ストーリー考察Ⅰ 重大インシデント発生(さらば/ヤマト2)
さらば、ヤマト2共に発生したアンドロメダと護衛艦のニアミス。ただし、その性質は両者で大いに異なる。内容も、評価も、影響も全く異なるのだ。
今回はこちらを検証したい。
さらば宇宙戦艦ヤマトにおいて、進宙式を終えたアンドロメダは即時公試運転に移る。他方、第三区輸送船団護衛艦は宇宙港への進入航路へ乗る。
ここでたまたまタイミングがかち合い、両者はニアミスを起こしてしまった。
はっきり言って重大インシデントだ。
広いお空の上でそんな馬鹿な、という向きもあるが――実は空は決して自由な空間ではないのだ。空港はどこも進入経路を何十キロも前からほとんど機体と同じ幅で設定している。時代によって多少異なるが、航路中にチェックポイントをいくつか設けたり、大体最短コースと判明している航路の上をなぞったり、あらかじめ機械に入力して自動運転等、ほとんど限定的な航路しかたどらないのだ。
要は、空の上にもハイウェイは存在するという事。むしろ一般道か。
空の上を飛ぶのは宇宙戦艦も同じ。
であるならば、航空機とは別の航路だろうが、宇宙艦同士の定められた航路があってしかるべき。だからニアミス自体はあり得るだろうと推測できる。
だからと言って起きていい話ではない。
ぶつかりゃ片方、下手すりゃ両方が墜ちる。
まごう事なき重大インシデントだ。
状況は前に述べた通り。
普通に考えて護衛艦のたどった航路自体は以前から頻繁に用いているものだろうと考えられる。ほとんど遅れなく航行していたのだから時間もおおむね予定通りだろう。
通信障害はアクシデントだが、しかし特段の報告が入らなければ、宇宙港側は護衛艦は予定時刻通りに予定航路で進入すると考えて当然。その前提で受け入れをするべき。
そして、護衛艦は予定通りの行動をしている。
地球から大分遠い空間を運航していたのだから知らなかった可能性も多少はある。普通に考えれば直前に伝えられただろう――が、案外嫌がらせで何となくでしか知らされなかった可能性もあろう。
まあ、アンドロメダを知っていれば、式典と共に出航するとわかっていれば、事前通達がなくとも航路は予想が付いただろう。
が、時刻に関しては確定的な事は分からなかったとしても不思議はない――というか、わからなかったとしても仕方がないだろう。式典の進行によって時刻は変更になる可能性があるのだから。
何にせよ、これは管制官にでもアナウンスしてもらえればいいだけだ。
ならば、護衛艦側の瑕疵はないと言える。
アンドロメダ側はどうかといえば、式典を終えての出航だった。航路そのものは基本的に従来のそれに則った者だろう。特別な航路を用意していてもおかしくはないが。
ともかく、式典の進行に合わせた出航と航路と言える。出航時刻は、式典がどれだけの時間を要するかによって幾らか幅が出るだろう。普通に考えれば式典の方を出航予定時刻に合わせるべきだが。であるならば、アンドロメダ首脳部には基本的に航路選択や出航時刻の選択は基本的に出来ない。
護衛艦の進入に限らず、宇宙港の近くを通るのだから防衛軍の艦艇やらが錯綜するのは端っからわかっている事だし、当然地上の管制官の指示に従えば何の問題も無く飛び立つことが出来る事もわかっている。
つまり、アンドロメダ側にも大きな瑕疵はないだろう。
なら、どこに瑕疵があったか。
管制官だろう。
宇宙港が軍民併用なのかまるっきり不明だが、どちらでも大した問題はない。管制官の所属が宇宙港になるのか、防衛軍防空局辺りになるのかの違い程度。
まず、護衛艦の航路・到着時刻は何日も前からわかっていたはず。
アンドロメダの航路・出航時刻も何日も前からわかっていたはず。
確かに護衛艦の方は通信障害で一時様子が判らなかった。が、普通に考えれば普通の航空機の様に他の艦に第三区船団の護衛艦の様子を聞けばいい。これ、案外あり得る話で、別に空の上では不思議な事ではない。自分たちから情報を取りにいかなかった――管制官の瑕疵だ。
アンドロメダの式典は、横目で式典の進行状況を認識していたとしてもおかしくはない。もしかしたらテレビモニターでウォッチしていたって不思議はない。当然、管制官はアンドロメダの出航時刻について大まかな予想が出来たはずだ。それも精度の高い予想。これに合わせて周囲の艦に指示を出せばよかった。全艦の進入を一時待ってもらえばいいし、余程の事がある艦であれば別の宇宙港へ誘導すればいい。それをしなかったとあれば――管制官の瑕疵パート2。
管制官のみが完璧に周囲の状況を把握できた唯一の存在と言える。
つーか、そのための管制官。
この唯一の存在がアンドロメダと護衛艦を差配しなければならないのだ。にもかかわらず、結局航路が錯綜し、ニアミスしてしまった。
防衛軍が事前に全ての宇宙艦を排除してアンドロメダの為に航路を開けた可能性もあるが、燃料の関係上どうしても寄港しなけれならない艦もあるだろう。場合によっては杓子定規に拒否はできない。だとしても、アンドロメダの航路を変更するなりさせればいいだけ。
護衛艦の進路を変えさせても構わなかった。
復路優先とはいえ、アンドロメダは艦隊総旗艦という優先権を保持した戦闘艦だ。法や規則に照らし合わせて差配すればいいだけ。特にさらばでは、古代艦は別に損傷を負ったわけでは無いのだから、当然、航路を譲ってしかるべき。
管制官は一体何をしていたんだ。
護衛艦とアンドロメダを同じ航路に同じ時間帯に載せてしまった。これは最悪のミスだ。謝罪で済む問題ではない。内部調査必至。
仮に、労働環境のせいで正常な判断力が無くなっていたとあれば、宇宙港の管理者に責任がある。防衛司令部防空局が担当であれば――であるとしても、同じ。早急な構造改革をしなければならない。
護衛艦にもアンドロメダにも、ニアミスする以外の選択肢はなかった。ニアミスを避けるようにできたのは管制官だけだったが、管制官はそれに失敗した。
この重大インシデントにおいて責められるべきは第一は管制官のみ。事故調査によって上司や宇宙港管理者にまで類が及ぶかは不明だが、少なくとも護衛艦やアンドロメダに瑕疵はないとする事故調査報告が出来るだろう。
幸いにも両者はギリギリのラインで距離を取ってすれ違う事に成功した。本当にギリギリだった。大事故が起きなかったのは不幸中の幸いといえよう。
ヤマト2においてはこれはまるっきり要素が異なる。
第1話ラストの話だが――これはヤマト側に大きな瑕疵がある。航路の安全確保という構造的については、繁忙な地球上空で艦艇側が航路選択をできるというザルで危険な規定にも問題あるが。
何で無管制空港状態なんだよ。ダメに決まってんじゃん。
確かに太陽系外周艦隊第3護衛隊は不明な敵の襲撃を受けて損害を負っていた。寄港も緊急を要する。その目の前にアンドロメダが現れた。
このアンドロメダは地球防衛艦隊総旗艦である。航路の優先が内規ないし法令で決まっているのだ。しかも乗り組む土方総司令は最先任士官であり、古代進のような木っ端指揮官とは格が違う。いくら復路優先とはいえ、優先事項を二つも抱えたアンドロメダには敵わないのだ。まして味方の損害を伝えなかったヤマトが敵うはずがない。
第3護衛隊にも前述の通り優先される事情はあったし、危機管理という意味で乗組員の生命確保という意味でアンドロメダが航路を譲るという選択肢もあった。多分、土方総司令なら道を譲った。
が、いかんせん古代は艦隊の損害を報告しなかった。それではどうやってもアンドロメダに航路を譲ってもらえるわけがない。これは古代の個人的な新旗艦アンドロメダに対する悪感情によるところと推測できよう。
ともかく、古代は適切な情報を上へ上げなかったことだけは事実。もしこの判断で死傷者が増えたならば軍法会議にかけられても仕方ないレベルだ。
幸いにも土方総司令はきつい叱責だけで済ませてくれたからよかったものの、もしマジで防衛司令部に上げられては確実に防衛会議で針の筵になる。免職=不名誉除隊は免れない。私だって防衛会議のメンバーだったら古代を不名誉除隊にするよう投票する。
古代にとって幸いだったのは、土方総司令が全てうやむやにしてくれたこと。
ニアミスが起きた事自体はまごう事なき事実であり、しかし、恐らく……土方総司令はヤマトとの通信が上手くいかなかった、あるいは初期不良で自動航行やフライトサポートに問題が起きていた、等々の理由でごまかしただろう。
それはそれでだめなんだが。
この場合、重大インシデントであることには違いないが、どちらかといえば防衛軍のガバナンス問題という方が正しい。
さらばにおいては事故、重大インシデント。
管制官の差配の未熟さによって引き起こされた非常に危険な出来事。ただ、この件に関しては古代もアンドロメダ艦長も特に瑕疵はない、処罰される理由もない。
ヤマト2においては軍法会議もの。
艦長同士の個人的な感情によって引き起こされた出来事で、軍律やガバナンスの大いなる問題だ。まあ、誤魔化そうと思えば誤魔化せるレベル。だが、やっていい事ではない。ましてハハハと笑って、何だかわかんない感じで誤魔化すな貴様ら!
ただ、鑑みなければならないのは……これを表面化させると土方総司令のガバナンスに問題ありと防衛会議に利することになる。つまり、この事案は長官も古代も土方総司令も誤魔化すだけの価値のある事だし、ことさら取り上げるには値しない事ともいえた。いや、組織としてはまずいんだけどね。でも、お咎めなしになる理由は存在するといえるだろう。
このような形で結論付けたいと思う。