旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

テレザートのテレサ――テレサは動かない①――

 

 

 “松本美女”の神髄、テレザートのテレサ
 〈さらば〉で衝撃の登場をしたこの人物について頭をひねってみる。

 

 

 が、テレサについて、まず面倒な〈2〉から考える。面倒というのは解説するのにイマイチ気が乗らないからである。
 私はどうも、この人物に感情移入できないのです。

 

 このテレサという人物、ヤマト2においては服は着るは反物質を操る超能力者であるとか、反戦主義者であるとか、色々これはあんまりな設定

 しかも、ヤマトとの関係性が正直アレな感じであってとても印象が悪い。終始のったりくったり、口を開けば「島さん」。他に何か言えないのか。しかも、彼女の宮殿であるテレザリアムはあの都市帝国ですら損傷を受けた爆発を潜り抜けられるほどの耐久性を持つ。しかも速力は白色彗星やヤマトのそれと変わらない超高性能。

 見ていてかなりフラストレーションがたまる存在。


 だから、という事なのかは不明だが――ガトランティスも結局めんどくさいから触れたくない、でも勝手な動きをしてほしくはないという認識であった模様。平成や令和世代の視聴者ならば、ガトランティス目線で彼女を見てしまう可能性はかなり高い。注意してほしい。

 


 さて、色々な人が危惧していた通り、決意した彼女は我々ガトランティスに向かって恐ろしい牙をむいた。

 彼女が何をしたかといえば、惚れた男の為に惚れた男の乗るヤマトを安全圏に逃がすための時間稼ぎ。あるいは、惚れた男が命を懸ける地球を守るために侵攻を断念させるための自爆攻撃。これが第一弾
 この決意と行動力は目を見張る。が、いかにも昭和的な芯の強い女性といった風で真意の程を直接本人に伝えたりはしない。正直、現代人にとってはもどかしい。

 

 よくよく考えてみれば、この女は戦が嫌いだから、たとえガトランティス相手でも能力を使わないと決めた。

 母なる星に住まう他の人々が繁栄を求めて血みどろの闘争を繰り広げ、心を痛めたテレサはその終結を願った――すると、何とテレザートの住民が全て死滅するというとんでもない結果を招いてしまう。人類が平和に暮らすには人類全員が絶滅するのが手っ取り早いという、何というデストピアな発想。この最悪な結果を目の当たりにすれば、PTSDのようなものに陥っていたと考えても自然。

 気丈に振る舞うなど無理だろうし、「気に病むことないさ」などと声を掛けられるはずもない。

 

 それを考えればあの無礼というか、そっけなさすぎる態度も理解できなくもない。

 にしても理解してもらう努力がなさすぎな感もあるが。例えば、テレザートの歴史を動画にでもまとめて投影しとけば……古代君ぐらいなら察してくれただろうに。案外アナライザーも気が付いてくれたかもしれない。

 

 

 その不戦の決意を島大介に惚れたために、その瞬間戦闘に加わる決意を固めた。

 

 

 なんだそりゃ。良く言えば、それぐらい島君に惚れたともいえる。それぐらい彼女の情が深いともいえる。すっげぇピュアガール……。口では大帝の宇宙席巻を説教していたが、しかしてその動機が恋ってあなたねぇ……。

 見透かされたわけでは無いが、白色彗星は問答無用で前進。危うくヤマトをも重力の影響圏に巻き込みかねないほどの高速・進路でテレザートに迫る。これを迎え撃つべくテレサは能力を用いてテレザート星そのものを爆破、ガス体を吹き飛ばして都市帝国に重大な損傷を与えた。恐らく、中性子が高エネルギーにさらされてクォーク化しかけていたのだろう。

 最終的には都市帝国は再びガス体を纏う事になるが。ヤマトが第11番惑星でまごついても十分に地球艦隊に合流できるだけの時間的余裕を創りだした。

 

 

 最終話には、色々あって遭難した島君を抱えての御登場。

 18か19の青年を抱きかかえる女性とは、かなり力強い。多分島君も今どきのジェンダーレス男子とかいうのではないだろうから、それなりに体重があるだろう。しかも彼の為に自信が命をつなぐことが出来ないほどの輸血をした後である。


 これだけでも彼女がやはり超能力者であるというのが判る。しかも瞬間移動でテレザリアムからヤマトの艦橋に登場である。びっくらぽんという事でございますな。

 そしてひとり、ズォーダー大帝座乗超巨大戦艦に立ち向かう。

 

 島が好きだから地球を救う。

 島が心に賭けたヤマトを救う。

 

 と全宇宙の平和が結構そっちのけな感じ。物凄くかっこいい感じのセリフを言っていた気もするが、行動の裏が見え見えでどうしようもない。当然、全宇宙の平和より島君の方が大切だろうから、テレサ本人にとってはむしろ本気度MAX120%なのだろう。が――傍から見れば矮小化してるような……。
 とはいえ、本気には違いない。

 一切の躊躇も恐れもなく、一直線に超巨大戦艦に突っ込んでいく。死など全く考慮の外、ただ一つ島大介という存在に後ろ髪を引かれるのみ。

 


 彼女の行動は冷たい目をしてみるとかなり問題ありというか、変節漢――もとい女――としか表現できない。

 ただ、彼女が一人の人間であるという前提を立てた場合、その行動は普通の人間にありえなくもない一途な恋心として集約できる。
 大体、「言い出しっぺだろ」と言って一人の人間にサッサと戦って散ってこいと強要するのも実際は中々難しい。

 

 

 なぜテレサが超巨大戦艦を倒せたか。

 反物質だろう。

 宇宙や物質それ自体は実は波と見る事もできる。数字に置き換えることが可能であり、振幅に置き換えることも可能。その集積が宇宙。であるならば、脳波を外部に伝播させることで作用――ジョジョの波紋みたいな感じで――を引き起こして反物質様の物質を造り出したり集積することもできなくもなくもない。かもしれない。

 

 前述の方法で反物質を操るとすれば、彼女は波紋使い元来は波を操るセンスを持っていると表現できるだろう。

 ならば、反物質を使わずとも時空の波と波の間に超巨大戦艦を叩き落とせばいい。まるっきりの虚数空間にぶち込むようなものだからそれで十分。他にも、空間同士穴をあけて超巨大戦艦の何割かを吹き飛ばせるだけの反物質(向こうの世界では正物質)を流入させて大爆発を引き起こしても構わない。

 

 


 ともかく、確かにヤマト2におけるテレサは女神かといえば全然ふさわしくない。

 あんまりとっつきやすい女性ともいえない。しかも漠然とした全宇宙の平和を希求する、登場時は信念が座っている――ようでいて全く座っていない人物である。超人的でありながら、まるっきり普通の人間。

 だが、島に恋をした。その結果、彼の力になりたいという決意の元、彼女の平和が実体を伴うようになったのである。彼の為に何が出来るか、ひいては彼の願いでもある平和の到来には何をすべきか。

 

 その答えがガトランティスとの命を懸けた戦いだった。

 

 アンドロメダ以下の地球艦隊やヤマトの活躍も、島の助命の途中の出来事でありテレサに参戦する余裕はなかった。そもそも、たった一人の生身の人間に500隻を超える戦艦が入り乱れた決戦を左右する事などできやしない。破壊の為のエネルギーの源になり得る星も、白色彗星の進路上には存在しなかった。

 そして善戦むなしく地球艦隊もヤマトも敗れる

 

 テレサが地球を救うには、島に帰る場所を残すには、時間がなかった。そして手段もなかった。だからこそ自己犠牲を体現する以外の選択肢を見出すことが出来なかったのである。
 加えて、彼女は輸血しすぎて余命いくばくもない状況である。自身は助からない、地球も助からないでは島があまりに不憫。

 幸福の最大公約数を確保するには、彼女は超巨大戦艦に突っ込むほかなかったのだ……。一人の恋する女としての決断だった。
 

 

 確かに、あのラストは今までの出来事は何だったのかと叫びたくなる。

 実際、私は衛星放送での再放送やレンタルは大抵テレサの登場回を飛ばす。ついでに雪が活躍する回もがっつり飛ばす。だが、何も考えずにご都合主義と断じるのはさすがに、動かし声を当て仮とはいえ命を与えられたキャラクターに対し失礼ともいえる。

 彼女の行動は理解しようと思えば、出来なくもない行動。場合によっては自分もスケール感は別にして似たような選択を迫られないとも限らない。その時、彼女の様に潔い決断が出来るか。

 多分私には無理。

 

 


 〈さらば〉のテレサは極めて興味深い。

 これはまさに神としての存在を明確に描いている。人間であるはずだが、一種女神のような描写をなされている。

 神話を気にしない人は神を漠然と公平で超越的存在であると考えるが、実際はそうではない。現実的に考えれば人間の創造したものだから、人間の想像力の限界が神の限界という見方もできる。他方でオカルトやスピリチュアル的にも神と言う存在は、実は結構制約のある存在である事に否定はないのだ。

 例えば――

 

 

 拝一神教であるキリスト教ですら例外ではない。

 全知全能と標榜する割には出来る事が限定的で、しかも短絡的。ルシファーに隙を突かれて宝物の創造物を堕落させられるわ、その子孫は殺人を発明するわと散々。ろくでもない事ばかりをしてキレた神は人類を1度ほぼ滅ぼし、しかし結局人間が同じ過ちをする事を防げず言語をバラバラにして罰した。が、罰が手ぬるく全く邪悪さは変わりがないが、個の手ぬるい罰は他ならぬ神自身がノアとの約束で自らの手に枷を嵌めたからである。


 神道も仏教もインド神話やエジプト、ギリシャ神話の神々も同様で結構できない事が多いし、思い付きで行動する神が多い。

 怒りに任せて怒りの神を創り出したが、制御できないラー。しかも本名を後輩に知られてしまうという凡ミスで最高神の座を明け渡す始末。

 ギリシャ神話の面々など、お話にならないレベルで変な奴ばかり。

 

 素戔嗚尊は事情も聴かずに大宜都比売をぶった切り後で後悔したり、弟の暴挙に引きこもる天照大神最高神なのにすごく人間に近いメンタル。まあ、弟が原因で自分の女官が死んでるから傷ついて当然ではあるが。


 気まぐれにパールヴァティーが垢で(この時点で何を考えているのかわからない)作った息子ガネーシャは生まれたばかりでシヴァの事を知らず(当り前だ)、一方で邪険にされてキレたシヴァは最高神の権威(ちょっと安い感じの権威)にかけてその首をぶった切るという暴挙をした――ものの、妻であるパールヴァティーにブチキレられて首を探しにいった(母は強し)ものの、無かったから象の首を持って帰るというもう何が何だかわからない。象の性格が移ったのか、ガネーシャは若干乱暴になったというのだからシヴァの責任の重さは……
 極めつけは北欧神話の面々である。彼らは神なのに寿命がある。最高神オーディンですら寿命を延ばす黄金のリンゴの管理人たる女神イズンに対して頭が上がらない。大体、この爺様は文字の秘密を知りたいがために首を吊ったり、魔法を使いたかったがために片目を差し出したり、ちょっと大丈夫か怪しい。よく言えば知識にどん欲だが、最高神なのにその能力の限定度合いと言い、人間とそこまで変わらなかったりする。そして、おっちょこちょいなお人よしであるイズンに窘められるラグナロクの発起人ロキといい、登場人物皆、すごくもどかしい。敵と味方で最終決戦まではそこまで仲が悪くないというのもなんだかなぁ~
 


 つまるところ、神とは人間らしさと人間らしくなさの混沌である。
 神とはいまいち行動原理が判然とせず、能力も案外限定的。人間の話を聞いてくれるかどうかも完全に気まぐれ。そして引き起こした結果に対して予想が神自身、つかない。
 これが人が想定し、崇め、伝えていった神である。

 


 さらばのテレサに話を戻そう。
 彼女はひたすら宇宙の平和を祈るだけで何もしなかった。白色彗星の脅威を知らせる事はしても、反物質の体を使って行動を起こすという事はしなかった。

 これには理由を付けることが出来る。

 


 反物質の体である彼女の場合、誰かと共に戦うという事が事実上不可能である。しかもテレザートには武器もなく、取れる選択は自爆のみ。仮に武器があったとして、すでにガトランティスに敗北を喫した勢力の兵器である。威力などたかが知れている。場合によっては反物質そいうそのものが兵器のような形で存在し、防衛力を担っていた可能性もある。これ、反物質に対応した兵器で侵略されればもう一発である。

 実際、小説版では反物質世界の一部であったテレザートを中和して占領したという事がエピソードとして挿入されている。

 

 このテレザートという星は、隣り合う同格の別次元かつ反物質世界が何かしらの干渉によって小さな窓が次元の壁に開いたか、反物質側の接触かである。
 いづれの理由にせよ、反物質と正物質の両方に重なり合う形で存在していた星なのだろう。

 普通ならどう頑張っても侵攻するなど不可能に近いこのテレザートを、ガトランティスは侵略した。ガトランティス勢の戦闘能力の高さはテレサ自身がよく知っているのだ。つまり、ゴーランド艦隊を打ち破り、ザバイバル突撃格闘団の地上戦力を撃滅できる能力のある勢力でなければ未来を託そうにも託せない。託せない段階で自爆特攻など、むしろ全宇宙的な損害を生む結果になろう。
 ヤマトの登場によってはじめて、彼女の行動に選択肢が出来たのである。大体、あの人ただ祈ってただけじゃなくて初めは拘束されてたわけだし。

 物理的にもヤマトが必死こいてようやく白色彗星に追いついたのであり、それ以前の段階でテレサが地球艦隊と合流して何かを出来る可能性は低い。仮にできたとして、ガス体に阻まれるのがオチであろう。

 


 テレサ自身だが
 テレサはいわゆるコスモウェーブを発進する能力――これは現実性があるかどうか不明だが気功の達人のソレと同じという事で説明……では正直話にならないのでもう少し真面目に考える。
 可能性として、脳波を外部に発信した――脳波測定も脳に直接電極を埋め込む方法もあるが、頭皮表面を通しても一応研究に資する脳波を測定する事が出来る。そもそもとして脳波は意外と伝わりやすく、これが何かしらの媒介をもってすれば遠くまで届くという想定もできなくはない。
 そもそも論として、反物質であり通常の人間とは違う存在である。オカルト論によくあるプラズマ生命体というたぐいのものであったならば、それ自体が全て脳波であり媒介である。当然、通常の人間の出す脳波など話にならないほどの威力を遠くまで伝えることが出来ると想定しても不思議ではない。女神的な存在ならばそもそも論として人間の常識にとらわれるはずはない。
 何にせよこの女、やはりただものではない。

 一方で普通の人間の側面も存在する。神の人間的側面とも呼べる共感力である。圧倒的不利な状況においても可能性がわずかに残されていればそれに賭けるという無謀さ。冷めて目で見れば愚かであるが、その過程に少しでも共感があればその健気な勇気に拍手を送りたくもなろう。確かに、ベストバイでないが無策よりかは少なくともベターであれば、人間はリスクを平気でしょい込むであろう。この人間が持つ決して逃れられない不毛にも思える性質に、それでいて人間に大きな勇気を与えるこの性質にテレサは共感を得たのであろう。
 これが、心情的な面での突入の理由と言えるだろう。
 まさに気まぐれな神の気まぐれな行動。

 反対に、現実的な理由で最後の最後での突入の理由が説明できる。


 反物質対消滅は当然その質量分のエネルギーしかない。正の物質を消滅させることと、正負による対消滅とは様相がかなり変わるのである。2キロの正反両物質が対消滅した場合、43TNT換算メガトンのエネルギーを放出する。仮に50キロ程度であれば215TNT換算メガトンとなり、これを窓枠一個程度に集約してぶち当てれば十分破壊できるだろう。

 

 これでは当然、白色彗星相手にかなうはずがない。その前衛艦隊に対しても全く無力と言える。都市帝国相手にも話にならない。しかし、超巨大戦艦ならば少々話が違うのである。この超巨大戦艦には艦橋があり――当たり前か――何と大帝がそこにいるのである。つまり、艦橋破壊できれば少なくとも大帝を葬ることが出来るのである。テレサの場合、ガラスに張り付くだけで大帝の命を脅かすことが可能である。まして、ヤマトがその突入の支援に入るとなればなおさら倒せる可能性が高まる。波動エンジン自体を運転状態で爆発させることが出来れば、艦橋に損害を与えた後にせよ前にせよ確実に大帝を葬ることが出来よう。
 古代にとってはヤマトで超巨大戦艦に突っ込むことは無謀な事であるが、テレサもまた、単独で突っ込むことは無謀である。ようやく、ヤマトクルーが命を懸けて丸裸にした大帝相手だからこそ、テレサは突っ込むことに意義と勝機を見出し田と言える。ヤマトかテレサが、そのどちらかでも突入に成功すれば、それだけでガトランティスは君主を失う事になる。全く戦闘に参加しなかった護衛艦が、掃討作戦には活躍する事だろう。地球本土で建造中の艦船も、前倒しで投入されるかもしれないし基地航空隊が出撃するかもしれない。艦橋と大帝を失った超巨大戦艦ならば、地球の残存戦力で勝てるかもしれない。
 テレサがガトランティスに対し勝負を挑む唯一のチャンスが、古代が突入を決めた時に初めて訪れたのである。
 神よりも合理的に生きる人間としての側面が発露したと評することが出来よう。

 現実問題として単なる体当たりでは無意味という事実と、踏ん切りがつかないという内面的問題が、ヤマトの奮戦と古代の決断によって全て答えが導き出された。解決した。だから彼女はヤマトと共に突入していった。


 これが、彼女の不明瞭な行動を最大限理由づけた考察である。