これらの事例を引くと次のような仮説を最終的にまとめることができる。つまり――

 大帝とは過去にガトランティスの政治を担ったもの達が共和政を守るために頼った存在。

 共和政を守るため、共和政の庇護者として振る舞う独裁者を支持した結果――時を経て完成したのは確固たる共和政ではなく、専制君主として振る舞う大帝だった

 イデオロギーを押し立て民の無条件無思考な支持と軍の支持を元にした最強の一個人。知識人の妥協を呑み込み権力を拡大、そして知識や道理の土台すら意のままに創り直し全てを掌握。代々、その独裁的な国家元首の地位を受け継いできた。最早共和政の欠片など残っていないに等しい。

 そんな中で大帝“閣下”というのは、この元来の民主制を唯一残している点と説明づけられるのかもしれない、 と。

 壮大なこじつけ、ともいえるが。