旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

戦闘考察Ⅹ・土星圏総力戦①――フェーベ沖航空戦――

 

 フェーベ沖航空戦は土星圏総力戦の緒戦である。ヤマト史上唯一の航空戦力を中心とした艦隊戦であり、地球艦隊がイニシアチブを握るべく能動的に攻撃を仕掛けた数少ない戦闘の一つともいえる。

 そして何より、決して負けられない戦いであった。ここで負ければ、地球艦隊の全滅は必至――勝手初めて対等に戦いうる。そのための戦いだ。

 


 ガトランティス側参加部隊:プロキオン方面軍
 戦力:超大型空母2(ないし3)、高速中型空母63以上、駆逐艦多数
 指揮官:ゲルン


 地球側参加部隊:ヤマト機動部隊
 戦力:戦艦1(旗艦<ヤマト>)、空母3、コスモタイガー隊複数部隊
 指揮官:古代進

 

 

 

 戦闘経緯・経過
 第20話――消息の分からないバルゼー連合艦隊

 

 その内、最も恐ろしいのは空母機動部隊であると土方総司令は判断した。何といっても圧倒的航続距離のデスバテーター、この雷撃力が主力艦隊を空襲したとあれば艦隊決戦を待つまでもなく、全滅であるこの危険性は何としても排除しなければならない

 他方で土方総司令は、その航続距離からしてわざわざ機動部隊を戦艦部隊より前方に出すはずはないとも考えた。偵察衛星等から得た情報からもそれはかなり有力。砲戦艦隊と機動部隊がどれだけ離れているかは不明だが、かなり距離があることが推測された。

 

 そこで土方総司令は考えた。

 歴戦の勇士による絶対的な航空戦力を有するヤマト、これを根幹として他3隻の空母と共に機動部隊を編成。これを以て先制攻撃、敵機動部隊を無力化する。

 他に勝利への道はない、と。
 密命に近い命令を受け出撃したヤマト機動部隊は一路ヤペトゥスへ。そしてヤペトゥス、フェーベを迂回するコースをたどりつつ極短波で周辺を索敵。消息不明のガトランティス機動部隊を探った。

 


 フェーベ近傍空間――この空間にて真田機に同乗したアナライザーが微弱な通信を傍受、付近を旋回しつつ索敵した所――フェーベの北3.0宇宙キロの地点にガトランティス機動部隊を発見。真田機はヤマトに緊急連絡を取り、これを受けた古代は指揮官として全空母に攻撃隊発進を命じた。

 


 ガトランティス機動部隊を指揮するゲルンは、バルゼー総司令との事前の打ち合わせ通り土星圏に突入、外縁部といっていいフェーベ軌道に陣取ると戦闘準備を開始。タイタン基地への攻撃隊であるデスバテーターの準備を終え、発艦60秒前と迫る。

 

 

 そのタイミングでヤマト航空隊が上空に殺到、攻撃を開始した。

 直掩機の無い状況での戦闘によってゲルン機動部隊は常に劣勢――空母飛行甲板に集中攻撃したヤマト航空隊によって迎撃機の発進も叶わず。密集隊形以外に濃密な防空は望めないが、馬鹿にならないコスモタイガーの攻撃力と味方の混乱では密集隊形すら危険。散開しても危険――ゲルン機動部隊は八方ふさがりとなる

 戦艦部隊の援護を求めたが、距離が離れすぎて支援はできず。他方、ヤマト機動部隊はヤマト航空隊の奇襲成功により、後続の宇宙空母より発艦した急降下爆撃隊の攻撃が容易となった。次々に発進する宇宙空母の雷撃隊による波状攻撃も効果的でゲルン機動部隊はすでに迎撃の手を失い、手も足も出なかった。

 ほどなくして旗艦は爆沈、艦隊は頭脳を失う。

 

 さらに戦艦たるヤマトがフェーベ沖まで前進、航空隊が仕留め損ねた空母に攻撃を集中してこれを撃沈。さらに護衛の艦艇にも砲撃を加えることガトランティス機動部隊を全滅に追いやった。

 

 

 描写の妥当性

   たった4隻の空母で、どうやって巨大なプロキオン方面軍を粉砕できたのか――これは考察しなければならないだろう。

 

 まず、ヤマト機動部隊は実質空母4隻、多くて概算160機程度(ヤマト40機、空母70機計算)。ミサイルは描写からすれば大体一機当たり4発程度だろうから、総数で640発が見込める。この部隊の最優先課題は味方主力への空襲を阻止する事、つまり優先すべきは空母・総数約66隻の沈黙ないし撃滅だ

 単純計算で一隻当たり9発程度を当てることが可能――描写から考えると撃沈には3発程度か。だとすれば全機発進させて攻撃を加えれば十分に撃滅が可能といえる。計算上は第一波攻撃でも十分に有効な攻撃が可能=宇宙空母やヤマトの艦載機収容数が想定の半分程度であったとしても、全機発進であれば100%に近い確率で撃滅可能と判断できる。

 また、加藤隊長や山本隊長がご丁寧にも空母へ攻撃を集中し、飛行甲板にも全力で銃撃を加えていった。当然発進口にも損傷が出るだろう。これで迎撃機の発進も叶わなくなり、ゲルンは反撃の手を失ったといっても過言ではない。手も足も出なくなった空母は、最早単なる火薬庫以外の何物でもない。だから後からゆっくり調理してやっても十分間に合うのだ。

 ガトランティス空母が沈黙すれば、それで作戦は完全に成功といえよう。

 

 ヤマト機動部隊が全力を挙げて攻撃を敢行すれば、ゲルンの機動部隊を全滅させることは数的には可能だろう。また、コスモタイガー隊が銃撃して無力化した――いわば役に立たなくなった空母もあったとするのが妥当。そこへヤマト自身が前進し艦砲射撃によって残存艦に対して砲撃を加えた。

 まとめると、コスモタイガー隊の攻撃によって空母が全滅したのではなく多数撃沈され残存は無力化された

 その無力化された残余をヤマトが砲撃した事で文字通り全滅した。と説明できるだろう。正直、他の空母が砲撃に参加してくれても、絵面的にはよかったかもしれない。

 

 

 攻撃タイミングに関しては、偶然。そして、どのタイミングでも作戦は十分成功しえたと断じれる。つまり――

 仮にゲルンの急降下爆撃隊発進済みであった場合も、母艦を粉砕できれば味方艦隊に対する二次攻撃を阻止できる。

 味方の危機に際して反転、ドッグファイトを仕掛けてくるかもしれない。だったら主力艦隊の被害を抑えられるのだから御の字。そのまま攻撃隊が進撃したとしても警報を発すれば土方艦隊が迎撃態勢をとることも可能。

 発艦中ならば一番危険な状態であるからして、ここで寄ってたかって空襲すればたちまち機動部隊は火だるまになる。

 ヤマト機動部隊は攻撃タイミングに関して言えば、すべて自由で任意のタイミングで自分の好きなように攻撃すればよかった。ゲルンに気づかれる前に攻撃が出来たという事、これが一番重要

 

 あまりにも無謀な全力投入に関して言えば――ヤマト機動部隊の目的は、地球艦隊本隊への空襲の阻止これが達成できるならば、必ずしもゲルンのプロキオン方面軍を殲滅する必要はないこれが達成できなければ、ヤマト機動部隊の存在意義はないヤマト機動部隊はこの目的のために刺し違えてでもゲルン機動部隊を沈黙させねばならなかった。だから、逆空襲を受ける危険を賭しても全力発進をする必要が有った。と説明できる。

 作戦目標がプロキオン方面軍の沈黙であれば奇襲の一回に賭けて全機を出して攻撃する意義があり、第二次攻撃を敢行しようにも強襲になってしまい、むしろ出し惜しみすれば空襲の効果が薄まってしまう。実際、奇襲的攻撃に成功したはずの雷撃隊でさえ、ヤマト航空隊よりいくらか多めの損害を負った。

 故に古代は、彼個人の攻撃的な思考パターンによるところもあろうが、まずコスモタイガー隊全機や空母所属急降下爆撃隊全機を発艦させて攻撃を敢行。

 これは十分理に適った戦闘指揮と言えるだろう。

 

 まあ、航空隊の実際の指揮官はあの第一空母の艦長で、どっちにせよ発見即攻撃であるから発進命令は司令官たる古代に譲った、という事もあるだろうが

 

 

 対するプロキオン方面軍直掩機を上げ忘れたのか、直掩機の滞空時間ないし搭乗員のシフトに依るものか、いづれにせよ直掩機が上空には無かった。

 これは非常に痛い、痛すぎる。ヤマト機動部隊の攻撃タイミングと同様にご都合主義と疑われても、仕方がないか……。

 無人機でない以上、滞空には制限があるだろう。あるいは軍律でシフトが決まっていれば、それに従うほかない。描写的にどうも、緊急的に格闘専用の迎撃機を発進させる機構が超大型空母に関しては存在しているらしく、ゲルンはこれを利用したが――第一波の攻撃に対して反撃がまごついたのがケチの付け初め、発信直後に銃撃を受けて機構ごと爆散

 多分、同種の機構は高速中型空母にはないだろう……。緊急的な直掩を超大型空母が担っていたと仮定をした場合、その超大型空母にがっつり攻撃が集中していたのは描写の通りであり――そりゃあ……ドミノ倒し的に迎撃が後手後手に回って反撃が出来なくなるのも無理はないか。

 と、この辺りの理由づけで説明としたい。

 

 直掩機が上がっていなかった事は大問題だが、その理由は幾らでも説明できるだろう。もっと痛いのは、下方甲板が使えなかった事。やはり回転させてなければ発艦は危険とガトランティスが認識していたか――そもそも空襲の切れ目がなければ回転しても火だるまになるだけだから動かさなかったのか。仕方がないともいえるのだが……。

 やはり、ヤマト航空隊の攻撃をまともに受けてしまったのが痛すぎた。アレで機動部隊の防護機能がほとんどすべて失われてしまい、ただ屠殺されるだけとなってしまったといえよう。

 

 

 類似の事例

 ミッドウェーで南雲機動部隊はいくつかの凡ミスと、そもそもの作戦自体の困難さに加え、偶然によって止めを刺された。

 

 いつも天候不順で実際今まで天候不順なミッドウェー島周辺が、まさか決戦直前に空が割と晴れるなどと司令部の誰が予想したか。

 まさか米空母が2隻どころか3隻も現れると誰が予想しただろうか。

 誰がエンタープライズ艦爆隊とヨークタウン艦爆隊がほぼ同時に現れ空襲を敢行すると予想できただろうか。しかも、直掩機が疲れてきたタイミングでの襲撃など、想定外の出来事であっただろう。

 

 爆装から雷装に変えなければよかったとか何とか言われるが、そんなことはまったく関係ない。基地航空隊と空母を相手にしているという事が判明した時点で実は積み。それまでの軍令部や連合艦隊司令部の戦闘計画ではどうにもしようがなかった。どうやっても味方空母の損害は免れ得なかった。

 もっと言えば、桂島の時点で実は兵員の疲労や補充による訓練不足に加えて艦の整備不十分など、ソフトの面でもハードの面でも南雲機動部隊は数値に表せない戦力が不足していた。

 

 もし南雲中将に判断の余地があったとすれば、後に南太平洋で自身が行ったように戦闘を終了し全速力で敵空母の攻撃圏から退避するか、あえて敵空母に接近して砲撃戦すら視野に入れた刺し違え覚悟の超積極攻勢に出るかの2択しかなかった。

 どちらにせよ、大損害は免れない。

 ニミッツ提督曰く、もっと戦力を集中させたなら――南雲にその権限はない。

 

 

 ゲルンも同じ。ヤマト機動部隊の空襲を受けた第一波の段階で撤退をする他なかった。少なくとも艦隊を全速でコスモタイガー隊の飛来した方向から明後日の方向へと距離を取ることが善後策。ただ、合戦の露払いと意気込んだゲルンにその判断が出来たかといえば多分無理。その場で踏みとどまって迎撃するという選択になってしまったのも無理はないだろう。

 結局、迎撃がうまくいかずバルゼーに助けを求めるが、しかしすでに艦隊はその戦力をほとんど無力化された状態であり、危険を犯してまでプロキオン方面軍を救援する合理性はなかった。この時点でゲルンの敗戦は確実であったし、バルゼーの「護衛の艦隊を結集して蛆虫どもを追い払え!」の激励は――彼があの時点で出来る最大の支援だったという事になってしまうだろう。

 

 旗艦は爆沈、ゲルンを失った艦隊は制御を失う。

 他の超大型空母も当然損害を受けているだろう、もしかしたら誰が最先任士官であるかがわからなくなったのかもしれない。だとすれば、命令一下の縦のつながりが基本の軍では――恐らく、組織的な反撃は無理だっただろう。

 この誰が先任であるか、誰が誰の先輩であるか、案外……軍って階級に関しては杓子定規で面倒だから、いざってときにややこしい事になる。

 

 

 フェーベ沖航空戦に関しては、全体的に「そんな展開ある?」と聞きたくなるようなストーリー展開ではあるが……これも冷静に説明を付けようと思えばいくらでも可能。故に、そんな展開も現実にはある。ないのはフィクションの世界のご都合主義な場面のみ。

 あとは、幾らか描写をプラスすれば十分合理的なストーリーにすることが出来ただろう。つまり、ご都合主義といわれるほどの内容ではないと断じれる。

 

 更に補足するならば――歴史上、このような情けない話はなくはない。

 あなたたち……ちょっとどうなんだろう――といいたくなるような珊瑚海海戦、

 その後の影響を考えると頭が痛くなる南太平洋海戦、

 話にならないことが立て続けに起きたマリアナ沖海戦。

 これら人的ミスと構造的ミスと偶然が重なった結果のだらしない敗戦というのは歴史上あり得る話だ。

 こんなしょうもない事で多数の人命が失われたと思うと、悲しいけど。
 


 意義
 彼我共に作戦自体の方向性は、積極的艦隊防空。

 地球艦隊は基地を背後にしなければ、プロキオン方面軍ほどの大機動部隊を迎撃できないが、確実ではない。むしろ圧倒的多数と対峙しなければならない今次作戦においてはむしろ基地ごと粉砕される危険性さえあった。

 それを阻止するための予防的空襲であったといえるだろう。


 このフェーベ沖の勝利によって土方総司令の主力艦隊はデスバテーターの大軍とうい最悪の懸念を排除する事に成功。バルゼー総司令率いるシリウス方面軍との戦いに注力することが出来た。これも一つ意義だろう。

 


 ガトランティス側からすれば、空母の集中運用の危うさを認識したことが意義だろう。また、地球艦隊が外見で観察できるような物量押し、力押しの集団では無く、頭を働かせ策謀を巡らす一筋縄ではいかない組織であるという事がはっきり認識できた。これも意義と言えるだろう。

 やはり空母は直掩機がなければ敵の襲来には無力であり、ガトランティスのようなガバナンスの強固な軍隊においては指揮官を失った艦隊がいかに無力かを示した。

 最も興味深いのは、ガトランティスが軍人気質と武人気質の中間の気質を持っていることが証明されたと言える。これは視聴者にとっての意義かも。

 


 ガトランティス側損害:プロキオン方面軍全艦喪失
 地球側損害:ヤマト航空隊多数機、第一・第二・第三空母所属航空隊多数機