ストーリー考察Ⅻ 激戦! スカラゲック海峡星団
第23話――ルダ王女を迎え入れ、あれから2か月。探査予定最後の星、スカラゲック海峡星団β星に到達したヤマト。
しかし、この星は酸素含有量が少ない上に嵐が頻発しており、どうにも住めそうにない。ヤマトのモニターに映し出されるβ星の荒漠たる地表。真田さんがたまさかに見つけた構造物――それは北アメリカ船団と共に地球を発進した護衛戦艦〈アリゾナ〉だった。だが、砂に埋もれたその姿。生気の全くない様子……。
降下して調査を開始したアナライザー、雪、土門。足元を見ればそこにはアリゾナのクルーの白骨死体があった。どうやら、地表は恐らく何がしかの腐食性のガスあたりを含んでいるらしい。或いは嵐には硬度の高い微細鉱物でも含まれているのだろう。そうでなければ、たった数カ月で人間は白骨化し服もボロボロになるなどありえない。
このような環境では人間はおろか、どんな生物も生息できるようには思えなかった。
そして、護衛戦艦アリゾナ……。 土門らの調査により、アリゾナはボラー連邦に撃沈されていたことが、放射能測定で判明した。また、アフリカやヨーロッパの船団が遭難したことが雪の口から語られた。
この際に検出されたボラーチウム100が放射性物質で炸薬的に使われているのか、劣化ウラン弾の様な弾殻に用いる金属なのかは不明。ただ、アフリカ船団やヨーロッパ船団への攻撃にも用いられた点から、ボラー連邦の軍事においては一般的な物質なのだろう。これらの観測が成されたという事を、希望的に見ればアフリカとヨーロッパの船団はひょっとすると一部でも地球圏内に帰還出来たのかもしれない(そうでないとボラーチウム100と比較する試料が〈ラジェンドラ〉とか、ヤマトが被弾した物質とかごく一部に限られてしまう)。
そう考えると、〈アリゾナ〉ら北アメリカ船団はかなり強力なボラー艦隊に襲われたと見え、運がなかったとしか言いようがない。護衛戦艦の中で一番強そうだったしね、〈アリゾナ〉
移住すべき星がない、ボラーの手が迫るという最悪な状況の中、何と惑星ファンタムの一件で禍根の残るグスタフ中将が登場。さらに彼はルダ王女の引き渡しを要求、従わない場合は臨検すると予告した。
しかし、古代はいづれの要求にも「答えは、NOだ」と返答、これによりやむを得ず一戦交えるかと、状況は危機迫った。
って、臨検でいいんだ、グスタフ中将。臨検を拒否するならば、撃沈するという――割には戦闘準備に移っただけ。どうやら中将は実力行使にかなり抑制的なお方らしい。どうやら、好戦的な性格だとしてもせっかちでは無いらしい。
考えてみればグスタフ中将、加えてハーキンス中将は共に、約2か月もヤマトを野放しにしていた。2か月も野放しにしていい敵とは思えないのだが、事実上野放しになっていたのである。せっかちな人間がそんな悠長なことをするはずはない。
まあ、ハーキンス中将の場合は巨大艦隊を統率しなければならない以上、行動に機動性が失われても仕方がない。また、途中で〈アリゾナ〉ら北アメリカの探査艦隊を仕留めていたから、遅れたのかもしれない。その場合、幾らか行動がごゆっくりでも仕方がないだろう。
そんな、紳士・グスタフ中将。
どんな勝算がったのかは不明だがヤマト側が攻撃態勢を整えるのを待っていた節がある。総統の通信という邪魔が入ったのもあるが、しかし先制攻撃を仕掛けようという行動は一切取っていない。
どうやらこの人、本当にヤマトと正面から戦いたかったらしい。
なんだろうね、このガミラス軍人らしい――物凄いなつかしさ。砲戦距離も500宇宙キロと設定しているため、何がしかの飛び道具を使うつもりもなく、徹底的に砲撃戦を目指していた模様。ここまで紳士だと逆に、ちゃんと正面からヤマトと戦わしてあげたかったよね……。
ヤマト死守を命じた総統の通信が終わると、突如としてハーキンス率いるボラー・第8親衛打撃艦隊が出現。ヤマトに対して高速接近、ルダ王女の引き渡しを要求する。
ハーキンス艦隊はグスタフ艦隊の捕捉圏外ないし、遠方でワープし通常航行でヤマトに急速接近したのだろう。こようなパターンで接近してくる敵艦隊を補足できた艦隊はヤマト史上でも多くはない。
丁寧な態度だったグスタフ中将とは異なり、2回目の面会である事もあってか、「従って――」という印象的なカットインから登場したハーキンスはこの上ない高圧的態度でルダ王女の引き渡しを要求し、従わない場合は破壊すると警告した。
これに怒った古代は「断るッ!!」と要求を拒絶。ハーキンス艦隊は宣言通り直ちに砲撃を開始、これにより戦闘が始まった。
しかし1対凄い数、しかも平野での戦闘。これではいくらヤマトでも勝てるはずもない。
一縷の望みはグスタフ艦隊だが、古代のマインドからしてガルマン・ガミラスとの険悪な情勢も相まって援軍を頼めない。
これがハーキンス中将の不敵な笑みの理由だったといえるだろう。彼が古代とグスタフ中将の通信を傍受していた可能性は十分にある。
宣言通りハーキンスは攻撃準備を命令、直ちに砲撃戦を開始した。第一斉射にさらされたヤマトはコスモタイガーは速やかに繰り出し、グスタフ艦隊の前面に展開してこれを牽制。他方でヤマトは艦首を廻して的を小さく、自慢の主砲を以てハーキンス艦隊と戦う――も劣勢。コスモタイガーをボラー艦隊の攻撃に回せないのがかなり痛かった。
徹底的な砲撃を加え、デストロイヤー艦やタイプAらを撃沈し続けるが、圧倒的な戦力差は埋まらない。猛烈な砲撃を受けてヤマトは反撃と言えるだけの反撃を出来なかった。
このままではヤマトが沈む……総統の命令を遂行すべく、グスタフ中将はヤマトの援護を開始。ヤマトの前面に割り込み、自艦隊の全門を以てハーキンス艦隊に対して攻撃を浴びせかけた。
だが、圧倒的な戦力差は全くといっていいほど覆せない。グスタフ艦隊を牽制していたコスモタイガー隊もハーキンス艦隊攻撃に回り猛攻を浴びせるが、ヤマトの劣勢は変わらない。
このままでは味方艦隊も無駄死にになってしまう。
覚悟を決めたグスタフ中将。彼はヤマトとハーキンス艦隊の間に割り込むだけでなく、舳先を向けて前進――艦隊を前進させて体当たり突入を敢行した。コスモタイガー隊をどかせ、砲撃を捨てて次々と突撃してくるグスタフ艦隊。
敢然たる突撃に対し、ハーキンス艦隊はうまく対処できず次々と沈む中……グスタフ中将もヤマトとの通信の後、ハーキンス艦へと突っ込み、惑星破壊ミサイルが起爆。
この大爆発を以て第8親衛打撃艦隊の排除に成功した。
グスタフ中将の決断は、無謀な決断であると言わざるを得ない。古代の言う通り無茶である。しかし、デスラー総統の命令の遂行には体当たり突入以外に方法はなかったといえるだろう。
グスタフ艦隊の砲戦距離設定が500宇宙キロ、ハーキンス艦隊は450宇宙キロである為、幾らかグスタフ艦隊の方が射程は長い。が、旗艦の決戦兵器は一発のみのミサイル、護衛にはあんまり役に立たない大型戦闘艦と、戦況を覆すには数の足りない中型戦闘艦――総数が15隻程度……これでは勝てない。まして、グスタフ中将が武者震いするほどの巨大艦隊相手には全く不足である。
故に、ハーキンス艦隊を粉砕するにはその陣中央での惑星破壊ミサイルの起爆が絶対条件だろう。だが、グスタフ艦の単艦突撃では突入が成功する見込みはない。
僚艦の体当たり突入の支援を以てして初めて実現できる、乾坤一擲の作戦。それが体当たり突入だった。他に手段はない。止めてもどのみちあのタイプの指揮官であるから、部下が引っ付いてハーキンス艦隊に突入した可能性もあるにはある。
戦闘考察でも述べたが、総統への忠誠心高いグスタフ中将。「私も一度は、ヤマトと正面から戦ってみたかった」という最期の言葉に表されるように、彼は軍人というよりも武人といった方がいいようなメンタル。極めて果断に富む彼だからこその行動・決定と説明する他ないだろう。
シリーズ初めの方に登場したラム艦長が戦闘宙域から退避しない決断をしたのと同じ、グスタフ中将だからこそできた判断という事になる。
ラム艦長と同じく、えげつないほどカッコいい最期だった。
例えるならば――SPQRの最後の意地を見せるため、オスマン帝国軍に突っ込んでいったコンスタンティノス11世パレオロゴス・ドラガセス。あるいは日本の名誉にかけて米空母機動部隊に一矢報いんとした山口多聞中将。
彼らが下した決断は無謀で結果的に成果は少なかった。だが、他の手段が正しいとは限らない中、彼らなりのベストバイであった事には間違いない。
これと同じことである。
続くバルコム艦隊戦。このあっけなさは、ハーキンス対グスタフの大決戦に比べれば戦闘描写は圧倒的につまらない。
ヤマトが結構頭のひねった攻撃を浴びせかけた事と、小惑星帯での戦闘というバルコム艦隊側が圧倒的に不利な状況を鑑みれば、勝利があっけないのもわからんでもない。
わからんでもないが——全力で考察をした場合にようやく見えてくる話であって、ぱっと見はどっから見てもご都合主義。
このシークエンスで面白かったのはバルコム提督。彼のセリフ全部。
「まだ戦力は残っておるか?」の高飛車な問いかけや古代の返答に「気の強い子だ」であるとか「我が主力艦隊は前衛艦隊の5ヴァイの戦力だ。最後まで言わせるな」などの面白セリフはボラー連邦の他の司令官に比べてかなり表情豊か。
ハーキンスの「従って――」カットインより面白い。彼は彼で、前落に何を話していたか気になるが。
考えてみれば、かなりきつい口調で「用件を聞こう」という古代の返答は確かに、気の強い子だ。冒頭の「やっとのことで」というような、グスタフ中将をディスるような言い回しをしてしまった結果、古代の逆鱗に触れてしまったのだろう。
バルコムのルダ王女の引き渡し要求に古代は「くどいッ! 如何なる理由があろうとNOだッ!」と完全拒否。確か星巡る方舟にも似たようなシーンがあった気がする。これも気の強い返答だ。
やはり注目すべきはバルコムの反応。
古代ブチ切れ返答受けたは「もうよいッ! 通信を切れッ」とちょっと動揺したような表情を見せ、その後10秒以内の攻撃を指令するなどの過剰な反応。10秒で攻撃準備完了しても大した意味があるようには思えないのだが……
この数字を強調したり語尾の癖が強かったりする彼の性質は何となく某ディオ・ブランドーに近くさえある。
印象深い悪役としてはヤマトシリーズ最高峰の司令官かもしれない。挙句、小惑星帯から撤退することもなく、バルコム艦が早々に撃沈されて機能不全になり艦隊が全滅。この最期はザ・小物と呼ばずして何と呼ぼうか。一方で、小物臭が強いのに、なぜか何となく小物に見えないのが何とも不思議である。
うっかり戦闘に焦点を当ててしまったが、ストーリーを中心に見た場合、焦点を当てるべきは……艦内でのルダ王女と揚羽の急接近に焦点を当てなければならない。
だが、はっきり言って、描写としては大した接近ではない。
ただ単に揺れる艦内で、座っていてもふらついてしまう体幹の弱い王女様を、優男の雰囲気全開で体を支えかばうイケメン御曹司という――それ以上でもそれ以下でもない内容。吊り橋効果か。
そして苦境において救いを求め、シャルバート教に入信する揚羽。その姿に、そしてヤマトの激闘に心打たれたルダ王女は――って入信したら途端に話が前進するって何それ。ヤバい新興宗教じゃないっすか……。しかも、散々実在するとほぼ確定していたのに、なによりルダ王女の存在自体が証明なのに、「へぇ? シャルバート星は実在の星なんですか!?」と驚き揚羽君。意味が分からん反応である。
まあ、何はともあれ、揚羽君の信仰告白のおかげで、シャルバート星への道が開かれたのであった。
うん、随分の急転直下でこれはご都合主義としか言いようがない。擁護できんっつーか、したくない。いいのかなぁ……こんな不気味というか、信仰のみにすがったストーリー展開、スケジュールマターな話で……。
グスタフ中将のカッコいい最期が台無しである。
以下、超絶・個人的見解。
多分ではあるが……2199のユリーシャは多分コイツ、ルダ王女。ルダ王女の影響を極めて強く受けた、いわばルダ王女を2199ナイズした存在がユリーシャだろう。
ヤマト第一作は地球人類がほんの少しの他者の協力と、圧倒的な愚直なまでの努力を以て、ただひたすら生きる為に――その努力が出来る存在かどうかを、スターシャは14万8000光年・往復29万6000光年の旅路という試練を与えたのである。旅路はあくまで試練であって、試験ではない。イスカンダルに到達した時点で、ヤマトや地球は試練を乗り越えた事になり、コスモクリーナーの受領する資格者となれるのである。
それを2199は試験とした、ゆえに試験官が必要だった。ルダ王女は間違いなく試験官であり、ユリーシャあるいは2199におけるスターシャもその意味においては同質の存在と言えるだろう。私権と試練――多分、認識の差か何かなのだろうが、私個人の見解として必要のある修正点には思えなかった。全体が試験と言えたあの2199の内容というかストーリーの傾向は、旧作の本質とは思えないのである。多分、製作陣は狙ってやっているのだろうし、それが製作陣なりの旧作に対する解なのだろうとは思う。が、私は同意しかねる。
何なら、2199より、2202の方が旧作の本質という点に対して迫れていたような感がある。無論、2202は外観的には全くヤマト的ではないし、描写に関して言えば旧作の良さやリメイクの合理性も全く無い。が、人間の醜さというか、はかなさや弱さなど、こちらは2199よりも色んな意味で割と迫れていた気がする。
好意的に見ればね?
繰り返すが、これは個人見解。