旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

大帝星ガトランティスを探る ・国家体制――国家を覆う白いベール③

 

  なぜガトランティスは宇宙を周回し始めたのか。その原点は分からない。だが、周回する理由は容易に説明できる。

 

 

 

 宇宙を周回しながら征服を続けるというのも、重要な国家体制の一構造と評すことが出来る。


 もう一度言おう、ガトランティスは巨大軍事国家である。

 同時に資源の極めて乏しい帝国でもある。

 


 都市帝国は恐らく莫大な量の食料や資源を蓄積することが可能であろうが、生産することは難しいと考えられる。殊、鉱物資源に関しては全く見込めない。だって中身に超巨大戦艦を係留? しているのだから。


 旅を始めた原点は別にして、資源不足な都市帝国で宇宙を周回する場合、他の星を征服する他に資源を獲得する方法はない。この資源獲得は戦争と、国家体制の維持と、外部に対する統治と密接にかかわる

 

 資源獲得の為、他の星を征服する場合、内戦状態の惑星であれば苦も無く征服できるであろう。負けそうな国に支援を申し出て同盟を組むもよし、統一後に寝首を掻くのもよし、全部まとめて叩き潰すもよし。
 が、相手が確固とした惑星国家となれば話は別である。勝てばいいさ、勝てば。しかし、そうなるとは限らない。地球相手の惨敗ほどはあり得ないとしても、負けた時にどうするかを考えなければならない。まずしなければならないのは、撤退。

 この点、移動大本営である都市帝国はとても役に立つ。

 


 ガトランティスの戦い方の場合、勝った場合も実は結構問題がある

 大量の戦力を損失を恐れる事無く投入する。これは戦争を起こす側の心構えとしては実に見上げたもので、こうでなければ勝利を望んではいけない。が、損失を取り戻す必要が有る。損失がデカければデカいほど、征服した星を徹底的に搾取する必要が発生してしまうのだ。

 しかし、度の過ぎる搾取をした場合――ガトランティスは常に度が過ぎる――被征服国家は当然再起不能不良債権と化してしまう。国土は荒れ、国民は疲弊し、技術はすべて取られる。この出がらし国家相手にいつまでも遊んでいる必要などない。仮に、領土を持つとなると、何のために苛烈な搾取を行ったのかわからなくなってしまう。用の済んだ星からはさっさと移動するのが最良の判断となる。

 

 

 都市帝国を維持するために大戦争を行い、その損失を補うために星を枯らす。

 星を枯らすがゆえに留まる事は出来ず、宇宙をさまよう他ない。そして都市帝国を維持するために――

 まるでデスギドラかキングギドラだ。

 

 ガトランティスにとって、戦争は国内統治の手段にもなりえる。
 敵を征服するには大量の兵力が必要である。遊牧的国家は基本的に国民皆兵主義で、武装は当然ながら、兵士一個人の能力もカリスマ性も含めて重視する。遊牧的活動であるからこそ強大な戦闘国家足りえるが、ガトランティスもその例にもれず


 かなりマンパワーを重視しているらしいガトランティスでは、人口の確保は重要課題であろう。一方でその確保した人口を養えるだけの体力が都市帝国には存在しない。つまり、人口は一定程度増やし続けなければならず、一定年齢に差し掛かる前に消費し続けねばならないという事。
 これを実現する最適解が他国の征服だ。

 戦争は、人口を増やし続ける口実になる。キャパシティの無い都市帝国では、人口は一定以上増えてもらっては困るが、それでは資源獲得のための戦争が出来ない。だから戦争を理由として人口を一定数増加させる決定に合理性を付与させる。
 一方で、戦争は先軍的な国民皆兵国家において、余分な人口を合理的に消費する手段となる。損失ゼロな戦争など、人間が戦場に送られる以上あり得ない。

 

 大軍を維持し続ける理由は広大な領土を支配することであり、それが可能になるのは広大な領土を有している事だ。
 長い国境線を防衛するためには当然大軍が必要であるし、広大な領土だからこそそこから産する各種資源やあるいは人口が大軍を維持する根源となるのである。


 ただし、ガトランティスは事情が少し違う。

 ガトランティスの癖である、徹底した搾取がネックになってしまうのだ。この戦争遂行方法であると、仮に広大な領土を持つ巨大帝国となろうとした場合、先に不良債権化した荒廃した惑星を再建せねばならない。が、当該惑星の自力再建は不可能に近い。金もなけりゃ人もいないからである。どうしても再建しようとするならば、その惑星とは別の場所から資源を確保・投入しなければならない。

 都市帝国を維持するために潰した星を一個再建するのに、また別の星一個が必要になり、その星を確保するために都市帝国が攻撃を加え――エンドレス自転車操業

 

 

 これでは投資した分を回収するどころか戦線を拡大し続けねばならない。
 仮にうまく惑星を再建した場合、消費しかしない都市帝国が政治的に優位に立つとなると、奉仕する立場の植民惑星の不満が発生するのは当然だろうボストン茶会事件は記憶に――新しい?

 また、常に戦い収奪しなければ維持できない都市帝国が、潜在的キャパシティが大きい上にガトランティスの軍の一部を保有する植民惑星の反乱に直面した場合、なまじ同じ勢力である以上敗北の危険がある。


 これらの危険から逃れるには領土を都市帝国とその前面・背後のわずかな地域にとどめる事が最善の領土政策と考えられる。

 

 

 次いで政治的手段としての説明が仮定出来る。
 遊牧的形式の国家のみならず、ローマでは参政権を持つ国民は皆兵が基本である。かつての地球の民主国家も徴兵制による国民皆兵を維持していた。徴兵制廃止は単純に国家に対する危険性の低下や、予算削減に伴う人員削減、軍のプロフェッショナル化などが理由である。
 だが古来、国を守る義務を果たしたもののみ、国のかじ取りをする権利があるという考えが主流であった。

 この考え方をガトランティスが採用しているとすれば、戦う事は自らの価値を証明することとなり得る。

 

 民主主義の理想は円滑な世代交代。課題も円滑な世代交代。
 ろくでもない人間をはじくための手段として立候補には一定の制限が加えられているしかし、これが案外足かせとなって新世代――自分の若いころを考えれば金が無い事などすぐに推測できるだろうが――が現れない

 つまり、権威主義系独裁の日本を例に挙げれば、やたらに高い選挙供託金の存在が次世代を潰しているといえる

 他にも、親子は別人格であり、遺伝子で必ずしも有能さが継承されるとは限らないにもかかわらず、あの人の子だからという理由で党の公認がなされたり投票が行われたりする。つまり地盤・看板・カバンが無ければ勝つことは難しい。

 さらに小選挙区制の現在、与党の推薦・公認が無ければ勝つことは難しいが、推薦・公認はコネが無ければ獲得が難しいという現実がある。

 これでは円滑な世代交代など出来るはずもなく、貴族の再生産というまるで中近世ヨーロッパの貴族政や、李氏朝鮮が再現されているのが現代日本の民主主義である

 

 しかし、為政者側はこの方が簡単である。
 何とか誕生した新世代を潰し、しがらみで中堅を抑える事で長老が力を発揮し続ける状況が容易に誕生するからである。

 

 

 軍と参政権が密接に関われば、それは軍の士気を上げると同時に、国民の政治に対する意識を高めることとなる。決して悪い事ではない。
 軍人の士気を高めるのに、軍役と密接にかかわる形での参政権は役に立つだろう。そもそもの国家に対する奉仕と、奉仕の報酬が約束されていれば、当然士気の担保が出来る。軍の戦力維持には大量の兵士が、それも若い兵士が必要である。

 

 しかし、この意識が高いだけの未熟な参政権保有者は為政者にとって最も不安定な要素となる。若い以上に大量というのが一番恐ろしい。しかも、戦争で戦った英雄たちだ。

 政治家にとって彼らは戦争が終わればすべて不良債権となる。
 普通の市民生活には金が必要で、若い間は自分で稼ぐ必要が有るが都市帝国内で提供できるだろうか。年齢を重ねて軍人恩給を支払う段階ではえげつないほどの財政負担がガトランティスに降りかかる。


 出来るだけ早いうちに消費しなければならない。

 

 若人だけではなく、そこそこ年齢の行ったそれなりに財を築いた人間も為政者には危険因子である。

 積み重ねた財と政治に対する“経験”を持つ彼らは、どこかのタイミングで為政者の意図を無視した行動をしかねない。彼らの力もそがねばならない。

 


 この危険因子を説得で半減するのにイデオロギーが使える。
 この危険因子を物理的に半減するのに戦争が使える。
 イデオロギーを強化するのに戦争が使える。
 戦争を遂行するのにイデオロギーを使える。

 


 全宇宙を制覇するというイデオロギーで資源的な不足を覆い隠し、道義的責任をむしろ戦争する事がその責任を果たす手段へと変化させ、戦争によって強制的に世代交代を引き起こす。
 投資するべき先が無い以上、新興富裕層の誕生を抑えられる。

 年齢を重ねられる人間が限られる以上、政治に関心を持つ体制を脅かす危険因子は発生が抑えられる。

 同時に抱えておきたい上層部の行動に一定の自由を認める事で忠誠を担保できよう。

 


 政治の末端を担う一般民衆(一般兵)は目前に迫る戦闘とイデオロギーで目をくらますことで政治に影響力を行使させない、富も持たせない。

 一般民衆は政治に参加するために軍に入り、戦わねばならない。だが、割合に大量消費なガトランティスの戦闘では生存の確率はそう高くはない生き残れなければ参政権を獲得・行使できない

 生き残るのに手っ取り早いのは軍に入らない事だが、それは参政権を放棄することに他ならない

 このジレンマ的ウロボロスの環が、ガトランティスの一般大衆を蝕んでいる。そう評せるかもしれない。

 宇宙を周回することで、反乱や敗北さえなければ、一定の指導層が永遠に影響力を保持・行使し続ける事が出来るのである。

 

 


 時折話題に出したイデオロギーについてひとつ。
 イデオロギーとは、観念形態や理念体系の事である。こうでなければならないというヴィジョンであり、イデオロギーを表す端的な標語に理想を明確化する。


 大帝のキャッチ―な発言、例えば――

『全宇宙はわが故郷』
『血の一滴まで俺のものだ』

 これはガトランティスは全宇宙を制覇することを目的とし運命づけられた存在であることを示し、その頂点に君臨するのが大帝ズォーダーであると明確化させている。大帝の命により他者を制圧するのは、正義であると。

 


 実際、大抵の場合に勝利を得ているガトランティス人民の高揚感は、このイデオロギーと強烈なまでの親和性を持つと考えて不思議はないだろう。信奉する層がある程度増えれば、押し立てるイデオロギーが壮大であれば壮大であるほど、影響下にある人間を熱狂させ惹きつける。疑うことなどせずに、正しいとして信じ続ける。

 帝国の人民全員をイデオロギーに染め上げられなかったとしても、信者を国民の半数以上確保できれば、残りは勝手に同調圧力で黙る


 イデオロギーとは、ガトランティスの行う戦争の実体やその理由を全て覆いつくす。すべて人間の目を問題から目をそらさせる最強のツールである。場合によっては、為政者ですらこの弊害に気が付く前に飲み込まれ、本気でイデオロギーに基づいて行動しているかもしれない
 ある意味、このイデオロギーが無ければガトランティスの宇宙周回は不可能といえよう。大帝をはじめとした全てのガトランティス人がこのイデオロギーを信じ切らねば、戦いに明け暮れるなど、出来ようはないだろう。

 


 イデオロギーマンパワーを最大限発揮するブースターであり、小さな敗北を帳消しにする消しゴムであり、人々を狂わせる麻薬である。大きな敗北が無ければイデオロギーの力は消える事無い。少々の敗北は、イデオロギー達成の為のスパイスとしてむしろ利用可能である。しかし――
 敗北した時は途端に衰微し、衰微した時点で勝てる戦いも不思議と勝てなくなる。

 イデオロギーとはいわば、呪いみたいなものである。

 

 


 ガトランティスについて、文化も触れたいが――当然、全く不明である。しかし、推測できる描写もいくつかある。

 

 15話の晩餐会では国家元首から服装からして大した事のないレベルの将兵、命令違反疑惑のかけられたデスラー総統の側近タランまで招待され、どうも無礼講らしい

 この晩餐会は、驚くほど幅広い人間が集められ、頭を下げることすらしない、殆どホームパーティー状態だった。アメリカの大統領が開く記者晩餐会だってもっと格式があると思うのだが……。

 


 ガトランティス階級に厳しいかと言えば微妙なラインであり、帝国支配庁の長官が実務最高司令官である遊動艦隊司令長官に対して命令を強制している点からも――階級よりも個人の資質や能力・派閥による力の方が優越していると考えられる。
 一方で支配庁長官に支配惑星上の軍備について指揮権があるとすれば、遊動艦隊司令長官に一応相談しているというのは単なる3馬鹿の横のつながりか或いは、組織として有機的に横のつながりが存在しているともいえる。贔屓の引き倒しな気もするが。

 

 

 確かな事は、基本的に裏切りや投降を恥とすること。これはさらばやヤマト2全般を通しての描写である。
 捕虜となったメーダーは帰還を許されず、撤退してきたと思われたデスラー総統も大帝の信頼を失っている

 また、あの不明な監視艦隊司令も、徹底して裏切りを嫌う描写と言えよう。

 

 特に、最後の3馬鹿が超巨大戦艦に乗り込みを禁止されるシーンも同じ、敗北や裏切りを徹底的に嫌う描写と言えるだろう

 大帝の信頼を裏切り信頼を維持しようと小賢しい手を使ったサーベラーとゲーニッツ両名、その暴走を目の前で見ていながら止められなかったラーゼラーが巻き添え食って断罪されたが、これも同様と言える。

 

 

 反対に、頑張ってダメだった場合は意外にも寛容だったりする
 ヤマト2において愚策を重ねに重ねたナスカ。彼は大惨敗の後、潜宙艦でヤマトに対して決死の戦闘を挑み戦死した。しかし意外な事に、この時に重ねての叱責はなかった。敗北の衝撃と言うのもあるだろうが、敗北に対する必要以上の侮辱はなかったのだ。

 

 さらばでは第6遊動機動部隊を思いっきり失ったバルゼー。実際問題としてアンドロメダ以下の地球艦隊は強力であり、仮に善戦しても損害を被って結局負けるという可能性も十分あった。それを考慮されての事かは不明だが、彼は降伏勧告を行う使者として地球へ降下する任務を受ける。死を以て報いろという事はなかったらしい。

 ヤマト2において高官であるラーゼラーが、戦死したバルゼーに代わりこの役を受けている点、決して格の低い人間に渡される役目でない事は察しが付く。

 

 負けたことを悔いて自らを始末したゲルン提督死して大帝にお詫びを申し上げたバルゼー総司令をはじめ、基本的に男気や義理、執念を重んじる民族ないし国家といえよう

 何より、国家を失ったデスラー総統が温かく迎え入れられている。これは彼の執念を高く評価された事であり、敗北してそのままと言うのが、一番まずく、挽回しようとするその姿勢自体が評価の対象。という事かもしれない。

 


 だからこそ、あの破滅的なイデオロギーが正義であるする根拠になっていると言える。

 つまり、自分たちは誰に対しても正々堂々と恥じる事のない戦いを行う勇士であるからこそ、他者への征服も『マニュフェスト・デステニー』として広く浸透している。誰にも恥じない我々だからこそ、遅れた文明を倒して宇宙全体の文明的質を高め、対等になりうる文明のみをガトランティスの同盟や支配下に置く

 すべては、宇宙を制圧し、ガトランティスによる平和を成し遂げるための、崇高な戦いなのであると。

 このイデオロギーが、ガトランティスが内部に有するいびつな国家体をを完全に覆い隠し、国民が戦いに明け暮れる原因となっている。そう説明できるだろう。
 


 何とも、古代ローマアメリカのおせっかいというか、悪い側面を結晶化したような設定ですね。