旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

ストーリー考察Ⅲ ヤマト名物・派閥闘争

 

 

 ヤマト名物はいくつかある。例えば誘爆、時間軸のすっ飛ばし、数値の明らかなズレ。そして忘れてはならないのが、必ず起きる派閥闘争である

 ヤマトⅢ、第2話の話である。

 

 

 以前の闘争

 ガミラス戦役においては、これは反乱という形で起きてしまった。つまり、藪らイスカンダル残留派と古代ら主流派。まあ、期限までに帰還できるかわからない、帰還できても地球が再生できるかわからないのだから、人類種を残すという観点からはわからないではない行動。

 雪を拉致った、気味の悪い行動ではある――14万8000光年の長大な宇宙空間を孤独ともいえる過酷な環境を過ごしてきたのだから、多少狂った行動を取るのも仕方がない面もあるのかもしれない。もっと言えば、艦内の意思統一がうまくいっていなかった――艦長代理の威厳の問題もあるにはあった。

 

 ガトランティス戦役において各所で地獄のような闘争が繰り広げられ

 さらばの方では明らかにヤマトクルーが冷遇されていたが、長官の存在を鑑みるとこれはガミラス戦役従軍者に対する冷遇という表現が可能だろう。つまり、ヤマト派と新地球艦隊派とが結構入り組んで闘争を繰り広げていたのである。

 他方でヤマト2においては白色彗星の脅威評価やヤマト出撃にまつわる明確な意見の衝突。この派閥闘争が更に発展し、何と1個エピソードとして描かれるに至る。つまり、第18話の土方艦隊司令部派と参謀らの防衛司令部(防衛会議)派の指揮権をめぐる対立だ。忘れてはならないのは、シリーズ通して底流として存在する防衛司令部内部の長官ら艦隊派と防衛会議・連邦政府派の対立、これも見逃すわけにはいかないだろう。

 

 防衛会議関連の政治的闘争は論外として、しかし防衛司令部と艦隊司令部の対立は秩序と緊急事態における実際的な問題の対立である為、起きてしかるべし。少なくともその指導者である藤堂長官(当時は個人名なし)と土方総司令の底部では共通していても立場が違うために互いに相いれなかった。

 これはいづれ到来する危機として事前に対応策や法律の内容を調整しておくべきだったが、多分に政治的対立も背後にある為当事者同士ではどのみち調整はつかなかっただろう。ただ、政治がどれほど地球の命運を真剣に考えたかは不明だが、防衛司令部内では、あの参謀ですら戦略的観点からの発言に終始した。その意味では方針は違えど目的は一致出来ていたと言える。いわば、まともな人間同士がまともであるがゆえに起きた闘争。

 

 小さなところでは空間騎兵隊とヤマトクルーの対立が見られたが、これは親分同士の話し合いで割合簡単に片が付いたから、まだかわいい方。あと、人間教育派と技術革新派の対立もあったが、あれは土方総司令の存在のおかげでいい感じのラインに落とし込まれた。

 

 

 幸いな事にウラリア戦役では派閥闘争的な対立は――残念、ないわけでは無かった

 有人艦艇派と無人艦隊派の対立である。ガトランティス戦役当時の防衛会議の明らかに利己的で無意味な輩のかましに比べれば、無人艦隊派にも有人艦隊派にもそれぞれ大義名分があった。人間を根幹とし、そのサポートを機械が行うとすべきという有人艦隊派、人員が確保できないのだから無人に頼らざるを得ない無人艦隊派――この闘争の発生は合理的だろう。

 縄張り争いのようなことになれば大惨事だが……。

 

 

 そして今回の闘争……

 はっきり言って最も醜い類の、嫌な闘争である完全に学閥とかその類の闘争で、地球人類の未来を守るという議会に全く欠けた内容だ。どこにも正義などありはしないという救いようのない闘争

 

 地球連邦大学宇宙物理学部長サイモン教授はいち早く太陽の異常増進を観測・確信した人物である。一方でその対立相手となった黒田博士は太陽エネルギー省観測局長――つまり、地球連邦政府の内部の専門家である。テクノクラートという事だろう、日本出たと言えるならば気象庁長官に近いか。

 問題は黒田博士が政府のパワーを利用して地球連邦大学総長を味方につけてサイモン教授を追い出した事。地球連邦首相、あのおっさんやりやがったな……大学は常識で考えれば呼び方はどうあれ文科省や教育省の管轄だろう。この類の省の管轄権を利用して大学に圧力をかける、その上でサイモン教授を追い出す。しかも自分の観測データや学説といったものを援護するための行動であるのだから擁護はできない。

 

 このような緊急の事態においての学閥闘争は現実世界にはあまりないやってる場合じゃないもの。仮にあったとしても在野対アカデミー程度で大規模な闘争は見られない。普通、学閥闘争は平時に行う事で――だから緊急時に行われたサイモン教授対黒田博士の闘争は一切擁護すべきではないし、しようがない。

 

 

 現実世界の学閥闘争で有名なのは――東大対京大だろう。東大の白鳥庫吉から始まる邪馬台国九州説と京大の内藤虎次郎から始まる邪馬台国畿内説。内藤湖南による唐宋変革論も、日本国内で唐と宋で変革が起きたという点においては一致しても……後に宮崎市定ら京大系の中世から近世への転換という学説と、周藤吉之ら東大・歴研系の古代から中世への転換という時代区分論争。

 はたから見ていると馬鹿らしいが、内幕を少しでもみると――大人げないというか、人間ってこんなに醜い……という感想を持ってしまう。そう言う事が実際にあったりなかったり。 「何かがあった」こと以外は全く不確かで、実際とは離れた部分があるかもしれない、見方によっては多少受け取り方が違うかもしれない。そう言ったことに対して大きく見解が乖離し、結果的に何が妥当な見解なのかわからなくなっている。 

 

 学閥闘争に縁がない場合は、政治を思い浮かべて欲しい。

 政治家対キャリア官僚対ノンキャリ官僚、野党対与党。本気で国や国民のために闘っている人もいるが、どう考えてもそうではない人もいるし、単にやる気のないという背任行為をする人もいる

 税と予算で君臨し政治家をも圧迫する最強官庁・財務省、日本を背負う自負・外務省、日本を実際的に守る防衛省、公明ポストで日本の‟血管”を守る国交省、最大官庁・厚労省、かつての安倍政権で屋台骨を務めた経産省、最高格官庁・総務省、司法を司る・法務省、日本の未来を司る・文科省。宙ぶらりんに見えて実は独立独歩・防衛省。更に首官邸という各官庁から出向した官僚が集まる首相の手足が加わり――これらはそれぞれ物凄い闘争を、はたから見てもわかる程に激烈・熾烈・苛烈に行っている。

 無論ワイドショーで語られることが全てではないが、しかし同時に一端を見せている場合も少なくない。官僚の経歴とか、政治家の経歴とか、政策を重ね合わせてみるとこれが意外とあからさまだったりする。

 

 サイモン教授対黒田博士の闘争はこれらに類する、残念な闘争だ

 本質から全く外れた議論に終始しているのだ。挙句、二人の場合は太陽の異常増進が実際に起きているという緊急事態。本人たちは真剣だろうが、遊んでいていい状況ではない。

 

 

 政治下手のサイモン教授

 一見すると黒田博士が悪者に見えるが、実のところ最初に火をつけたのはサイモン教授といえる。黒田博士の逆鱗に触れたのには、それなりに理由がある。彼の政治下手ゆえに、逆に派閥闘争が激化してしまったのだ。

 

 サイモン教授の何が問題って、彼は自分のコネを使ってか大統領に直訴したのだこれは非常にマズイ。他の誰かに報告したのかといえば、黒田博士や大学の動きを考えれば――サイモン教授はあふれる危機感によって、一足飛びに直訴したという事が想定できるだろう

 この直訴はたとえサイモン教授が意図せずとも、「あなたの事を信用していません」というメッセージを大学側や首相あたりに送ってしまったといってよく、ダークヘルメット卿でなくとも頭越しに事態が進むのは非常に不愉快。

 

 さらに事態を悪くしたのはサイモン教授が孤立してしまっていた事である。挙句に彼が頼ったのがよりによって藤堂長官だった事。どちらも最悪の選択だ。

 まず、専門家が専門家として警鐘を鳴らすなら単独で行ってはいけない。同僚や別の同じ分野を研究する仲間に‟検算”してもらうべきだった。そして複数人からの同意を確保し、集団として警告を発する。発起人の国籍が複数にまたがれば、たとえ連邦政府であろうとも影響力を行使しずらかったはず。まず、自身の観測・研究の信頼性を確保し、仲間を確保しておくべきだった。

 次いで、頼る相手は選ぶべきという事。頼ったのが藤堂長官というのが大失敗、だって長官はいい人だけどパワーのある人ではないからだ。ここは一つメディアか、アルファ星第4惑星の様子からして恐らく業務縮小傾向にあっただろう宇宙開拓省、ここに話を持ってくべきだった。前者はセンセーショナルな話題に食いつくか隠蔽のどちらかの反応を示すだろうが、どちらにせよ最初に打ち上げる‟花火”が大きければ大きいほど、メディアの反応は燃焼促進剤にしかならないから好材料。後者は行政組織として官僚組織として当然の反応である権限行使の範囲拡大を望むだろうし、アルファケンタウリでの開拓もあまり上手く行っていないのだから――NASAが時々飛ばし記事かますのと同じように、サイモン教授の観測結果は宇宙開拓省の注目を引くという目的のため、目立つ話題の後ろ盾になるという行動に繋がる。

 その意味ではサイモン教授は闘争に勝つための手順を何一つ踏まなかった。何てピュアボーイ……。

 

 

 黒田博士の場合、大学や政治に深く結びついている人物であろうことが推測される。つまり、いわゆる御用学者。であるならば、自らにとって想定外の異常事態に対して追認する事を幾らか躊躇うのも無理はないし、メンツをつぶされかけたとして復讐のために政治的パワーを使うのも無理はない。政治的パワーは自身のパワーであり学閥闘争における原動力であると同時に予算獲得の大事な手段である、黒田博士がこれを発揮せずにいられようかと。

 残念ながら御用学者は得てして、目の前の事象を政府が望む結論の範囲内に帰結させようと助言を行う癖がある。悪気とか忖度のある無しではなく、政府の政策が妥当な範囲に収まる様にと良かれという判断なのだが……黒田博士はまさにそのタイプの学者だったと言えるだろう

 って――どうしてこんな簡単な予想をサイモン教授は出来なかったのだろうか。これでは学者バカというより、バカ学者と表現せざるを得ない……。

 言っちゃ悪いが、政治力も学者の才能の内である。これはどんな分野の学者であっても同じことで、評価を受けるには目新しい学説の他に個人的な政治力も大切なのだ。だから在野の学者の意見は大して教科書に反映されず、大して重んじられない。

 

 

 サイモン教授は致命的に政治力が無い政治的センスもない、それどころか欠片もなかった。それがゆえに、単純に政治とのつながりが深い黒田博士に完敗を喫したのである。

 サイモン教授の純粋だが致命的な政治下手と、黒田博士の御用学者らしい素直な反応でごく普通の行動の衝突。このあまりに矮小な衝突がゆえに、人類は危うく滅亡しかけた――といっても過言ではないのであるしかも、専門家同士の衝突であり、当然ながら門外漢には手も足も出ない事案なのだから闘争の危険度は歴代MAX

 いやはや最低のエピソードだ。

 何と恐ろしい事か……しかも、構造としては現実世界にも起こり得るのだから背筋がぞっとする。