旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

戦闘考察Ⅺ・土星圏総力戦②――タイタン前面域決戦――

 

 タイタン前面域決戦は土星決戦の佳境である。文字通りの決戦であり、勅命を受け白色彗星の前衛を務めるバルゼー艦隊と、地球の存亡をかけて迎撃を試みる土方艦隊の最初で最後の戦闘。

 双方が総力を挙げて激突した屈指の激戦であり、ヤマト史上最高の戦闘の事である。

 


 ガトランティス側参加部隊:シリウス方面軍
 戦力:戦艦80以上、駆逐艦多数
 指揮官:バルゼー


 地球側参加部隊:地球防衛艦隊本隊、ヒペリオン艦隊
 戦力:戦艦複数、巡洋艦複数、パトロール艦複数、駆逐艦複数、空母3
 指揮官:土方竜、ヒペリオン艦隊司令

 

 

 戦闘経緯・経過
 第21話――プロキオン方面軍を失ったバルゼー総司令は反対に地球側艦載機による空襲と言う危険を抱える羽目になった故に取り得る策はヤマト機動部隊と地球艦隊主力が共同作戦を取る前に主力艦隊を撃破、ヤマトや地球の戦意をくじき、あるいは新手の敵襲来に備えるのみ。
 他方、土方総司令は最大の懸念を排除する事に成功。ヤマトとナスカ艦隊との戦闘の情報を仕入れているはずの土方総司令は、当然大戦艦の脅威評価を行っているだろう。であるならば、大戦艦の主砲は地球艦隊の主砲より射程がかなり短い事が予想できた。故に事前の戦闘計画通り、自軍の敷いた包囲網にバルゼー艦隊が侵入するのを待った
 


 バルゼー総司令は地球艦隊の戦略に寄らず主力艦隊めがけて直進。これに対して前衛のヒペリオン艦隊が出動、主力艦隊の砲撃戦を支援するためバルゼー艦隊の陣形を乱し追い立てに掛った。しかし、バルゼー総司令は艦隊を二つに分けて、戦艦を主力とした第二艦隊を差し向ける。ここで大戦艦は今まで発砲許可の下りなかった衝撃砲を使用、ショックカノンと射程は大して変わらないものの大威力のこれによりヒペリオン艦隊を粉砕。他方、バルゼー艦隊は戦闘経過を無視して直進


 完全に目算の外れた土方総司令は主力艦隊に出動を下令、砲撃戦ではなく拡散波動砲の先制攻撃による長距離砲戦で敵を漸減、衝撃砲の射程圏ギリギリのラインでの戦闘を狙った。
 反対にバルゼー総司令は見事に戦略が的中。地球艦隊の拡散波動砲発射隊形展開で静止した所に火炎直撃砲の投射を開始した。アウトレンジ攻撃にたまらず地球艦隊は反転、カッシーニの間隙に待機させていた後衛と合流して戦力立て直しを図った。他方バルゼー総司令はショックカノンの射程圏外を堅持しつつ地球艦隊に喰らい付く形で土星の環に侵入。

 

 しかし、ここで環の性質を見誤り火炎直撃砲の誤爆が発生。乱流で身動きが取れなくなったところに地球艦隊は反転、砲撃戦を敢行。ショックカノンの猛打によりこれを全滅せしめ、残すは旗艦〈メダル―ザ〉のみとなった。
 進退窮まったバルゼー総司令はより容易に撃破できるであろう、背後に迫るヤマト機動部隊ではなく――果敢にも土方総司令座乗の〈アンドロメダ〉に焦点を合わせてより強勢な地球艦隊主力との砲撃戦を敢行。土方総司令は周囲の艦と共に総力を挙げてこれを迎撃。バルゼーの奮戦も敵わず、バルゼーに詫びたゲルンと同様に大帝に敗戦を詫びつつ旗艦爆沈と共に戦死した

 

 

 描写の妥当性

 描写の妥当性を語るには、作戦全体を考察する必要が有るだろう。

 

 まず、土方総司令は万全のガトランティス艦隊との戦闘は避けるべきと考えただろう。まあ、当たり前だ。であれば、ガトランティス艦隊の陣形をかく乱し、相互の援護が出来ない形――あるいは包囲殲滅的に敵の数的優位を完全に押しつぶす必要がある

 そのためにヒペリオン艦隊をガトランティス艦隊に突入させ、戦陣をかく乱。敵が体制を立て直す前に主力艦隊を前進させ、彼我の戦力比から砲雷撃戦ないし拡散波動砲を以て殲滅する。これがベースのプロットであると考えて自然だろう。

 当然、ガトランティス艦隊が誘いに乗らない場合も考えられる

 ヒペリオン艦隊が喰らい付いたまま無視して前進し、ヒペリオン艦隊を盾に取るような形で砲撃を強要されれば当然、拡散波動砲は使用不能。ただ、護衛の駆逐艦巡洋艦を前進させれば――混戦の中で何とかヒペリオン艦隊を救援しつつ敵を狙い撃つ事は可能だろう。何せショックカノンの打撃力による優位は覆らないのだから。ガトランティス艦隊がヒペリオン艦隊の各個撃破を試みた場合は、これは後方から奇襲すればいい。汎撃破するだろうが、形としては挟撃。間に味方艦はなく、心おきなく拡散波動砲をぶっ放せる。

 ヒペリオン艦隊の戦力がお話にならないレベルであったとしてもさっさと逃げればいいだけ。仮に負けても敵艦隊の練度や兵装の性能などがヤマトとの戦闘以上に直接的にデータが取れるのだから、ヒペリオン艦隊の出撃自体は幾らでも利用価値がある

 土方総司令にはいくらでも、失敗を挽回する方法はあるのだ。艦隊の配置上、一度だけなら、一度だけならば失敗しても挽回することは可能

 

 

 他方でバルゼー総司令は何としても拡散波動砲を避けねばならなかった第7話の時点でガトランティスは拡散波動砲の性能を掴んでおり、この強力な決戦兵器をどうしても封じなければならなかった

 射程に関して言えば、火炎直撃砲という超長射程砲を有しているバルゼーが一つアドバンテージ。しかし、一方で他の戦闘艦はまるっきり射程が敵のショックカノンと同等=拡散波動砲の射程圏内を何とか突破しなければ攻撃が出来ない。頼みの火炎直撃砲も、一発一発の効果範囲はそう広くない反面、ピンポイントの選択性があまり高くない――つまり、密集させて狙い撃ちしなければならないのだ。

 地球艦隊を密集させるには直接砲戦を誘導するのが妥当だろうが、数からいえば地球艦隊がこれに乗るはずはない。ならば拡散波動砲の一斉射撃を誘因する他ない。一隻一隻でバラバラに攻撃するよりも一斉射撃の方が効果が高いのは誰でもわかる事――だがそれをされるとバルゼー的には非常にリスキー。やる価値はあるのだが、火炎直撃砲の使うタイミングが非常に難しい。しかも攻撃の要である火炎直撃砲がその特性がバレた後では、むしろ地球艦隊の散開を誘引しやすい。

 何とかしなければならない。たった一度、火炎直撃砲の目新しさが敵を圧倒している間のみがバルゼー艦隊にとっての勝機これを掴まねばならない

 

 

 そこへヒペリオン艦隊が前進してきた

 土方総司令的には何気ない一手、堅実な一手であった。だが、バルゼー総司令にとっては千載一遇のチャンスであったのだ。

 

 

 ヒペリオン艦隊の意図はバルゼー総司令にとってはどうでもいい事。撃ち漏らそうが、どうなろうが関係ない。このヒペリオン艦隊に対してわざわざ艦隊を半分割く事。衝撃砲を使用する事。これによって地球主力艦隊の動きを制限できる――これが最大に重要な事だった

 艦隊の半分を割くことで戦闘のスピードを明らかに早め、背後を襲われる危険を削ぐ。一見、艦隊の戦力を自ら減じたように見えるが――しかしバルゼー総司令にとっては計算の内。また、今まで発砲を控えていた衝撃砲という準決戦兵器を大戦艦が全艦装備しているという悪夢を見せつけた。この衝撃砲はショックカノンと同等の射程であり、地球艦隊は正面切っての砲戦をあきらめざるを得なくなったのだ

 これで地球艦隊は拡散波動砲に頼らざるを得なくなった

 

 

 土方総司令にとって、ヒペリオン艦隊がこれほどあっさり敗北するとは思わなかっただろう。何といっても衝撃砲という誤算、これが痛かった。艦隊をわざわざ二つに分けるという行動も、わざわざ味方主力艦隊と同数まで戦艦の数を減らすという選択の不自然さ……地球艦隊が頑張れば相打ちに持ち込めるかもしれない、拡散波動砲をどこかのタイミングでぶっ放せば勝てるかもしれない。

 わざわざそんな行動をする――慎重に動かなければヒペリオン艦隊を救うどころか返り討ちになってしまいかねない。これで、土方総司令は主力艦隊を前進させるのが遅れ、ヒペリオン艦隊を見捨てた形になってしまった。唯一の収穫は衝撃砲の威力とその射程のデータ収集。

 

 

 ヒペリオン艦隊の敗北によって、土方総司令は作戦の変更を迫られた

 つまり、戦力差を埋める為出来るだけ直接砲戦を避ける=拡散波動砲による一斉射撃で殲滅する。さもなくば敵を漸減し、出来るだけ戦力差を縮めてからの砲戦。これ以外に方法はなかっただろう。

 拡散波動砲発射隊形を展開した場合、当然気取られるだろう。が、一隻一隻の拡散とはわけが違う。また、地球側はまだ拡散波動砲の存在をガトランティスが知らないという前提で作戦を進めていたと考えて妥当だろう。波動砲とは格の違う効果範囲の拡散波動砲を一斉射撃であれば、ある程度散開した敵であってもその主力を葬れる。主力を葬った所で味方の水雷戦隊でも突撃させるか、包囲殲滅戦へ移行するか。何にせよ、敵が情報を知らない拡散波動砲で奇襲的に粉砕する。

 だからヒペリオン艦隊も苦し紛れにぶっ放したりはしなかった。拡散波動砲の価値を確保したまま戦闘に移行するため――

 

 

 バルゼー総司令は地球艦隊の発進に際し、拡散波動砲の発射を誘引するためダメ押しで全艦隊を集結させ、逆転の秘策である火炎直撃砲の発射準備を開始した。

 土方総司令は拡散波動砲効果を最大限発揮するため拡散波動砲発射隊形を展開波動砲使用の意図を明確化する事で砲撃戦を望むであろう敵艦隊の足を速め、拡散波動砲キルゾーンへ誘因・そのスピードを速めた。

 

 そして火炎直撃砲が炸裂する。

 

 たまらず、地球艦隊は転進――土方総司令の最優先事項は火炎直撃砲の射程圏からの退避。それが無理ならば、艦への直撃を避けるべく回避行動をとる。

 いい加減まで退避しなかったのは、ガトランティス艦隊の速度が絶妙であと数分耐えれば……というこそばゆい心理戦によって踏みとどまってしまったと説明できる。前進や散開をしなかった理由も説明可能であり――仮に接近した場合、ガトランティス艦隊が速度を速めてしまえば避けなければならない直接砲戦に持ち込まれ、余計に味方の敗北が現実味を帯びる。散開したとしても射程圏内では危険性は変わらず、やはり砲撃戦に持ち込まれた場合一騎打ちとなって分が悪い。

 前に進めない以上、後退する他、無かった。

 

 

 バルゼー総司令はここで大きな油断をする

 火炎直撃砲によって地球艦隊を漸減し、その陣形を壊すことに成功した。ここで損害を恐れずに大戦艦を最大戦速で突入させれば、土星の円環の中であっても砲撃戦で同等以上に戦えただろう。火炎直撃砲を使用しつつも、味方を巻き込みつつであったとしても地球艦隊を殲滅できた。わざわざ〈メダルーザ〉を前進させる必要はなかったのだ

 が、完全なる勝利を求めた。ゲルンの敗北をチャラにするべく、というのが妥当な説明だろう。そのために自身の艦隊を出来るだけ損害ないく戦闘を集結させたかった……だから円環に突入してしまった。

 

 

 土方総司令的にはカッシーニの隙間に配置した予備軍との合流ないし、予備軍を直接投入して岩塊や割と濃いガスに紛れてガトランティス艦隊を両舷から奇襲する。というのが一つ作戦としてあっただろう。

 だが、円環を突破する途中で火炎直撃砲を食らったのが大きかった。これで艦隊をほぼ確実に殲滅する方法を思いついた。つまり自滅させる事は火炎直撃砲の威力であるからこそ、可能だと。だからヤマト機動部隊のコスモタイガー隊にガトランティス艦隊を追撃させ、円環に押し込んだ

 

 ――そして――

 

 バルゼー総司令としては円環に突入しても気にはならなかっただろう、ただの小塊が何の脅威になるのか。しかし、これは認識が甘かった。その根源は恐らく、成分の調査をミスった、という点に求められるだろう

 なにせ偵察艇ビードルがヤマトに踏みつぶされて敵情の細かいところが判らなかったのだから普通はそんなところに突入すべきではないのだが、しかしそれはバルゼーの個人的気質によるところだろう。

 

 また、散々ぶっ放しまくった為、火炎直撃砲のどっきり感が丁度薄れたタイミング=対策を立てられたかもしれないという、危険な状況に突入しつつあった。つまり、大戦艦の衝撃砲を封じられるように艦隊に肉薄して混戦へと持ち込めば火炎直撃砲も形無しというのがバレてしまったとかもしれない。なぜなら、混戦では狙いが付きづらく、威力が高い為に味方艦まで巻き込んでしまいかねないから

 であるならば、多少の危険を犯してもさっさと地球艦隊主力を粉砕すべきと判断しても不思議はない。その方が、味方の損失を減らせるし。

 

 が、それが判断ミスだった

 恐らく、氷塊やガスによる干渉で直近での環境観測をし損なったか――磁界による遮蔽が不十分ないし一時的な解放によってプラズマと氷塊が接触してしまい、大爆発。乱流を招いたという事だろう。

 前にも述べたが、元ネタと思われるハルゼー提督も、台風に突っ込んで艦隊に大損害を出してしまったのである……だから、この無茶とも思える決戦の畳み方も、乱気流のメカニズムさえ説明できれば、バルゼーだからこそ合理性が担保できる。

 

 

 バルゼー最期の砲撃戦は、武人的気骨のある軍人にありがちな行動と言えるだろう。山口中将の無茶な飛龍単艦反撃や、宇垣中将の玉音放送後の特攻などの事例に比定できる。

 これらは一言では表現しえない感情・行動といえる。無意味といえばそれまでだが、説明は付けられる。そういう行動。

 

 

 

 火炎直撃砲がアンドロメダに直撃しなかった理由は可能性として二つ挙げられる。

 一つは能力の限界

 単純にメダル―ザの探査能力の限界による照準のブレという可能性は十分ある。また、地球艦隊だって馬鹿じゃないのだからジャミングぐらいしても不思議はない。何なら旗艦と同様の信号を周囲に発するいわば盾として周囲の艦が動いていたとしても、作戦上は不思議はない。

 あるいは、一発目は純粋にミスったが次弾は正確に射抜いたはず――が、前面に展開した護衛の駆逐艦が盾になってくれた。旗艦が沈んでは勝てるはずもなく、護衛としてその任務を一命を賭して果たしたという事も考えられる。明らかに爆発がアンドロメダの前方で起こったワンシーンがあり、ここから推測した。

 もう一つは戦略的に当てなかった

 ガトランティスは開戦直後にアンドロメダをはじめとした機密情報を入手していた。指揮官の情報もそれなりに入手していたとしても不思議はないだろう。ならば、土方竜という猪突猛進系指揮官の行動は、同じく猪突猛進系のバルゼー総司令であればこそ可能となる。

 要は、マインドとして中々逃げたがらないから旗艦に当てるより周りを沈める多分散開して撤退より、組織的反撃が可能なある程度密集状態での退避をするだろう。この状況を誘発できれば、火炎直撃砲は威力を発揮しやすいのは誰でもわかる事。

 旗艦を沈めない事で、これを狙った。

 

 この想定が正しかった場合、バルゼー策士策に溺れる。結果として土方総司令に戦略と知略で完敗した、という事になってしまい印象として無能というかバカに見えてしまう

 しかし、円環突入まではバルゼーの戦略は的中していた為、彼が無能という事は決してない。ただ――少々詰めが甘かった、それだけだし、これが全て

 

 


 意義
 情報戦の能力による戦場支配と、適応力による反撃。その重要性の習得だろう。

 ガトランティスは今まで十分行ってきた敵情視察をおろそかにし、結果として優勢を逆転されて敗北を喫した。他方で、情報統制を敷いていた衝撃砲はその価値を実際以上に発揮する事に成功、同時に火炎直撃砲という少々癖のある兵器を十分に生かすことに成功した。

 だが、個人的な気質による戦闘計画の立案はその個人的気質によって破綻し得るという危険性も判明したのである。

 

 他方、地球は今までの分業的に艦の能力を向上させ、艦隊の総合的な能力を高めるという建艦政策が正しかったという実証的成果を得られた。また、艦の機械的能力の向上は新兵の能力不足を補い、指揮官の戦略眼は艦隊の数・能力的不足を補いうるという頃が判った。これは非常に大きな意義だろう。

 しかし、全般的に地球軍の不足していた自衛、警戒といった能力の不足は致命的。これによって、拡散波動砲の価値が損なわれてしまった。結果、戦闘艦の大量喪失につながる。これは、次期地球防衛艦隊建設の礎となるだろう。

 が――それを収集できる防衛軍では無かった……

 

 


 この戦いでバルゼー総司令はガトランティスの科学技術力と、従来戦法を平気で捨て去る柔軟さを見せつけた。そしてまたガトランティス人は、その気質が軍人というより武人に近い事を証明した。

 また、土方総司令もその英知と武勇を示し、地球艦隊をヤマト史上唯一の勝利へと導いたのである。

 


 ガトランティス側損害:シリウス方面軍全艦喪失
 地球側損害:戦艦多数、巡洋艦多数、パトロール艦全艦喪失、駆逐艦全艦喪失(上記中に主力艦隊他、ヒペリオン艦隊所属艦を含む)