旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

ガトランティス兵器群 超巨大空母―史上最も合理的な艦―②

 

 

 超巨大空母のメリット・デメリット

 

 
 この艦を運用するうえでのメリットは巨大な艦載機運用のプラットホームである事。しかも、自衛火器も決して決して微力ではなく対艦攻撃も視野に入った強力なものである。原作通りの寸法ではまともに艦載機を発信させられないが、寸法を直した場合は護衛艦なしの単艦でも十分作戦行動を行える規模の能力を保有している。惑星制圧は行えなくとも、基地を沈黙させることぐらいはできよう。
 デメリットは喪失した際の損がえぐい事1隻喪失するだけで最低3千機が同時に失われてしまうのだ。穴を埋めるために他所から1隻融通してもらうか、本国から中型空母を10隻ばかり新規に派遣してもらうほかない。しかも、中型空母の艦載機運用能力は収用スペースだけではなく工作スペースにも疑問がある。故に超大型空母は喪失してはならない。幾重にも陣形を組んで守る必要が有るが、そうなると艦隊の規模が一々大きくなってしまう。


 ガトランティスのような先軍巨大国家であれば大した問題ではないのかもしれないが、リスクとしては常に存在し続けるのである。

 

 

 

 目を見張る合理性、回転機構

 私はこの回転機構に対する否定的な意見が理解できなかったりする。だって、自分がパイロットならば、と考えながら見ていたから……。

 
 まず、宇宙空間で甲板を回転させるのは無意味という意見がある。
 なるほど、一見もっともだが、飛行甲板に人工重力が働いていると仮定した場合、上下の感覚は決して無駄ではない。そしてまた、ガトランティスマンパワー重視、身体能力の勢力らしいという考察が、この上下の感覚が他の勢力以上に重要な意味を持ってくると断言できる。

 

 墜落事故の原因の一つに、空間識失調がある。
 これはあまりに恐ろしい疾病で、平衡感覚の完全に近い消失であり、パイロットにとっては致命的だ。これに襲われると、機体の姿勢という基本的な事も認識できなくなる。挙句進行方向すら怪しくなり、当然、上下の感覚など当の昔に喪失している。忘れがちだが、宇宙空間でも人工的に重力は作れる。つまり、遠心力だが、これにより、本来の水平とは違う角度で水平が体内で設定されてしまう事がある。地上で起きるGに関する現象は、宇宙空間でも起こりうるのだ。
 対処法は計器を信じて従う事である。が、生存本能がそれを許さない。この本能を押し殺して理性で操縦することのみが、危険を脱する唯一の方法である。もし、計器に異常があった場合は……すべてを神にゆだねるほかない。

 

 もう一つ。ブラックアウト、レッドアウトグレイアウトがある。
 これはGによって血流が全身にわたることなく、Gによって引っ張られて不足ないし過剰供給される一連の現象の事である。
 グレイアウトは脳の虚血により引き起こされる色彩の喪失や視野狭窄の事である。一時的とはいえ頭はぼーっとなるし、色は見えないし視界も不良と、ミス多発地帯突入と言える。

 ブラックアウトはこのグレイアウトに続く現象で、視界喪失である。脳に血液が行っていないのだから脳虚血からの失神に直結する。仮に、旋回中にこれが起きれば……
 レッドアウトグレイアウトとは反対にGによって頭に血が上った状態。視界が赤くなるのが主な症状で、それだけなら問題なさそうである。しかし、実際には繊細な血管が集まっている頭部への過剰な血流集中は当然、強烈な負担をかける。血管が破れればそのまま脳梗塞という事もありうる。
 割と頻繁に起きるが、うまくいけば回復できるグレイアウト。めったに起きないが、運が悪いと即操縦不能になるレッドアウト。

 
 さて、都市帝国が姿を現した時、コスモタイガー隊に対して何が迎撃に出動したか。パラノイア迎撃戦闘機である。あの、コックピットを見て欲しい。まるで、マニアに有名なグロスター ミーティアの改造版:F8 プローン・パイロットのようではないか。これはブラックアウト対策として、心臓と手足頭を平行にして極端な集中を防ぐための発想である。 

 耐Gスーツがあるならば、寝そべって操縦する意味は大してない。という事は――ひょっとして、ガトランティスには耐Gスーツがないのではないのだろうか

 仮に、そうであるとすれば、話は早い。

 

 仮に、下層甲板から発艦して上甲板からの発艦組と合流した場合、どうなることが予想されるか。
 超大型空母では上と下で収容する機種が異なり、上はデスバテーター(攻撃機)で下はイーターⅡ(戦闘機)。デスバテーターは回転砲塔の設置位置から来る微妙な対空防護力不足(中途半端に射角が限られる)という弱点がある。これは、イーターで補う必要が有る。攻撃に際しては混成で編隊を組まねばならない。
 上下逆さまで発艦したイーター隊はどこかのタイミングでロールして上下を正す必要が有る。
 もしこれを編隊を組む途中でやられれば、ただでさえ下が見ずらい飛行機という乗り物で、下の方でアクロバットな事をされては危険である。もし、ブラックアウトでも起こされて操縦ミスをされてごらん、シャレにならん。デスバテーターが一機事故を起こすだけで6本のミサイルと2本の大型ミサイルが爆発してしまう。発艦直後であれば、みんな団子状態でこれもまたまごついて衝突の危険がある。

 物凄い広がって編隊を組んで――となると奇襲を仕掛けられた際には各個撃破されてしまう。目の前で発艦した爆発しつつ、母艦もまた敵機動部隊の空襲を受けるなど……地獄絵図としか評し様がない。

 

 無駄な危険を生じさせる前に、あらかじめ面倒を取り除く。それは決して無駄ではないだろう。

 甲板を回転させれば、ブラックアウトは生じるだろうが、発艦にワンテンポを置いて出撃すれば十分回復できる。無意味なロールで編隊を乱すことも、弱点を晒すこともない。事前に上下転換を強制することで、各種の危険を事前に排除できるのだ。
 技術で解消できるであろう問題を、どうも力業で解決しようとする肉体派なガトランティスだからこそ、甲板回転させる意味があるといえよう。

 


 もう一つ、想定できる理由がある。
 無敵に近いガトランティスでも、劣勢にはなろう。その場合、空母は真っ先に狙われる。機能を保っている間は圧倒的な制圧力を有するが、ひとたび飛行甲板が損傷するだけで全ての機能を停止してしまうのが空母であるからだ。特に、ガトランティスの空母は滑走路のサイドが壁になっている、発艦は一筋縄ではいかないだろう。

 しかし、替えの甲板が用意できれば空襲など恐れるに足らない
 いたずらに巨大な全通甲板ではなく、迅速に複数機を一度に発艦できるように工夫された甲板が上下に二枚。仮に一度空襲を受けたとしても、航空隊発艦や帰投に際しては甲板を回転させることで無傷な飛行甲板をすぐさま用意できる。もう一度空襲を受けたとしても、もう一度回転させて損傷を受けた側の甲板を差し出せば何の問題もない。
 上下で区画を完全に分ける必要が生じるが、搭載機の機種を分け、発艦に一々回転させるのだから上下で通々にする必要性は低いだろう。


 なぜ艦載機が上から(あるいは一方向から)襲うという想定が出来るかといえば、
 まず、航空機は下部方向への攻撃方法設置の必要性が薄い。進行方向へ射角が取れれば、機首を上げ下げして機銃掃射なりが可能である。ミサイル類ならばどこにつけても発射してしまえば勝手に敵に突っ込んでくれるのだから、設置位置は整備のしやすさが第一。下部への武装で肝心なのは、あまり大きくない事だ。あまり大きな武装は着艦・着陸に邪魔である。
 一方で、上面に武装を設ける理由も少ない。戦闘機ならば正面切って格闘すればいいし、攻撃機爆撃機ならばさっさと離脱するべきである。いづれにせよ、進行方向への武装があればそれで充分。

 

 当たり前の問題として、機首なりの軸線方向は的が小さく被弾する可能性が低いが、背面腹面では的が非常に大きく被弾する可能性がゴロゴロしている。つまり、必然的にとは言わないが、想定として航空機は皆、直上と直下からの攻撃に弱いという事である。

 

 艦隊戦において、
 上方から攻撃した場合は、直掩機の背後から襲うことが出来る為、優勢な状態で攻撃が出来る。しかも、直掩機の存在のおかげで迎撃側は対空砲火があまり濃密にできない。直掩機の出来る事といえば格闘して排除するか、艦隊が退避する時間を稼ぐか、ダメと分かった時点で味方の対空砲火を信頼して艦から距離を取るかの三択であろう。攻撃隊は濃密な対空砲火をかいくぐる必要はあるが、艦橋やあるいは甲板への攻撃を集中でき、撃破するのが簡単になる。

 宇宙空間限定だが下方から攻撃した場合、対空砲火の恐怖がない代わりにメリットもない。直掩機が下りてくればその時点で格闘戦確定、攻撃に成功しても艦橋というウィークポイントへのダメージは期待できない。戦闘艦側は雑な弾幕より濃密な弾幕の方が効果があることを判っている以上、艦上面に対空設備を充実させるだろう。一方で艦底部を捨てる前提の設計をするという選択も、何の不思議もない。この場合、爆弾の無駄でしかない。

 まとめると、

 下方からの攻撃は迎撃側の発想力でいくらでも防ぐことが出来る。直掩機も最大の能力を発揮できるだろう。他方、上方からの攻撃の方は攻撃側にメリットが多く、迎撃側は弾幕が濃密な反面直掩機などの有効策が取れない。
 迎撃側は下方からの攻撃よりも、上方からの攻撃に備える方が自然といえよう。

 攻撃側は下方へ攻撃するよりも、上方から攻撃する方が自然と言えよう。

 


 更に、追加で一つ。
 甲板を完全に分けた場合、艦載機整備が楽になる。つまり、デスバテーター整備に必要な各種機材を片方に集中でき、もう片方はイーター整備に注力できる。
 これは、前者のリスクヘッジ想定とは矛盾するものである。
 しかし、甲板と発進口の大きさが共通であるため、どちらの甲板でもどちらの機種であっても無理なく着艦が行える事に変わりはない。あるいは弾薬格納庫をどちらの甲板とも隔離し、適宜開放する形にすればどちらでも整備は行える。


 ここまでで上げた回転機構の意味は次の通り。
 1.パイロットの上下感覚の事前補正。
 2.甲板損傷のリスクヘッジ
 3.整備の効率化。


 一つ、一つと一体いくつ“一つ”が出てくるんだという感じでしょう。私も見返してそう思った。
 だから本当に最後に一つ。


 1として挙げた理由は回転させる必要性を担保するものであるが、敵艦隊の前で回転させる必要が有るかといえば確かに微妙である。
 が、この回転にデモンストレーションとしての役割を持たせたとすれば、割合に合理的説明がつく。

 

 

 恐怖の演出
 バルゼーは小説版では外周艦隊を撃破した後に土星圏に突入している。さらばにおいても太陽系外縁部の基地から順繰り攻撃していた。ヤマト2では第11番惑星を占領さえして、天王星海王星軌道を正面から突っ切っていった。これらは長官が通信でヤマトクルーに伝えていたり、土方総司令が直接報告を受け取っていたので、間違いない。


 バルゼーが順繰り順繰り攻撃を進めていた理由は何かと言えば、一つは後顧の憂いを断つというのがあろう。後ろから拡散波動砲をぶちかまされてはシャレにもならない。この波動砲がある限り地球は相当な抵抗を見せるだろう。

 もう一つは最小限の損失での勝利、であろう。さらばや小説版バルゼーの消極的で手堅い戦い方は、明らかに損失を恐れたものといえる。ヤマト2では積極攻勢・大規模戦力投入ではあるが、機動部隊による先制攻撃の後の砲戦ないし基地制圧が作戦プロットである為、かなり効率と成功率を重視した作戦といえよう。つまり彼は出来るだけ労力をかけず、あるいは労力に見合う以上の成果を手に入れようするタイプ。

 ズォーダー大帝の望みは地球そのものであり、地球が反撃の能力を残していては征服の際に問題が生じるだろう。バルゼーに下された大帝の命令は地球軍の撃破であり、必然的に彼の目的は地球艦隊の撃破となる。当然地、球の降伏を引き出すことを考えての作戦を練らなければならない。


 それには、地球から希望を一つ残らず取り上げなければならない。


 アンドロメダ、拡散波動砲、巨大艦隊。これらを叩きのめすことでしか、降伏を引き出すことはできない。どれか一つでも残っていれば、地球は希望を以てガトランティスに抵抗するだろう。
 だからバルゼーは自軍の戦力を結集して、生半可な戦力では対抗できないようにした。そして惑星基地を潰してその力を見せつけ、地球艦隊のゲリラ部隊化を防ぎその戦力をあえて結集させた。そうしてバルゼーは、順々に惑星基地を潰して恐怖をあおりながら土星圏まで進出した。

 土星圏突入は半分罠にかかったような形だが、地球艦隊を一時に叩きのめすという、最大の演出・最大の効率のいい戦果を得るには自らが誘い出されることによってしか誘い出せないと考えたとしても無理はなかろう。


 目論見は的中し、地球艦隊は月面基地からワープして土星圏へ緊急出動。バルゼー率いる第6遊動機動部隊との戦闘を開始した。

 

 

 新兵器、妙な挙動が誰に向けたものかは妄想推測するしかない。

 あの甲板回転は、ガトランティスの技術の高さを見せつけたものであり、軍人であろうとなかろうと、警戒するだろう。あるいは、地球人の性格や地球艦隊の性格から生中継が行われていると考え、軍人より怯えやすい市民を狙ったのか。
 どの想定にせよ、甲板を敵艦隊の目の前で回転させることで、軸を固定した状態で全く無反動に回転させることが出来るという、根本技術の優位性を示そうとしたと考えられる。 
 が、目論見は大きく外れて地球艦隊司令部は全くリアクションなし。
 だが、市民はどうか

 

 ここまで長々と文章を読み切った方ならば、劇場やあるいはテレビで超大型空母を始めてみた時、衝撃を受けた事だろう。甲板がぐるっと回った時、目を見張った事だろう。

 単純に驚いたり、あるいは驚愕したり。
 私は漠然とした“腑に落ちた動揺”を覚えた。つまり、当時の私は技術的な意味を――少々自慢げに表現すれば――本能的に回転の価値と意味を理解したのである。後々年齢が上がって、初見の動揺を探ったならば、それはこの長ったらしい記事を書くに至らしめるほどの、回転機構の合理性にある事に気が付いたのだ。

 

 少なくとも、回転機構を敵の面前で駆動させる事は脅しにはなりえたはずだ。あの映像が市民に流れる事で、ガトランティスの確かな技術力を示すことはできたのである。


 結局、艦隊戦戦術をミスしたバルゼーは地球艦隊に敗北。おかげで一瞬だが地球は漫然と希望に満ち溢れてしまう。彼が引き出すはずであった恐怖は、超巨大空母の威容ではなく、その背後にある白色彗星が引きずり出したのである。本来は超巨大空母が見せつけるはずだったこの圧倒的な恐怖を体験した地球連邦首脳部は、回答猶予一杯まで時間を使っても答えを出すことが出来なかった。

 

 地球艦隊の強力な戦闘力の前に、正攻法に近い戦術を取ったバルゼーは敗北した。正攻法に近い戦術において強力な力を発揮する超巨大空母も、圧倒的な力でねじ伏せにかかる地球艦隊の前では敵わなかったのである。そしてガトランティス本隊の消滅と共に超巨大空母も姿を消した。

 ヤマト2においては、その回転機構すらアニメーターさんの事情か、機構を披露する時間もなくヤマト機動部隊の空襲が激しかったのか――残念ながらその力を見ることはなかった。

 

 

 確かに、数値設定は根本から破綻していた。しかし、この機構的設定は徹底したリスクヘッジの結果であることと説明づけられる。運用方法については古代から現代までの

戦闘における心理効果の集大成的結果と説明づけられる。
 一見、こけおどしのような無駄に見えるビックリどっきりメカ。しかし、その裏には確かな合理性が隠れていたのである。