大帝星ガトランティスを探る ・宇宙を巡る理由 ―ガトランティスのココロ―
ガトランティスがなぜ、宇宙を巡るのか。
実は判然としない。
それもこれも、ガトランティスの方針がかなりふわっとしているせい。
だって、ガトランティスには全宇宙を征服するというとてもざっくりした目的しか無いのだから。
イデオロギー、目的と手段の同化など色々と説明は可能なのだが……結構難しい内容になる。
という事で今回はガトランティスがなぜ宇宙を席巻するのかについて考察をしてみたいと思います。
一部は他の記事の繰り返しみたいになってますがご了承ください。
前提
これをはっきりさせないと、探ろうにも探れない。これはすべて描写から拾える、推測できる想定である。
一つ目、重要な前提条件としてガトランティスを政治の構成要員が軍と同一であるローマ的な国家体制と想定する。
二つ目、見た目通り都市帝国は資源の乏しい根拠地とする。
まあ、政権の首脳部が全員軍司令官なんだから当然と言えるでしょう。
ヤマト2ではサーベラー、ゲーニッツ、ラーゼラー、全員一度は司令呼びされた事のある連中である。そして彼らが大帝の直下で彗星帝国ガトランティスを取り仕切っていた。さらばでも構造としては大差ない。
もう少し細かく見ると、響きだけ言えばイギリスの植民地省に類似したような文官官僚っぽい帝国支配庁も、突撃格闘兵団の配置転換をしていたことを考えると、端っから国防総省的な立ち位置という可能性が十分ある。もっと言えば、多分軍服など来ていないであろう2のサーベラーですら総参謀長の職につくのだから、文官と軍人の境界線が恐らくあいまい。
確かな事は中央作戦室に詰めていた人間の中に政治家はいないという事。さらばにおいては”幕僚会議”において、彼らの示す懸念の内容が軍事が中心で、占領地の支配や国内統治の話題は一瞬たりとも現れなかった。ヤマト2に至っては同様の会議は開かれず、全ては中央作戦室における軍人たちの決定のみがガトランティスの方針として取り上げられていた。
政治家なら、多少なりとも民意を気にするはずだが、その辺の事を全く考慮していない。しきたりや慣例は官僚と同等以上に政治家は気にするものだし、序列というのも実は政治家が一番気にする。
が、ガトランティスではこれら全てが無視されている。階級も慣例も民意も何もかも、無視してそれぞれがそれぞれの能力や権限を最大限行使しているのだ。
これらを考え合わせると、ガトランティスの最高幹部は全て軍人であるとするのが、合理的。
官僚の側面もあるが、それはあくまで軍政という意味で、軍人の行動を円滑にするための付帯特権のようなものとみるのが自然だろう。
これら軍人をメンバーとする大帝の“幕僚”は当然大帝その人の指名により編成されるものといえよう。自身で指名したからこそ、求心力の維持の為にはそう簡単に罷免できない。あの愚か者も結局、都市帝国崩壊まで更迭できなかった、と説明づけられる。トランプ大統領とは逆パターン。彼が閣僚を罷免するのは求心力を保つためのカードというのが正確として近い。
それはともかくとして、ガトランティスは極めて先軍的な政治体制、政治構成と結論付けられるだろう。
都市帝国のキャパシティだが、あの都市帝国が内部は豊かな森を内包しているとは考えられない。恐らく、あっても公園程度であると予想される。川があったとしても、恐らく一次的な浄化をされた下水か何か程度だろう。
だって中には超巨大戦艦が入ってるじゃん? 動力炉があるじゃん? 艦隊や防空戦闘機が居るじゃん?
あの都市帝国が、食べ物も飲み物も福利厚生も充実した拠点である可能性は皆無。
この前提条件を付けた場合、侵攻の理由が明確に出来る。
宇宙周回の目的
ガトランティスにおいて存在が明確なイデオロギーは次の通り。
〈全宇宙はわが故郷 旅は先祖の意志〉
さらに、「我々に滅ぼされることに喜びを見つけるだろう」とまで、大帝は言い切っている。これこそが王道だと、言い切っている。これは2におけるセリフ。
孫文臨時大総統が聞いたら怒るぞ。普通、この手合いの征服事業は覇道であり、王道とは他者との共生の旗振り役と担う事。
さらばではもっと強烈である。全宇宙、生きとし生ける者、その血の一滴まで大帝の所有物であると。
つまり、ガトランティスにとって征服は当たり前の行為であり、その終着点は文字通り全宇宙の制覇。超短期的目標が、目の前の惑星を征服する事。
彼らにとっては、征服することは正義の行使であると言える。息をする事と同じであり、目的とかそんな話ではないのだ。
ここまではっきりとガトランティスによる征服が正義と言われてしまっては、もう何も言い返せない。逆に彼らが侵攻しないという選択をする方が理解に苦しむ。
征服によって命脈をつなぐ国家が、全宇宙の征服に乗り出しては、真綿で首を締めるのではないのか。という見方もあるだろう。
だが、遊牧的国家であるガトランティスにとってはそこまで大きな問題ではない。遊牧的国家の性質、性格、周期からすれば、大したことはないのだ。
ガトランティスによる苛烈な攻撃、苛烈な搾取。だが、一度文明をぶっ壊したとしても、殲滅はできないだろう。幾らか人口が残れば、文明は恐らく再建するだろう。
であるならばもう一度収穫することが出来る。
再建して、爛熟したころ合いにまた現れ、再び苛烈な攻撃と搾取。ちょっとだけ人間を残しておけば、再び文明は立ち上がるだろう。
確かに、何度も殲滅と再建を繰り返せば、その文明もいつかは滅びるだろう。
が、そんなことはどうでもいい。
知ったこっちゃない。
一つの軌道をぐるぐる回るにしても数千数万年、下手をすればもっと長い時間がかかる。一度破壊しても、この長い時間で文明が再建すれば、再び大きな収穫物を得ることが可能。
さらに言えば、白色彗星の軌道を少しずつ変更していけば何垓年だか何那由他年かかるかは全くわからないが全宇宙をルンバの様に征服することは可能。しかしながら、再建と再征服の間には長い期間が置かれるため、征服し続けながらガトランティスが生き続けることは十分可能だ。
宇宙に散らばる文明をぐるぐる回りながらお掃除する、本当にルンバのような使命感で席巻するのがガトランティスなのである。
移動性国家なのだから、残念ながらその周辺域しか征服し影響力を行使することは難しい。本拠地の強力な支配力が無ければこの手合いの攻撃的国家は成り立たないのだ。つまり、ガトランティスの性質からすれば固定領土を持つことはほとんど不可能。
さすがに点の支配などというみみっちいものではないが、ガトランティスは面での支配というよりも領域支配しかできないのだ。だから、うまく征服の度合いを加減できれば永久に宇宙を周回することも不可能ではない。永遠に国家を保たせる事も不可能ではない。
むしろ、本当に徹底して征服して文明を破壊してしまえば、ものすごく気の遠くなるほど遠い未来の事だろうが、いつか宇宙を破壊による制覇をすることが出来る。この段階になって初めて、ガトランティス自身が困窮する。が、現実的にはそんなタイミングは永遠に訪れない。
普通の星間国家とは様相が大きく異なるのだ。普通の国家なら戦争はためらわれるが、ガトランティスにとっては普通の事なのである。
ガトランティスの生存スタイルでは、一つの星系に固定した勢力を築くことは難しい。それは、彼らの生存スタイルが遊牧国家そのもののスタイルだからである。
遊牧国家は基本的に、収奪をしつくさない。
次の収穫が見込める程度に財を人を残す。この計画的・周期的国家の移動、制圧が遊牧国家の特徴である。全てが緩く、領域での支配であり土地や財物よりも、それらを収奪する原動力である人間を重視する。人間とその所有物を束ねる事ことが国家の形成であり、それらが散ってしまう事が国家の崩壊だ。
この原始的遊牧国家のもう一段進んだ――農耕社会から見ればの話だが――段階では農耕国家の秩序や計画を取り入れて、遊牧の水物商売的な不安定さを農耕の比較的計画的で堅実的な収入でカバー、より巨大な国家へと成長を遂げる。
だが、ガトランティスは違う。
彼らは原初的遊牧国家そのもののスタイルを貫く。
ガトランティスは軍事大国過ぎることが原因で星に根を下ろすことが出来ない。本拠地・都市帝国では大量の軍人を養いきれないし、征服地の統治を考慮しない戦闘スタイルでは発展もさせられない。そもそも軍人がほとんどのガトランティスではそれ以外の商売が成り立ちえず、必要性というのも感じられないだろう。
また、本拠地を星系に置いた場合、財を星に置かなければならない。つまり、仮に侵攻を受ける側になった場合は、本星に財も何もかも置いたままで逃げなければならない可能性が発生するという事。攻撃を集中すべき地点が極めて明白であり、所在が変更できないという事。ある意味、無防備ともいえる。
都市帝国のような移動性本拠地を持つことは、恒常的成長的発展は望めない。しかしその反面、いくらでも外敵から身を守ることが出来る。
敵から退くことも、避ける事も、自由自在。本拠地が移動できるのだから、財物も一緒に移動できる。極めて効率的。
この効率性をガトランティスが評価したとあれば、当然星系に根を下ろす必要はなくなるのだ。
だから、永遠に遊牧スタイルを選択してゆく。
この感覚があったならば、損得勘定以外で侵攻しないという選択肢は……あり得ないだろう。都市帝国のキャパシティがゼロに近い為、侵攻しなければ食べていけないのだから。
何なら、イデオロギーの為に少しぐらい損してでも征服するという選択もあり得る。
アメリカだってよせばいいのに世界の警察を気取って手を広げて、今頃になって後悔してて。それでも今までの責任とか正義とかで引くに引けない状況でしょう? 今の大統領はそういうの理解する思考がないみたいだけど、結局はそれまでの世界構造にがんじがらめになってうまく抜け出せないでいる。しかも中東の和平を破壊したのは大統領個人や宗教的支持者のイデオロギーがベースで、行動としてはもう……。さらに次の大統領が実利があるとはいえ、半分はイデオロギーで更に収拾のつかなくなることをしてくれたおかげで……もう……。
とまぁ、イデオロギーで突き進んでしまう国は古今東西実例はたくさんある。古代ローマだって、日本だって、中華王朝だって、みんな実益半分イデオロギー半分で領土拡大に走ったのだから。
なぜ侵攻し続けるのか、さらに掘り下げる。
ガトランティス側に立って、惑星を征服することのメリットやデメリットを検証してみよう。実際にシミュレーションを行う事でそれぞれの行動の価値というものが明確化できる。
侵攻のデメリット=敗北
このリスクは、戦争をし続ける国家には常に付きまとうものである。どんな国も、勝ち続けることは不可能だ。ガトランティスも全く想定していなかったわけでは無く、白色彗星、都市帝国、そして超巨大戦艦と言う三段構えの対策を行っていた。
ガトランティスが対峙する勢力の軍備は恐らく次の二つとなるだろう。軍備と政治体制は結構密接につながり、その如何によって侵攻のしやすさが変わる。
つまり――
類例:ガミラス帝国/デスラー砲、暗黒星団帝国/無限β砲、ボラー連邦/ブラックホール砲
軍事大国:全艦に決戦兵器や準決戦兵器の配備
類例:地球連邦/波動砲、大帝星ガトランティス/衝撃砲、ディンギル帝国/ハイパー放射ミサイル
別にこれらにSUSとかを加えてもいいが、話がややこしくなるため省く。
ともかくとして、これらの兵器配備の傾向が予想されるだろう。
癖の強い専制国家は、まず国家元首のカリスマ性を削げばいい。会戦で旗艦を沈めれば一発だろう。しかも、必ずしも全ての周辺国家より優越した軍事力を持つとは限らない。うまく急所を突けば、或いは弱そうな地域から攻めていけば十分征服できる。時間はかかるかもしれないが、征服は可能だろう。それも比較的容易に。
問題は軍事大国で、数の大小はあっても全ての艦が強力で対峙するのが面倒。下手に正面から戦ったら大損害を被りかねない。敵が愚か者の集団に見えても、使う武器が強力なのだから、万が一という事もあり得る。艦隊が負ければあとは白色彗星のみ。しかし、仮に何万隻の波動砲搭載艦が襲来などという悪夢が現実になった場合は、白色彗星でも対抗できないかもしれない、都市帝国でも対抗できないかもしれない。
ガトランティスが万々が一敗北するとあれば、この軍事大国が相手のパターンだろう。この自らより強力な勢力に出会い、しかも敗北した場合、どうやってイデオロギーを維持するか。下手をすれば、敗戦による物理的損失よりヤバいかもしれない。
正義を行使できない――うまくいけば、邪悪な力に一旦は阻止されたが、もう一度大帝の元に集い正義を行使すべく戦う、そうやって国民や軍の意識を再集結できればいいが……簡単ではない。
また、敗北した場合は収入がゼロであり、損失を補填できない。ただでさえ少ない資源が、失われたままになってしまう。これでは挽回すべくリベンジもできず、別の目標と戦うにも不安が残る。
一度の敗北でも、ガトランティスには致命傷になりかねない。ガトランティスは勝ち続けねばならないし、勝つためには戦わねばならない。このジレンマよ……。
メリット①=資源獲得
都市帝国は当然資源の無い要塞と言って問題ないだろう。常に都市帝国は新しい資源を補充しなければ、その維持が出来ない。食料や工業原材料など、あるいは人間も補充する必要が有るかもしれない。これらを維持する為に、征服を行う。
例えば、アンドロメダ星雲から太陽系までの経路は星系が少ない空間である。直進した場合、この距離は無補給で進まねばならない。出来るだけ早く補給しなければ都市帝国が機能不全を起こす危険性が生じるのだ。
早急に星を潰さねばならない。
コース上にある星が有益な星ばかりとは限らない。ガトランティスは基本的に征服する場合、必ず前衛艦隊を配置する。これで十分、無駄足を踏むことは避けられる。
そうして見付けた星が無人の星であっては……大して意味がない。
奴隷労働力の供給源、ガトランティスの保有していない知識や技術の収穫。これらは単純に星の解体して資源とするだけでは得られない。これらこそ、ガトランティスを強く発展させる礎――火炎直撃砲を見ればわかるだろう。
だから、人間の住んでいる星こそ征服するに値する星。
高度な文明があってこそ征服するに値する星。
敗北のデメリットはかなりきついが、それを恐れていてはガトランティスを維持することは不可能。この喫緊の課題を先送りにして敗北の過少な危険を避けるよりも、一発玉砕覚悟で突っ込んでいっても全く損にはならないのだ。
メリット②=戦闘そのもの
戦争に勝つには、強力な兵器が必要であるが、それよりももっと重要なのは数である。数を投入できなければ話にならない。数を投入するには人間も相当数用意する必要が有る。特に、Gスーツすら保有していない疑惑のあるガトランティスにおいて、人間そのもの何物にも勝る信頼すべき兵器であろう。
屈強な兵士を維持するには金も食料も必要だ。戦間期に養い、いざという時に戦ってもらう。必要があれば退役軍人も招集する――そのためにそれなりに恩給で報いる。これが普通の国だろう。
が、ガトランティスにそんな余裕はない。
だったら保有しなけりゃいいじゃん。
と、モンゴル的というか遊牧民的な発想が発生してもおかしくなはい。国民皆兵だから退役軍人とかいう近代的発想が元々ないパターン。
昨今知られるようになったが――実際問題として軍役を外れた人間の処遇は常に騒動を巻き起こす。
アメリカの退役軍人にまつわる問題は、国家を守った英雄に対する当たり前の奉仕と、平時における国家の負担とかなり繊細な問題で、アンタッチャブル。金銭的な支援なのか精神的な支援なのか、何が必要なのかケースバイケースゆえに、整備が大変。それでいて、結構票田だったりするから政治家はひやひやしながら退役軍人やその周辺人物に媚びをうっている。
アメリカに限らず、どこの国でも問題である。日本だって、自衛隊の生活になれてしまい、いざ退官したら何をしていいのかイマイチわからない――という人も少なくない。そういう問題を普通の人ならば金と真心のバランスを必死にとって何とが解消しようと知恵を振り絞る。国を守ってくれた英雄なのだから、それに報いるべきと。
が、古式ゆかしい人はそうではない。
ちゃっちゃと新しい戦争を引き起こす。そうして面倒な退役軍人らを前線に突っ込み、敵が問題を解決してくれるのを待つ。
この方針を一度取ってしまうと、軍人に対する福利厚生は戦える存在である限りに限るようになってしまう。また、常に戦争に従事する環境を造ってしまえば、彼らの平時の社会への復帰の道を閉ざしてしまうだろう。
退役軍人という負担への対処は、とにかく現役時代に消えてもらう事であり、戦争をし続ける事。そうなってしまう。凄く、嫌な事だけど……。
アンドロメダ星雲から太陽系にかけての間で戦争の出来るような文明国家が無ければ、国民が死なないという死活問題に直面してしまう。テレザート攻略も、結局アンドロメタ星雲制覇に比べれば大したことない事業である事は間違いない。
ならば、征服するのが面倒そうな地球が、むしろ魅力的な征服地にも見えてくる。
ガトランティスは、常に輸血を求めているといっても過言ではない。
ガトランティスは、常に空腹であるといっても過言ではない。
ガトランティスはその本拠地を維持するには他者を征服する以外に道はなく、それをするがために巨大な軍を維持する。
巨大な軍が重荷になり始めたころ合いに、他者を征服するため投入し、そして本拠地を維持する。そこへ全宇宙を征服するというイデオロギーが加わることで、まさにウロボロスの円環が完成するのだ。
ガトランティスがなぜ宇宙を周回するようになったかは不明だ。イデオロギーが理由か、或いはもっと別の物理的理由やあるいは生存圏の確保か。
だが、周回するようになったその瞬間から、ガトランティスは他者を征服しなければならなくなった。この危うい生存スタイルであるからこそ、土地を持つことが出来なくなった。彼らにとって身を守る為の最善の方策が、他者の身を脅かすようになってしまったのである。
土地を持つ、その選択をするにはガトランティスはあまりにも勢力が巨大。
その選択をするにはガトランティスはあまりに組織が脆弱。
その選択をするにはガトランティスはあまりに独善的な観念形成を経てしまった。
大地は一人の必要を満たすだけの物は与えてくれるが、貪欲を満たしてはくれない
byガンジー