ストーリー考察Ⅱ ――違法辞令、そして反乱――(さらば/ヤマト2)
さらば宇宙戦艦ヤマト、ヤマト2(以下、ガトランティス戦役)の第一の問題はこのヤマト発進自体にある。いわゆる、ヤマトの反乱だ。
松本作品らしい冒険譚の始まりとしてはこれ以上ないものだろう。だが、軍というものに属しているヤマトがそれをしては本来はマズイ。いかなる理由があろうとも、実力部隊が法や規則に従わないとあればそれは即刻進退どころか逮捕事案となる。
にもかかわらず、不問に処せられているのだから大変だ。桜木版小説では最後の方まで反逆者扱いだが、映画・テレビシリーズ共に不問に処せられている。
普通に考えればヤバい。
これの事案を検証し、筋道を立てた理由づけを試みたい。
まず、第一に――これは軍紀違反だ。
軍法会議ものである。
ヤマト発進・クルー目線
発進理由は極めて明確。防衛会議がポンコツでちょっと口答えしただけでブチ切れて大人げない懲罰人事を展開した。これにある。
さらばに至っては――戦闘のプロを、対外戦闘の経験者を、宇宙戦士訓練学校の教員なり補佐なりに採用することもなく、本部に置くこともなく、周辺域の探索や警備に用いることもない。つまりは全く能力を評価しない人事を敢行した事自体がそもそも問題なのだ。挙句にあっちこっちへ、数日の有余すらない移動命令。
これは不当人事以外の何物でも無いだろう。
普通に防衛軍の法務部に訴えれば少なくとも移動命令の発動自体は一定期間憂慮され得る。人権は弁護士に頼めば恐らく、人権侵害として防衛会議相手に訴訟だって考えられるレベルだ。
さらに言えば、長官の沈んだ表情から推測するに、彼は防衛会議の一通りの懲罰人事抵抗したと思われる。古代の発言のおかげでヤマトもとばっちりを食らい、長官は防衛会議から目の敵にされる。
普通に懸念を伝え、不審を伝えただけなのにこの反応は……これは防衛会議自体が腐っていると評せざるを得ない。2201年に文春や新潮が生き残っていればほぼ確実にスクープを取りに行くレベルの事案だ。
懲罰人事だけではない。
ヤマト廃艦はより、話にならない。
陸海空自衛隊だって、予備機として古い機体をモスボールする例は結構ある。専用の練習艦の代わりに、型の古くなった護衛艦を当てて一種のモスボールとすしてしばらく運用する事もある。
アメリカもしばらくの間戦闘艦艇をモスボールとしてそのままにしている。無論、記念艦としての任を受ける場合もあるが、大きな改修を施して準然たる記念艦とすることはない。
が、地球防衛軍はどうか。ヤマトはどうか。
どうも怪しい。まだ利用可能な戦闘艦を即刻廃艦とする必要性など無いし、栄光の艦として記念艦とする――地球防衛艦隊は再建途中であり大型艦の数は限られている。自ら戦力を縮小するのは愚策以外の何物でも無い。
仮に新主力艦隊と戦列を組めないならば、沿岸防衛艦として配備すればいい。それもしない。
すべき事を一つもせず、検討すべき事を一つも検討せず、合理的な行動もしない。
はっきり言って防衛会議は背任行為を行っていると断じざるを得ない。
止めに、白色彗星に対する侮りだ。
全く詳細不明の敵かどうかもわからない相手に危惧を示すのも確かに過剰反応だったかもしれない。テレサのメッセージだってあやふやだ。
だが、敵だった場合の対策を全く建てようとしなかった。防衛会議が正気かどうか怪しい。挙句の果てに現有戦力で簡単に対処できるなどと豪語。アイツ誰だよ即刻防衛会議を追放だ。
それを目の前で見せられれば誰だった立ち上がって抗議をしたくなる。
史上初の天体現象を確認しておきながら、それを観測し様ともしない、調査しようともしない。この、ガミラス戦役後にもかかわらず……21世紀のダメ官僚並みの腐り方だ。
普通、戦争した後なのだから上から下まで感覚が研ぎ澄まされ、なお一層慎重な動きをしても当然なのに。
目の前でこんな無法を行われては、黙ってはいられないだろう。そこを黙ってこらえるのが軍人なのだが……。
ヤマト発進・防衛会議目線
防衛会議は新しい問題に直面した。ヤマトクルーだ。たかがガミラスと戦った程度の小童どもが、偉大なる防衛会議を侮辱したのである。許すわけにはいかない。専門家でもない虫けらが専門家集団である防衛会議にたてつくなど、あり得ない。徹底的に潰して、後に続くような無能反乱分子を殲滅せねばならない。
地球防衛艦隊の新しい設計に、全く適合しないヤマトなど、活用する価値も隙間もない。スクラップにならないだけ泣いて感謝すべし。
緊急発進? 軍法会議にかけて処罰すべし。一人残らず処罰すべし。全ての勲章や肩書をはく奪し不名誉除隊の上、懲役刑。なんなら絞首刑でも構わない。
要するに基本的にこいつらは単なる権威主義の寄生虫。
御用学者だってもう少しマシな行動をするだろう。御用学者は政府の行動を全て性善説で捉え、それを受けて進言するからまるっきりお話にならないが、それでも限定的な場面においては言っていることは正しい。
が、この防衛会議は丸っきり妥当性を欠く。
単なる税金泥棒、パワハラ・モラハラ集団以外の何物でも無い。保身と地球への背任行為しかやることのないらしいね。
ヤマト発進・長官目線
不明天体現象、不明なメッセージは現実として存在している。これをまるっきり無視するのは防衛会議の職務放棄以外の何物でも無い。地球の危機かもしれない何事かを議題にしているのにもかかわらず、途中でヤマトクルー個人の問題に論点がすり替わっているというのも、不信感満載。
確かにヤマトクルーの発言も行動もかなり行き過ぎたモノがあるといわざるを得ない。だが、彼らの地球を守りたいという意思は疑うべきではないし、防衛会議の面々よりも正義感も強い。
出来れば、ヤマトクルーを守ってやりたい。
だが、自分にはそれだけの権限がない。自身の権限の範囲内で出来ることをしてヤマトクルーの行動を阻害しないこと以外は、出来ない……。
防衛会議の力が強すぎて長官はほとんど身動きが取れないとみて相違はないだろう。
普通に考えれば、ヤマトクルーと防衛会議の折衷案としてヤマトを調査に向かわせるという方法もあっただろう――いや、あの防衛会議ならそれすら却下するはず。
問題なのはあの防衛会議の面々にどうやら政治家らしい人物が顔を出しているらしい事。また、長官とは別派閥の軍人も顔を出しているらしい。下手な動きをすれば長官自身の首が危ない。ガミラス戦役で重大決断を下し続け踏ん張った長官で、恐らく同じくガミラス戦役で命を張った軍人たちは従わないだろう。
仮に論功行賞や政局で長官の後任人事が決まれば防衛軍の士気や組織構造が悪い変化を見せかねない。
組織を守らなければ=健全に保たねばならない長官としては、防衛会議をないがしろにするわけにはいかないだろう。
では、なぜ止めなかったか。
まず、ヤマトクルーは決意を以て飛び立つのだ。止めるわけがない。
仮に白色彗星が杞憂だったとしてもやるだけの事をやったのだから、軍法会議で有罪になっても構わないはず。それだけの覚悟を以て出航したはず。
端っから軍紀違反というのは十分理解していた。
長官もまた、止めないだろう。そもそも、ヤマトクルーそれぞれの現在の上司が察知して彼らを止めるのが道理。
止めるのに失敗したとしても憲兵なりが彼らを調査し、反乱の兆しがあればその前に逮捕すべき。長官が前面に立ってヤマトクルーをどうのこうのというのはある意味越権行為。不可能だし、構造的に不可・不自然。
軍人の反乱を止めるのは軍として当然だし、事前に阻止すべき。それが出来なかったのだから防衛軍全体に構造として問題があるといわざるを得ない。この場合、結局長官も責任を負って進退を考えなければならないだろう。
だったら、出航を止める必要性はない。
やるだけの事をやらせてあげて、長官に損はないし何より――悔いは残らない。
興味深いが、深く考えると防衛会議もまた、ヤマトを止める必要はなかったりする。
長官はあまりにも軍人側に立ちすぎる。彼が軍属であろうとなかろうと、その立場は防衛会議にとっては不愉快だ。長官を排除するには、まず失点を出してもらわなければならない。ヤマトの反乱はその一大好機と言えるだろう。
しかもヤマトクルーは防衛会議に対して不満を持つ不遜な輩。ヤマトが反乱を侵すことで長官もヤマトクルーも一時に葬ることができる。
もしヤマトの出航を止めてしまえば、一つ一つ対処せざるを得なくなる。
一気呵成に全てをガラガラポンした方が手っ取り早いと、あの防衛会議メンバーなら考えてもおかしくはない。だから、彼らはヤマトを止めなかった。止める気がさらさらなかった。
では、なぜ不問になったのか。
政局に要因があるといえるだろう。誰もヤマトを責めても得をしないのだ。
ヤマトクルーはそもそも不問にするしないの決定を出来る立場にはない。
仮に自身を律するとしても、正しいと思って出撃したのだから罪に問う必要はないと判断するだろう。あの人達、そういう人たちだもの。
悪法も法というが、別の法とかち合う場合はそれは正しい法ではない。相対的な判断でどうなるかが別れ、結局司法の場に出て正面からぶつかり合うしかない。
それに、防衛会議が背任的な地球への脅威の不適切な評価を下した。それに対するために出航したという大義名分・錦の御旗がヤマトにはある。少なくとも全てをぶちまければ世論がヤマトの味方になる可能性は十分ある。
勝機はある。だから自身を自身で不問に付しても不思議はない。
軍人なんだからそこは規則通りに行ってほしいが。
長官はヤマトと同じ立場と言えるだろう。
防衛会議の腐った様子からすれば、調査の為の戦闘艦派遣だって否定するだろう。地球の危機かもしれない事に何一つ対処しないのだ。仮に長官がヤマトクルーに要請して特務艦として派遣できるならばそれが一番だが、防衛会議はそれを差せないような懲罰人事を発表したのだ。
長官自身がヤマトクルーをそそのかせば、前代未聞の大不祥事になる。軍紀を守らせなければならない立場、軍の平時における最高司令官が軍紀を自ら無視するように仕向けるなんざ最悪だ。巡り巡って政権が倒れる事も可能性としてはあり得るし、それを危惧した首相は長官を切り捨てる判断をしかねない。だが、幸いにもヤマトクルーは責任感と正義感を以て自ら出航した。
まず、長官は自身には非がないというか――止める手立てがなかったと申し立てることが可能。うまく立ち回れば責任を追及される側ではなく、責任を追及する側になれる。
さて、ここからが長官の政治手腕。
長官は空間騎兵隊をこっそり乗り組ませた。これは反乱が防衛軍の指揮系統に不満を持っただけの事か、地球に対するものかを見極めなければならない、だからその役割を持たせたと各所に説明できる。起きてしまった反乱を武力で潰せば禍根が残ることは必定。それを回避するための、同じ軍属でむしろ乱暴な空間騎兵隊による同調での説得を試みた。あくまでこれは白色彗星が敵ではなかった場合の説明。
実際に白色彗星は敵であった。第11艦隊の壊滅で判明したのだ。
要は、長官は賭けに勝ったのである。
ヤマトが先んじて出撃してくれていてよかったといった具合である。ここで、全てをひっくり返すウルトラC的説明をする必要出来る。むしろ、ウルトラCを決める機会はココしかない。
つまり、ヤマトを反乱時まで遡って特務艦として派遣したと議事録や命令を書き換えるという事だ。
端っから特務艦として派遣し、有事に備えて空間騎兵隊を乗り組ませた。完璧な危機管理能力として称賛されるだろう。さすが、ガミラス戦役で指揮を振るっただけの事はあると称させることは間違いない。
世論を味方に付ければ、政治家も味方につけることは容易。政治家じみた防衛会議を黙らせることなど赤子の手をひねる様なもの――むしろ、赤子の手の方が心がとがめて捻れないレベル。
議会でも議事録を書き換えたという事を明記した上で削除・文言追加はままあるから珍しい事ではない。同じことをヤマトに関する記録でやればいいだけの事だ。難しくはない。
ヤマトは初めから特務艦として派遣されたというシナリオであれば、全ては丸く収まる。長官の絶妙なシナリオ。
意外な事に、防衛会議も不問に付すしかない。
なぜなら、第11艦隊が壊滅してしまったからだ。
実際に白色彗星が脅威であり、事前にヤマトクルーはそれを危惧し報告を上げていたにもかかわらず、退けた。これは不作為の罪というヤツ。バレたら世論が黙っていないだろう。まして相手はガミラス戦役の英雄たちだ。ある事ない事週刊誌や報道に載せられ、家族も又そのターゲットになる。下手すりゃ、自分たちの政治生命もおしまいだ。
しかも、長官は空間騎兵隊をこっそり乗り込ませている。第11艦隊が壊滅した今、これはむしろ名采配という事のなるだろう。脅威評価を適切に行い、手立てを打った。という事になるだろう。
反対に防衛会議はまるっきり長官に後れを取り、存在意義すら疑われてしまうレベルだ。完全に後れを取ったといえる。
挽回せねばならない。あるいは、全部を隠蔽する他ない。残念ながら、今更危機感を高めて機動的に動いたとしても、初動の遅れは後々までつつかれてしまうから――いかんともしがたい。
防衛会議に勝機があるとすれば、空間騎兵隊の事前乗り込み。つまり、長官がヤマトの反乱を容認したという事だ。
ヤマトに対しては防衛会議は完全敗北だが、長官に対しては痛み分けが可能――反乱を知った上で留めなかったのなら、ガトランティス戦役発生は塞翁が馬としても、結局はどこかで罪の問われねばならない。
もし、長官が自身の黙殺行為の黙殺と引き換えに防衛会議の不作為の黙殺を承諾すれば、全ての失敗はなかったことになる。
ヤマトクルーは長官を信頼しているし、自身が更なる正義感に突き動かされて防衛会議の不作為を暴けば長官だって傷つくことぐらいは理解できるだろう。長官が防衛会議を許せば必然的にヤマトクルーも防衛会議を見逃さざるを得ない。長官はヤマトクルーを守りたいのだから、防衛会議に忸怩たる思いを抱いたとしても、その提案に乗らざるを得ない。
確かに、ヤマト出航時点ではヤマトは反乱者以外の何物でも無い。それを裏からサポートした長官も防衛軍を追われる立場だっただろう。
だが、第11艦隊の壊滅が全てを変えた。
ヤマトの出航は正しい事であったと、事後に判明したからだ。これで、不問に付す以外の選択肢は存在し得なくなった。
正義感に燃えて立ち上がったヤマトは、愚かな防衛会議から地球を守った。そんなヤマトを万全の状態で出向させた長官は名伯楽。防衛会議は下手すりゃガトランティスより地球の敵と言えるだろう。
このシナリオだけは避けなければならない。
もし、防衛会議が軍律に従ってヤマトクルーを軍法会議にかけたとしても世論の後ろ盾は期待できない。政治家が首を突っ込んでいる防衛会議はこの状況をよしとしない。長官は端っからヤマトを不問に付したいと思っているだろうし、ヤマトクルーは判断する立場にない。
仮に、防衛会議が踏ん張ったとしても結局は大した罪にも問えない。
下手に不名誉除隊でもしようものなら、どっぷりかかわった長官にも飛び火する。防衛会議にとって、藤堂長官はそこまで悪い人事ではない。うっかり防衛会議が首相に潰されればそれも洒落にならん。
長官は軍人に寄り添いすぎるが、しかし自分の政治力や立場を判っているゆえに防衛会議を立ててくれる。これが軽い神輿だとそうはいかない。馬鹿であれば余計なことをして防衛会議の闇を図らずも暴露しかねない。重い神輿だと改革の矛先を防衛会議に向けかねない。
そこへ行くと藤堂長官は絶妙な立ち居振る舞いをしている。防衛会議としてはむしろ、彼の影響力が一回り小さくなる程度で良しとするかもしれない。あんまり権限を小さくして辞表でも出されたら迷惑だし。
それに、長職だ。恐らく、首相が組閣した内閣の一因だろう。下手に突っかかっても首相や大統領を敵に回す藪蛇にもなりかねない。
だったら、長官を牽制がてらに八つ当たりでヤマトを叩き、しかし結局は不問に付すというのが防衛会議の賢い立ち居振る舞いといえよう。とっても情けないが。
つまるところ、三者三様にヤマトの出航を不問に付す以外の選択肢を持ち合わせていないのである。
ウロボロスの様に全てが絡み合っているため、発端をなかったことにすれば全てがなかったことになり得る。
発端が無ければ、誰も傷つかない。
やだねーこの不気味なリアリティ。
ヤマト2においては更に艦隊司令部まで絡んでくる。
ヤマト2において。
どう考えても防衛会議に忸怩たる思いを抱いている土方総司令が、ヤマトを見逃さないはずはない。正確に言えば、決意を固めたヤマトを見逃さないはずはない。
土方総司令はあくまで命令を遂行するためにアンドロメダを進めただろうし、ヤマトの進路に立ちはだかった。そうしなければ自分の部下が全員処罰されかねないし、もう一つ、先輩としてヤマトが直面するであろう困難を体現する必要が有る。ヤマトクルーの決意の確認だ。
つまるところ、ヤマト阻止に積極策を取らなかった長官と同じ。ヤマト出航の意義を認め、かつシンパシーを抱いていたという事。
防衛会議はこれも糾弾しなければならない――が、土方総司令が総司令職に就任してそう長くはないはず。だとすれば新任早々に不祥事を起こしたとして、長官や人事を承認した防衛会議自身の失点となるだろう。
避けなければならない。
土方総司令はヤマトを補足に失敗を告げている。参謀長は長官に逆らう形で防衛会議の指針を履行した。長官は参謀長を咎め、ヤマトの反乱をみすみす見逃した。
これら混沌とした状況において、防衛会議は動かない事が最善策となる。
なぜなら、長官を咎めれば長官に反旗を翻し、地上への危険を無視した過剰とも思える行動をとった参謀長もまた咎めなければならない。防衛会議を忖度してくれたお友達にもかかわらず。下手に切れば誰も従わなくなる。
嘘の報告をした土方総司令も咎めなければならない。だが、土方総司令は防衛会議自身が承認した人事であろうし、そもそもヤマトクルーの危惧を取り付く島もなく一蹴した防衛会議の議事そのものにも問題があるといわざるを得ない。
つまり、防衛会議は誰を咎めてもブーメランとしてその非難が自分たちの頭にぶっ刺さるという事。
幸いにも、土方総司令は嘘をついた。長官は反乱を見逃した。ヤマトクルーは反乱したが、土方・藤堂両名には恩義がある。参謀長は防衛会議の指針に基づいたとはいえ暴走。
これらは、バーター取引で防衛会議の不作為の罪をなかったことにするためのカードとして使える。
つまり、ヤマトの反乱自体が無ければすべてはなかったことに出来る。名付けて“ウロボロス的隠蔽構造”だ。
特に、防衛会議は不問以外選択できない。
ガトランティス戦役終盤には地球が直接砲撃を食らった。ヤマトは死に物狂いでガトランティスと戦った。これで最初は防衛会議を原因とした反乱だったとか、防衛会議がいじめ的不当人事をしたとかばらされたらヤバい。
長官は捨て身、ヤマトクルーは当然捨て身。防衛会議が敵う相手ではない。
首相や大統領は政治家である以上本能的に保身に走る。多分、朴槿恵政権における海洋警察の様に切り捨て・解体の憂き目を見るだろう。
つまり、防衛会議はヤマトクルー、長官、首相、大統領、地球市民の全てを敵に回してしまうという事になる。多分、この話を聞いたらデスラー総統も防衛会議を嫌悪し侮蔑するだろう。
防衛会議は、ヤマトの反乱は存在せず、初めから特務艦として派遣されたという長官のシナリオに乗っかるほかないのだ。
この防衛会議の打算は自身の影響力低下を招いた。ざまあねぇな。
防衛会議は決心もなく打算で全てをなかったことにした結果、常に長官に脅される立場になってしまった。だって、防衛会議のあの体たらくを暴露されたらその時点で参加メンバーの政治生命は立たれてしまうから。下手すりゃイタリアの地震学者よろしく刑事訴追されかねない。
当然、ヤマトも防衛会議より上の立場となるだろう。彼らも長官同様、色々知っているから。
首相も大統領も、もし事実を知ったとあらば――この無能な連中を大切に扱うはずもない。いつか、自らが失態をしでかした時の為の捨て駒扱い。防衛会議の価値はそれがせいぜいだろう。
防衛会議は自分たちの思うがままに決定を下した結果、常にヤマトが立ち上がらなければ地球は滅亡してしまったかもしれないという事実におびえなければならなくなった。自らの影におびえる……実に滑稽。
仮にその事実が世間の目にさらされるとあらば、もう防衛会議を専門家が集う必要不可欠な組織とは誰も見ないだろう。単なる無能なエゴイスト集団。何なら大統領選挙では当然防衛会議のあり方が争点の一つになるだろう。もう、防衛会議は死に体だ。
仮に、暴露されなかったとしても――全く誰にも牽制が利かない。権勢が無くなる。そんな防衛会議は最早、単純に合法的に組織を運営するためのプロセスの一つとなり下がる。単なるパフォーマンスの一つでしかなくなる。
以降のヤマトシリーズで全く登場しなかったこともうなずけるだろう。
結果として、誰もかれもがヤマトの反乱を止める必要性を感じなかったし、不問に付す以外の選択肢を持ち合わせなかった。地球の為、保身の為、それぞれの判断で同じ決定を下したのである。
そして、ガトランティス戦役が始まった結果、この本来ならば非難されるべき構図はうやむやにせざるを得なくなった。一種の超法規的措置といえよう。
今回はそう結びたい。