旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

大帝星ガトランティスを探る・監視艦隊

 

 

 監視艦隊とは不明瞭な組織である。実力組織であるのか、単なる行政組織の一つなのか。行政警察かそれとも憲兵なのか、判然としない。また、そのトップであるミルという人物もガトランティスにおいてはかなり異色の存在といえよう。
 今回はこの監視艦隊を考察したいと思う。

 

 

 

 監視艦隊とは何か、一見すると恐らく政治将校の類だろう。さもなくば憲兵か。正直、あまりわからない。

 政治将校とは一般的に知られているのはソ連の例だろう。ただ、これはソ連に限らず様々な国で設けられている。当然共産国はその類例に入るが、他にもイラクバース党ナチス・ドイツ、イランーーほら革命防衛隊、聞いたことあるでしょ? あれは国軍に対抗する政治将校団――にも存在している。
 任務は何かと言えば、往々にして独自の権力を形成しがちな軍を監視し、党や国家の統制下に置くため、ずっと派遣先の部隊を監視すること。まさに監視艦隊司令ミルの仕事と同じである。軍の指揮系統には属さず、司令官の政治信条が党と異なることが判明した場合は罷免することが出来る、かなり強力な権限を持った存在だ。
 一応、シビリアンコントロールの一種と言えなくもない。

 この源流と言えるものが二つあり、一つはコミッサール。もう一つは派遣議員だ。 

 

 このコミッサールは広い非戦闘系の将校一般をさすといっても過言ではない。そのため、補給部隊の将校も含む。だから、いわゆる政治将校とは異なる存在を指す事も多い為、注意が必要。また、コミッサールという語自体はピョートル大帝時代からある為、やはりいわゆる政治将校とは性格が多少異なるか。

 

 派遣議員は概ねいわゆる政治将校と言っていいだろう。正確には議会が派遣した当該地域における全権大使であるが、役割は軍や地方自治体の監視で国民公会の方針が隅々までいきわたる様に活動した。

 まあ、全権大使は余程大人物でなければどこの国どの時代でも調子こいて腐るものだが、この派遣議員も見事大半が腐った
 軍の監視・補給差配・編成差配・任免権・逮捕権に加えて、地方へ課した税の徴収もになう。故に軍司令官は軍団の維持や指揮権・生命の確保のために、自身の指揮権を派遣議員に内々に譲渡さなければならなかった。物凄い矛盾しかも地元の名士でも気に入らなければ革命税を法外な額と手段で徴収したりと、独裁者だってもう少し頭が良いふるまいをするレベルの事を平然とやってのけた。

 しかもこの無制限の権限の代償が公安に毎日の報告、議会への毎週の報告だけなのだから話にならない。
 こんな超弩級のクズが長期間のさばれるわけもなく、革命中盤に思いっきり粛清された。ざまあ。


 
 憲兵政治将校とはまるっきり異なる。
 憲兵は兵科の一種で、秩序維持と交通整理を担う軍の中の警察政治将校は党の為なら平気で法を曲げ、それを期待される立場だが、憲兵軍紀にひたすら忠実であることが求められる。何なら兵科から独立した、行政警察として存在を確立している例もある。

 これらは国家憲兵と呼ばれ、フランスの国家憲兵隊やイタリアのカラビニエリオーストリアの連邦憲兵なんてものがある。これらは元来国防省などの軍行政部門に所属し、その指揮かに入るのだが――平時においては内務省や司法省などの普通の行政機関の指揮を受ける。その普通の行政機関には各地方自治体も組み込まれており、知事も指揮権を有する。イメージとしては、軍隊ではなく、司法の実働部隊。
 ともかくとして、軍隊準拠の装備を持った、警察権を持ちそれを行使する存在。そういえば間違いはない。

 

 面白いのがアメリカ海軍
 ここ、憲兵に捜査権がない。確かに海軍憲兵(マスター・アット・アームズ)という保安要員は存在するが、基地司令部に所属し軽犯罪に対する捜査権や逮捕権は確保しているが、重大事件の捜査権は全て海軍犯罪捜査局=NCISが掌握している
 NCISは洋ドラ好きなら一度は耳にしたりドラマを視聴したことがあるだろう。あれ、である。さすがにあんなにヤバい事件ばかりが起きるわけはないし、まあまあフィクションを織り交ぜているが、あんな感じ。

 本物のNCISの局長が出演者と一緒に写真撮ったりしているのだから、当局も満足なクオリティに達しているという事なのだろう


 このNCISはかつての海軍長官ウィリアム・ハントが1882年に創設(当時は海軍捜査局=NIS)したかなり歴史のある部署で、普通の憲兵隊とは根本から異なる形での設立経緯がある。彼らは、海軍独自のスパイ活動と、国内に潜入したスパイへの警戒に加えて普通の保安任務を担った。軍属=民間人による組織であるが、軍に関してずぶの素人ばかりという事はなく、元海兵隊や元海軍兵等、元々は軍人だった人も結構多い。また、高位軍人の子息が捜査官だったりもするから、構成員が結構ドラマチック。

 

 

 翻ってガトランティス
 監視艦隊はどんな性質だろうか。名称や、その派遣経緯を考えれば、確実に政治将校だろう。下手をすれば督戦隊という可能性もあるかもしれない。


 督戦隊とは後方から前方の部隊を監視・鼓舞し、仮に逃亡を行えば射撃して命を以て懲罰する。判りやすく言うと人でなし集団。ソ連や中国が有名だろう。

 また、南北戦争なんかではアメリカは両軍共に配置していたらしい。結構意外だが、アレはアメリカ初の国家を二分した内戦だから仕方ない面もありやナシや。一部の書籍なんかではフィリピンで現地徴募兵の部隊を突っついていたという話もある。

 まあ、うがった見方をすれば――422部隊の後方に位置する部隊は、結構督戦隊よろしく銃口を向けていたかも。

 

  

 政治将校、憲兵、督戦隊、NCIS……比定できる組織はあらかた列挙できた。ただ、どうしても監視艦隊という全く描写されていない組織は、それだけでは全く任務も何もかも推測することはできない。

 ここは素直にミル司令の行動を含めて考察して精度を上げたい。

 

 

 

 ミルの行動

 ミルとは監視艦隊司令職にある青年だ。作品によってその見た目が大幅に変わる。あんまり、考察には関係しないと思うが。

 

 さらばにおいては、ガランティスの居並ぶ将校の中でひときわ若いとみられ、背格好も華奢白い制服でコートの裏地がパープル。今でいうジェンダーレス男子のような雰囲気で、声優は美男子役で有名な市川さん。

 作戦室でサーベラーに呼名され、デスラー総統の監視を拝命デスラー艦に乗り込み、その戦闘を監視。全くと言っていいほど戦闘には口を出さず、駆逐艦もろともヤマトを葬ろうとした時に声を上げた程度。が、「ミル司令、私はヤマトと戦ってい居るのだよ」と一蹴される。以降、素直に一切戦闘には口を挟まなかった。

 ヤマトとの衝突で思いっきり姿勢を崩すなど体幹の弱さを露呈。ヤマトによる白兵戦の展開と言う結構ヤバい展開にも口を挟まず、ロボット兵の差配もタランが行い、ミスは後ろでに腕を組んで見守っていた。

 戦闘終盤。デスラー総統の勝利が無いと判断したミル。彼は総統を叱責することすらせず、総統に呼び止められなければ無断でそのまま艦橋を退く――はずだった。退く理由は当然、デスラーによる戦闘の稚拙さと顛末を大帝に報告するため。だが、寸前で普通に銃撃。しかし、体幹の弱さに反してしぶとく、或いは恨みでデスラーを狙撃するも位置が悪く古代も雪も総統も巻き込んだ中途半端な銃撃。結果、ミルにとっては関係ないしどうでもいい雪が撃たれ、反対に自身はデスラー怒りの3連射に斃れた。

 

 ヤマト2においては眉がキリっと、顔の輪郭も体型も男らしくなった。が、若そうに見えるナスカに比べても美男系に描かれている。基本的に服装は同じだが、マントの裏地が赤に変更されている。声優は変わらず市川さんだが、ここはヴィジュアルに合わせて男らしい声に替えるプロの技。

 ヤマト2においても役割は監視。だが、さらば以上に総統にしてやられている

 ゴーランドが発信させた妨害電波を総統が阻害しようとしたのも結局止めず、≪シークレット空間X≫の事を知らなかったりと、あまり当てにはならなかった。いくら相手がデスラー総統とはいえ、職務遂行能力に大きな疑問が発露したエピソードといえよう。また、彼自身には特に権限はないらしく総統から艦隊を取り上げることはできなかった

 結局、彼がデスラー総統の戦闘を監視出来たとはいえず、むしろちゃんと戦っているタイミング(ちくわ惑星の時)で横槍をうっかり入れてしまう。これは本人もあまり意図はしていなかった模様で、サーベラーの指図での行動。しかも大帝の命令という嘘で動いてしまう……さすがにミルもサーベラーの命令だけでは作戦中止の要請はできないと思っていたらしい。だとしたら、ミル……君の権限は一体どんなものなんだい?

 横やりを入れた結果、総統怒りの受話器投擲が床に跳ね返っておでこにぶち当たる悲劇に見舞われた。とても、痛そう……。まあ、明らかにヤバいタイミングで、同盟国の国家元首の戦闘指揮を阻害したのだから、自業自得か。

 

 監視相手が同盟国の指揮官という事もあるだろうが、ミルが指揮権を発揮した事も捜査権や逮捕権を発揮した事も無かった。彗星帝国本国においてデスラー総統が逮捕されて以降、出番なし。

 つーか、いつ赴任した?

 

 本当は考慮の外なのだが、PS版も例に挙げたい可哀想だから

 PS版ではさらばのミルに輪をかけて女性っぽくした容姿で、ひときわ華奢。サーベラーと同じぐらい華奢。見ようによってはサーベラーより美人な感じもある。声を当てたのは緒方の姐さん。

 だからというわけではないが、PS版ミルは――おおむね碇シンジ君と考えてもらっていい。


 基本的にどの作品であっても、総統があの態度であるからミルの立場はかなり悪い。が、PS版ではさらにひどく、登場がヤマト2と異なりかなり後ろ倒しで、さらば準拠。しかもほとんど活躍という活躍はない。

 彼が声を上げたのはさらばと同様、駆逐艦ごとデスラー砲をヤマトにぶっ放そうとした時である。この時、やはり彼は総統を咎める。

 逃げちゃだめだ 逃げちゃだめだ 逃げちゃだめだ

 意を決したミル――だが、「いたのかね? 君の事などすっかり忘れていたよ」なんて総統に言われてしまっている。まるで作品展開や商品展開におけるシンジ君みたいな仕打ちしかも、よくよく考えてみると総統にミルと呼び捨てにされてしまっている。彼はさらばと同じ、同盟ではなく客将に近い立場なのに、である。さらにロボット兵のコントロール機構が破壊された時、ちょっとオーバーに反応してしまった為、総統のイライラのはけ口として嫌味を言われてしまう。

 

 さらばと同様にデスラー総統敗戦を悟った彼も、報告がてらに本国へ帰還しようとしたのだが――やっぱり撃たれてしまう。で、しぶとくリベンジを図ったが3発被弾しご臨終。一切いいとこなし、活躍ナシといってもいい。

 ここまでくると、さすがに可哀想……。


 
 そこ行くと天城カイト2202のミルはだいぶ権限が上積みされているから驚き。

 ナスカがまともな性格に変更されたあおりを食らったのか、原作ナスカのイラっと来る感じを引き継いだキャラへ変更。しかも声を担当なさった内山さんの斜に構えたセクシーボイスのおかげで輪をかけてイラっと来る……。

 艦隊の指揮を途中から奪うどころか、思いっきり戦闘に参加してる。しかも、ちょいちょいガトランティスガミラスの交渉を担ったりしているから、もう政治将校どころか派遣議員に近い。挙句地球との停戦交渉まで担うところだったから、タイプ・ズォーダーのブースト、恐ろしや。

 

 結局のところ、ミルの指揮権限は極めて小さく大したことはない。あの描写をそのまま受け入れ比定するならば、単純に連絡将校だろう。もう、監視とかそういうレベルの活動内容ではない、憲兵なんて言う大層なものでもないだろう。

 連絡将校とは二つ以上の組織がお互いに連携を取る際のある意味象徴的な存在として重宝される。ちゃんとした将校が任に当たる為、実際的な任務もこなせるから、あってよかった無いと結構困ると言う存在。

 

 

 正直ドンドンわからなくなってきたので、可能性の排除から推測を組み立てると――

 政治将校と言っても、元来はガトランティスには存在する必要性が薄い。ガトランティスイデオロギーは上から下まで浸透していて、疑問を呈する兵士は一人もいないからだ。確かに、他国から率いれた人間に対しては政治将校が居てもいいだろう。長い征服の歴史の中で別の勢力を併呑するという事も有ろう。

 だが、総統に対する対応がまるっきり政治将校とはかけ離れている。

 大ガミラスの総統と言えど客将である以上はガトランティスの法に従う必要が有る。だが――ミルは権限を全く行使できていない。デスラー総統の作戦に全て同意していたのなら別だが、その様子はない。なのに、彼の行動を全く阻止できていないのだ。

 監視艦隊を政治将校とするには実は結構難がある。同様の理由で、戦力持たない以上、督戦隊とするのも無理がある。

 

 憲兵は中々にいい線だが、その長をデスラー艦に座乗させる必要性がない。また、単独で乗り込ませる理由は輪をかけて存在しない

 総統は嫌がるだろうが、デスラー艦の乗組員のほとんどを憲兵隊が占めるというのならば、ミルが憲兵隊の司令官と言うのも妥当性が出てくる。が、乗り組みは全員ロボット兵で、しかもタランがその操作をしている。

 これ、ミルが憲兵隊の司令官だったら職務放棄状態……。そもそも適さない任務を与えられている状態……。監視艦隊が憲兵隊であるとするのは、妥当とは思えない。

 

 連絡将校ならば、下手に派手な動きをして組織同士の軋轢を生むよりも、見て見ぬふりをするという行動は、一定程度許容し得る。やり方が違うのだから、多少は多めに見る――互いのリソースを最大限活用するために受け入れているのだから、関係ないところで目くじら立てても意味がない。

 仮に警察権があるとしても、問題行動を記録するだけ記録して適宜必要な分だけ上に上げる、あんまりにもひどい行為に対しては権限を発揮して現行犯で取り締まりを行う、その程度で問題はないだろう。この権限が普通の警察と大差ないレベルであれば、それは基本的には彗星帝国ガトランティスの内部に対する影響力のみ。

 同盟国に対しては治外法権的に能力が制限されるだろう。特に、ガミラスは領土を失っているが国家としては一応存続している特殊な状態。ミルがガトランティスの法に照らし合わせた時、判断しかねたとあっても……無理からぬことだろう。それが総統の行動を容認ないし追認ばかりしていた理由としても不思議はない。

 監視艦隊=実情は単なる連絡将校説。どうして監視艦隊という名称かと言えば、所属の各将校がそれぞれ独自のネットワークを構築し、それによって監視対象を監視する……この場合は連絡将校というよりもCIAの国内活動と言った方が正しい気もする

 自国の将官支配下に置いた形骸化した同盟相手ならば、これでも十分機能するだろう。しかしてやはりデスラー総統。あの特殊な立場かつ大帝お気に入りの客将相手では、大帝の代理人として振る舞えない以上、その活動を制御するには監視艦隊の権限は小さかった。

 CIA寄りの想定であればなおの事、国外問題=デスラー総統の監視任務は当たり前。ただ、だからと言ってこれをどうこうできるほどの権限を監視艦隊司令が持っていなかったため、事実上手出しできなかった。CIAだって大統領の裁可なしに好き勝手は出来ないそれと同じように、上司であろうサーベラーや国家元首である大帝の裁可なしにミルの権限では何も判断できなくとも当然

 事前に命令を下しておけばよかっただけだが、大帝が総統に全幅の信頼を寄せている上にサーベラーも総統を侮っていたのだから万が一の時の処遇を事前に命令して居なくても、過失ではあろうが仕方がないのかもしれない。

 

 

 他方、NCISであっても不思議はない

 NCISは民間人とはいえ軍属であって厳密には民間人ではない。海軍に所属をしているが、普通の指揮系統ではない。どっかの部隊の指揮に入るという事も無い。が、実力組織と言うにはあまりに普通の警察装備。憲兵や海軍軍人・海兵隊員より上の立場と言えなくもないが、絶対的な立場ではない。

 監視艦隊もガトランティス軍に所属しているが、普通の指揮系統ではない。という点では同じだ。戦力は持っていないし、他の軍人に対して絶対的な権限を持つわけでもない。別の部隊の指揮下に入るという事はなく、軍の最高級指揮官たるサーベラー総参謀長の差配で派遣される。活動内容として想定されるのは内向きか外向きかは別にして査定や捜査やら妥当と思われる。その点もNCISに近い構造だろう。連絡将校よりも構造的な類似点はこちらが多いのではないだろうか。

 監視艦隊=NCIS説個人的にはこちらの説が好き。内向きの監視体制を重視すればこちらの説が中心となるだろう。外向きの監視体制を重視すればCIAに比定できる組織という事になる。

 

 


 ついでに言えばミルという人物も、中々に特殊。何故彼があのような描写だったのか――考察が必要だろう。ミルは普通の軍人とは一線を画すからだ。

 何といっても見た目が物凄く若い。明らかにおっさんな諸将、何なら髭面も多数いる中で、さらばのあの華奢なジェンダーレス。どう考えても前線で鍛えている感じではない。また、ヤマト2であっても何故だか美男子系に描かれた。

 見た目で判断してはいけないが、さらばもヤマト2も共々軍人と言うのもかなり怪しいレベルともいえる。

 ひょっとしたら、ミル司令はビックリするほどの拳法の達人だったり、ものすごい細マッチョの着やせタイプなのかもしれないが、見た目からは想像つかない

 仮に、ザバイバル戦車軍団の監視に当たったならば終始、司令部のどっかでジーっと兵士の様子を観察するにとどまるだろう。少なくとも前線まで出張って肉弾戦に参加したり、物資輸送の補佐をしたりという事はなさそう。

 彼は確実に、別の現場を受け持っていた指揮官が何かしらあって、鞍替えしたと言うようなタイプではない。直接的に言えばギブス捜査官やマック・テイラーのようなタイプではないというのが予想されるという事。

 

 司令職である以上、ミルは何かしら優秀な人材と思われる。

 だが、ミルが過去に一体どんな功績を成し遂げかは不明。あの若さで功績が打ち立てられるかも不明。そんな若輩の彼が司令官職に就いているという事は、彼が物凄く優秀でそれが上に認められたという事があろう。普通の指揮官とは異なり、事務的能力の高さの方が重視されるというのは業務内容から簡単に推測できる。であるならば前線で経験を積んでマッチョになる必要もないし、おっさんになる必要もない。ただ単に普通の業務で自らの優秀さを見せればいいだけだ。ダメそうな指揮官を監視、場合によっては監督できればいい。

 大事なのは自分の頭脳であり、格闘能力などは大して必要ない。普通にコスモガンが撃てる程度、身を守れる程度の訓練で十分だろうそう言う職場と推定できる

 あるいは、監視艦隊所属の将校が全員“司令”であるというパターンが考えられる。

 つまり、日本の検察の様に建前上は検察官一人一人が検察庁と同等の独立性を保持している。そういう前提があれば、輪番制か春か秋の人事異動で監視艦隊司令が大帝の閣議に参加するのが通常で、たまたま不運なミルが当たってしまった。と説明づけられる。

 この場合、ミルが若いのはたまたまという事なる。物凄いおじいさんな監視艦隊司令とか、物凄い若い女性の監視艦隊司令と言うのが居る、という事になろう。何なら物凄いマッチョな監視艦隊司令もいるかもしれない。

 

 

 監視艦隊は、艦隊を持っているのか。ほぼ確実に所有していないだろう。

 無論、連絡艇ぐらいは所有していても不思議はないが、敵艦を粉砕するような強力な戦闘艦や戦闘艦隊は所有していないだろう。持っていたところで大した意味はなく、普通に大帝直轄の部隊でも借りて反乱分子を殲滅すればいいだけ。

 ガトランティスのどの部隊も割合充実した艦隊であるから、通常戦力を用いての反乱分子との戦闘はかなり苦戦が予想される。潜宙艦も相手が身内となると、そう大きな役割を果たさないだろう。となるとメダルーザはのような特殊な戦闘艦艇が必要になってくる。当然、その手合いは技術開発部による試験がてらとか、大帝の勅命とか特殊な事情が無ければ利用はできない。

 監視艦隊が本気で反乱分子を殲滅するならば通常戦力を用いても意味がないだろう。だったら、通常戦力を保有する必要はない。必要に応じて、おあつらえ向きの戦力を仕立てればいいだけ。

 

 その意味じゃツッキー2202のミルが、アベルト君の艦を使って汚染艦隊を殲滅したのは結構理に適う。多分、カラクルム同士じゃ埒あかないし、ゴストークじゃ多数のカラクルムを倒すのはかなりきつい。また、火焔直撃砲も弱点が露呈しているから頼りにならない。手持ちの正規軍ではガトランティスはガトランティスから発生した反乱的行動を抑制できないのだ。

 だから、反乱分子を殲滅し得る艦隊があればそれを利用するという設定は2202ガトランティスの人でなし感を増幅するとともに、至極合理的な描写であるといえるだろう。ナイス、ツッキー。

 待てよ……アレはマレーナ白銀の巫女の差し金か。

 


 監視艦隊はガトランティスの中では、存外幅の効く部署ではないだろう。たとえサーベラー直轄の部署であったとしても。ほぼ普通の警察と言って差し支えない程度の権限しか有していなかった

 武人的な気質の強いガトランティスにとって、この手合いの人間が活躍する場は少なく、相対的に軽量級の将官となろう。実働部隊が無いのも痛い。これは、御前会議のシーンで結構後方にミルが並んでいた事とも整合性がつく。

 ただ、決して形骸化した統治機構の一つではなく、ガトランティスが他者との戦線を構築する上では十分に機能する部署。同族よりも他者へ向けた監視が中心の任務という事になるのだろう。だからその意味では今もって力のある部署という表現も可能だ。

 また、何らかの理由で政治的な動向を探る必要が生じた身内にもその監視の目が振り分けられる事は言うまでもない。あまりない事とは思うが。

 

  平時では権限が小さいのが監視艦隊。登用は幅広く平等であるのだろうが、性質上残念ながら常時大きな権限を渡すわけにはいかない

 仮に監視艦隊が強大化してしまうと、ガトランティス全体が警察国家的に閉鎖的になりかねない。この場合、統治や戦闘にもあまりいい影響をもたらさないだろう事は簡単に想定できる。また、統括する人間の専横が生じる危険もある

 統括するのは恐らくサーベラーだろう一見すると大きな後ろ盾だが、彼女の代理人として振る舞えなければそれはただの官僚に過ぎない。そして劇中に担ったのはサーベラーの代理人ではなくただの連絡官程度。サーベラーも大帝を奉じている点についてはその誠実さ、折り紙付きだ。この体制を維持するという点ではゲーニッツもまた、ある意味で協力者。故に監視艦隊が何らか強力な権限を付与される、或いは発動するという機会は劇中訪れなかった。

 この体制だと、内向きに対してはしばらくの間は間違いなく監視艦隊はごく普通の警察組織としてしか働かないだろう。そうすると権力闘争のキーパーソンになるような大活躍は見込めない。彼らが何らか大きな権限を有するのは緊急事態だけだろう、緊急事態であれば普段いまいち強く出れない監視艦隊がガトランティス全体を引き締める実働部隊として機能し得る。

 そんな感じの立ち位置だろう。

 

 

 

 監視艦隊は元々の発生は恐らく、内向きの組織だろう憲兵なのか派遣議員なのかは不明だが、何らかの取り締まり、警察組織の一種。元々の政治体制を安定化させるための秘密警察ではないが、不穏な分子を取り締まる組織ではあったはず。

 しかし、ガトランティスが拡大していくうちに外部=同盟や吸収した被征服勢力に対して監視する組織として傾向が変化。内部が安定していくうちに内向きの業務が縮小、基本は外向きの監視や遠方へと派遣して中央の目が届かなくなった組織のお目付け役ないし記録役として業務内容が幾らか変わった。

 そしてさらばの時期、大帝やサーベラーの命が無い限りは基本業務がこの傾向はかなり強くなりほぼ外向きの監視にシフト。任務の重大性から結果としてミルがデスラー総統の監視を行う事となった。

 この時の、より切迫度が高かったのであれば別に権限を移譲されて代理人として振る舞えるはずが、ほとんど平時に近い状況であったがゆえにただの警官かそれ以下の権限しか行使できずデスラー総統を文字通り監視する以上の事が何もできなかった。あのタイミングで何か独自の判断を下せば越権行為となったから、出来なかった。とまとめられる。

 

 もし、大帝あるいはサーベラーが現状を切迫度の高い状態であると判断すれば――監視艦隊は何らかの大きなパワーを行使出来たのかもしれない。だが劇中では訪れなかった。ある意味でそれは平和な証左だろうし、一方で戦争を始めているのに実は体制が平時に近い状態だったとも表現できる。

 結局、監視艦隊が何なのかは判然としなかったが……彼らがはっきりした性質を見せなかった事が一つ、ガトランティスが敗北という結果に直面する原因だったとも表現できるだろう