旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

戦闘考察Ⅴ・ヤマト出撃阻止(ヤマト2)

 

 

 ヤマトを阻止するための一連の戦闘は非常にもっさりしたスピード感で行われた。古代をはじめとしたヤマトクルーの行動が反乱であるのか、反乱であった場合は一体誰に反旗を翻したのか。これは評価・判断の分かれるところである。

 ちなみにヤマトが発進したのは11月4日。8月ないし9月には出撃したと見られるさらばとは、恐ろしいほどに時間軸がずれているからもう……。

 

 

 ヤマト出撃阻止1:地球上空戦
 地球側参加部隊:ヤマト
 戦力:戦艦1
 指揮官:古代進


 地球側参加部隊:地球防衛軍防衛司令部
 戦力:戦闘衛星1
 指揮官:藤堂長官ないし参謀

 

 

 ヤマト出撃阻止2ヤマト追撃戦
 地球側参加部隊:ヤマト
 戦力:戦艦1
 指揮官:古代進


 地球側参加部隊:アンドロメダ
 戦力:戦艦1
 指揮官:土方竜

 

 

 戦闘内容・経過

 第3話で中盤で見られたあまりにも危機感のない防衛会議に対し、ヤマトクルーは力を結集して単独行を強行した。地球の危機かもしれない事態に目をつむり、安全な場所で日和った防衛会議では、地球を守れない。さらに信頼している長官はこの防衛会議のせいで手足を縛られてしまっている。ただひたすら地球の害悪となっている防衛会議を退け、地球の安全を確保する――そのためにヤマトは発進を決意した――第3話ラスト。

 第4話――これに際し、防衛司令部は当然反乱であると判断してこれの阻止を試みる。反乱という形になってもまずい為、長官の横やりもあって参謀がとったのは初めは説得次いでマグネットミサイルによる威嚇攻撃最後に戦闘衛星による威嚇射撃

 これらをすべて振り切ったヤマトに対してブチ切れた参謀は直ちに最新鋭戦艦アンドロメダ差し向けこれによってヤマトを押しとどめることにした――第4話ラスト。

 

 第5話――アステロイド前面でヤマトを補足したアンドロメダだが、小惑星を前にしてもガン無視して全速で突っ込んでいくヤマトの強行軍に対し、クルーが習熟していないアンドロメダでは追跡が出来なかった。そこで土方総司令は作戦を変え、アンドロメダの速力を以てヤマトの予想進路前面へと回り込み、そこでヤマトを押し留めることとした。

 作戦は見事的中、正面から捕捉し全門の照準をヤマトに合わせる。他方、ヤマトも指向可能なショックカノン全門を以てアンドロメダに照準を合わせた――しかし、ヤマトクルーにシンパシーを抱いていた土方総司令はヤマトの行動を黙認、航路の安全を祈る電文を送信する。

 これにてヤマトは再び、困難な旅路へと舳先を向けたのである。

 

 全体的には、防衛会議の不当な決定に対し実力を以て抗議したヤマトとそれを指示する複数の指揮官の連係プレーでその決死に近い出撃を後押し。これに対して防衛会議に忖度した参謀長の独断な独り相撲というのが実際のところであろう。

 

 

 描写の妥当性

 正直、妥当であるとか無いとかいうレベルの問題ではない。5.15事件や2.26事件並みの大惨事まあ、その意味では全くあり得ない話ではないという事か。この観点から見れば、むしろ防衛会議に物理的攻撃の矛先を向けなかっただけ、すごく大人しいというか真面目というか心優しいとさえ、言えるかもしれない。

 ……贔屓の引き倒しっぽいが

 

 この手合いの椿事は少なくなく、バウンティ号の反乱ポチョムキン号の反乱など、一個軍艦の反乱というのも事例はあるにはある。後者は危うく艦隊全部に及びかけたが、ロシア帝国海軍もそこまで馬鹿では無かったため、防がれた。

 軍艦の奪取というのは一個珍しい事例があり――イタリアのあの話だ

 1914年、潜水艦技師アンジェロ・ジェローニ(Angelo Belloni)は勤務地であるフィアット社のサン・ジョルジョ造船所で建造していた輸出用潜水艦をかっぱぐってそのまま逃避行を決行した。その理由は愛国の為という、イタリアらしい伊達男ぶりで、同時代の人間や後世の人間の度肝抜いた。

 この際奪取されてしまった〈43号艦〉ロシア帝国に輸出すべく建造されていた潜水艦。イタリア海軍の比較的新鋭艦だったフォカ級の改良版であるメデユーサ級と同じ作りだが、更に改良を施した優秀な設計の艦である。ただ……問題なのは、ロシアに輸出する事。当時イタリアはオーストリアハンガリーと同盟を結んでおり、ご承知の通りゲルマン対スラブの根深い闘争によりオーストリアハンガリーはロシアと完全に反目する関係。他方で、オーストリアハンガリーはイタリアがアドリア海制海権を欲しているのを知りながら、自らがその制海権を抑えたのである。表向きは中立であるが、彼らと同盟をひそかに結んでいたイタリア的には面白くない。

 この状況にブチ切れたアンジェロ。

 無理やりにでもオーストリアハンガリーと開戦すべく奇襲を敢行し、イタリアの栄光を取り戻そうと43号艦をかっぱぐる。同艦の試験航海中に潜り込むというか、責任者足りうる立場であったため普通に乗り組み、そして非常に単純な手である命令書偽装を行い、アカデミー賞主演男優賞物の演技で極秘任務に見せかけ、居合わせた乗員を操ったのである。そうしてアドリア海オーストリアハンガリー海軍に奇襲をかけるのだかいまいちうまくいかない、まだ開戦していないというか、様子見なイタリアはちょっと待てと冷や汗

 結果孤立無援というほどではないにせよ、状況が悪くなったアンジェロはフランスはコルシカ島まで逃避行し、ここで抑留される。

 理由が理由なだけあって、結構歓迎されたらしいアンジェロ。まあまあメディアを味方につけ、政治家よりも頭が回るところを見せつけ、中々に策士であることを示す。元から潜水艦技師としてはイタリア第一との呼び声もあった為、この男がただものでは無い事は確か。

 とはいえ、当然逮捕。この男は予備とはいえ士官であったため軍法会議にかけられる。まず、ロシアが代金を支払っているものを勝手に奪った罪だが――一応ロシア国旗を揚げてロシア軍艦的に振る舞ったりしているからOKという事で切り抜けしかも裁判の途中だかで情勢が変わりイタリアはロシアと同盟を組んでオーストリアハンガリーと開戦これにより、そもそも奪取した事件自体が無かったことになり、無罪放免となった。

 以降、彼は潜水艦技師として活躍し水中の爆発だのの実験に参加したりなど、第一次世界大戦期から長い間イタリアの潜水艦技術を支えた。しかし、耳の機能がほとんど失われてしまった彼は1957年、接近する路面電車に気が付かず引かれてしまった。享年75歳。 

 なお、43号艦はイタリア海軍に編入され〈アルゴナウタ(Argonauta)〉として活動を開始。あんまり華々しい戦果を挙げることはなかったが、幸いにも戦争を生きぬこととに成功、練習艦として余生を過ごし1928年に解体された。

 

 何が言いたかったかといえ、世の中には物凄く珍妙な事が起きたりするという事。決して類例がないわけでは無いのである。そして、こんなヤバい事件を起こしても、その事件自体が国家の利益に適うならば超法規的措置が取られることもあるという事

 


 基本的には命令違反して反乱を起こしたヤマトが悪い一方、防衛会議もあんなやる気が無いというか無能晒して、平気でいられるというのも恐ろしい参謀も、あんな防衛会議を奉じて地球防衛軍の一員として恥ずかしくないのかと疑問である

 ヤマトに対する制止に関しても、長官が黙認したがっているのに、参謀が気づかなかったというのも中々痛いオッサン。純粋な軍人というわけでは無いだろうに、防衛会議相手に出来た忖度が長官に対して全くできないとは何事か。長官はマグネットミサイルの信管をわざわざ除去しているというのに……。

 特に、記録として残したら非常にマズイこのヤマトの反乱――確実に長官の経歴に瑕がつく。参謀自身も述べていたように、である。だから保身と地球の未来を考えればうやむやにするほかないというのが、事が起きてからの状況だ。それをあんなに騒ぎやがって……しかも防衛司令部や地球連邦に対するものでは無く、危機を事前に排除するためであるから……世論的にはヤマト側に傾くだろう。後々バレたら、みんな立場をなくすだろう。


 今時軍人も官僚も忖度してなんぼ――というのは非常にマズイが、実際には規律に則れる範囲・事態を悪化させない範囲ではままあり得る事。昨今ならば文春砲であるとか野党の追及を免れず、ヒアリングに呼ばれてしまうだろうが。

 規律に則った行動は非常に大事である。大事であるのだが、だからといって恐らく脅威であろう白色彗星を差し置いてヤマトを破壊しようというのは……幾ら何でも優先順位が異なるだろう。そもそも参謀が本当に規律の為に行動したかは疑問で、長官にキャリアの危機をあおるなど、大分ポリティカルな思惑があったように見受けられた

 

 さて、戦闘衛星の威嚇射撃だが……あの機動力ゼロの戦闘衛星ではその一発に全てを掛けざるを得ない。なのに威嚇射撃って。大体、地上にヤマトが墜落する危険を考えないって参謀、あんたって人は……防衛会議に匹敵する無能(正確には人でなし)としか表現できない。

 

 

 アンドロメダの機能不全は正直言って中途半端な省力化と機械の高性能化が問題だったといえるだろう。航空機の墜落事故も大抵は機体や積みこんだコンピュータのスペックがパイロットを大幅に上回り、あるいはパイロットが知り得ぬ不具合を内包し通常航行に関しては問題ないが――という話はままある。

 機械と人間が相互補完をしてこそ最も効率が高く、安全を確保出来る運航であることはほぼ確実であるが、アンドロメダにおいてはクルーが未熟でうまくいかなかった。全く新しい戦闘艦であるから、とか訓練生から採用したてのクルーであるとか、色々説明は付けられる。ただ、まさに航空業界が一時見せた非常に悪い傾向=あまりにも機械偏重をうっかり再発させるという……いかに地球連邦の防衛に関する政策の根幹の方向性が残念であったか

 事情も分からないではないが、なんとも情けない

 

 

 あと――アンドロメダの性能と指揮官が土方総司令という事から考えて、補足失敗は嘘だろうというのは防衛司令部でもわかったはずだ

 なのに、以降この件に関して音沙汰がない。ヤマトを見逃しても、ヤマト補足失敗でもどちらに転んでも明らかな不祥事なのですが……それを何だか、無かった事にしている――長官、やったね? 黙殺したね?

 参謀もついに折れたか……。防衛会議や大統領にどう報告したのか非常に気になる。案外報告してなかったりして。

 

 

 意義
 ヤマトクルーの本気度を防衛司令部に伝えると共に、クルー自身の決意の再確認。これが意義だろう。

 また、彼らのような若者が命と立場を掛けて立ち上がった――より年配で立場のある長官や土方総司令らがその姿を見て地球を守る為にはどんな手段をとることもいとわないという決意を固めた可能性がある。土方総司令だけでは無く、他の艦隊司令や艦長も同調した可能性があるだろう。

 

 防衛司令部的にはむしろ、その指導力に関して内外共に危機感を抱いただろうが、反対に艦隊側は団結のキッカケになった可能性がある。長官に近い側であれば、案外その苦しい立場と地球を想う行動に、共感したかもしれないから長官の内幕側の立場強化には役だったかもしれない。だとすれば、防衛司令部的にも一応意義はあっただろう。

 しかしまあ、ヤマトの反乱――煙突ミサイルを古臭いといったのが……案外決定打だったかも。過剰な表現だったね、といいたいところなのだが……あの参謀、第8話で通信途絶したときに、自然障害による通信障害と判断し「やっぱりヤマトでは無理だったんだ」とつぶやいたため、結構本気でヤマトをボロ艦だと思っていた可能性が高い。

 

 防衛会議にとっての意義? あるわけないじゃん。あの無能集団に意義の一画目すら理解出来ようはずがない

 

 

 地球側損害:戦闘衛星1基、防衛会議のメンツ、参謀のメンツ

 ヤマト側損害:特になし。むしろ団結して戦闘力向上