旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

ストーリー考察Ⅳ パワハラ疑惑・上司の質(新たなる旅立ち)

 
 新たなる旅立ちとパワハラ
 昭和の作品だから描写に含まれるのは仕方がない。とはいえ、これをスルーするのはそれはそれで問題だろう――というのは前にも述べた。

 前回は対象となるであろう事案とその原因に焦点を当てたが、今回は上司に関して考察してみたいと思う。

 

 

 上司の質とパワハラ
 普通の感覚の持ち主なら、部下がよっぽどのバカをしない限りは傍から見てパワハラになるようなことはしないだろう。する環境が発生しないのだから。

 

 例えば、飲食店で裸でお盆で局部を隠すような事をすれば、それは見つかった瞬間に「ふざけた事してんじゃねぇ馬鹿野郎!」とか言われてもこれは仕方がないだろう。これに死ねまでトッピングされていれば暴言になるかもしれないが、そもそも問題行動をすべき理由がないのにわざわざする方が悪い。

 モラハラ発言があったとしても、上司と部下の関係性が親密かつ良好であれば全てが全て咎められるわけでは無い――というか、個人的な喧嘩との境が不明確になる為、両成敗が妥当だろう
 

 上記のような極端な事例でなくとも、上司のパワーに直面することは……残念ながらあるだろう。理想、というわけでは無いが上司たるもの部下を叱責するための手練手管はある程度身に着けておいてほしい。仮に、暴力一辺倒や暴言一辺倒ではそれは叱責ではなく単なる憂さ晴らしと言わざるを得ない。

 

 山本五十六の『やってみせ 言って聞かせて させてみて 誉めてやらねば 人は動かじ』や『人は神ではない、誤りをするところに人間味がある』

 ジョージ・パットンの『Never tell people how to do things. Tell them what to do, and they will surprise you with their ingenuity

 なにも誉めそやせというわけでは無く、教える側に一切の非がない前提しかも相手を過剰に叱責するのがおかしい。という話である。万全を尽くしたうえでの失敗ならば、これは叱責というより注意程度にとどめた方がいいし、慰めの方が必要かもしれない。まして自分の指示の出し方や教育が悪かったならば、これを部下に責任転嫁するのは恐ろしく無能というか非人間的であり……そこはロジェストヴェンスキー提督のように非を全部被るくらいの覚悟があった方がカッコいいだろう。彼も色々ある人だったが、軍法会議の場ではカッコよかった。


 要は、どうしてそのミスが起きたのか。

 次いで、叱責の方法はどうすればよかったのか。

 この2点に注意を払わねば、叱責の方法が丁寧でパワハラに全く該当しなくても、そもそも無意味な話になる。仮に内容に整合性や正当性があっても、その方法に問題があれば、これはその効果を発揮しないだろう。

 

 

  波動エンジンの緊急停止――山崎さんの指導

 山崎さんの件に関しては叱責した事自体は正しいが、方法が不適切

 頭ごなしに馬鹿野郎、と言いたくなる気持ちは分かる。機関部員がミスってエンジンを台無しにしたら恥さらしどころの話ではない。馬鹿野郎といったのも、とっさの事で出てしまったのだから仕方のない面は大きい。

 ただ、亡父徳川彦左衛門の話を出したのは適切だったのかを後でリスクマネジメント委員会辺りに詰問された時、山崎さんは切り抜けられるだろうか。あの一言は余計だっただろう

 処分は――割合に二人の関係性が良好であることを考慮すると、太助への謝罪を行わせた上での口頭注意ぐらいであろうか。しかし、これも、ヤマトに批判的なリスクマネジメント委員会が調査を担当すれば、かなり情勢は厳しくなる。防衛会議の皆さん、出番です。

 

 

  坂本への叱責――古代君の指導

 さて、古代君は――マズイ。だって物理的に殴ってるもの。挙句、「艦載機はおもちゃじゃないんだ」と叱責の内容が薄い。

 顔を合わせてちょっとした時間程度で叱責を出来る坂本の行動はそういうたぐいの問題行動ではない。宇宙戦士としての資質に関わる、もっと本質的な内容。当然、殴って叱責できる問題ではない。坂本が基本的に能天気な性格であったおかげですくわれたが、恨みがましいタイプであったならば、殴ったらずっと根に持たれていただろう。それはそれで別な問題を引き起こすだろう。

 確かに坂本は自分が尊敬している相手以外の話は聞かないタイプかもしれない。この場合、暴力はまずいが、消極的態度はなめられる原因になるだろうから得策ではない。が、殴らずとも断固たる態度は取れるだろう。考え得る方策は――格納庫内で軽く叱責、次いで艦長室辺りに(森班長か島君を同席ないし外に待機させた上で)呼び出して眺めに説教、厳重注意。というのが妥当な線だろう。

 

 沖田艦長も割と手が出るタイプの人であったが、一方で時間をかけて相手と会話することも忘れていたわけじゃない。むしろ両方を大事にしていた昭和のオヤジであった。この指導方法にも問題はあるが、全否定するよりもいい部分をピックアップカツブラッシュアップしてダメな部分を如何に切り離すかを考えた方がいいだろう。

 しかし残念ながら古代君は一番大事な後半部分を、必要が有れば会話を重ねるという事を、学び損ねていたらしい

 

 

 古代君は更に一つ問題行動を起こしている

 あのパンツ一丁艦内マラソンである。これはまるっきり意味が解らない。

 前方不注意による墜落の危険というのは、これは普通に叱責なり処分なりを下せばいい。もっと言えば、古代が流星を破壊したわけだから坂本機が損傷したわけでは無い。訓練中の、その内容に重きを置くならば多少の処分をすればいいし、全部もみ消す気なら、本質をついた叱責――激怒しても構わない――をするべきだった。コスモタイガーをおもちゃにした時と、死ぬかもしれなかった不注意、この両者を比較してどうして前者の方が攻撃性の強い叱責になってしまうのかが、理解不能。仮に強く叱責、ないし告諭もせずに断固たる処断をしたとしても、最悪佐渡先生辺りの話しかけやすい人物にアフターフォローを頼むなりをすれば、十分今度のガバナンスは取れるだろう。

 もし坂本を何とか監督下に置きたいというのであれば――古代は自分で坂本に戦闘機乗りとしての力量の差を見せつけるという、徹底抗戦の術を持っているのだからそれを使う方がいい。殴るよりも、翼で格の違いを見せつけ、少し頭使った言葉で教育をする方が、多分坂本の為にもなるし古代自身の為にもなっただろう。

 重ね重ね残念。



 北野君への指導に関して言えば、彼に怒りと叱責の矛先を向ける事自体が、もうお門違いも甚だしい。

 新人教育で一発で実弾射撃。これはヤバくねぇか? その決定をしたのは古代、あんただぜ?

 

 かつての日本海軍――のみならず、戦闘艦艇の射撃訓練は実弾より当然、演習弾を用いた。中身のないガワだけの砲弾であるとか魚雷であり、実物より安い。安いし、爆発しないタイプであれば回収が可能。また、砲弾などは所定の飛距離を超えると落下するように色々と細工がしてある為、安全性が高い。縮射弾という、飛距離を通常より落とした砲弾というのがあり、これは旧日本海軍でもよく用いられた。また、照準演習機なんていう物も存在し、必要に応じて利用した。

 より古いというか、古式なやり方には内膅砲や外膅砲を用いた訓練がある。

 前者は小口径砲(普通は小銃を改造したもの)を大口径砲の内側に収めた、その小口径砲の事で、主に出番はターゲティング訓練時。仰角何度でどこまで飛ぶか、という大前提と照準を合わせる時の感覚を磨く訓練に用いる。ただ、小銃は当然、ちいせぇ。砲が大きくなればなるほど、内膅砲が放つ弾とのギャップが開きすぎて、あんまり訓練にならない。ちいせぇ弾があっちこっちに飛び交うから観測も面倒。

 と、結局大口径砲の訓練法としては廃れて後者=外膅砲という小銃に比べればはるかに大型だが主砲に比べれば極めて小口径な砲を砲身の付け根の外側上部に据え付けてぶっ放す訓練方法へと変わった。こちらは実戦の雰囲気をより確かに砲術員に体感させることが可能で、高度かつ実践的な訓練であったという。

 これらはあくまで砲側照準を重視した訓練であり、必要なデータを正確に収集し中央で統括・照準する方位盤射撃が重視されてからは二の次とまではいかないが重要度は下がった。方位盤射撃だって、多少は誤差が出るのだから結局は各砲の砲長が微調整する必要はあっただろう。

 

 ともかく、実戦目前のような場面や一連の訓練の終局においては実弾射撃はあり得るだろうが、初っ端から実弾射撃はアグレッシブすぎる。案の定、北野君はミスった。砲術員もレベルが低く――だから死者が出なかった――という、何だか残念な展開になっている。これは古代君の立てた訓練計画が残念過ぎた結果ではないだろうか

 考えても見れば古代君もおととしぐらいに初実戦を経験したばかりの若輩。今年あたりに初めて艦隊指揮などを任せられたが、しかしあくまでそれは戦闘の部分ガミラス戦を生き抜いた同期ないし先輩という気心知れた連中によって運用されるヤマトしか、彼は今までちゃんとした指揮を執ってこなかった。多分、必要な昇任試験とかも特例でパスされているのだろう。

 古代君の艦長代理としての責任能力・職務遂行能力は必ずしも保証されたものでは無い。そう言えるだろう

 

 だとすれば、今回の北野君の失態は……その責任の一端は古代艦長代理も被るべきものでは無いのだろうか。責任とまではいかなくとも、不備を造ってしまった元凶の一人として反省をする必要はあったはず。これを棚に上げて北野君に全ての責任を押し付けるというのは中々に鬼畜

 それよりなにより、パンツ一丁で艦内マラソンをさせる意味が解らない。お調子者な感のある坂本君なら、この辱めも案外気にしないかもしれない。ただ、優等生の北野君はどうだろうか。彼が思いもよらず、実は脱ぎたがりのボディビルダー気質な人物であれば、屁でもないだろうが……場合によってはこれの件で心にダメージを負って退職という可能性もなくはない

 

 まあ、奇跡的に坂本君も北野君も打たれ弱いタイプではなく、結構プライドと挑戦心の強い人間だった。加えて体型も人に見られて問題ないバッチリスポーツマンだった。仮に、他の人間だったら古代君はリスクマネジメント委員会で確実につるし上げを喰らっただろう。降任か免職、戦力をかき集める必要が有る時期を鑑みて停職か降任――場合によっては戒告か減給が想定される。

 少なくとも、ああいう理不尽かつ効果の薄そうな懲罰を行ったのだから、しっかりと会話を重ねるなりして信頼関係を構築しなければならない。そうでなければ宇宙戦艦ヤマトを機能させることは不可能である。これは古代進個人の問題として残された課題といえよう。

 

 

 全般に言えることは、古代君は人の上に立つのにふさわしい人物とは言えないという事。方針はブレるし、直情型で半独断と、妙に一人で思い悩む……指導者としての資質に大いに欠けていると言わざるを得ない。いっちゃ悪いけど。

 無論、人を何となくな感じで取りまとめるのは得意だし行動として合理性のある面が多い。それなりに観察眼もある。が、部下を取りまとめる能力には欠ける。共感力は高いが、論理的説得力に欠けている。これは上司としては致命的。 現実の世界にも、この手合いの……人として付き合うには結構人当たりがいいし、頼れるリーダーだが役員になるには能力が足りない人物、結構いるだろう。

 司令の副官辺りとしては、司令官が土方司令タイプであれば――創造性が高く周りを惹きつける古代参謀は、実務的な能力に欠けたとしても司令部としてかなり強力な体制となっただろう。が、さらばと完結編でしか状況としてその任を果たせていない。

 指揮官として古代君はまだまだ相応しい人材には育っていない。育っていない人材が、相応しくない立場にあったのだから、ひずみとしてパワハラが発生するのも仕方がない面もあるだろう。良い事ではないが。

 

 

 

 ぶん殴って叱責に代える――これは昭和アニメ特有の現象。として片付けることは可能だし、実際そうだろう。

 他方で、これに現代的な解釈を加えた場合は、人間の行動的にあるいは組織的なひずみという“ある種の深み”を物語に加えることが出来る。

 2202でも〈ゆうなぎ〉の単艦突撃という、軍事的に大して意味がないというか迷惑な行為があったが、あれも古代の司令官としての資質の欠如ないし未熟さと説明が可能。波動砲を撃つ撃たないという葛藤も含めてある意味、彼の本質は捉えていたのかもしれない。2199の漠然とした異星人への共感といい、リメイク2作連続で再現できていた……と言えるかも。