旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

ボラー連邦側人物の考察(ヤマトⅢ)

 

 回を重ねて来たヤマトⅢの考察或いは解説、今回は対象を人物に絞りたいと思う。つまりボラー連邦陣営の面々である。

 


  ボラー連邦――

 国家元首(或いは最高指導者)
 氏名:ベムラーBemlayzé/Bolar Prime Minister Bemlayze)
 年齢:不明(中年と推測)
 階級/役職:連邦大元帥スターリンを参考に推測・名誉職)/連邦首相
 容貌:白色の肌、極めて薄い色彩の栗色の髪、赤い虹彩、多少肥満体型

 彼を表す形容詞は苛烈果断過大そして冷徹。天の川銀河一帯に支配力を展開する巨大国家・ボラー連邦の采配全てを握る首相であり、必要があれば前線に立つ軍司令官でもある。旗艦仕様の赤い戦艦(通称ベムラーゼ艦)とブラックホール砲を主兵装とする大型機動要塞とを移動司令部として利用する。連邦首相と表記したが、劇中でも公式でも首相としか呼ばないが、連邦制の国では大体の場合において首相や大統領の頭には連邦を付ける為それに倣った。

 基本的に政治家としてはかなり能力の高い部類に入るだろうという事が一つ言える人物。何といっても中長期的戦略眼と大規模艦隊の投入を躊躇しない大胆さは政治家にとって決して欠いてはならない資質だ。また、同格以上の強力な政治リーダーであるデスラー総統に全く物おじしないというのも、なるほどトップリーダーとして相応しい姿である。東部方面軍の猛攻を受けて守備艦隊が壊滅したバース星に直ちに、それも天の川銀河の外周を回ったのかガルマン・ガミラスの領域を突っ切ったのかはわからないが――どちらにせよボラー連邦の中心地から遠く離れた彼の地へと赴いたそのパフォーマンス力は目を見張る。首相直属だろうが強力な戦闘艦隊をバース星へと回航させたのも同星の住民を安心させるのに十分役だっただろう「我らが首相には無尽蔵の戦力がある」といった具合に。軍に対して首相がどれだけ口をはさんでいるのかは知る由もないが、しかしてボラー連邦艦隊は基本的に一隻当たりの火力は大した事無い、ガルマン・ガミラスの艦隊に比べれば主砲は意外と威力が高いが反対に射角が格段に狭く話にならない。ところが、一隻当たりの中途半端火力と射角も圧倒的多数を集結させる事でデメリットを粉砕してしまう。このとにかく物量に物を言わせて敵を押しつぶす作戦は見事だし合理的。あまつさえ、新技術や新型艦の建造に余念がない。結果としてこれを後押ししているのは当然に首相だろう。その点は視野が極めて広いと言わざるを得ない。ベースとして冷静で計算高さのある人物だ。古代との面会時も、〈ラジェンドラ〉に味方したという事はボラー連邦に属したのだと無茶な言葉を述べたが一方で属国という表現は決定的に避けていた。つまり、実際は別にして表面的には地球がボラー連邦に属する事になってもあくまで属している保護国であり独立は守るという立場を堅持したのである。この言葉のセレクトはまさに政治家と言えるだろう。

 ただし彼には致命的な問題があり――軍事的センスが壊滅的なのであるデスラー総統ほどではないが、指揮が雑で弱い判断の全てが政治的過ぎて、軍事的にはあまり意味を成さなかったりリスクが多きスグリうのだ。確かに、自身を囮としてデスラー総統をガルマン・ガミラスの勢力圏外である太陽系におびき出した作戦、これを成功させたのは見事だ。自身を囮とする危険な作戦を実行する決断力もこれ、一級の政治家と言えるだろう。だが、どう考えても危なすぎる。軍司令官としては渡るべきではない橋を渡っているのだ。しかも、頼るべきはブラックホール砲の力押しの一本鎗でしかない、ベムラーゼ首相旗艦機動要塞・通称ゼスパーゼだ。頼りないというほかないだろう。挙句に護衛艦隊の数も十分とは言えなかった。

 そりゃ、デスラー総統をおびき出すのに本国に残った艦隊を全て吐き出させたら――おびき出されなかったとは思う。シャルバートが大した事無いという事実が判明して猶、地球に固執するのはあまり意味がない。大艦隊を動かす、本国防衛を手薄にすればそこにある意図を探ろうとするのは当然。動かせるだけの艦隊を引き連れた割合に弱勢、復讐のような短絡的行動に見せた方がデスラー総統も安心しえ、本国帰還せず地球に直行できただろう。

 だが、あまりに危険であまりに無謀。案の定、ハイパーデスラー砲に蹴散らされてしまった。基本的に自国の軍事力と割と高めの技術力に頼った、それも相手がこれに全く抗せられないという前提で作戦を組んでいく、このお花畑思考回路は最早謎。

 キャラクターとしてはこれくらいアホでなければストーリー展開上、ヤマトが勝てなくなってしまうし、もっと言えばこの程度のお花畑政治家はそこら中に転がっているからある意味でリアリティはあるのだが、ちょっとどころではなく残念な要素。

 政治家としては中々どうして見どころがあるが、それを打ち消してあまりある軍事的なセンスの欠如に加えて地味に運も悪い。

 個人的な資質に関しては明らかにサディストで猜疑心がかなり強い、まさにスターリンタイプの人間性であろう。デスラー総統がヤマトを見逃すように要請した時の反応は特に晩年のパラノイア気質の高まったスターリンのように、自分が相手によからぬことをすると考えるのだから相手も自分に同じことを考えるだろうと、とにかく疑ってかかった。また、バース星への粛清は完全にスターリン的残虐さの発露と言える。彼の発言は志向も思考も徹底した大国主義・帝国主義で単純明快かつ簡潔極まる点もスターリン的。振る舞いは尊大――よく言えば偉大・威厳ある保護者としての自らを演出するがそれはあくまでボラー連邦その物の方向性でもある。その範囲で推移しており、自身を救世主のような形で演出する内容はついぞなかった。これはそのものずばりにスターリンで、彼もソビエトを打ち立てたレーニンに対する崇拝の系譜につなげる形で自身を崇拝させたのであって直接崇拝はさせなかった。これはある意味共産主義のジレンマだろうが。

 しかしながらその狂気は表面的には隠されている。表敬というより苦情を申し立てに現れた古代らに対し〈ラジェンドラ〉への支援に対し感謝の意を表し、その後の囚人に対する古代の不躾な内政干渉へも烈火のごとく怒るというわけではなかった。短気な人間ならあそこでブチ切れてもよかったが、彼は我慢した。古代がボラー連邦に背く(本来は手を振り払っただけではあるが……)事を明言するまで、実力行使は避けた。これは中々できる事ではない。もし自分なら、古代の最初の口答えの時点で銃をぶっ放すもん。

 彼は概ねにおいて口汚く罵る事はなく、幾らか高飛車な相手に対しても王者のように庇護者のように振る舞う。紳士的というほどの好感はないが、粗暴というほどでもない。部下の話もそれなりに聞くし、不要な暴言もない。

 

 キャラクターとして、見事なまでにスターリンをトレースしストーリー展開上必要な要素を詰め込んだと言えるだろう。元々はベムーリンとして登場する予定だったとか。ベムラーゼになった理由は知らん、名前の元ネタもわからん。似たような名前の人があまりいないから。

 


 氏名:ゴルサコフ(Gorsakov)
 年齢:不明(中年と推測)
 階級/役職:不明(大将ないし上級大将と推測)/参謀長
    容貌:白色の肌、多少緑がかった黒髪、虹彩色不明、中肉中背型

 ベムラーゼ首相の副官のような立ち振る舞いをした人物でシャルバート遠征を行った。率いた艦隊が本国第二主力艦隊なのか、別の艦隊なのか不明だが――3個艦隊を出撃させ南辺のハーキンス艦隊まで繰り出すのは危険だろうから多分、バルコム艦隊出撃に出遅れた部隊を率いたとするのが妥当。

 存外普通ないし、結構優秀な軍司令官ゲオルギー・ジューコフに例えるほどではないが十分に勝ちうる作戦展開を指揮できるだけの能力は有している人物。脅威評価も意外と妥当で、ある意味でキャラクターとしてはさほど面白くない。呼称や立ち位置と描写から決して政治家ではないと思われる。ボラー連邦に軍事委員があるなら、多分そこに席を有するだろうが、政治家に軸足はおいていないだろう。劇中では結果的に本国第二主力艦隊と推定される艦隊を率いることになったが、役職を考えれば固定の艦隊を率いることはないだろう。

 ゲオルギー・ジューコフといえば、WWⅡの初期において参謀総長としてレニングラード包囲戦以降は最高司令官として采配を振るい軍事的無能なスターリンの介入にさらされながらもソ連軍を立て直し反転攻勢に導いた人物である。

 ゴルサコフの場合、ジューコフほどは有能・名将ではなかろう。ただ、情報の統括力というのは極めて高く遠隔地の情報を直ちに収集・分析しベムラーゼ首相へと報告を上げる能吏としての側面をシリーズ中盤までにおいて能力を十二分に見せつけた。戦闘指揮もなんだかんだ言って十分に通用するレベルでシャルバート星制圧戦では機動部隊をほぼ地上攻撃に当ててシャルバート星を確保した後にデスラー親衛艦隊との艦隊決戦を試みる描写があった。これはまさに縦深戦術であり、同時多発的にそれも前衛(この場合デスラー親衛艦隊)だけではなく本隊(シャルバート星)や後衛(ヤマト)に対し攻撃を掛けたのは見事であるし明らかにソ連をモチーフにした勢力の戦闘として堂に入っていた。ボラー連邦全体では艦隊直掩以外にあまり使わない艦載機を敵艦攻撃や対地制圧に使ったり、降下兵を差し向けて王宮制圧を目指したりと、結構興味深い。

 個人的な要素としては、まさに軍人。ハーキンスのおべっかを鬱陶しげに止めさせ、ベムラーゼ首相への報告も常に端的、シャルバート星制圧戦もゲート突入を急いだり、戦闘開始前に命令を下して以降は各自に任せていた。これらを総合すると、せっかちな傾向は当然強い。そしてまた簡潔を好むタイプというのは確実だろう。

 ちなみにゴルサコフに似た名前でロシア人にままある名前或いは苗字にコルサコフがある。リトアニア総督アレクサンドル・リムスキー=コルサコフ(1753~1840)やブルガリアの暫定ロシア政権僅差大臣とロシア南西部総督にオデッサとハリコフの暫定総督を務めたアレクサンドル・ドンドゥコフ=コルサコフ(1820~1893)などが有名どころ。

 


 氏名:ハーキンスHarkins/Barphin  Balsiky)
 年齢:不明(中年と推測)
 階級/役職:中将/第8親衛打撃艦隊司令
    容貌:白色の肌、赤毛ないしモスグリーンがかった極短髪(シーンによって色彩が変わる)、虹彩色不明、中肉中背型

 おべっか使いと追撃戦・高速戦に長けた人物で、見た目的に冗談が通じなさそうな雰囲気の割に柔軟な脳みそと感性の持ち主らしい。本国への通信応答の際のおべっかを根拠に、ボラー連邦軍内でも祖国や或いは首相ら中枢への忠誠を求める――大粛清がかつて行われたとしてもいいかもしれない。ともかく、ボラー連邦の中では割とユーモアのある人物と期待できる。

 新型駆逐艦の投入や躊躇ない火力集中などは目を見張る活躍で、縦深戦術理論を編み出したミハイル・トゥハチェフスキー……ほどではないが、極めて高い作戦指揮能力を劇中に提示した。特に敵の迎撃を拘束する高速の戦闘展開は見事というほかない。最期の戦いでは大艦隊による高速接近でヤマトを完全に圧迫する事に成功、グスタフ中将の取れる手段を奪い破滅的選択につなげた。

 ハーキンスの最大の不運は常に追撃戦でしかも攻撃対象が二つあるという、誰だって判断に迷う展開に毎回遭遇したことだろう。ヤマトとシャルバート巡礼船はどちらも逃せぬ目標だし、ヤマトとグスタフ艦隊もまたどちらも逃せぬ目標。しかして、同時に戦うには戦力を分けねばならずボラー連邦軍の基本戦略である火力集中とは正反対の方向に進まねばならない。これでは勝てる戦いも勝てなくなってしまう。まあ、一回それで味方駆逐艦を全滅させてしまったし、グスタフ艦隊の猛攻を跳ね返すだけの火力展開が出来なかったのは残念というか情けないが……。

 ハーキンス最大の特徴は高速で戦うという事。猛打を浴びせ猛スピードで猛攻を仕掛けるのが彼の得意技。ゴルサコフのような例外を除けば、ボラー連邦全般に航空戦力に対する理解が乏しい感じで描かれているように思われる。しかしながら、水雷戦隊と航空戦力はヒット&アウェイであるとか、単独では制空権=制海権を獲得し得ないとか、最大の能力を発揮するには気象条件をある程度調整してやる必要があるとか、結構補給に何があるとか、類似する部分が多い。

 恐らく、ハーキンスもちゃんと理論を学べば十二分に航空戦力を有効活用できる指揮官になれたと思うのだが、グスタフ艦隊に敗れ戦死。惜しい。

 

 ロシアっぽい響きのハーキンス(Harkins)であるが、実はアイルランド系の名前。ゲール語Ó hEarcáinが元型で意味合いとしてはそばかす(Erc/Earc)らしい。ハ行系の音になる接頭辞がついてハーキンスに変化したらしい。

 カットイン前の「――したがって」の前にどんな会話があったのかは永遠の謎である。個人的にはぜひ知りたい。

 


 氏名:バルコム(Balcom)
 年齢:不明(中年と推測)
 階級/役職:提督(=大将か)/本国第一主力艦隊司令
    容貌:白色の肌、ヘーゼル色に近い左目を隠す前髪・逆毛だった襟足(手塚治虫作品風)、ヘーゼル色の虹彩、中肉中背型

 リメント・ヴォロシーロフかセミョーン・ブジョーンヌイか、という具合の残念な人物。極めて高飛車・高慢ちきな性質を持つ上にがさつと正直救いようがない。キャラクターとしては面白いが、実在はしてほしくない指揮官だのに、服装からして意外と高官。多分ゴルサコフと同格。

 劇中では第8親衛打撃艦隊の後方、小惑星帯に待機して戦闘の成り行きを見守っていた。艦載機ぐらい繰り出してやればよかったのにとは思うが、しかしてハーキンスが戦っている最中に関しては確かに前進する必要はなかっただろう。あの時点で前進し就てしまえばヤマトが逃走する可能性もあったのだから――その点では戦略家と呼ぶにふさわしい振る舞いと指揮である。また、圧倒的戦力を誇示しての降伏勧告も、行動として妥当である。ルダ・シャルバートの回収が最大の目的で、別にヤマトに復讐したいわけではないのだから攻撃までのモーションが鈍くても当然と言えば当然。

 だが問題はその直後だ、あまりにも味方戦力を過信しすぎな上に明らかに戦いずらいだろう小惑星帯から艦隊を一ミリも動かさせなかった。これはまずかろう。敵の戦闘準備に味方が追いついていない事に気が付けなかった。これは非常に情けない。相手が直ちに反転攻勢へと出られないだろうという、妥当といえば妥当な予想の元の反応ではあろうが、脅威評価が雑。

 これらの要素から、商売人気質というか株屋というかディール好きな面が見えてくる。計算に基づいた反応をするのが商人であるが、最後の一手は人間に立ち戻って判断するというのが商売人だろうが、バルコムの場合はその最後の一手をミスったのである。最後の一手で凡人や同業者との違いを見せつけるのがトップというモノ……それは軍人というよりもどちらかといえば政治家といった方が正しく、大なり小なり軍人らしい姿勢を見せて来た登場人物の中でベムラーゼ首相と同じか、それ以上に政治家……むしろ貴族的と言ってもいいぐらいの姿勢を見せた。確実に、ボラー連邦の軍人の中では最も異質な存在と言えるだろう。

 この男に気に入られたいなら、少々の危険を冒してでも派手な戦い方をして一番槍を付けるのがベストだろう。後はちゃんとおべっか使っていけば、余程バルコム自身が追い詰められない限りは少なくとも政治的な後ろ盾にはなってくれるだろう。常人の考え方だと、エキセントリックな人間に見えるだろうがエキセントリックな人間という前提に立てばむしろ普通かもしれない。そんなキャラクター。

 

 雰囲気こそロシア的な名前だが、しかして実際には英語圏だったりする。地名としてもアメリカはイリノイ州バルカン(Balcom)、カナダのヌナブト準州Qavarusiqtuuqの旧名バルカン湾、類似でイングランドのバルカム(Balcombe)などがある。ドイツのザスニッツ級ミサイル艇はバルカン10型とも呼ばれる。

 要するに、何が名前の元ネタなのかわからん。キャラクターの気質に関しても元ネタがいまいちわからん。

 

 

 バース星(ボラー連邦内、保護国:摂氏五度が最高温度の凄く寒い星)

 氏名:ラム(Ram)
 年齢:不明(中年以上と推測)
 階級/役職:不明(大将以上)/バース星守備艦隊司令・戦艦〈ラジェンドラ〉艦長
    容貌:緑色の肌、黒毛で割と強めの天然パーマな短髪。ずんぐりむっくりで若干背が低い。

 寡黙・果断・果敢な人物でヤマトの介入という助力があったとはいえ、守備艦隊をほとんどすり減らしたとはいえ、バース星を第18機甲師団艦隊の攻撃から最後まで守り抜いた名将。格としては例えるならマンネルヘイム元帥の右腕エリック・ハインリッヒス、描かれ方としてはスオムッサルミの戦いでソ連軍を殲滅したヤルマル・シーラスヴオに近い。

 作中では実に4回程、第18機甲師団艦隊を退けた名将でダゴンの指揮下手を鑑みても間違いなくヤマトシリーズ史上でもトップクラスの指揮官と言えるだろう。シリーズ冒頭などで見せたように陣を張って敵艦隊と正面切って激突し、戦艦群の火力を以て敵陣を崩しにかかる正攻法を得意とするが、一方でバース星前面域でのように包囲殲滅戦を仕掛けられてもそこから脱出することが出来るだけの戦況把握が出来る人物でこれは稀有な存在。最後の一戦はどうにもならなかったが、度々撤退戦を無事に成功させているのも中々どうしてできるものではない。あまつさえ戦力が減っても代わりを用意し、第18機甲師団艦隊と同等の火力を有する艦隊戦力を調達する――母星の戦力をちゃんと把握しきったがゆえの作戦展開であり、武骨な雰囲気からは予想もつかないが官僚的な側面さえ見える。しかして、最も特筆すべき点は3度の敗北にもかかわらず大艦隊を動員できる統率力だろう。更に彼の敗北はある意味で自国戦力の喪失につながっているのだが、レバルス隊長もラム艦長が地球に救援された事に対して、別に否定的な反応をした様子はなくヤマト来訪を喜び戦闘を即時中止していた。

 ラム艦長の唯一にして最大の弱点は航空戦力に対する理解の無さだろう。ボラー連邦全体において問題な航空戦力の利用がド下手な点を継承してしまっており、結局空母は戦艦扱いでの艦隊戦参加という形になってしまった。これは残念。まあ、本国でも扱えない航空戦力をバース星で使ってしまったらベムラーゼ首相にどんな怒りを落とされるか分かったモノでもないから、うかつに手を出せなかったとしても構わないだろうが。

 一見するとスラヴ系の農民のような無骨一遍な雰囲気なのだが、しかしてテーブルマナーの基本は外さず、礼節を重んじ自らも実践する知的な側面を有する。武勇と義理とに重きを置くのは当然だが、勝てるわけの無い戦いに参加するほど狂信的ではない。敵に対しても一定の礼を取るのも紳士的。この紳士的な姿と武士的な勇敢さと作戦指揮能力が組み合わされば、確かに負けの込んだバース星を統率できる唯一の人間にもなるだろう。多分仕掛けないだろうが、ボローズ総督が仮に政治的な闘争を仕掛けても容易に打ち払いそれでもラム艦長を失脚させようとしたならばバース星が再び独立国としての立場を取り戻そうとしたとしても不思議はない。

 そう予想させるほどの人間的な魅力を有したキャラクターと表現できるだろう。

 名前の由来は判らん。カナダのアルバータ州にはラム川、セルビアの要塞都市ラム(セルビア語ではパム)と旧約聖書の登場人物であるへツロンの子・ラム(新約聖書ではアラム)とそれにちなむイスラエルのラム湖が地名にある。名前としては先に述べたラム(アラム)由来の人名と南アジア全域で頻繁に使われるラーマ神由来のラム。変わり種では軍艦の喫水線下にかつて付いていた衝角(Ram)。

 ラム艦長というキャラクターを一言で表すなら武人だろう。最期の戦闘では〈ラジェンドラ〉は戦闘・航行能力を喪失し、生還期しがたいというのを戦列を離れると表現し赦しをと理解を乞うたり、最期の言葉が「ヤマトの諸君、さようなら」というのは泣ける。そりゃ、艦長席に主要クルーが集まって泣いて最期を待つわいな。

 

 

 氏名:バルス(Levars /Justin Liberatus)
 年齢:不明(20代後半ないし30代中盤)
 階級/役職:不明(大佐か少将クラスと推測)/警備隊長
    容貌:白い肌、前髪の短い009的赤毛、中肉中背

 見た目からしてボラー連邦本国から送り込まれた人物だろう。凄く普通の人物で、強いて言えば連邦の統治に対して大した疑問を持たない半面でヤマトクルーの行動や発言にも大して反発して居ないところを見るに、政治委員のようなしっかりした連邦に対する忠誠心はない可能性が考えられる。旗艦として普通仕様の戦艦タイプBを用いる様子である。

 職務に関しては劇中で見たようにボローズ総督の護衛やバース星近傍空間の警備という実際部分と、コミッサール(政治将校)であり率いるのは督戦隊といったところではないかと推測できる。赤い詰襟が多分、長職を意味するのだろうが結局は不明。

 基本的に可哀想な人物で、古代にいわれのない怒りをぶちまけられてしまった挙句にコスモタイガー隊に射殺されてしまうのだ。彼がバース星の総督かなんかだと古代は勘違いしていたのだろうか、そんなはずは……ヤマトⅢの古代君に限ってはあり得るかもしれないがどちらにせよレバルス隊長に何ぞの権限もありはしないだろう。窃盗のような微罪だったら、もしかしたらレバルス隊長にも権限があったかもしれないが――実際にはシャルバート教徒つまりは政治犯騒乱罪を冒したようなものだ、どうあがいてもボラー連邦ではそこそこクラスの役人では差配できるはずもない囚人なのである。

 欧米的責任論であれば確かにベムラーゼ首相と同罪ではある。しかして権力構造からして大分下っ端なのだから、囚人の処刑には責任と言えるほどの責任があるかといえば……ボラー連邦が解体された暁には長めの懲役刑が妥当だろう。それをコスモタイガー隊の銃撃による裁判なしの処刑であるから哀れというほかない。

 彼の指揮能力が高いかどうかは不明で、ヤマトに対して艦載機戦力で母星から引き剥がし艦隊戦力の待ち構える戦闘域に誘導し、挟み撃ちにしたのは見事な手腕であるが――ヤマトも初めから戦うつもりというわけではなかったからあまり参考にはならないだろう。

 ちなみに、レバルス隊長の部下は〈ラジェンドラ〉号のクルーと同じ肌が緑色であるためバース星人であろうという事が推測される。

 

 レバルス(Levars)の名前は〈HMS レパルス〉のもじりだろう。レヴァー(Levar)だったら英語圏に割とよくある名前。

 

 

 

 氏名:ボローズBorroughs/General Lobo )
 年齢:不明(40代程度)
 階級/役職:不明(上級大将格の政治委員と推測)/バース星総督
    容貌:白い肌、赤毛のストレート(若干襟足長め)、結構なやせ型

 服装だけ言えばゴルサコフやバルコムと同格。政治委員で軍事に携わって居るのか、軍人だけど政治家に近く軍事委員を務めている、といった雰囲気の人物。両側面を有するローマの属州総督的なイメージといったら端的に表せるかもしれない。人物の立ち位置として例えるならハンガリーのカーダール・ヤーノシュやブルガリアのトドル・ジフコフに似ている感じもする。

 頬骨がしっかり見えるぐらいの線の細い人物で、背はそこそこ高い様子。基本的には穏やかな性格であろうというのが立ち居振る舞いなので推測できるが、焦ると雑で攻撃的になる。一見すると尊大なのだが、しかして相手の立場をそれなりに認識かつ重んじる傾向が強く間違いなくベムラーゼ首相より話がわかる人物。何より、初対面から地球を属国扱いにしようとベムラーゼ首相のナチュラルな見下しと違い、ボローズ総督は地球をはじめから対等――というには勢力が違いすぎるが、しかして一応は独立国としての地球の立場を重んじかつ念頭に置いて接していた。同時に、ただ寄港しただけというヤマトの立場も理解した歓迎の辞を述べていたところを見るに本来はまともな統治者なのだろう。負けの込んでいたラム艦長が艦隊を率いるのを邪魔しなかったのだろうし、その時点で必要な所に必要な物を投入するという当たり前の事を出来る政治家だとして差し支えない。一番怖いベムラーゼ首相の前では明らかにベムラーゼ首相の肩を持ったが、だからと言って古代を叱りつけるほどの事は言わなかった。ごくごく、一般的な感性の持ち主といえよう。

 残念ながら第18機甲師団艦隊の襲撃により守備艦隊を壊滅させられた事と、ヤマトクルーの逃亡を阻止できなかった事により責任を星ごと取らされることになってしまった。

 

 アメリカ合衆国ミシガン州はカラマズーにある棚などのオフィス用品メーカーに同名の株式会社がある。一方でバローズ(Burroughs)というのもありこちらはアメリカの計算機やコンピュータの会社。バローズないしバロウズであれば英語圏では人名でもまま見られる。

 自治区を意味する英語のBoroughであるが、これは現在のスペル。昔のスペルはBurroughs。もし、自治区をイメージしての命名だったならば英語とロシア語で大いに異なるが皮肉の効いている命名と言えるのだろうが――多分違うだろうなぁ……。

 

 

 ボラー連邦の場合、ガルマン・ガミラス帝国と違い将軍が入っていない為に少しは階級がわかりやすい。ソ連やロシアは提督(Адмирал)は大将を意味する海軍の階級とされていた。別にソ連やロシアだけではなく、ドイツも同じでイギリスに至っては提督に日本語訳される語が二つありCommodoreの場合は准将ないし代将だしAdmiralなら大将となる。

 ボラー連邦で興味深いのは、それ以前或いは以後の登場勢力と違い副官がいない事だろう。確かに、ベムラーゼ首相の旗艦では諸将が居並び首相に話に激しくうなずいていた、副官なのか従卒なのかただのスタッフなのかは判然としないが明らかに首相府の人間がベムラーゼ首相の傍に侍っていたのも間違いない。バルコムの傍にも副官の可能性がある人物が何人かいたようだ。しかして、割に階級が低そうなレバルス隊長は当然としてもボローズ総督やハーキンス中将にゴルサコフ参謀長ら高官にも副官がいないというのは驚き。考えようによっては――これは分断支配という見方もできるだろう。個々の将官は独断の裁量を与えられてはいるが、しかしてそれはあくまで連邦に対する忠誠や軍事的功績を前提としたもの。個々の将官は誰かと相談するという事を阻害されるために横のつながりが乏しくなり、他方で縦のつながりは連邦を盾にしたベムラーゼ首相個人支配を構築が容易になる。そうして将官ベムラーゼ首相と同格以上の存在になる事を阻止し、クーデターの可能性を完全排除。この方式を徐々に保護国への軍隊へと導入していけば保護国は衛星国となり、属州として完全に連邦に同一化できる。合議制の国のように見えているボラー連邦だが、実際は独裁である――副官の無い体制は形式的に合議だが実際は独裁という国家体制の内実を表すものであると同時に、国民や軍人に刷り込む手段としても機能するのではないのかとも思う。

 類例としては暗黒星団帝国で、あちらもデーダーを除いて副官がいる様子はなかったし彼だって副官に何か助言を頼んだことも仕事を申し付けた事もなかった。しかしてこちらは単なる物理的(決して能力ではなく)な人材不足が理由という事もあるかもしれないが。

 一方でバース星は他の勢力と同じように副官ないし、それに類する立場の人間がいるようである。その意味では決断までの過程が冗長化されて失態を演じにくくなる為、意思決定の安全性は高いと言えよう。

 

 その他の要素――

 ボラー連邦の服装は軍服が基本でそれ以外は見られない様子。灰色を基調としてY字切開の軌跡のような黒いラインを有し、割合ぴっちりとしたシルエット。半円・縦形の肩パットに加えてデコルテもどうも材質が堅そう。さすがにベムラーゼ首相はデザインが異なり、襟が黄色で胴の横じまが一本入るのが特徴的。彼に耳打ちしに来た副官らしき人物も同じくデコルテに黄色い横じまが一本入る為、首相府の職員は黄色が目印なのだろう。

 細かく見ると、肩パットが袖に連なる形で覆いがつくと――シルエット上、二の腕と肩パットが一体になると政治家か軍事委員なのだろうと推測できる。ベムラーゼ首相や彼の旗艦で居合わせた面々、ボローズ総督にゴルサコフ及び同じ服装のバルコムは大分シルエット的に肩パットが分厚い。また、マントに関しては明確に差があり現場指揮官級では絶対に着用しない。総督や本国艦隊司令、参謀長や首相など一国一城の主とでもいうべきような規模の組織を率いる人物は必ずマントを着用する。ボローズ総督らのマントから察するに、全員後付けで元から縫い付けられているわけではない様子。何なら肩甲骨辺りに金具なのか、左右に差し渡した紐に巻き込むように着用するのかは不明。

 

 一方でバース星の元からいる軍人は19世紀末のヨーロッパ軍人のようなコートを着用し、ベルトで締める。指揮官は恐らくジャボを襟につける様子。コートは階級によって違うのかもしれないが、あまり明確ではなく――黒と赤の組み合わせで開襟が指揮官で詰襟で黒と青の全体配色が副官ないし一般将校らしい。前と後ろの配色が一般兵は副官は同じというのだからある意味驚き。

 

 

  と、以上のような存外に多彩なキャラクターが登場しているのがボラー連邦である。能力が高い人や低い人、ハッタリ半分な人など実に様々だ。

 このそれなりに細かい設定やオブジェクトが存在する故に、ヤマトⅢがぎりぎりのラインでSF的面白さを保てたと言えるだろう。