ストーリー考察Ⅵ バース星到達、ボラー連邦との遭遇
第10話の団船長のエピソードは、地球連邦政府の危機管理能力の欠如を表すエピソードである。また、ヤマトシリーズ史上度々見受けられる古代君の使命感の強さが仇になったエピソードでもある。
そもそも論として、敵対勢力が存在し得る広大な宇宙を考えれば地球防衛軍が護衛艦艇を張り付けても当然だったのではないだろうか。
その意味では、幾ら最重要任務を任されているとはいえヤマトは――行きぐらいは護衛しても良かったんじゃないのかな? そんなに航路から外れないし、気象観測船は非武装船だし、戦闘があった領域周辺での活動だし、その方が安全で互いにWin-Win。
だって、ここで見捨ててたら、知らせを聞いた宇宙開拓省は恨むだろうし、きっと船が遭難した理由をヤマトの行動に求めるだろう。あるいは、顛末を知った世論が「防衛軍が見殺しにした、ヤマトが見殺しにした」とか騒ぐだろう。弱ったことに、ヤマトの出動理由はこの時点ではまだ秘匿されているため、反論のしようがない為……
護衛して損はなかったし、護衛終了後でダゴンに襲わせればエピソードの展開の差は最小で済んだはずなのだが……。
団船長の態度にイラっと来たのは、神経が張り詰めている軍人という立場からしてわからないでもない。特に若者にとって年長者のあの系統の態度は、結構腹が立つ。
団船長は悪い人ではないのだが、どうにもお堅い人で、その割にフィーリングを大切にする系の人。これは、若人には非常に面倒に感じられる。相手に頭ごなしに否定的感情を想起させることもしばしばある――一方で誠実ではあるから、人物像に惚れ込む人も少なくないだろう。だからややこしい。
それはそれとして。実際的にダゴン艦隊を発見し、その脅威を感じているのだから護衛してもらう権利があるだろう、しかしそれを正式な形でのオファーにしなかった。これは団船長の方に問題があると言える。
だが、断ったのはヤマト。この先ダゴン艦隊がヤマトに攻撃を仕掛けてくる=どっちみち時間を割かざるを得ない事ははっきりしているのだから、少々の遅れなど最早問題にならない。それぐらいヤマトは派手にダゴンと戦争をしている。
故に、護衛をしないという判断は、後々問題になる事が容易に予想されるのだが、それを受け止めるだけの根性があるんでしょう、ヤマトには――と、この程度の指摘にとどめておく。
団船長にまつわるエピソードはある意味で、23世紀にまで影響を及ぼし続ける行政の縦割りの弊害と表現できるだろう。防衛軍も開拓省も連邦政府も有機的な連携が取れず、結果気象観測船は遭難してしまった。一方で前途多難な道のりを決意の元に歩む青年たちと、それに感銘を受ける漢という関係性、これがエピソードの中核。
中核を短時間で深く掘り下げる為に、幾らかの相互不信や行政の弊害を挿入することで、双方の信頼関係醸成の期間短縮に成功。視聴者に対し、団船長をロマンの分かる漢、武士とも評せるキャラクターと印象付けてその悲劇的な最期の演出効果を最大化させたと言えるだろう。
原案であるとされる団船長クズVerエピソードにならなくてよかった。
話は飛んで――第12話及び第13話、バース星での出来事に移ろう。華麗なるダゴン艦隊の敗北は戦闘考察にて重点的に解剖します。
他方で太陽の制御に失敗した地球連邦政府は、ついに星間移民を決断。直ちに計画を立案、移民船の建造を行い同時に、ヤマトを含む探査艦隊を天の川銀河5方面へと派遣し、新たなる母星を見つけるべく探査を開始した。
その頃――うかつな行動に出るヤマト。
これまで散々利用可能惑星において何度も何度も敵対勢力からの攻撃を受けているのにもかかわらず、何と彼らは全く警戒せずに探査目標の惑星へと接近。
思いっきり奇襲的迎撃を受けたのであるが、挙句にこれが強力で見事炎上してしまう。威力偵察かもしれないなどとほざいているが、かなり強力な攻撃……もはや負け惜しみではないのか……。そしてしっかり攻撃を受けた後に、名乗るという――
なぜ、接近する前にさっさとなぜ名乗らぬのか。おかげで要らぬ損害を受けてしまう。
なぜ要らぬ損害だったかといえば、探査目標であった惑星はバース星だったのだ。あのラム艦長が必死に守った母国だった。あの人、ちゃんと本国と緊密な連携を取ってたのね。そして、誤解がとけた後はレバルス隊長の旗艦に誘導される形でヤマトはバース星に降り立った。
さて、今回ヤマトは初っ端から禍をまき散らす。つまり、強制収容を発見し、ヤバそうだと認識した上でわざわざ立ち入ろうとするのである。
レバルス隊長から許可を受けて植物採取をしている最中にたまたま見つけた施設――で、警告を受けた途端に土門が「何だとォ!」と危うく一戦交えようという。ほぼ初めて外交関係を構築したといっていいバース星相手に、その内情を全く知らない状態で、ただひたすら地球人の正義感で介入しようという恐ろしいまでの暴挙。他のキャラクターも独善的だが、相手の行政を無視して一足飛びに介入しようとはしなかった。土門や揚羽の行動は彼らとの行動とも相反し、とがった正義感しかない。言っちゃ悪いが、火のないところに火種を創って戦争をおっぱじめるアメリカと同じ感覚……。ヤマトシリーズのメッセージとは相反するもので、正直度し難い。
挙句、艦内に戻った土門はバース星を精神文明の程度が低いなどと揚羽にのたまう。決めつけというか、もはや差別である――彼らが一体何をしたのか、囚人とバース星とその関係性や事実が何一つ全く分かっていない段階での発言だ。それで、よくもここまで決めつけられる……救いようがない。
ラム艦長や一般兵とレバルス隊長の肌の色の差や、総督というワードを彼らが認識していれば、バース星の政治状況がどんなものかは判るはず。つまり、バース星側に収容所の如何についてバース星人は何ら決定権がないというのは明白なのだ。
分かったその上での発言ならば、お前たちは一体何様のつもりか。18歳かそこらだとして、この程度は理解できるだろうに。
更に彼らは、勝手にバース星の極秘探検をしようという。問題を起こしてはダメそうな星だと、危ない星だと自分たちで認識しているのにこの馬鹿二人。
この残念なヤマトクルーに引換え、この星の統治者であるボローズ総督は至極一般的な人物だった。
ボラー連邦からの派遣された人物である以上、当然ボラー連邦を持ち上げた言い方をするのは当たり前。だからといって、地球に対して高圧的な対応を取るわけでは無かった。おおむね対等といえる関係性を彼の言葉から期待できた。
WWⅡ中に少数見られた、まともな感覚で占領地域を統括する総督みたいな感じ。
アル中ヤブ医者の飲み屋話は知らん。
正義ぶって他者を抑圧するのは地球上のすべての国が一度は通った道だし、地球連邦も『さらば宇宙戦艦ヤマトー愛の戦士たちー』で覇権国家然とした態度を見せた。それに、どうせ現在進行形だろう。だって護衛戦艦は欧米列強=先進国由来の艦名しかないのだから。お前が言うな感がたっぷりである。
加えて、バース星にとってはガルマン・ガミラスの脅威は事実である。バース星独力ではあれを退けるのは不可能だし、バース星住民がガルマン・ガミラスの支配下でどれだけの自由を得られるのかは、未知数。
力のない国が、どこかの庇護かに入るのは打算ではあるが、利口な判断である。それを織り込んだ上で大国は小国に接する。これの関係性は残念ながら、永遠に繰り返されるだろう。
そうはいっても、バース星で最大かつ唯一の影が、強制収容施設であろうことは間違いない。
主義主張の違う陣営との交渉の上で非常な懸念材料になる。治安維持的にも、幾らでも暴動の種になる収容所は非常な懸念材料。いつかバース星が自由を手に入れた時、収容所は完全に負の遺産となるのだから。
そして事件が起きる。囚人たちが騒動を起こし、電気柵を突破し何とヤマトに乗り込んだのだ――っておかしいだろ。よく、構造も何も知らない宇宙戦艦に簡単に乗り込めたね。群がること自体は不思議ではないが、一気に機関室を占拠されるとは――ご都合主義だろう。挙句シャルバート星へ連れて行けとのたまい、機関部員の皆殺しをちらつかせる。にもかかわらず古代は彼らにシンパシーを感じてしまった。意味が解らん。
ひょっとしてこれ、素直に解釈すると……古代艦長は乗組員の命の安全より、自分自身の政治信条の方を優先してしまったという事になるのか……
古代よ直ちに、地球防衛軍を退官してくれ。
全宇宙のために。
この哀れな星は、宇宙の塵となる運命を背負っていた。ヤマトとかかわったばっかりに……この星を滅ぼしたのは誰か? それは古代進その人だろう。
第13話の話である――バース星守備艦隊は壊滅し、これを受けてボラー連邦本国は対策を打つ。つまり、本国はバース星を見捨ててはいない、同時に巨大艦隊を派遣できるだけの余力があるという事を示すため、ベムラーゼ首相直々の閲兵式を執り行うのである。正しい行動だし、物凄く強烈な政治的メッセージでかなり効果はあっただろう。
だが、艦隊を増派・駐留させないのであれば軍事的には大した意味はない。この点の軍事的センスの欠如が気になる……。
どうやらベムラーゼ首相、対応が後手後手で策自体の効果は薄いくせにやってる感を出す、そのための効果的な手を打つのはお得意らしい。まあ、やってる感を出すのが腕の立つ政治家の要素ともいえるし……危険地域を突っ走って、バース星に赴いたその度胸は評価するけど。
それはそれとして、首相来訪は平たく言って最悪のタイミングだった。だって、囚人の暴動とヤマトクルーの登場という、バース星にとってボラー連邦にとっても二大厄災とでも呼ぶべき事象が同時並行的に存在し……間の悪いお人だ。
さて、イデオロギーで宇宙に戦争の種をまきがちな古代進と、逆らうものを認めないみみっちいベムラーゼ首相の取り合わせ……破滅は時間の問題だった。
当然、ベムラーゼ首相の対応にも問題はあろう。
地球をただバース星に味方しただけで、ボラー連邦の属国扱いという……自意識過剰も甚だしい。ボラー連邦も地球についてあまり情報がない中で勝手に属国扱いをしたのもいただけない。挙句、自前で独立を維持できるといっただけで反乱扱いなのは最早暴挙、狂気の沙汰。古代君とかに比べれば確かに、政治家らしいしそれなりに悠然とした態度を取っては見せたが……このベムラーゼという男、どうにも自身と国家に対して自意識過剰。そのくせ、反応がみみっちい――猜疑心が強いと言った方が正しいのかも。だから能力はありそうだがあと一歩、大政治家という感じではない。
我らがズォーダー大帝の爪の垢でも煎じて飲んでもらいたい。
この面倒なおっさんの逆鱗に触れないようにするのはボローズ総督も大変だろう。事実、先ほどまでの紳士的な対応とは異なり地球に対して失礼な態度を取った。きっと心苦しかっただろう。
他方で、古代君たちが囚人たちの処分に首を突っ込むのも話が違う。
囚人たちがボラー連邦の法を犯したのは事実だし、地球でもいくら信仰に基づく行動だとしても、他者の身を危険にさらす行為は許されない。まして命を奪おうとしたのだから、話にならない。そんな彼らに寛大な処分を望むのはお人好しをはるかに超えて、愚かに近い。
更に、仮に囚人たちを古代が逮捕して身柄を確保していたのであれば話は変わっただろうが、事実はそうでない。身柄を確保していれば、「我々の法を犯したのだから、我々が裁く」という事も、不可能ではない。しかし、囚人たちは一人残らずヤマトの手を完全に離れていた……。
それなのにもかかわらず囚人たちの処遇に対して口を出すのは筋違いも甚だしい。
ドメルがかつて言ったように――使命感、救世主のような気持ち、つまり安直なヒューマニズム。これが前面に出てしまったのが第13話だ。
この安直なヒューマニズムによってヤマトクルーはバース星と関係をこじらせる。更に古代は囚人の処刑を阻止するためにレバルス隊長やバース人によって運用されている軍団を虐殺した。追手として出撃してきたバース星守備艦隊を迎撃し、すべて撃沈してしまった。これが引き金となってブチ切れたベムラーゼ首相はバース星ごとヤマトを破壊しようと大型ミサイルをぶっ放す。
おかげでバース星は消滅。無垢な市民も軍人も、派遣された本国人も流された囚人もみんな死んでしまったのである。
確かに、バース星守備艦隊に対する迎撃は仕方ないとしても……ヤマトはベムラーゼ親衛艦隊によるバース星攻撃を阻止しようとはしなかった。これは驚くほどの人道的問題で擁護のしようがない。
直ちにショックカノンを放つ、煙突ミサイルや艦首魚雷、パルスレーザーをぶっ放して迎撃できたはず。それなのに、全く行わなかった。転舵して囚人を救うとか何とかほざいた戦闘班長もいたが――100%間に合わない。そして市民はどするつもりだ。救う気なかったのか? 考え方として、残虐行為が行われているのを仮に知らなかったとしても周辺住民は知らなかったでは済まされない傾向にある。しかしそれで殺されるのはあまりにあまり。
だが、古代は全く後悔していない様子。ただひたすら囚人にのみ……こういうのを自己投影とか言って、感情移入しがちだが、政治家や軍人はそういう事を極力してはいけないのだ。安直なヒューマニズムに流れてはいけないのだ。
拘束を拒んだのは当然だが、それ以外の古代の行動は残念極まる。行動としてはわからないでもないが、作品として主人公としての行動としては全く相応しくない。仮に作品を深く掘り下げる為にわざわざ、安直なヒューマニズムによって暴走した、ボラー連邦やガルマン・ガミラスの鏡写しの地球人を描くことで戦争のむなしさを表現した――という事であるならばわからないでもないが、それにしては古代が英雄じみた描かれ方をしている、土門や揚羽が純粋な人物として描かれているというのに大きな疑問が生じてしまう。
要は、失敗演出。これじゃ古代が宇宙人一般をペットか何かのようにしか思っていない、ただの頭のおかしい冷徹ろくでなし。
古代進が少なくともこのヤマトⅢにおいては人間としても軍人としても失格中の失格、ワーストクルーであることは断言できるだろう。古代進というキャラクターを、この描き方を続行してしまってはラジー賞も夢ではないレベルだ。
ある意味逆説的だが、富山さんが頑張れば頑張るほど、技を見せれば見せるほど腹立たしいキャラクターとして成長してしまう。困った話である……。