旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

ストーリー考察XⅣ 太陽系帰還――ラストエピソード――

 

 

 ハイドロコスモジェン砲を受領したヤマトは一路、亜空間ゲートを通って太陽系へ急ぐ。地球人類には、もはや時間がない。急げヤマト。

 第25話、ラストエピソードである

 

 

 

 亜空間を通り高速航行、太陽系へと帰還したヤマト。防衛司令部へと通信を入れると、藤堂長官以下、熱波にやられ崩壊寸前の様子であった。一刻の猶予もない――ヤマトは直ちに前進、太陽圏へ突入しハイドロコスモジェン砲発射準備に掛った。

 だが、その時だった。発射直前――突如としてボラー連邦艦隊が太陽圏へと侵入してきたベムラーゼ首相率いる機動要塞と親衛艦隊である。

 この突然の敵の出現にハイドロコスモジェン砲の発射を諦め、迎撃態勢に入るヤマト。だが、圧倒的な艦隊戦力に加え機動要塞が放つブラックホールの威力は絶大。地球の最期に贈られたボラー連邦からのプレゼントを前にヤマトは身動きが取れなくなってしまったのである。

 プレゼントってお前……これは割と修飾の多いベムラーゼ首相らしい腹の立つ洒落の効いた発言

 

 

 そこへ何と、青い巨艦に率いられた緑の大艦隊が駆け付ける。デスラー親衛艦隊の登場だ

 親衛艦隊は間髪入れず全砲艦を以てのデスラー砲一斉射撃によりベムラーゼ艦隊を消滅させた。この援護の隙に太陽制御をと――総統はヤマトの援護を買って出たのである。

 ――再会は勝利の後で――

 

 

 

 意気揚々と機動要塞を目標にデスラー砲第二波が繰り出される。

 動けず光芒に包まれる機動要塞――だが、その姿は全く損傷を受けていなかった。束になって襲い掛かったデスラー砲が、機動要塞には全く通じなかったのだ護衛艦隊を粉砕することはできたが、肝心の機動要塞には一ミリも傷がついていない。バリアか、或いは特殊装甲か……100門近いデスラー砲が束になっても貫通できない要塞相手では、ハイパーデスラー砲とてその威力は保証できなかった。

 これは全てはベムラーゼ首相の策略だった確実にデスラー総統を仕留める――機動要塞、これがベムラーゼ首相の決め手だったのである太陽系こそ相応しいしい決戦の場だったのである。

 

 

 ベムラーゼ首相はデスラー総統の性格を完璧に把握していた。つまり――

 自らが引き起こしたといえる友人の星の危機に、総統であれば必ず駆け付ける。ボラーの大艦隊がヤマトを追っての事であれば、ますます総統が駆け付けない理由はない。デスラー総統ならば、自らの身を危険に曝してでも、ヤマトのため、地球のため、そしてガミラスの名誉のために迷わず戦いに来る

 総統と闘う上で、絶対に避けなければならないのはガルマン・ガミラスの領土内での戦闘。これは自殺行為である。他方、ボラー領土内では当然ながら総統とて警戒する以上、戦闘にならない。これでは誘う意味がない。

 ガルマン・ガミラス域から総統を無理やり引きずり出す、それも味方=ボラーが勝てる範囲の戦力程度に護衛を縮小させなければならない。つまり、この二つの要件を満たす戦場は他ならぬ太陽系圏内しかないのである。太陽系圏内で戦闘を行えば、ガルマン・ガミラス領土外の条件を満たし、かつシャルバートから太陽系圏内への強行軍を強いることで同行する戦力の漸減を図ることが出来るのだ。しかも、自軍は機動要塞を中心として戦力展開を行う。

 敵将を討ち取るにはベストに近い作戦である

 

 言ってしまえば――首相が述べた通り、総統をおびき出すのが目的であり、地球の運命などたいして興味はなかったのだ。無論、目障りなヤマトが苦しむさまを見るという一石二鳥だったかもしれないが

 

 

 

 まんまと引っかかった形の総統に対し、「罠にはまったなデスラー君」ベムラーゼ首相は勝ち誇った笑みを見せた。 

 だが、総統がこの程度で動揺するわけがない。

 散々スターシャやサーベラーやメルダーズの嫌味攻勢に鍛えられたのだ。たかが独裁政権の首相ごときの発言にダメージを受けようはずはない。

 総統は目を伏せ、不敵な笑みを浮かべる。「念のため伺っておきたい――あなたのお葬式は何宗で出せばよいのかな? ベムラーゼ君

 恐らくアニメ史上に残る名煽りで返しベムラーゼ首相を激怒させた

 

 

 この辺りは実際の戦争ないし戦闘に当てはめるならば、首相から総統への降伏勧告のやり取りと表現できるだろう。

 五稜郭の戦いやシンガポールの戦いなど、歴史上いくつも行われた戦闘とそれに関わる降伏勧告を例に引くまでもなく、普通に行われる事。首相と総統のやり取りは、内容が目を引いており悠長にも思えるが、ご都合主義とかの非難を受けるとは思えない。

 一方で何宗、という点に関しては――日本語の翻訳過程でニュアンスに齟齬があったという事である程度説明はつくだろう。知ってる? シャーロックホームズの古い本だと彼、麻雀してるんだ。多分、ポーカーを翻訳する過程で麻雀になったと思われる。で、ロイヤルストレートフラッシュと思われる最強の役が天和になってたりする。

 或いは、なっちの翻訳。彼女の翻訳も訳した気持ちもわからんでもないけど、そりゃないだろうという訳が多い、というのと同じ。

 という事でこじつけたい。

 

 

 煽られたベムラーゼ首相は瞬間湯沸かし器の如く激怒。首相・怒りのブラックホール砲乱射デスラー親衛艦隊の背後にいくつものブラックホールが生成され、その超重力に艦隊が捉えられてしまう。

 残念ながら機関能力の劣るガルマン・ガミラス艦にはヤマトや特別仕様であろうデスラー艦のようにブラックホール砲の重力を脱せられるほどの推力は出せなかった。次々とブラックホールに飲み込まれ、艦隊は見る間に数を減らしていった。

 さしものデスラー艦も、ブラックホールから脱出するのに精いっぱいで、機動要塞に対して攻撃するタイミングが作れない。続いて、機動要塞から発進した戦闘機隊が猛然と火ぶたを切ってヤマトを攻撃し始めたのである。コスモタイガー隊を繰り出して必死に防戦するが、依然として劣勢。

 ――戦線は膠着してしまった――

 

 

 

 総統は戦局をひっくり返すため「何年私の副官をしている」とハイパーデスラー砲の発射準備を命じる。だが、タランはそれを制しブラックホール砲の対処を意見具申した。

 確かに、ブラックホールを何とかしなければ発射体制には入れない。ブラックホールが消滅しても次のブラックホールを放たれてしまっては永遠に発射体制には入れないのだから。

 これ、総統ファンにとっては地味に名シーン延々とタランを忘れていた製作陣だが、最後の最後でその大失態を挽回する演出をぶっこんできた。無茶な命令を戒める部下、具申を受け入れる上司。デスラー総統がただのカリスマのヤベェ奴ではないという事を表現した見事な描写である。

 

 

 一方その頃ガミラス艦隊の踏ん張りを背に制御のため太陽に接近しハイドロコスモジェン砲の発射体制に移ろうとするヤマト。だが、何とハイドロコスモジェン砲の格納カプセルが開かない。思わず土門は飛び出して確認しに向かった――ってお前の仕事じゃないだろう。

  不用意に甲板に出た結果土門はボラー艦載機の銃撃を受けて負傷してしまう。

 悪い事にそれを友達の揚羽が目撃してしまう。即死では無いとはいえ多分、助からない……友人の避け得ぬ死に、やけを起こした揚羽はコスモタイガーで機動要塞に突っ込んでいった。ただひたすらまっしぐらに突っ込んでいく揚羽。猛烈な対空射撃も構わず、開口部に突入――ルダ王女の幻影を見ながらの最期だった。

 

 考えてみれば揚羽と土門はシリーズ冒頭・第1話から仲が良かった

 土門は揚羽がコスモタイガー隊配属になった際もうらやんだが嫉みはせず、あくまで古代にその怒りの矛先を向けていた。同じカートでアルプス秘密ドックに向かったし、第7話じゃ留守の戦闘班に代わって主砲を二人で操作して迎撃任務に当たった。第12話以降もバース星での囚人騒ぎに二人で関わったり、惑星ファンタムを探査してみたりと非常に馬の合う様子。カッとなりやすい土門がなぜか揚羽に突っかからない、他方揚羽は元から他人に突っかかるタイプではないし育ちを鼻にかけることもしない、二人の衝突のし得ない関係性。軽口叩いて嫌味なくゲラゲラ笑い合うほど。これに加えて第12話や第19話、第21話などで見せたように二人の価値観は概ね似通ったもの。

 戦争では他人を殺すことも非常に精神的苦痛というが、それ以上に苦痛なのが友人との戦場での別れという話がある。まして親友レベルであればその苦痛はなおさら。揚羽が自暴自棄的な復讐行動に出るのも、わからんではない。

 

 

 揚羽の突入で機動要塞の一部が破壊され、防衛システムに損傷が生じた。地球の少年が咲かせた美しい花。機動要塞を葬る恐らく唯一のチャンス、総統は間髪入れずハイパーデスラー砲を発射。デスラー砲とは段違いの光の束はまっすぐ機動要塞に向かい、光芒の中にベムラーゼ首相ごと全てをとろかした。

 続き、ヤマトも瀕死の土門によって発射体制整ったハイドロコスモジェン砲を以て太陽を制御。土門は太陽が静まっていく様を見ながら、最も信頼する古代に抱えられながら息を引き取る。そして揚羽もルダ王女の元に還っていった。

 

 

 

 

 まあね、いつもの通りの巨大幻影。ご都合主義というか、アレな演出である。とはいえ――

 ヤマトクルーも第19話でマザーシャルバートの幻影を見ているのだから、それだけ精神的に極限状態だったといえるだろう。また、古代とその恋人である雪に関しては、特に目をかけていた土門と揚羽を一度に失う悲劇をまさに経験中。この極限状態ではせめて揚羽にとっての幸福が遂げられるようにとの思いが強くなっても無理はない。

 要は、一種の集団ヒステリー。これで説明は十分だろう。これ以外の説明は超常現象じみすぎて宗教色強すぎてしまう。この手合いの話は私が嫌なため、私の個人としての見解ではあまり好きではない事ははっきり申し上げる。

 

 このエピソードで救いようのないご都合主義は、最後の土門のヘルメットを脱がせたシーンだろう

 宇宙の場合、極低温状態であるのだが太陽圏ではむしろ灼熱でプラズマの圧力激しく大変な環境。ヘルメットをかぶっていてこそ、遺体がきれいでいられるのだが……。

 他は意外にもご都合主義は目立ったものはないといえる

 

 

 

 

 ――まとめ――

 ヤマトⅢという作品、そのラスト。これは第一作の冒険や寓話、さらばの悲壮感。これらをテイストとして組み合わせたような最後と評価できるだろう。また、モチーフとして新たなる旅立ちなどを挿入し、ヤマトファンが通して楽しめるポイントをいくつも挿入した内容と言える。

 ただ、お説教に過ぎる。

 命をとしても平和を守れだってさ……。戦うというのは動物の本能だし、一人の人間が命を賭しても非暴力不服従を貫くならばまだしも集団全体が貫くのは難しい。それを理想とするのも、非常に独善的。

 

 つかさ、なぜ自らが被害を受ける前提で話が進んでいるのか――自らが加害者になる可能性は全く考えないのか? シャルバートもヤマトクルーも。この点は、はっきり言って思想的なご都合主義。ヤマトⅢはストーリー展開より、そのバックボーンや登場人物の考え方の方がご都合主義と言えるだろう。これは物凄く致命的で、説得力に欠けるし、視聴者の心に訴える深みも欠如してしまう。

 これに加え、別に死ななくても成立したであろうラストエピソード。エンディングの絵を先に組み立てたようなストーリーまで合わさってしまっているから始末が悪い。

 確かに、俯瞰してみれば、ヤマトⅢはうまく纏まったような雰囲気を醸し出してはいる。が……あんまり作品として深みは……消化不良も甚だしい