旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

ストーリー考察Ⅳ・ガミラス亡命政権

 

 

 ヤマト第一作で壊滅したガミラス帝国。

 しかし、大小マゼラン雲を掌握しておきながら立った一隻の戦艦によって壊滅したというのは解せない。確かに、本土決戦に敗北した以上、それまでのガミラス帝国が存続できるはずもないが、しかし完全に消滅してしまうというのもかなり苦しい。
 今回は第一作後のガミラス帝国について考察してみたい。

 

 

 

 普通、国家が倒れるとなると、とてつもない影響が周囲に及ぼされる。しかし、大体は予想のつく範囲で推移する。考え得るパターンは次の通り。

 


 1、完全消滅
 必要条件は少なくとも、政権中枢が消滅すること十分条件国民の虐殺
 誰によって政権が倒されても構わない。敵国による侵攻や、国民自身による革命、そのいづれでも何の問題も無い。狙うのは別に政権中枢だけではなく、場合によっては国民事態に攻撃を加え消滅させる場合もある。


 例えばカルタゴホラズム・シャー西夏は最悪のパターン。国家ではないが、カタリ派に対するアルビジョア十字軍遠征も指導部と信徒の文字通りの殲滅という意味では同じレベル。 
 この手合いの事情が発生する理由は複数ある。
 カルタゴはローマにとって実際的に軍事上経済上の敵であり、活かしておく理由はない
 ホラズム・シャーも西夏もどちらも君主は皇帝であり、しかもモンゴルによる支配を拒否した。世界統一というロジックからはみ出し、ハーンの支配を拒否るやつに生存を許しては、他の者に示しがつかない
 カタリ派のような極めて異端で本流たるカトリック肉欲禁止をあざ笑うような教義は当然認められない主の教えを愚弄し民を惑わせる邪教を殲滅しないという事はむしろ、主や父なる神、信徒に対する背任とさえいえる。滅ぼさない理由がない

 

 つまるところ、それまでの国家や集団同士の積み重なった怨嗟であるとか不信感というものがかなりウェイトを占める。

 他方で、自国に平然と盾を突く存在を野放しにすれば当然沽券にかかわるという象徴的な意味もある。同時に、平然と盾を付けるような存在はほぼ確実に将来自国に対して牙をむく競争相手だ、粒説時に潰さねばならない。
 経済・プライド・不信感の3つが複雑に折り重なった時、敵を殲滅する必要が生まれる。個のような3つの要素を含む敵に襲われた時、その国は消滅する他ない。

 

 


 2、継承国家鼎立
 必要条件まとまった戦力が残存している事。十分条件政権の価値が損なわれていない事。


 ビザンツ帝国が判り易い例だろう。ロマニア帝国とかいう十字軍国家によってコンスタンティノープルを占領された彼らは、あちこちに逃亡して政権を樹立。ニカイア帝国トレビゾンド帝国エピロス専制公国と性格はかなり異なるが全て一応、「我こそはローマ」と宣言していた。


 あるいはディアドコイの皆さん。プトレマイオス朝エジプトセレウコス朝シリアアンティゴノス朝マケドニアやその他の後継者。彼らは皆アレクサンドロス3世の後継者として覇権を狙った。別に、みんな昔から仲が悪く、いつかぶっ潰してやろうと狙っていたわけでは無いが、大王がうっかり「一番強いやつが後継者」とか言ってしまったものだから、みんな自分の強さを示そうとしたのである。それぞれが結構な権力と支配域を確保し、本当に鼎立状態となったのである。


 東洋では春秋の

 普通、権力者は自分の権力拡大にいそしむ。を守る第一の諸侯・晋の臣下である6人の内、長い時間をかけて成長した趙氏と魏氏と韓氏はエグイほどの領地と権力を保有するに至った。

 臣下同士の内紛に業を煮やした出公が、頭に血が上り過ぎて政権運営をミスった為、更に臣下が増長。結果、静公の時代に至って以前から勝手に領土を蓄えたのいわゆる三晋が止めの反乱を侵して静公を一般人に落として晋を滅亡させた。

 このままでは色々あれである為、唯一の王である周王を脅す形で3ヶ国は自身の存在を確立、正式な諸侯として名を連ねた。彼らの言い訳はいつも、「晋公が悪い、あの人に徳が無くなった」である。

 

 これらの特徴は、元になった国家・政権を徹底して擁護するか否定するかのどちらか。元になった政権に価値があり、その後継者としての自身を創る事で勢力を確保できるならば、後継者としての性質を強める価値がないならば、むしろ自信を代わる存在としてプロデュースしてその正当性を確立する
 これらが出来るという前提には権力者の手元に物理的な戦闘力がまとまって存在するという事がある。まとまった戦力を以て権力を確保し、場合によっては拡大する、そのための形態の一つが継承国家であり、新たな覇権の成立するまでの過程が鼎立だ。

 

 


 3、亡命政権
 必要条件政権中枢が残存している事。十分条件亡命政権を認める他国がある事。


 ドゴールの自由フランス、やガンデンポタンチベット)は判り易い。国土を奪われても、政権中枢が残存しており、これらを認める複数政府が存在し彼らの支援を以て存続する国家だ。台湾も一応国民党の亡命政権という言い方もできるだろう。

 あるいは王位や帝位の請求をする人物と組織的にその人物をサポートする集団があればある意味亡命政権であり、その意味ではいまもオスマン帝国フランス王国ガージャール朝も一応亡命政権として存在している。


 もっとレベルの低い、個人としての勢力確保も選択肢としてあり得る。コンゴのモブツウガンダのアミンはそれぞれ亡命することで命を長らえ後者はサウジで悠々自適な引退生活、前者は後継者集団がいまだに政治に食い込んでいたりする。二人の“功績”については自分で調べて欲しい。

 

 ともかくとして、実際の勢力が確保されている必要は大してなく、認めてくれる存在があれば成立する存在が亡命政権
 この非常に限定的な亡命政権はが出来てしまう理由は、国家そのものと政権が乖離した場合や、戦争終結を見据えて名前だけでも保とうという権利の確保である。

 戦争中併合されていたか、征服されたか、一応は独立していたかだと当事者として参加できるかどうかが変わる為、かなり重要。この権利を確保するため、亡命政権を造るというのは当然の事。

 

 

 

 

 デスラー総統、ガミラス亡命政権

 まず、さらばとヤマト2においては全く描写が異なる。


 さらばではガミラス人はデスラー総統とタランの二名しか生存していない事が語られている。無論、誇張という可能性があるというか、そう見た方が自然だが、かなりガミラス人の勢力は弱性になっているといえるだろう
 他方、ヤマト2ではまとまった戦力がデスラー総統の元に集っている。


 
 さらばにおけるガミラスは、恐らく3のパターン。少なくともあの時点のデスラー総統の満たしている条件は亡命政権だけだろう。
 サーベラーら幕僚はガミラスに重きを置いていないが、ズォーダー大帝それなりの待遇を用意している。単なる大帝の気まぐれともいえるが、亡命政権を受け入れた国家としてさほど珍しい対応ではない。


 ヤマトに征服され、本星が荒廃、ガミラス帝国は事実上の崩壊状態。

 恐らく地球はガミラス勢力と出会えば敵として殲滅しにかかるだろう。何なら、マゼラン方面は全く勢力の空白地帯となるのだから、地球が征服する先として狙われるだろう。その場合、旧ガミラス勢力は全く敵わない。しかも、政権が崩壊したため、マゼラン雲域は現状無主の地征服されても文句は言えない。

 だが、亡命政権があれば少なくとも地球の法律的には、マゼラン雲域が無主の地であるという理屈は通らないだからデスラー総統が単独でも政権を標榜することは、マゼラン雲域が無主の地とならないように、ガミラスの再建という目的を達成するために最善の策であると言える。

 

 

 ズォーダー大帝も、自身に歯向かうわけでは無いデスラー総統は別に手元に置いておいても問題ないと判断するだろう。まして、地球攻略の為の手数としてデスラー総統は十分有用。

 たとえヤマト撃滅が優先と総統が思っていたとしても、その執念という何者よりも恐ろしい力を携えた総統は確実に有用と言える。ヤマトが邪魔であることには変わりがないのだから、勝手に潰してもらって結構。

 仮にガミラス再建が成ったとしても、総統の性格上、こちらから攻撃しなければ彗星帝国ガトランティスに歯向かう事はせず、共同歩調をとるだろう。

 ヤマトに返り討ちになったとしてもヤマトに損害を与えられるのだから、それはそれで問題ない。

 

 ガミラス亡命政権を国家として認めてもガトランティスには全く損にはならない。それどころや有益性以外ないのである。

 

 

 


 ヤマト2においては実際的に勢力が伴っている、より確かな亡命政権である。
 先に述べたように、地球が安全に征服を行えるのは無主の地と化しつつあるマゼラン雲域しかしここにはガミラス残存勢力が存在するだが、彼らは地球艦隊に対して対抗などできる戦力ではない。
 そこへ、総統の命を救い同盟相手として名乗りを上げたガトランティス

 ガミラスにとってはその勢力を下支えしてくれる存在だし、ガトランティスにとってはマゼラン雲域周辺における活動が、ガミラス残存勢力の支援を受けることで容易になる。パワーバランスが違いすぎる以上、ガトランティスにとってはガミラスは大した戦力ではないが、しかし味方になってくれるならばそれに越したことはない。ガミラスとしても、地球へのリベンジとデスラー総統を救ってくれた恩義に報いる必要の両面を以てガトランティスの庇護を受ける理由がある。

  

 国民感情的には当然、色々あるだろう。

 武人として、勝利を重んじるガトランティス人にとって、敗北したガミラス人など、大した存在ではないと軽んじても不思議はない。そうなれば、好きで負けた訳では無いガミラス人も気分悪いだろう。

 だが、政治マターの案件として処理してしまえば――大帝が容認できる内容であるかどうか、総統が容認できる内容であるか。両者の同盟が妥結できるか否かはたったそれだけの問題となる。

 

 

 結論を言うとデスラー総統が個人で亡命政権を標榜しても問題はないし、勢力として亡命政権を構成しても不思議はない。

 

 

 デスラー総統のカリスマ性において帝国を保ってきたガミラス帝国は、その喪失により速やかに瓦解しても何ら不思議はない。残存勢力も、地球がガトランティスあるいは在地勢力に粉砕されても不思議はないし、地方政権かしても不自然ではない。この場合、デスラー総統の生存を知っていてもはせ参じるかは不透明だし、そもそも生存を知らない部隊が出てきても不思議はない。


 多分、本国を預かることになったであろうタランは恐ろしいほどの苦難にさらされただろう。何なら、ガミラスの内紛が発生してタランが追放された可能性もある。その結果、総統と一緒に放浪をさせられても不思議はない。

 真面目に職務を遂行する人間を追放する集団の命脈が簡単にぶった切れるのはカルタゴを見れば明らかだろう。つまり、滅亡。

 この想定では、ガミラスは滅亡不可避となる。


 例えるなら、信長政権か。

 その強力なリーダーシップで万事治めていたが、その死の途端に浪人狩りやら夜盗やらが発生。信長政権の重臣・丹羽さんなんか、軍が離散するという赤っ恥をかいた。他方で滝川さんなんて関東で敗戦をやらかしもっと残念な目に。
 

 


 反対に、生存が割合に早い段階で知らされていれば勢力としてまとまった姿を保てるだろう。総統をたまたま拾ったナスカ辺りの艦隊が本国へ身柄を移送し治療。これをタラン(この人大マゼランの防衛を司る軍司令官だったりする)が職務上知り得た情報を用いてデスラー艦大破の現場まで馳せ参じ、しかる後にガトランティスによる保護の経緯を知れば当然彗星帝国に顔を出すだろう。


 その過程で総統生存の情報がガミラス勢力圏へ伝わればそれが不確かな噂であっても、ガミラスが完全に瓦解する可能性は十分低くなる。タランが総統の生存を信じ、出来るだけ早い段階で旧本国艦隊を集結させ他ならば、その行動を周辺に見せることで大マゼラン雲の残存勢力の動揺を抑えることも可能。


 例えるなら、秀吉の中国大返しだろう。

 彼はその途中途中で銀をばらまいたり、信長は生きているだののうそをばらまいて周辺をうまくいなして明智光秀討伐まで突っ走った。

 

 

 ガミラスの行く末
 先に述べた通り、恐らくはさらばのパターンが一番悲惨だろう。

 仮にガミラスの残存勢力があっても恐らく内紛状態。旧政権である総統の元には、もしかしたら追放されたかもしれないタランのみ。ならばなおさら、総統はガミラスに帰還するためには没落の原因であるヤマトを撃破し、その手土産を以てガミラスに戻るほか、生きる道はない。

 他方、指導者を失いかつ指導者候補すら追放してしまったガミラスが、まともな勢力になれるはずはない。ヒス副総統は死に、他の幕僚もあらかた戦死か敗北の原因として忌避されるだろう。そんな中にで、ガミラスに反感を持つ在地勢力が反乱を起こしたならば? 暗黒星団帝国のような外敵に襲われ他ならば?

 帝国を再興するべく結集すべきガミラス勢力は、消滅しているかもしれない。

 

 

 ヤマト2のパターンでもあまり明るい未来ではない

 先に述べたように、ヤマト撃破は総統の願いであると同時に、総統がガミラス人全員の君主として君臨するためにはその失墜した権威を取り戻すべく避けては通れない道。幸いな事にカリスマ性は失われていないため、残存勢力を容易に集結させえたが、旧来の地域を再度征服するには反発が非常に大きいものが予想される。

 仮に地球とそれなりに有効な関係が構築できたとしても、それはヤマトクルーに対してだけ。うまくいけば長官や山南さんのような大人物が相手であれば、信頼関係を構築することは可能だろうが、しかして国民相手にそれが可能かは不明。

 

 地球がガミラスの敵でなくなったとしても、だからと言って支援を受けられるわけでは無い。結局、母星を捨てて新たなる大地を探す他ないのだ。

 

 

 

 一応、さらばとヤマト2のそれぞれでの描写からガミラス亡命政権の様相を推察した。大体、妥当な範囲に収まったと思われるが――描写が少ない為、どうしても穴が埋めきれない。

 唯一確定できたのは、ガミラスが存続する道は極めて細く危うい道であるという事。ヤマト2において生存したデスラー総統の本当の試練は、ガミラス敗戦ではなく、これからであるという事だ。