ストーリ-考察Ⅰ-2 太陽観光船遭難――破滅的事故――
ヤマトⅢを構成する重要な出来事、それが太陽観光船の遭難である。
重大事故
23世紀初頭、地球人類は何と民間旅行で太陽の間近まで到達できるに至った。太陽観光船は宇宙港を飛び立ち、水星の近傍空間で舷窓に広がる宇宙の脅威を観察できるのである。
しかし、そこへガルマン・ガミラス帝国東部方面軍第18機甲師団艦隊の放った惑星破壊プロトンミサイルが偶然にも接近。猛スピードで直進するミサイルに対し、土門の母親が気づいたものの時すでに遅し。運悪く船内が観光モードに入っていた太陽観光船は回避行動をとれなかった。
ミサイルはそのままフィンで太陽観光船を破砕し、太陽へと突入していった。
古代ら戦闘員を含む人員を観光船の航行ルートに投入して捜索を敢行するも――観光船は木っ端みじんになり、残骸は原型をとどめず、残念ながら遺体は見つからなかった。恐らくは水星の引力に引き付けられてしまったのだろう。
この事件の直後から太陽は太陽の核融合は異常増進を始める。
原因と責任
原因は以前にも述べたようにコリジョンコース現象。加えてミサイルの速度。
軍事船舶ではない太陽観光船では、最高性能のレーダーを備えているとは思えない。また、太陽観光船をひっかけたプロトンミサイルはガルマン・ガミラスが誇る戦略ないし戦術ミサイルであるため、恐らくそれなりのステルス加工はされているだろう。
この想定が正しければ太陽観光船側は目視以外ではミサイルの接近を感知できなかった可能性が高い。
レーダーにミサイルが映らなかったとすれば、最早目視に頼るほかない。だが、目視で何とかなるような速度であったかは――大いに疑問。
現代の普通のミサイル程度の速度だとすれば、彼我のスピードの差の大きさを鑑みれば視界を横切る軌道であれば目で追えるだろう。まあ、目で追えたとして、丸腰では何かできるわけでは無いだろうが。
ところが太陽観光船の相手は惑星間を飛翔可能な高速飛行体。訓練されていない民間人の目で追えるようなスピードとは……思えない。挙句、真正面に突っ込んできたのである。船内は観光モードでまったり状態、しかも後方からの接近であるから船長も見張り員も一瞬気づくのが遅れても当然だろう。仮にに気が付いたとして、エンジンをかけて回頭して――とやっている間に結局船尾を破砕された可能性がある。
太陽観光船側が早くに気が付いたとして、どっちみちミサイルのフィンに引っ掛けられて爆散した可能性が高い。
つまるところ、太陽観光船も太陽観光船を運航している会社も責任はないと言って構わないだろう。
太陽観光船側に非が無いとすれば、事故を防げなかった点について、これは防衛軍側に責任があるだろう。
太陽系を全周囲うアステロイドベルトに防衛線を敷いているのにもかかわらず、防げなかった。これは防衛線に大きな穴があるという明確な証拠であろう。
結構前からミサイルが突っ込んできているという事を判っていたにもかかわらず、どこにも警鐘を鳴らさず、戦闘艦隊を配置することもせず、雷撃艇での迎撃という中途半端な迎撃態勢。これは危険を放置したと言われても仕方がない。
確かに、防衛軍はガトランティス、暗黒星団帝国の連続した襲撃を受け、大損害を負っている。だが、しかし、そうだとしても、太陽系圏内の防衛戦力が明らかに手抜きといえるほどのレベルの低さ。あまりに質が低い。
戦闘艦隊の即応体制は全く構築出来ておらず、結局アルファケンタウリでのダゴン艦隊の襲撃に対してワンテンポ遅れてしまった。アステロイドベルトに配備した防衛戦力もあれだったらブラックタイガー隊の方がまだ信頼がおける程度。警戒網も十分ではなく、惑星を基準にしたものであろう、全く太陽系内部をカバーできていない。
戦時体制ではないから、といっても太陽系圏内を危険にさらしても問題ないという事ではない。
特に地球は妙に攻撃対象に選ばれがちな惑星なのだから、それを鑑みて準戦時体制を平時とし、ガトランティス戦役時のように艦隊戦力のほとんどを結集させた状態を戦時として設定して地球圏の防衛に当たるというのが当然のように思われる。
これはご都合主義な無尽蔵の戦力を避けたというよりも、物語を展開させたいが為の結構無理をして手薄にさせた、ご都合主義的な戦力配置という表現の方が正しいかもしれない。
手薄な戦力配置を多少、擁護すれば――地球の資源状況なども考えれば多少手薄になるのも道理ではあろう。戦力の欠落を埋める為に配した無人艦隊や戦闘衛星はいづれも大した戦力にならず、敵の奇襲に対する急場しのぎがせいぜい。普通に有人戦力を投入した方が確実という判断になるのも不思議はない。
だったら無人艦隊の性能を上げればいいだけだが、この教訓が生かされていないのは大いに問題だが、完結編の非省力化傾向の原点回帰への巨視的な結節点としては十分評価に値するだろう。
それに、平時のシビリアンコントロール用の機構=防衛会議がまだ存在しているのならば、彼らが手続き上の障壁になって効果的な戦力配置への転換に失敗したと説明は可能。この場合、第一に責任を負うべきは防衛会議になり、ひいては最高司令官たる連邦大統領が責任を取るべきだろう。
アメリカやイギリスが最盛期から時代を下って、割と非効率な戦力構成になっている、と言うような現実世界にも割とあり得る話だからこの設定や物語自体は者に構えてみれば何とも不気味なリアリティとも表現できるだろう。
そもそも論として、ダゴンがちゃんと流れ弾の処理をすれば事故など起きなかった。アイツが一番悪いし、報告をさせなかったガイデルも相当に悪質。
この事故なくたってヤマトⅢのストーリーは十分展開できたのにね。土門君が可哀想だとは思わなかったのか製作陣よ……。
影響
まず、土門君が大きな影響を受けた。不必要なまでにガルマン・ガミラスに対する敵愾心を抱いてしまった。時折見せる不必要な反抗的態度、発想。大きな問題には発展しなかったが、ついぞガルマン・ガミラスとの心理的和解はならなかった。また、太陽制御に対する不必要なまでに英雄的行動に出がちな心理的効果をもたらした可能性も否定できない。
一方で地球連邦というものには大した影響が良くも悪くもなかった。事故は事故として処理され、責任の所在は劇中では語られなかった。防衛ラインの強化も行われず、ラストエピソードではベムラーゼ親衛艦隊の太陽系侵入に対して全く反抗できなかった。
事故そのものは概ねご都合主義ではない。むしろ、あまたある恒星の中でなぜ太陽だけにプロトンミサイルが突っ込んだのか。こちらの方がよっぽどご都合主義で整合性を取るのは困難。というか、他の恒星で同様の事故が起きていない時点で不可能に近い。
整合性の点では、オリオン腕周辺域で多数の恒星が核融合の異常増進を始めまくっているという異常現象を調査する。ストーリーの発端とした方がよかったのではないだろうか。
事故そのものはその処理も、航空事故などで見られるように、政治やら何やらのパワーが介入するとこんな感じの結末になるという点で、ある意味ではリアリティがある。
ただ、細かいところでご都合主義であったり、ご都合主義ではないが合理的ではない展開、説明不足な展開が多く見られた。また、土門個人のキャラクターを深く掘り下げる為に必要なエピソードであったのだろうが、大して効果的ではない。
彼は古代の跡に続く存在としての位置づけを想定していたと考えられるが……その意気込みの割には本編にはうまく組み込めず。挙句に、結果的に古代と土門のキャラがただ被っただけで挙句に揚羽が土門と立ち位置が被ってストーリーが重層化したのではなく煩雑化しただけになってしまった。
申し訳ないが――無きゃ無いでいいエピソードだった。そう言わざるを得ないのがこの太陽観光船の遭難事故である。