旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

ガトランティス・ガミラス共同戦線――その成否

 

 ガミラスとガトランティスの共同戦線構築は両者の将兵同士の軋轢によって失敗してしまった。その経過を考察し、仮にがっちりとスクラムを組んだ場合の予想される成果も含めて一つの考え方を明らかにしてみたいと思う。

 

 


 ガトランティスガミラス共同戦線
 ガミラスとガトランティスの共同戦線は両国の同盟にその端を発する。
 つまり、命を助けられたデスラー総統と彼の執念に魅せられたズォーダー大帝の個人的友情。更には進路上に地球があったという一種の偶然により、総統は宿敵であるヤマト撃破を、大帝は地球人類の奴隷化・天の川銀河征服の拠点化という一致した利害関係によって友人二人の向かう道は完璧に重なった

 

 主目的はヤマトを撃滅する事。これによって地球侵攻を容易かつ完全に達成する事。ここに同盟の軍事的価値が存在する


 さらばにおいては、総統は客将ないしワンランク落ちる食客として登場。とはいえ、大帝は総統に絶対的な信頼ないし一目を置いていた為にその活動はヤマト撃滅ただ一点のみにおいて彗星帝国に貢献する事とされていたとみて不思議はない。

 だとすれば、立場こそ脆弱だが信頼度に関して言えばヤマト2とさほど変わらないと言えるかもしれない。

 

 


 さらばにおいて
 さらばにおいてガトランティスガミラスと共同戦線を張ったとは言い難い


 ヤマトはテレサと地球を結ぶ結節点であり、ガトランティスの秘密を握る極めて危険な艦である。その侵攻阻止は絶対に成し遂げなければならない

 そう書けばさもガトランティス大戦略において欠かすことのできない事に思えるが、実際問題としてヤマト1隻が地球艦隊に参加しても、さらばにおいては大きな役割は果たせずむしろ枕を並べて討ち死にという可能性の方が高かった。居ようが居まいが関係ないというのが正直な所。

 他方で、高々数隻の宇宙駆逐艦と新造されたか改装されたデスラー艦と極めて少数の戦力――一隻の戦艦相手には結構な戦力だが――しか供出されなかったという事を考えても、ガミラスとガトランティスは確固とした共同戦線を構築したとは言い難い。


 どちらかといえば、大帝が久しぶりに得た友人ないし弟分のたっての願いを聞き入れたという方が実情に近いだろう。総統敗死の報を受けた時の反応もこの見方を補強してくれる。

 

 

 


 ヤマト2においては、戦力的にはかなり強力な布陣をテレザート域に展開し共同戦線を構築した。だが、反対にさらば以上の困難に直面してしまう事になる


 まず、総統が連合艦隊の指揮官であり当該方面軍の指揮官でもあるという極めて高い立場に置かれることとなった。国家元首が指揮をするのだからそれぐらいの格はあって当たり前だろう。、高々一年前程度に現れた病人がガトランティスの医療によって復活し、大帝の友人となってデカい顔をしている。というまごう事なき事実が存在する。これは面白くないだろう。

 第1話冒頭の徹底した婉曲ディスりにも見られるように、地球を下に見ており、その地球に負けたガミラスに対しては徹底して不信感を抱いているように思われる。そんな相手と組まされるのだから、現場指揮官も中堅指揮官も高官もみんなイヤだろう。

 この心理的な不和というものはどうしても連合軍の能力を減じてしまう要因になる

 


 古くはアケメネス朝ペルシャギリシャ連合軍の戦闘。
 アルテミシオンの海戦にせよ、サラミスの海戦にせよ、アケメネス朝はその国家体制からどうしても統一艦隊では無く各地から供出された戦力を持って編成した連合艦隊にならざるを得なかった。問題は、彼らが利害がアケメネス朝と必ずしも一致していなかった事。下手をすればギリシャ側に心を寄せた部隊さえあった。
 これは陸上でも同じでマラトン、プラタイア、ミュカレでアケメネス朝軍は多国籍軍を以て進軍した者の、国籍は違えど一応同じギリシャ人で構成された連合軍に散々に打ち破られてしまった。
 クライマックスはエウリュメドン川の戦い。アケメネス朝の水上部隊と陸上部隊ギリシャ連合軍に襲撃を受け、それぞれが連携も取れず反撃も中々ままならず壊滅してしまったのだ。


 プレヴェザの海戦はヴェネツィアジェノバ聖ヨハネ騎士団スペイン帝国教皇領のそれぞれが艦隊を供出してオスマン帝国と戦ったが、これが大失敗。
 そしてトラファルガーではスペインとフランスが連合艦隊を編成したものの、これが実は物凄く仲が悪かった。スペインから見ればフランスはひよっこの海洋国家、フランスから見ればスペインなどただの数合わせでいわゆる「くたばりぞこないに何が出来るって言うんだ!」状態だった。当然、ろくな戦いが出来ずに個々での決死の戦闘という事になってしまった。

 近代でいえば――アメリカ第58任務部隊とイギリス太平洋艦隊は決して不仲であったわけでもないし共同戦線構築に失敗したわけでは無いが、高官同士はその戦後を見据えた互いの行動というものがお世辞にも友好的では無かった。
 近代でひどい事例といえば、中東戦争だろう。アラブ側が思いっきり不和でまともな連携が取れず、それぞれの兵士はかなり頑張ったものの……開戦しない方がよかったかもしれない事態に。


 何が言いたいかというと、不和が起こる理由は多数存在する。その原因が何であれ、乗り越えることが出来なければ作戦遂行に致命的なダメージを追わすことになってしまう。


 ただし、多国籍多民族が必ずしも不和をもたらすとは限らない
 オーストリア艦隊は多数の地域から参集した乗組員によって操艦されたが、テゲトフ提督に率いられた主力艦隊は一切の不和などなく、果敢にイタリア艦隊に戦いを挑み勝利した。
 


 何を重ねて言いたかったかというと――
 肝心なのは誰が、どうやって、何のために率いるのかである

 

 

 

 ヤマト2、共同作戦経過

 地球攻略に当たり、各種の情報を地球側に提供する可能性の高いテレサの幽閉を完遂すべくゴーランド艦隊が前面域に展開し、テレザート地表面にはザバイバル機甲師団が展開していた。これが事前に展開していたのか、デスラー総統と共に展開したのかは明確ではないが、少なくとも展開する事だけは決定しただろう。


 ここで大帝の裁定が下る。つまり、ほぼ確実にヤマトがテレザートに接近するとなったことで、デスラー総統の宿願を果たさせるべく方面軍司令官職に当たらせたのである。これによりゴーランド艦隊やザバイバル機甲師団が総統の下につく事になった

 

 これがまずかった。
 まず、今までの征服の歴史上、ガトランティスにとって勝利は大前提と言える。

 だが、デスラー総統は負けた。しかもヤマトただ一隻に負けたのだ。そして国や民を失ったのである。これは……ガトランティス基準だと無様というか、尊敬するに値しないという評価が下ってもおかしくはない。仮に容認できたとしても、部下や同僚ならいざ知らず、上官にはしたくないだろう

 そんな総統の下にゴーランドとザバイバルが入り、ついでにナスカも連携ないし指揮下に入ることになった。

 

 自意識過剰なナスカはどーでもいいが、自分で馬鹿デッカイ銃をぶっ放す武人的なゴーランドや、明らかに肉体派で歴戦の勇士であろうザバイバルにとっては屈辱以外の何物では無かっただろうこれでは共同戦線を張れるわけがない。

 

 実際、ナスカ艦隊はヤマトの奇襲的攻撃を受けて壊滅。

 ゴーランド艦隊も前進してヤマトと戦闘を繰り広げたが敵わず。両提督共に、デスラー総統のガミラス艦隊の増援を受ける選択肢はあったし、そもそもヤマト撃破に関して言えばデスラー総統が先任。しかし、プライドが邪魔をしてその選択が出来なかった。
 ザバイバル将軍に関しては……本国の政治状況も絡んでいるため一概には言えない。まあ、ゴーランド艦隊が壊滅したあおりを受けたと言えば、受けたといっていいだろう。

 

 一見妙案に見えた共同戦線構築は、初めから構築などされておらず、砂上の楼閣よりも脆く崩れ去った

 

 

 

 

 両軍、もし手を携え得たならば

 もし、ガミラスとガトランティスががっちり共同戦線を構築したならば。
 そもそもそんなことが出来るのだろうか。性能という方面にウェイトを置いて考察してみたい。

 


 まず、ガミラス艦隊の戦術の基本は何かといえば――電撃戦であるガミラス艦隊は火力が低いが、そこそこの数を集中的に運用できることに加え、高い士気と練度を有する。故に腰を据えた戦闘は分が悪いといわざるを得ないが、ヒット&アウェイの高速戦闘ならば十分敢行できる。むしろそれ以外に戦う術がないに近い。
 他方でガトランティスは敵よりも勝る数を集中運用しロングレンジ、出来ればアウトレンジ戦闘を行う。これらの外観的な戦闘プロットからイケイケの攻撃特化に見える戦闘を行うように見えるが、実際には比較的安全策を取るのが彼らのやり方である。


 電撃戦どっしり構えた正攻法水と油といっても過言ではない


 これは……指揮官同士の連携を前提とした共同戦線は……不可能ではないだろうか。あまりにも両軍の戦闘プロットが違うのだ。ここはやはり、大帝が命じたようにデスラー総統が艦隊の総指揮権を保有するか、反対にガトランティス軍司令官が艦隊の総指揮権を保有するかのどちらかしか、あり得ないだろう。

 


 ガミラスがイニシアチブを握った場合、どんな戦闘になるだろうか
 まず、ミサイル艦隊を隷下に置くだろう。味方艦隊の攻撃前にミサイル艦隊の圧倒的投射力を以て敵艦隊を漸減し、突破口から進入して砲撃戦を行う。あるいは、殆ど同時進行的に攻撃を敢行し、ミサイルか艦の迎撃かを敵に強いて、迎撃を分散させる。といった戦闘が行えるだろう。

 どっちに転んでも高速戦闘を旨とするガミラスならば対応できるし、不安な火力を補えるのだから一石二鳥
 駆逐艦も快速でしかも打撃力がかなり高い。デストロイヤーの上位互換、クルーザーの代わりに編入することで全体の火力向上につなげられる。

 


 使い勝手が悪いのは――恐らく大戦艦だろう。快速ではあるが、駆逐艦並みだが的がデカい。しかも衝撃砲が使えなければ火力に大きな不安が残る。たとえ使えても、2202のようにご都合主義旋回が出来なければ射角が正面に限られ、側面からの攻撃に対しては艦首を回さなければならない。敵の高速運動に対抗できるかは不明である。
 同じ理由で、電撃戦に向かない潜宙ガミラス的には利用価値が低いだろう。

 

 次いで、超大型空母ガミラス的には邪魔だろう。何せ巨大な的。超大型空母が現実的の数値設定はキロ越えである。反対にガミラス艦隊は現実的な数値設定を行ったとしても三段空母で400メートル弱程度で要求された能力も軽空母か中型正規空母程度。超大型空母の全長や能力は言うまでもなく、ガミラスからすれば手に余るし目立つだけの戦闘艦である。

 もし運用するならば……よくて要塞や移動司令部扱いぐらいだろう。ガミラスにこの空母を運用する基本的なノウハウがない。


 微妙なラインが中型高速空母メダル―ザ。メダル―ザに関しては、デスラー砲があるし、瞬間物質移送器で戦闘艦を直接ワープさせればいいだけだから……必要性が薄い。
 他方で中型高速空母も微妙なライン。能力的には三段空母の上位互換として、戦闘空母扱いで前線に出すことも可能だろう。現実的な値に設定値を直した場合はかなり巨大化するため、使い勝手が微妙になるが、依然として三段空母や戦闘空母の上位互換としての価値がある。ただ、ガミラスは艦による電撃戦という、生存性を出来るだけ高めた戦闘を行うため、どうしても損失が大きくなりがちの航空戦力による電撃戦は行わない傾向にある。この傾向が改まらない限りは中型高速空母も、艦隊の直掩程度の任務しか活躍の場がないだろう。

 

 デスバテーターは恐らく活躍の場がないだろう。
 ガミラスにとっては雷撃艇扱いになるだろうが、しかしこれならばより強固であることが望めるミサイル艦を保有している。デスバテーターはプラットホームが無ければ活動は難しいが、ミサイル艦は曲がりなりにも艦でありプラットホームがあろうがなかろうが長期航洋が可能。
 ミサイル艦よりも有用であることを示さなければならないが、いかんせん艦載機であるデスバテーターにそれは難しい。

 


 ベースとして、火力と足の速さが命のガミラス艦隊を補完できる戦力でなければガミラスにとっては編入する価値はない。

 残念ながら、ガミラスにとってガトランティスから供出してほしくなるような艦種はミサイル艦と駆逐艦程度にとどまるだろう。

 


 

 ガトランティスがイニシアチブを握った場合、どんな事が予想されるだろうか。
 まず、ミサイル艦クルーザーは必要ないだろう。どちらも火力が中途半端でそれぞれデスバテーターや自軍の駆逐艦ないし大戦艦で十分代用できる。能力的にも任務的にも全部被っているし、しかも自軍の兵装の方が上回っているのだから、編入して活用する理由がない。

 

 三段空母戦闘空母に至っては全く使い物にならないだろう。
 数が高々60機、しかも数隻しか集められない。デスバテーターに積み替えるとしても……どう頑張っても7機。設定し直しても20機程度と、全く編入する意味がない。三段空母でこれなのだから発進口が限定されている高速空母など話にならない。
 小型の雷撃機爆撃機が欲しいとしても――別にイーターに無理にでも爆装でもすればいいし、そもそもデスバテーターで十分。ガトランティスガミラス軍機を採用する理由は乏しい。
 直掩程度なら、何とかならないこともないだろう。だが、すでに高速空母がその任務に就いているし、艦隊規模によっては超大型空母がその任につく。わざわざ三段空母を編入したとして、戦闘空母を編入したとして、結局は食料や燃料を無駄遣いするだけにしかならない。

 

 戦艦(シュルツ艦)やデストロイヤーならば、何とか利用価値があるだろうデストロイヤーはそこそこの火力と速力と装甲を有しているため、海防艦的任務や通報艦として前進する等の艦隊補助の任務があるだろう。
 シュルツ艦も火力は不安だが雷撃力は馬鹿にならない。ガトランティス軍に欠けた巡洋艦を埋める存在になり得るだろう。空母の護衛やミサイル艦隊の護衛戦力として、接近してきた敵戦闘艦への砲雷戦を敢行し、身を挺して守るという任務にはうってつけだ。実体弾による攻撃は全般、粒子兵器より通用しやすい傾向にある為、あのやたらに設けられた発射管は安心材料である。

 

 同じ戦艦でも、ドメラーズは使い勝手が悪いだろう。砲撃しか行えないとみて間違いないこの艦は、もし砲が敵に通用しなかった場合はまるっきり存在意義が無くなってしまう。しかも微妙に図体がデカい為、的になりやすい。

 


 ガミラス艦は全般、ガトランティスの要求スペックを満たせていないといっていいだろう。少なくとも舳先を並べるにはあまりに艦の能力が違う。

 護衛であるとか別動隊であるとか、ならばなんとかなる。しかし、戦隊や艦隊に両者を組み込んで混成部隊にするのは――無理といっていいだろう。

 

 

 

 ガトランティスガミラスが手を組めば、宇宙に冠たる大帝国を築けた可能性はある。劇中、大帝は無理に戦力を合流させるのではなく、それぞれ別個に艦隊を仕立ててそれぞれに共同戦線を張らせた。

 案外、大帝の判断は無難だったといえるだろう。だが、それは将兵同士がある程度信頼関係を結んでから行うべき話であり、彼我の上下というものを意識しないか意識しても考慮の外におけるような段階になってからにすべきだった

 だが、残念ながら1年間ではその信頼関係の醸成は完了しなかったのだ。その段階に達して居ないのに共同戦線を張らせようとした結果、縄張り争いに終始してしまったのである。


 複数国家の混成はぱっと見、燃える展開である。しかし、幾つかの前提条件を満たさなければ、機能する事はありえない。これを無視して機能させるのは残念ながらご都合主義。正直政治マター、政局による不和は見ていて鬱陶しいし、フィクションなんだからそれぐらい――とも思うが、

 それをしてしまっては逆にご都合主義テレザート域におけるガミラスとガトランティスの不和は、案外合理的な不条理と評する事が出来るかもしれない。困った話ではあるが