ストーリー考察Ⅺ 惑星ファンタム ルダ王女と揚羽と時々土門
第20話から第22話に及ぶ大ボリュームを擁するのが惑星ファンタムにおける一連のエピソードである。
大まかに分けると第20話=惑星ファンタム到達と探査開始に超常現象の頻発、第21話=ヘルマイヤー少佐の登場と、惑星ファンタムの正体の判明、第22話=土門・揚羽両名によるルダ王女保護とグスタフ中将による惑星ファンタム破壊のフェーズとなる。
作品中の立ち位置
ヤマト2であったテレザートエピソードに近いと言えるだろう。
島とテレサはヤマトがゴーランドと戦っている最中も通信していた為、テレザリアムに招待された時点ですでに深い仲になっていたと言えるから、厳密には条件が違う――が、エピソードのボリュームも中身の傾向も丁度同じ程度。
さらに言えば、テレザートエピソードは初めから26話予定だったといわれるヤマト2の中では中盤戦に位置する。一方で、ヤマトⅢは50話放送予定だったと言われる。つまり、ファンタムエピソードは50話予定の構成においては概ね中盤戦に位置すると言えるだろう。この点も同じ。
と言うようなことから、テレザートエピソードに比定した。
――惑星ファンタム上陸(第20話) ――
あまりにも美しい惑星ファンタム。地球に似た、それも古の豊かな自然あふれる様……しかし驚愕すべきはそればかりでは無かった。
上陸した面々がそれぞれ、沖田艦長や古代守。あるいは自身の両親など……愛おしく懐かしい人々の姿を目撃したのである。
――他方、デスラー総統は古代たちが見た幻の報告を受ける(第21話)――
この古代たちの意味不明な報告――というより問いかけを聞いたデスラー総統は結構動揺。ガルマン・ガミラスの名誉をかけた情報提供が、この疑惑発生である。ヤバい。
総統は直ちに惑星ファンタムの実態調査のため、地質学のプロであるヘルマイヤー少佐を派遣した。
細かい事を云うと――第20話でボラー連邦とのホットラインを再開させた際、驚いた様子を見せたタランに当たっていた事を考えるとすでに機嫌が悪かった様子。それほど、古代やや地球をぬか喜びさせた太陽制御失敗が堪えていたらしい。挙句、ベムラーゼ首相に頭を下げヤマトへの攻撃をしないように要請したら老いただの何だの言われて……。ファンタムが碌な最期を遂げないのは事は実はこの時すでに決定していたようなものだったのだ。
上陸したヤマトクルーが惑星ファンタムの温暖で快適な気候でくつろぐ中、ヘルマイヤー少佐が到着。これで話の片が付くかと思いきや、話はむしろややこしくなる。
なぜなら、ヘルマイヤー少佐もまた、幻を見てしまったのだ。つまり、惑星ファンタムにガルマン・ガミラス本星とそっくりな景色を見たのである。挙句町まで出来ていたし、カメラにも幻影がそのまま投影されたのだった。んな馬鹿な……。
超常現象発生だ。
ヘルマイヤー少佐はヤマトクルーと接触し、やっぱり何かあると確信。他方で、アナライザーは惑星ファンタムが発するスーパーサイコエネルギーとやらが原因であると報告する。
つまり、ファンタムは惑星ではなく――コスモ生命体だったのだ。と。この現象は恐らく、宇宙の厳しい自然と外敵から身を守る為であろうと真田さんが推測する。
なるほど、筋の通った説明だ。だが、しかしながら、物証はない。ヘルマイヤー少佐は物証を得る為に地殻にドリルを撃ち込み中心部の探査を行う事とした。
アナライザーは生物相手だからと抗議するが――他人の調査結果を鵜呑みにして帰るわけにはいかないとヘルマイヤー少佐は突っぱねる。そりゃそうだよ、彼も科学者なんだから。
だが、案の定というべきか――ドリルをぶち込まれた惑星ファンタムは身もだえるようにその姿を変化させ、地表は無数の触手に覆われる。ヘルマイヤー少佐の調査船も危うく巻き込まれかけ、ヤマトクルーの例外では無かった。
両者とも間一髪、離脱に成功。しかしながら成す術なく、極めて危険な状況であった。
――土門と揚羽――
一方その頃、父母の幻影を見たりと色々あった土門と揚羽。この仲良しコンビが、見知らぬ美女の姿を見かける。そして二人はその幻影に導かれるようにして惑星ファンタムの中心へと駆けた。
惑星にしては不気味な、めくるめく生物的な地質の変化。そしてたどり着いた先には――二人を呼ぶ声。惑星ファンタムの中心生命体が呼びかけていたのである。
なぜか? それは大切なルダ王女を託すためだった。ボラー連邦、ガルマン・ガミラスの注目を集めてしまった惑星ファンタムは、すでにルダ王女にとっては安住の地では無かった。しかしながらコスモ生命体でしかない惑星ファンタムには、彼女を母星へと送り届けることはできない。戦う事も出来ない。
だから惑星ファンタムは、ルダ王女を託すべき心優しき揚羽と土門を中心部へと呼び寄せたのである。草花を愛で、一方で故郷の父母を大切に思うその心が、ルダ王女を託すにふさわしいと、惑星ファンタムは判断したのである。
――ちょっと待て。草花を愛でる、というが……花摘み取ってましたよね土門君は……。あれ惑星ファンタム的にはOKなんですか?
――ファンタムの最期(第21話ラスト~第22話)――
ヘルマイヤー少佐の報告に激怒するデスラー総統。総統の、帝国の顔に泥を塗った惑星ファンタムを粛清すべく、北部方面艦隊のグスタフ中将に同星の破壊を命じた。
何で総統がこんなに怒っているかというと、第20話で総統はベムラーゼ首相にわざわざ通信を入れて、ヤマトの邪魔をしないように休戦を申し入れていたのだった。かつてのスターシャが総統にホットラインをつないで抗議を入れたように、である。しかも、プライドの高い総統にしては、結構お願いベースの発言。
にもかかわらず、腹立たしい事に――これを弱みと受け取ったベムラーゼ首相は「老いたな」などとのたまって、申し入れを拒否する。
太陽制御に失敗し、挙句のこの不愉快な思いまでしての惑星ファンタム。
それが惑星では無かったなんて――一般人だろうが国家元首だろうが腹立たしいことこの上ないだろう。しかも、カリスマがこの仕打ちを受けるというのは色んな意味で窮地。
総統がブチ切れてファンタム粛清を命じても不思議ではないだろう。いや、惑星の粛清に関しては議論の余地もあろうが、総統の心情もまた察するに余りある。
惑星ファンタム周辺域へとワープアウトしたグスタフ中将率いる北部方面艦隊。ワープアウトとほぼ同時に惑星破壊ミサイルの発射体制に入った。
超能力でこの危険を察したルダ王女――の騒動が色々とめぐりめぐって、艦橋まで話が入る。そこで古代は、グスタフ中将に通信をつないで攻撃中止を要望した。しかし、総統と古代、どちらの話を聞くかといえば……答えは初めから出ているようなもの。グスタフ中将は古代をガン無視で通信をぶった切り、発射命令を下した。
そもそも論として他国の軍司令官に対して他国の軍司令官が、共同作戦を行っているわけでもないのに、軍事行動の中止を申し入れるというのが――果たして妥当なのか。しかも、居住不可能と判明している以上は地球にとって何の価値もないのが惑星ファンタムである。総統の友人という立場ならばまだしも、地球防衛軍の軍人としての通信であるのだから、地球の利益にならない申し入れには全く根拠がない。
加えて、その所在はボラー連邦とガルマン・ガミラス帝国の境界線。ハーキンスが通信を入れて猛抗議するならば、国境付近での軍事行動に対する正当な抗議であるが、地球防衛軍に属する一介の軍司令官に一体何の発言権があるのか不明。
つまり、古代の要請は下手をすれば内政干渉に当たり、極めて危険。
さらに攻撃中止を申し入れた際の古代君の発言は全く意味が解らなかった。「地球に似たとても美しい――」って何が何だか……。
惑星ファンタムのコスモ生命体としての姿が美しいかどうかは別として、地球とは外観も性質も全く異なる有機物。根本として、惑星ファンタムが地球に見えるのはスーパーサイコエネルギーによる幻覚であることがアナライザーの調査で、古代も知っているはず。なのにこのような事をのたまう――そんなことを延々とまくしたてられては、グスタフ中将も辟易するのも無理はない。
グスタフ中将からすれば……目の前に映る古代は、やべぇ新興宗教に洗脳された信者そのもの。判断力を喪失していると思われてしまっても仕方がない。しかも、古代はヤマト艦長の権限を以てグスタフ中将と交渉をしているが、やはり中将からすればお前に何の権限があるのか。といった具合になるのは当然。そりゃ古代に従わんわ。
ヤマトⅢにおいては色々と残念というか、話の筋道がとっ散らかった発言の多い古代だが――総統の命令が「無法な命令」という抗議も疑問でしかない。
領域内か微妙なラインだが、支配権が及ぶならばガルマン・ガミラスに惑星ファンタムは好きにする権利がある。これは断言可能。ガルマン・ガミラスの権威は2回続けての失敗で失墜気味だし、地球もぬか喜び2回目。前述の通り、友人のために敵に頭を下げたら馬鹿にされたという前段階もあるから……そりゃ総統もキレるわ。腹立ちまぎれに惑星をぶっ壊すのも当然。まして、人が住んでいないのだし。
先に述べたが、惑星ファンタムの処分に対して抗議できるのは利害関係を持つ存在、つまりボラー連邦、惑星ファンタム、或いはシャルバート星(ルダ王女)のみ。それも、どちらかと言えば道理の部分であり内政干渉に近い。また、実際に口出しできる力と国内事情があるのはボラー連邦のみ。
利害関係にない地球人である古代が騒ぐのはお門違いだ。地球ないし古代、或いはヤマトがシャルバートの代理人であるのならば話は別だが、劇中一度も代理人という立場にならなかった。
小僧古代君、色々と勘違いも甚だしくないかい?
このエピソードで興味深いのは、一人激怒する古代に対し島が「デスラーにはデスラーのプライドがあるんだ」とまさかのフォローに入るという――ヤマトⅢでは、どういうわけか島君の方が大人である。
まあ、島君が割と大人というか古代のフォローに回るのは珍しい事ではないが、際立ったシリーズ。一方で古代君はどんどん子供じみていくから始末に負えない……。
もし整合性のある展開にリメイクするならば……
グスタフ中将に攻撃中止を申し入れ同時にデスラー総統の名前を出し、そちらに直接話を通すからちょっと待ってろと、デスラー総統と古代の個人的関係とグスタフ中将の総統への忠誠心を利用して攻撃を足止めさせるのがベストだっただろう。というより、この方法以外グスタフ中将を止めることは不可能。
結局、惑星ファンタムは破壊される結果になっただろう。
だが、実際に放送された第22話の稚拙な交渉シーンや、そこからくる古代君の狂信者の様な姿をさらすこともなかったはず。
さて、実はこの時、ハーキンスが警戒衛星を通してルダ王女のヤマト乗艦を目撃していた。こいつらの警戒衛星、どんだけ性能良いんだよ……。この報告を重く受け止めたベムラーゼ首相は二個艦隊からなる巨大艦隊をルダ王女奪還目指して出撃させる。
他方でヘルマイヤー少佐もまた、同じようにルダ王女の姿を確信では無いものの目撃、総統に報告を入れて結果――グスタフ中将はそのままヤマト追跡に赴くこととなった。
なげぇよな、この惑星ファンタムのエピソード。もうちょい、スリム化出来た気がする。確かに、私のヒューマンドラマに対する評価が異様に辛い事のは事実だが……でも3話は長くないかい?
実はこの後、揚羽とルダ王女に関してはスカラゲック域とシャルバート星でのラブストーリーもあるのだから……やっぱりもう少しエピソードのボリュームを小さくできたと思う。他方、このエピソードから土門は影がどんどん薄くなってしまい――これじゃ、何のために今まで古代・土門・揚羽トリプル主演風演出をしてきたのか、彼らの内面的成長を深く掘り下げたのか、意味が解らなくなる。
挙句、放送話数が短縮された結果とはいえファンタムエピソードが残り話数を圧迫し、以降のエピソードが全てケツカッチンになってしまい、内面を深く掘り下げることが出来なくなった。このファンタムエピソードいわば……帯に短し襷に長し、無きゃ無い方がいいエピソードになり下がってしまったのである。
はっきり言って、これほどに大きく広げた風呂敷は普通、畳めないってば。1年間の放送でも、ひょっとすると彼らの人間ドラマは折りたためなかったと思う。なのに2クールじゃねぇ。視聴率とか製作陣に気にする人いなかったんかい……。