旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

戦闘考察Ⅴ スカラゲック海峡星団決戦 ――勇敢なるグスタフ中将――

 

 第22話ラスト、グスタフ中将率いる北部方面艦隊によって惑星ファンタムは抹殺された。衝撃を受け、抗議する古代だが彼の理論はガルマン・ガミラスには通用しない。

 しかして、古代たちは足踏みをしている場合では無かった。人類が移住できる惑星を探さなければならないのである。更にルダ王女がヤマトに乗艦したと察知したボラー連邦が巨大艦隊を出撃、彼らの後を猛追していた。

 

 ヤマトが目指すスカラゲック海峡星団は惑星ファンタムの比較的近傍空間にあった。そして目当ての惑星である海峡星団β星――地表は猛烈な乱流にさらされ、構造物なぞ数カ月どころか数日でも持たぬであろう過酷な環境。しかも酸素含有量はあまりに少ない。この惑星は全く人類の居住に適さなかった。

 惑星探索は万策尽きた……落胆の中、ヤマトの背後には追いついたガルマン・ガミラス北部方面艦隊が迫る。

 

 

 スカラゲック海峡星団決戦・第一会戦

 ガルマン・ガミラス帝国側参加部隊:北部方面艦隊
 規模:1個艦隊     
 戦力:惑星破壊ミサイル母艦(旗艦仕様)1、大型戦闘艦4、駆逐艦10 
 指揮官:グスタフ中将

 所属:北部方面軍


 地球側参加部隊:ヤマト 
 戦力:戦艦1

 指揮官:古代進

 

 ボラー連邦側参加部隊:第8親衛打撃艦隊 
 規模:連合艦隊(打撃艦隊所属艦全力) 
 戦力:旗艦級戦艦1、デストロイヤー艦多数、戦艦タイプA多数

 指揮官:ハーキンス中将

 

 展開

 第23話――スカラゲック海峡星団β星に到達したヤマト。しかし恒星間・惑星間の引力によって引き起こされる地表面の猛烈な嵐と低酸素状態は人類の移住先にはどう考えても適さなかった。

 仕方なく引き上げるヤマト。しかしそこへグスタフ中将率いる北部方面艦隊が現れた。彼らの目的はヤマトが収容したルダ王女を引き取る――場合によっては臨検して奪い取ることである。

 しかし古代はこれを拒否、直ちに戦闘準備に入るが、グスタフ中将も直ちに戦闘態勢に入り本気度を示す。だが、更に悪い事にデスラー総統から通信が入ってしまう。内容はボラー連邦主力艦隊の接近であり、同時に元来好敵手であるヤマトの死守だった。ようやく、正面から戦えると楽しみにしていたグスタフ中将は落胆の表情を見せた。

 

 その時、ハーキンス率いるボラー連邦第8親衛打撃艦隊が現れ、ヤマトに向かって60宇宙ノットの猛スピードで接近する。圧倒的な数で押しつぶそうとするハーキンス艦隊の目的はヤマトからルダ王女を奪うか、さもなくばヤマトごと亡き者にしようという事だった。

 古代は当然ハーキンスの要求を、グスタフ中将を相手にしたときよりも極めて強硬に拒否した。「断る」この一言でハーキンスは即刻砲撃を開始する。距離450宇宙キロと迫る中での戦闘開始――しかしすぐさま間合いは詰まって行き、ヤマトは400宇宙キロの時点で反撃を開始。だが、コスモタイガーをグスタフ艦隊への対応に割いたため、効果的な攻撃は望むべくもなかった。

 ヤマトの戦況は全く不利。

 グスタフは総統の命令を守るべくヤマトに向けていた全砲門をハーキンス艦隊に向けて発射、戦闘を開始する。だが、数の差は埋めようがなかった。ヤマトが13発被弾に及ぶに至り、グスタフは艦隊を前進させハーキンス艦隊との間に割り込み攻撃を引き付けようと試みるが、火力は敵側の方が圧倒的でたかだか15隻の戦闘艦では時間稼ぎにしかならない。

 総統の命令、何としてもヤマトを死守しなければならない。グスタフ中将は決意を固め、コスモタイガー隊を退かせる。代わりに自艦隊が前進し、ハーキンス艦隊に対して体当たり突入を決行。僚艦の突入成功に続きグスタフ中将もまた「私も一度はヤマトと正面から戦ってみたかった」との言葉を残し旗艦はハーキンス艦に突入、惑星破壊ミサイルの起爆によって敵艦隊を消滅させた。

 

 描写の妥当性

 ヤマトがコスモタイガーをグスタフ艦隊に向かわせたのは妥当だろうコスモタイガーの攻撃は確実にガルマン・ガミラス艦艇に有効であると判っている反面、ボラー艦艇相手には少々頭を使う必要が有る。加えて、グスタフ艦隊の数はたかだか15隻。強力なコスモタイガーの攻撃で駆逐艦を仕留めれば、グスタフ艦隊のほぼ脅威は排除できたも同然

 一方でハーキンス艦隊は規模が違うため、コスモタイガーを差し向けたとて足止めも難しい。ヤマト自身で戦線を支える必要が有る。それに交渉中にもかかわらず急速接近してきたことを考えると、グスタフ艦隊よりハーキンス艦隊の方が危険度が高いし、どのみち戦わざるを得なかった。

 グスタフ艦隊が進撃を停止しかつ、ハーキンス艦隊へ攻撃を開始したのを確認してすぐコスモタイガーを引き揚げさせたのも正しい判断。

 それ以降は――少数精鋭と巨大艦隊の力と力のぶつかり合いであった為、作戦もへったくれもない。悔しいかなバルコムの言う通り、グスタフ艦隊がいなければ負けていたかもしれない戦いだった。

 

 ハーキンス艦隊も圧倒的多数の戦力を擁している以上、わざわざ艦隊を分ける必要はない。妙な対応をして火力を減じて万が一という事もあったらヤバイ。だったら中途半端に策を弄せず、正面切って戦うのが相応しいだろう。自身が得意な高速戦闘にもちこんでヤマトを圧迫、グスタフ艦隊に戦術の選択幅を与えなかったのは見事といってもいいかもしれない艦隊も密集すればそれだけ弾幕が厚くなり、厄介なコスモタイガーを寄せ付けることなくデストロイヤー艦のウィークポイントを晒すこともなくなるだろう一見すると雑な戦闘展開に見えて実は、割と前回の戦闘を踏まえた感じの展開であるから個人的には好き。

 ハーキンスは元々、ルダ王女を再捕縛するために現れたのである。ベムラーゼ首相はヤマトがガルマン・ガミラスの手先である可能性を危惧していたが、それ以上に危険なのがルダ王女。ルダ王女再捕縛がハーキンスの目的である以上、ヤマト攻撃が最優先であり初期において交戦の意思を見せないグスタフ艦隊予防的に火力リソースを割くわけにはいかない。一方、仮にヤマトに逃げられた場合、明らかに連邦に仇を成すし、ハーキンスはグスタフ中将がヤマト死守を命じられているとはつゆほども知らない。万が一ヤマトを中途半端に損傷させてグスタフ艦隊に漁夫の利を与えるわけにも行かない。

 だとすれば、グスタフ艦隊がヤマト掩護に向かうまでの段階では、ヤマトに全火力を集中させるのは当然だっただろう。また、グスタフ艦隊が本腰を入れて戦闘をするならば、それは迎え撃たなければならなかったのは当然だしただそれだけの話。主砲をヤマトへ集中、射角の広いボラー砲のみを向けてグスタフ艦隊に対し攻撃を加える。ボラー砲はいい意味で主砲と大差ない威力だし、圧倒的多数を有する味方艦隊ならば各艦一門だけのボラー砲でも十分グスタフ艦隊を圧倒出来る見込みがあった。

 そりゃ終わってみれば事前に旗艦だけでも退避させればよかったかもしれないが、旗艦援護がてらに火力を集中させていたあの密集隊形である。僚艦との距離が取れず、退避叶わなかったとしても十分整合性は取れるだろう。その結果、グスタフ艦の突入を許してしまい、敗北につながった。

 

 グスタフ艦隊の行動に関しては、動機の部分はいくらでも説明可能

 総統の命令は絶対であったから、ルダ王女をボラー連邦に奪われるわけにはいかなかった。あるいは、ヤマトに対し一種の――誰にも渡したくない獲物という感情を抱いていたか。一隻で巨大艦隊を相手にするヤマトに感服して武人として共に闘う事を選んだとも表現できるだろう。

 ルダ王女の処遇に関しては、ヤマトが生き残れば勝手に護衛をしてくれるし、まさかヤマトがボラー連邦に寝返るはずもない為、自艦隊が壊滅したとしてもリスクは最小化可能つまり、これはハーキンス艦隊を殲滅=ヤマトを死守するのが全ての観点から優先されるべき目標と合理化できる本当はハーキンス艦隊を引き付けている間に、ヤマトが最大戦速で離脱してくれればよかったのだが……グスタフ中将もそれを期待したと考えて不思議はない

 

 さて、さすが総統の信任厚い司令官らしく、戦闘内容は極めて自然で妥当

 当初、ヤマトより更にハーキンス艦隊の遠方から砲撃を開始することで、ヤマトと自艦隊の二手にハーキンス艦隊の意識を分けさせるのは憎い作戦であり、イニシアチブを握り得る采配だった

 ただ、ハーキンス艦隊の主力が射角が広いボラー砲を備えたタイプAだったのが誤算。タイプBとデストロイヤー艦だけであったならば、艦隊はグスタフ艦隊に対応するには当然、対ヤマトとは別に艦隊を分けなければならなず、これを強要することでヤマトと自艦隊が総力を挙げることで戦力差はどうにでもなった。

 だが、タイプAは牽制すべきグスタフ艦隊へボラー砲を向けるだけ事は済む。で、艦隊自体は主砲を用いて最優先目標のヤマトへ攻撃を集中させ続ければいい。グスタフ艦隊への投射力の不足は圧倒的な大戦力でカバー可能である。

 これが、グスタフ中将にとって破滅的な要因となった

 

 残念ながらグスタフ艦隊は、果敢に砲撃をしたものの……大してヤマトに対する攻撃を引き付けられなかった――結果、ヤマトへの攻撃を停止させるために自艦隊が盾となる形で間に割って入らざるを得なくなったのである。しかも、自艦隊を囮として使うのだがから損害は覚悟の上だろうが……割って入る間のタイムラグで多数の戦闘艦が大損害を負ってしまった。

 総数が15隻程度でしかないグスタフ艦隊がハーキンス艦隊と戦って勝利できるかといえば、元から疑問ではあった。そこへ、更に艦隊の数が減ってしまう。

 目下最大の目的であるヤマト死守、これを果たすにはハーキンス艦隊の殲滅が絶対条件。だが、現状では達成できそうにない

 唯一、この絶望的戦況をひっくり返せるのが惑星破壊ミサイルの起爆だろうだが、グスタフ艦単独での突撃では集中砲火を受けてミサイルの起爆前に撃沈されかねないグスタフ艦のハーキンス艦隊中核への突入にはどうしても僚艦の援護が不可欠だ

 全艦を以ての体当たり突入……これも致し方ないだろうヤマト死守をするには、むしろこれしかない惑星破壊ミサイルの起爆を確実に行うには、これしかない。この決断は、軍人としての冷静な判断と武人としての果断な精神を兼ね合わせたグスタフ中将だからこそと説明できる。

 

 敵より速いスピードで接近し、敵艦隊の中核に向かって突撃しその首脳を撃滅することで艦隊を機能不全に陥らせる。独自の判断で動くという事がガルマン・ガミラス以上に苦手な傾向がボラー艦隊にあるとしたならば、最善策といっていい

 戦闘のあとはヤマトが自分で考えるべきこと。ヤマトは逃げることも、或いは残敵掃討をすこともヤマトにとっては容易だったはず。 

 そう考えればグスタフ中将の体当たりも合理的な判断ではあっただろう。無謀というより、仕方がない作戦の破滅的転換。これによってヤマトは最大のピンチから救われたのである。

 

 グスタフ中将が体当たり突入しなければ、ヤマトが捕縛され或いは破壊され、ルダ王女が奪われ、最悪ガルマン・ガミラスにすら災いがもたらされたかもしれない。その意味では、彼の献身が全宇宙を破滅的な暗転から救ったとも表現できる。

 悲劇的だがグスタフ中将の武人の誇りと祖国・総統への忠誠を見事に示したエピソードといえよう

 グスタフ中将の「私も一度は、ヤマトと正面から戦ってみたかった」という最期の言葉に裏付けされた彼の武人らしさによって、この体当たり突入とその決定プロセスにご都合主義ではない、断固たる妥当性が見えてくる

 

 そもそもだが、ヤマトがハーキンス艦隊から逃げてくれればよかったのだ。確かに、結局のところヤマトの戦線離脱を助力せねばならず、その際にグスタフ艦隊がハーキンス艦隊相手に体当たり突入をしなければならない展開も十分ありえた。

 だが、ヤマトがほぼ動かずにハーキンス艦隊と戦闘を行ったおかげでグスタフ艦隊は間に割って入る以外にヤマトの援護方法がなくなってしまった。グスタフ艦隊も艦隊運動を行い、ハーキンス艦隊をより有効かつ機動的に叩けた可能性があったのだが――ヤマトが動かないおかげで盾になるほかなくなってしまった。ヤマトの鈍い戦闘のおかげで、体当たり突入に押し込まれてしまったと言っても過言ではない。

 

 

 意義

 ガルマン・ガミラス艦はどうやってもボラー艦相手では劣勢、火力が足りない。まして少数で、作戦を立てられるだけの戦力がない場合は、逃げるほかに生還の手段はない。

 ボラー側はファンタム往路で見たような中途半端な数では全く有効打にならないが、大量に艦隊を派遣すればヤマト相手でも十分沈黙させられる=数こそ力という事がはっきりした

 ヤマト側は――ボラー相手に開けた空間では戦ってはいけない。相手が数の優位を生かせない状況においてはじめて、互角に戦える。これがはっきりした。

 

 ガルマン・ガミラス帝国側損害:北部方面艦隊全滅、司令官戦死 
 地球側損害:なし

 ボラー連邦側損害:第8親衛打撃艦隊全滅、司令官戦死

 

 

 

 スカラゲック海峡星団決戦・第二会戦

 地球側参加部隊:ヤマト 
 戦力:戦艦1

 指揮官:古代進

 

 ボラー連邦側参加部隊:本国第1主力艦隊 
 規模:連合艦隊(第一第二主力艦隊より、一部を抽出。ハーキンス艦隊の5倍) 
 戦力:デストロイヤー艦多数、タイプA多数(以上、バルコム艦護衛隊)/大型空母多数、戦闘空母多数、タイプB多数、デストロイヤー艦多数、戦艦タイプA多数

 総司令官:バルコム中将(第1主力艦隊司令

 

 展開

 第23話後半――グスタフ中将は総統の命令を完遂し、ヤマトを死守した。

 だが、バルコム率いるボラー連邦第1主力艦隊が付近に迫っていたのである。バルコムはヤマトに通信を飛ばし、ハーキンス艦隊の5倍の戦力を誇りルダ王女の引き渡しを要求した。しかし、半ばキレていた古代は「くどい! 如何なる理由があろうとNOだ」とぶっきらぼうに返答。これにイラっと来たバルコムは通信を切り、10秒以内の戦闘開始を下令した。

 ヤマトの反撃に必要な猶予は10分。バルコム艦隊の猛攻をコスモタイガーを以て牽制し、ヤマトの機能回復までのタイムラグを稼ごうとするが大火力相手にうまくいかない。たまらず岩塊の陰に隠れ、波動砲発射を試みるが――その猶予すら稼げない。

 そこで、隠し玉である波動カートリッジ弾を以て苦境を打開しようと画策、岩塊伝いに250宇宙キロまで急接近。射程圏に捉えると同時に砲撃を開始し、上部からたたきつけた第一波攻撃で前縁部を撃滅。この第一波攻撃でバルコム艦の撃沈に成功、続く第二波攻撃で側面よりバルコム艦隊を攻撃、最終である第三波攻撃はバルコム艦隊の下方から挑むに及び、これを完全に殲滅したのである。

 

 描写の妥当性

 バルコムはあの性格からしてディーラー。それも懐かしのトランプ大統領と同じタイプの勝負師である。つまるところ、損失自体は恐れないが、損失が無駄になる事を拒否するタイプ。小さくても戦果はいかようにも利用が出来る以上、どんなにちっぽけな戦果でも確保したい。

 ゆえに、バルコムが小惑星帯を挟んでヤマトと対峙したのは当然だろう。打って出て、万が一損害が出たらもったいない。加えて彼の元来の目的はハーキンス艦隊の援軍であって、ハーキンス艦隊が圧倒的優勢だった対ヤマトや対グスタフ艦隊相手では前進する必要は本来なかった。たまたま、グスタフ艦隊が退かず、ハーキンス艦隊が全滅したからハーキンス艦隊の目的を引き継いだまで

 

 ハーキンス艦隊が敢行し戦果を挙げたのは大火力を絶え間なく浴びせかけ、ヤマトを圧倒するという数の暴力。これは対ヤマトにおいて大当たりな作戦である。ヤマトは意外と大艦隊の猛攻に手も足も出ない。

 バルコムが行ったのも同じ内容である

 艦載機群を繰り出しても良かったが、グスタフ中将がコスモタイガー隊をどかせたように、誤射が怖い。バルコムが恐れるであろう、無意味な損失になりかねないのだ。であるならば、艦載機を繰り出すよりも徹底的に砲撃に努める方が合理的

 ただ、小惑星帯にとどまったまま攻撃を開始し、ヤマトの反撃を受けたのは凡ミスいうか、不作為と言わざるを得ない。ヤマトをなめ過ぎた。あの巨大艦隊、あの数の障壁――あれでは迅速には動けないのだから、手を打っておくべきだっただろう。ヤマト反撃を受けてからでも構わなかった、小惑星帯から艦隊を動かし平野でヤマトに集中砲火を浴びせるべきだった。

 ちょっと、損失を恐れ過ぎたきらがある。悪くない作戦だったけど。

 

 ヤマトに関してはこれは何とも評価しようがない

 初めの内はグスタフ艦隊を警戒し、後にこの艦隊がある意味邪魔な位置に入り込んだためヤマトはハーキンス艦隊をうまく攻撃できなかった、という説明もできなくはない。また、対ハーキンス艦隊戦は小惑星のような隠れる場所がなかったため逃げようがなかった、反撃するタイミングをつかめなかった。といえなくもない。ヤマト側に好意的に見ればの話だが普通は、グスタフ艦隊のおかげで圧倒的劣勢を覆したとみるのだが問うだろう

 一方で対バルコム艦隊戦は小惑星帯の中での戦闘。幾らでも身を隠す場所はあったし、実際に小惑星に隠れてバルコム艦隊の砲撃をやり過ごしていた。この小惑星帯の存在を決定的に大きく評価するならば、ハーキンス艦隊戦で木っ端みじんにヤマトが役立たずだったのも仕方がない。つまり、小惑星帯に守られたためにバルコム艦隊と互角以上に戦えた。という説明になる。ヤマトはたった一隻で小惑星を渡り歩くようにして身を守り、反対にバルコム艦隊は砲撃が小惑星に阻まれた上に艦隊の行動を邪魔されてしまいいいようにヤマトに狙撃されてしまったと。

 地形が戦闘に影響を及ぼすのは陸戦の常だし、天候で戦闘が変わるのは海戦の常だ。この説明だとバルコムがアホすぎる感じになってしまうが……

 まあ、無い話ではなかろう

 

 例えば陸戦だがテルモピュライの戦い、或いはサラミスの海戦。近現代ではスリガオ海峡海戦。これらは地形が攻勢側にとって全く不利で大艦隊や大火力を生かすことが出来ず、むしろ守勢側がその持てる総力を一点突破的に集中させて徹底抗戦し戦いである。テルモピュライの戦いに関しては負けてしまったものの、しかしアルテミシオンの海戦の勝利も相まって、ギリシャ連合艦隊集結や味方陸戦兵の退避・再集結までの時間を稼いだ。何となく悔しいが、戦略的には大勝利といえる。サラミスなんかは見事にペルシャ艦隊を押しつぶしたし、スリガオ海峡でも西村艦隊は大きな回避行動がとれずに魚雷や砲弾の雨にさらされてしまい文字通り爆散してしまった。

 このスカラゲック海峡星団決戦を完全に擁護するにはなかなか難しいが、絶対にありえない、絶対に合理的ではないというほどではない

 正直な所、バルコムの性格に全責任を押し付けるという意味でのご都合主義感があるのは間違いないが

 

 ただ、一つだけ確実に合理的かつある意味ご都合主義だがあり得ない話ではないのが――第一波攻撃中でのバルコム艦への波動カートリッジ弾直撃であるこれはご都合主義に見えて、実は極めて有用かつ合理的な描写

 あの密集隊形じゃ避けようがないという事に加えて、あの一発の直撃によって司令部は消滅し、残りの艦隊は全く機能を失ったという事。旗艦が爆沈すればそれは司令部を喪失を意味する。当然、不可抗力的な突然の爆沈である為、バルコムから副司令への権限の継承などはできたはずもない

 ボラー連邦ほどの強烈に中央集権の指導体制であれば、独自の動きを出来る指揮官などむしろ邪魔。という事は、攻撃続行以外の選択肢を能動的にとれる指揮官がいたかといえば大いに疑問。次席司令が艦隊を掌握できなければ当然艦隊は組織的に動けない。各戦隊司令は直前に下された命令ないし元来の命令のどちらかを実行する他ない。

 まるで、頭を失った蛇の体と言ってもいいだろう

 その結果、ヤマトにいいように攻撃され消滅してしまった。ヤマトばかりがよくそんな上手く行くなという部分において結構苦しいが、全くあり得ない内容ではないだろう。逆に言えば、バルコム艦の撃沈描写が後ろ倒しになっていたら、全く持って一ミリも合理さの無い描写になったといえる

 旗艦への直撃は完全にラッキーヒット。このラッキーヒットが冒頭に来たことで、一見ご都合主義に見えるが実はかなりリアリティのある描写となったのである

 

 現実の戦闘では古くはレパントの海戦オスマン帝国艦隊総司令メジンザード・アリ・パシャ、右翼艦隊司令マホメッド・シャルークのような最高級司令官が戦死や負傷して艦隊は統率が著しく低下。左翼艦隊司令クルチ・アリ・パシャが取りまとめた一部の艦隊しか逃亡すら叶わなかった。

 日清での黄海海戦で〈松島〉と〈定遠〉がともに大破して旗艦としての機能が著しく低下し、その最中は艦隊が独自に動けた部隊もあったものの全体としては機能不全に陥った。

 また、日露での黄海海戦では〈ツェザレウィッチ〉が大破し、司令部喪失。結果艦隊は散り散りになってしまったし、日本海海戦でも〈クニャージ・スワロフ〉が大破して旗艦能力を喪失した後は艦隊は次席艦が継いだとはいえ有機的な艦隊運動はほとんど行えなかった。前者に至っては日本艦隊が苦し紛れにぶっ放した本当にラッキーヒットだった。

 何が言いたいかといえば、旗艦が機能を喪失するというのは艦隊の機能不全に直結するという事。別に撃沈や大破させられなくても構わない。指揮官がいないだけで艦隊は十分機能不全となる――リッサ沖海戦のように。 

 

 意義

 バルコム提督……大艦隊を小惑星という障壁で援護させたまでは良かった。だが、自らが利用できるという事は敵も利用できるという事。つまり、逆に相手が利用してきた場合は自艦隊が巨大すぎて身動きが取れない。早く退避しておくべきだった。ボラー連邦の概ね基本戦略である大艦隊運用をする際の問題点が明らかになった戦闘だろう。

 ヤマト側に関しては、やはり開けた場所で大艦隊と戦うべきではないという事がはっきりした。もし開けた場所で戦っていたら今度こそ敗北しただろう、逆にバルコムが小惑星帯に留まってくれたおかげで戦闘のイニシアティブを握れた。開けた場所では二度と戦うまい。


 地球側損害:とくになし

 ボラー連邦側損害:本国第1主力艦隊、本国第2主力艦隊全滅、司令官戦死