旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

第二期地球艦隊・駆逐艦――廉価防空艦――

 

 

 駆逐艦というものは非常に便利な艦種である。水雷艇駆逐艦から発生し、自身が水雷戦任務を行うようになり、そして防空や船団護衛などありとあらゆる任務をこなす。それが駆逐艦だ。

 だが、困ったことに宇宙戦艦ヤマトではかなり不運というか、見せ場がない。そんな駆逐艦を考察してみたい。

 


 ――データ――

 艦級名:不明
 全長:112メートル(ないし149.3メートル)
 全幅:14メートル
 自重:3,500トン(ないし6,000トン)
 主機:波動エンジン
 乗員:45名
 武装:連装衝撃砲塔2基、舷側四連装連射宇宙魚雷発射管4基、艦尾連装パルスレーザー砲4基、艦橋基部小口径連装パルスレーザー砲4基、ミサイル発射管ないし衝撃砲口4門


 カラーリングは全体的に濃紺の塗装だが、艦首と下部インテークにノズルコーンの先端がオレンジ色の刺し色が入っている。また、艦橋上部のアンテナは白く塗られている。
 第21話でヒペリオン艦隊に配属された艦は巡洋艦と似たライトグレーの全体塗装に艦首と前部艦体と後部艦体の継ぎ目が白く塗装されている。意外にも塗り忘れなのか、ノズルコーンの先端は艦体と同じ色に塗られている。

 日本では基本的にただ単に駆逐艦としか呼ばれないが、海外では〈Gearing〉と呼ばれているらしい。わかりやすいネーミングである。

 

 

 劇中の駆逐艦
 困ったことに、肝心の護衛任務で駆逐艦はその能力を発揮できなかった。


 さらばでは主力艦隊に編入され、主力戦艦を護衛して戦力を敵本隊まで温存した形で送り届けるはずだった。しかし、我らガトランティスの誇る潜宙艦の奇襲攻撃により狩らねばならない立場にもかかわらず狩られてしまう大惨事が発生。

 緊急事態の発生に対しアンドロメダらは発光弾ソナーによる攻勢を行い、あぶりだした潜宙艦のあぶり出しを敢行。成功し、これをショックカノンで撃沈せしめた。が、当の駆逐艦は全くいいとこなし。対空戦闘には寄与した可能性は十分あるが、対艦戦闘においてはその脆弱性を晒したのみに終わった。


 ヤマト2では第1話でヤマトを旗艦とする太陽系外周艦隊・第三護衛隊に編入されるも、後方からのデスバテーターによる奇襲攻撃を受けて大破。ついでにパトロール艦も(だからお前の立ち位置は何なんだよ!)大破。結果、何と冒頭から醜態をさらす。宣戦布告なしの奇襲攻撃故、責めにくいし隊司令の古代に一番の問題があるが、駆逐艦脆弱性が発露してしまった。
 その後の登場は第18話。冥王星基地駐留艦隊を構成する艦として多数編入、以降はヒペリオン艦隊や主力艦隊にその姿が確認できる。ヒペリオン艦隊所属の駆逐艦は僚艦と共に果敢にバルゼー指揮下の第二艦隊と砲戦を繰り広げた。が、衝撃砲に敵わず壊滅。主力艦隊の所属の駆逐艦は火炎直撃砲のアウトレンジに全く手も足も出ず、白色彗星迎撃に際しても姿は見えないためカッシーニ間隙辺りで離脱したと思われる。実は第10話にもケツだけ登場し、宇宙港から出撃していった。

 全然、良いところ無し……。

 

 

 これらの描写は、駆逐艦の基本的な役割や、これまで複数の艦種に対しての考察で述べて来た役割に合致するものではないかと、都合よくとらえる

 つまり、防空艦として地球防衛軍駆逐艦は設計されているという事である。だから対艦の重要度が低く設定されていた。
 巡洋艦のそれと同等の直径を持つ発射管による雷撃能力の高さはそれとして、小口径砲とパルスレーザー砲による対空戦闘力は恐らく高いと判断して間違いないだろう。多少火力が劣っていても速射性があればカバーは出来るし、雷撃をミサイルに転化出来れば高い能力を持った防空艦に簡単に仕立てられる。

 対空専門と言う意味では、ガトランティス駆逐艦と設計が類似しているともいえるかもしれない。


 対空砲において最も重視されるのは速射力である。

bゆーっくり旋回してゆーっくり発射したらそりゃ当たらん。だからスッと回ってバッと撃ってダメなら何発でもドバっと撃ちまくる、それが対空兵装。一発必中クラスの対空ミサイルなら別だけど。
 速射性とほとんど同じぐらいの重要度であるのが、貫徹力。

 日本ナイズされたCIWSの何が最も評価を下げているかといえば、その弾殻の弱さだ。最終防衛としてはただの鉛弾では弱すぎる……。本場アメリカのそれは劣化ウラン弾という硬い金属製の弾殻を持ちた機関砲であり、直撃すればミサイルの弾殻を貫通するだけの貫徹力を持つ。

 それでも不安だから、アメリカ艦艇や護衛艦にも載っているMk42はシリーズが対艦も出来る対空砲という事になっているのだ。

 個人的には、そんな“なんちゃって核兵器”だろうが使うわけにはいかない。そもそも戦闘なんぞに入る前に外交で解決すべき。

 

 何が言いたかったかといえば、対空砲には一に速射性、二に貫徹力が必要という事。

 

 現代艦艇はすでに誘導弾の性能が極めて高いレベルに達しているため、機だろうが弾だろうがミサイルで十分迎撃できるようになった。そのため、対空戦闘は艦対空ミサイルに任せ、砲は基本的に対艦戦闘=ミサイルを使うにはもったいない海賊船とか用に能力を強化する方向に進んでいる。

 

 

 翻ってヤマトの駆逐艦はどうか。彼我共に多数のミサイルを用いる戦闘を行うが、他方で高速接近してくる敵艦に対しては必ずしも有効とは限らない。相対速度の関係上、場面によっては黎明期のミサイル戦闘に近い事もあり得るかもしれない。となれば、砲による迎撃と言う手段も必要になろう。

 まして、大群で襲来するであろう敵ミサイルや敵艦載機相手にはミサイルや魚雷はいくら撃っても無駄に近い。ただひたすら弾を消費するだけである。そして実際、さらばではデスバテーター隊の大軍が地球艦隊に襲来した。だったらショックカノンやパルスレーザー砲による砲撃の方がコスパがいいのは確実。

 

 駆逐艦の艦砲は巡洋艦以上の艦艇のそれよりかは早く約旋回できるだろう。速射力も明らかにエネルギー充填に時間がかかるであろう中口径以上の艦砲よりかは高いはず。収束率というものが高ければそれだけエネルギーが集中し、単なる高エネルギー体ではなく結晶に近い(プラズマだと結晶として振る舞う場合があるとか)くらいの振る舞いをすれば、それは高温高圧高強度の飛翔体として艦載機を迎撃する能力は高いと推測できよう。贔屓の引き倒しにも思える仮説だが。

 この防空性能に加えて高い雷撃力と機動力、加えて意外に硬いという特徴が、この艦が高いポテンシャルを備えた戦闘艦であると評すことが出来よう。
 硬い、というのは第一話で見事にデスバテーターに襲われたが、あのロングサイズのミサイル直撃にも一応は耐えた――他方、潜宙艦の魚雷が弾殻がかなり硬いという見方もできよう――のは忘れないで欲しい。

 


 では、なぜ活躍できなかったのか。
 圧倒的な電子戦能力・リンク能力不足ではないだろうか。

 

 まず、見るからにアンテナが回転リング状のモノたった一つだ。しかも艦橋が低い。別に宇宙は球ではないのだから問題ないといえば問題ないのだが、レーダーを新規積載や増設をするのに明らか手狭である事は間違いない。完全に護衛艦以下の電子戦能力。いくら個としての能力が高くとも、これでは組織的戦闘を行うことはできない
 今の視点から見て、駆逐艦が役に立たなかったのはデータリンク能力の低さが原因と説明づけられる。劇場公開当時、CEC(共同交戦能力)という考え方やシステムをヤマト製作陣が把握していたかどうかは疑問だが、令和に突入した我々としてはこれを加味しないのは非現実的と言わざるを得ない。

 

 CEC不足の理由は何か?

 それはこの駆逐艦の性格に起因すると説明できよう。

 

 迷走気味とはいえ比較的バランスの取れた護衛艦とパトロール艦。

 他方、能力を砲戦特化させた主力戦艦と巡洋艦。この特化させたグループに駆逐艦は組み込むことが出来るだろう。

 護衛艦らは最悪単独でも任務遂行は可能だ。ところが、特化させた艦は単独では能力不足で任務遂行は難しい。同クラスを多数用意し敵に対処するのが前提と言って差し支えないだろう。複数艦や艦種を組み合わせることで総力として敵を圧倒する戦術だ。

 ならばむしろ駆逐艦CEC能力が高くて当然――他方、防空艦という最悪消耗品になりかねない艦にあまり金をかけて整備するというのも、わからなくはない。ジリ貧の地球にとっては惜しい出費だ。

 

 直属の戦隊旗艦からの指示を受けての……防空に関しては戦隊全体が一隻の大型戦闘艦として振る舞う、という運用方法。各艦が個別に目標を設定して戦うのではなく、脅威評価を行い集団で事に当たる。

 駆逐艦があくまで指示を受ける下位のウェポンとして、単艦での運用はそもそも予定していない場合。最善の戦闘を行うための頭脳の一つとしての運用もしていなかった。徹底して廉価になるように能力を限定したのならば、この設計もあり得よう。“対空・雷撃アーセナルシップ”とでも呼ぶべき廉価な小型艦である。そこに高額な自前のレーダーシステムや高度な火器管制システムを省いてでも、価格を抑えて多数をそろえたいという防衛軍の意図が覗く。 (ヤマト製作陣が意図的に自律的なコンピューターをアナライザーや類似のロボット以外に積みこむのを嫌った可能性の方が高いが)

 

 惑星基地の移動砲台としての主力戦艦、艦隊の砲力強化のための巡洋艦に並ぶ純粋な対空砲台としての駆逐艦、それが防衛軍の建艦プロットである、そう説明づけられる。そのための限定的な能力を持った艦がこの駆逐艦

 


 そんな艦、うまくいく訳ないじゃないですかね。
 ヤマトの様に個艦戦闘能力を有し、外洋への進出も可能なアンドロメダ。小型ながらに手数の多い護衛艦波動砲・ショックカノンキャリア艦である主力戦艦、砲雷撃特化艦である巡洋艦。艦載機運用よりも“輸送”を重視した宇宙空母とそして対艦戦闘以外は多目的に(こなせるはずなんですけどね、でもちょっと中途半端なスペック)活用可能なパトロール艦。
 アンドロメダとパトロール艦に護衛艦は汎用艦、主力戦艦と巡洋艦に宇宙空母は特定条件下による運用艦と分けることが出来よう。どちらもちゃんと理に適った説明をすることが出来、地球防衛軍ひいては地球連邦の方針転換が二つの系統の軍備が並立している理由として提供することが出来る。

 その中で駆逐艦だけ、スペック不足。火力はあるのに、頭がない。
 攻撃力以外の部分でスペック不足である。駆逐艦のみで構成された戦隊は下手をすると各艦長の独自判断での戦闘を強いられてしまうかもしれない。そんな状況で、どうやって効果的な戦闘が出来るのか。

 

 

 案の定、ガトランティスの強大さの前に駆逐艦の弱点は露呈した。
 さらばにおける第6遊動機動部隊や、ヤマト2でバルゼー連合艦隊の高い戦闘力に対抗するため、地球艦隊は保有する全艦艇を土星圏にぶち込んだ。

 これは元来の作戦プロットから大きく外れる。艦隊としての指揮系統と先任と後輩の序列や艦同士の序列、そういったものが一緒くたになってしまう危険性をはらんでいたといえよう。要は、指揮系統がまずい事になってしまったのではないのではないか。 

 元から訓練不足の可能性がある新地球防衛艦隊が、元来の艦隊編成とは違う編成で組まされるという不確定要素は――駆逐艦の効果的運用に支障をきたしたと考えられる。艦隊司令部が全権を握って作戦を遂行するとあれば、艦隊総旗艦からの命令が自身の戦隊旗艦の“上司”からの命令というワンクッションを挟んでタイムラグが起きる。

 

 駆逐艦はこの避け得ないタイムラグによって出来てしまう虚を突かれた、と考えられる。そうであれば、さらばやヤマト2での失態も説明がつく。

 

 

 数値の再設定
 原作設定値のうち、最も大型の140メートル超級の艦体ならば、大きな問題はないだろう。140メートル級は現代の艦艇でも決して小型とは言えない規模だ。

 もし、全長を再設定するならば他の艦と同じように倍ぐらいを見込む。正直な話、アレイレーダーの類や演算器機が積みこめるのであれば、全長は何だって問題はない。廉価で建造が容易なければ数を揃えられないため、巡洋艦を超えない程度規模に収まれば十分だろう。

 

 


 単艦でも一定程度の能力がなければ、戦場では用をなさない。
 しかし、この駆逐艦は残念ながら劇中では単艦での能力は高いとは言えない。目、耳がまるっきり能力不足で脳みそも足りない。ベースとしての兵装や、兵装の傾向というのは理に適っており、現代の実際の艦艇にも通じる面がある、とてもリアリティのある艦と言える。普通、アーセナルシップは役立たずであろうと判断されているが、図らずもフィクションの世界にもかかわらずそれをシミュレーションしてしまったと見える。


 艦隊には絶対に欠かせないが、しかし、艦隊を構成する艦としての能力が決定的に欠如した艦、それがこの駆逐艦

 考えようによっては、とっても合理的なのに一面とっても非合理的なヤマトと言う作品を一隻に凝縮した艦、そう評価することもできるかもしれない。