ストーリー考察Ⅷ・白色彗星緊急ワープ
白色彗星は旧作シリーズにおいてさらばとヤマト2それぞれ、1回の緊急ワープを行っている。
さらばにおいては、土星決戦で無様な戦いをして敗北したバルゼーに代わり、地球う艦隊を踏みつぶすために前進。
ヤマト2・第21話においては、土星決戦で優勢のバルゼー総司令の戦況を見つめつつの緊急ワープだった。
さらばの場合は、誰がどう見ても理に適った緊急ワープと断言できるだろう。
元々ガトランティスはアンドロメダや地球艦隊についてある程度情報は得ていたと考えられる。だが、確実確定な情報を得ていたかと言えば若干疑問。
そこで起きたのが土星決戦の惨敗、そのまだマシな側面に注目しよう。つまり――バルゼー艦隊に対するアンドロメダによる拡散波動砲攻撃を観測できた以上、彗星帝国首脳部は地球艦隊全体の波動砲戦力を推測することが可能になった。つまり、どの程度の危険性があるかは十分判断出来たし、白色彗星で十分対抗できると判断出来た。
もし、白色彗星を前進させなかったならば――いつまでたっても戦線は膠着してしまい、地球征服まで時間がかかって勝利の価値を損なってしまう。だから安全を確認できた以上、手っ取り早く決着をつけた。そのためのワープであったと説明できる。
だが、ヤマト2ではあのまま見ただけでは意味が解らない。何せ、味方が勝っているタイミングでの緊急ワープ。
これは考察しなければならないだろう。
緊急ワープの理由
理由自体はいくつか考えられるだろう。一つに頼るのもよし、複数を組み合わせるもよし。ともかく考えられる理由を明らかにしてみたい。
一つの理由は、迎撃を避ける為のワープ。
そのまま直進すると、万が一迎撃を受けかねない。
バルゼー艦隊に勝てないのだから、本丸に一気に攻め込んで白色彗星はを潰してしまえばバルゼー艦隊は自ずと降伏するだろう。と、地球艦隊が考えて迎撃を行ってきても不思議はない。戦力は前衛と主力、後衛に加えて予備戦力が配されていたが、このうち予備戦力ないし後衛を前進させて白色彗星を急襲、彗星帝国本国とバルゼー艦隊の双方の動揺を誘って、破れかぶれに近い戦術をとる。
大坂夏の陣の真田隊のような感じか。
冬の陣より弱体化した豊臣軍本隊が苦戦どころの騒ぎではないのをしり目に、押して押して押しまくる真田隊が徳川軍本隊を急襲し――そこまで危なくはなかったが、それなりに家康の動揺を誘ったアレ。
普通に考えれば、あらゆる戦術を考え抜けば、地球艦隊が取り得る方策の一つとしてあり得るだろう。故にもし、正直に直進してしまえば容易に迎撃されてしまう。押し負けるとは思っていなかっただろうが、ガス体程度が打ち払われてもおかしくはないと覚悟はしただろう。
ともかくとして、無駄な損害は避けるに限る。
緊急ワープを行い、消息を絶てば、簡単に地球艦隊の意表をつく事が出来るだろう。意表を突き、地球艦隊を吸い込むことが出来ればなおの事よし。
事前にバルゼーにワープ着地点の位置を伝えておけば、味方艦隊を巻き込むこともなく、むしろ敗戦に傾いたとしても一気に挽回することが可能。なんや言うても、土星圏にいきなり現れるというのは中々にえげつない判断……。
2つ目には、バルゼー艦隊の苦戦ないし敗北を予期した可能性。
プロキオン方面軍という巨大航空戦力を失ったバルゼー艦隊は明らかに戦力比で地球に接近されている。挙句、地球艦隊は大型37門に中型81門の拡散波動砲がある。拡散波動砲キラーの火炎直撃砲だが、これは一門しかなく地球艦隊が損害を恐れず最大戦速で突撃をかましてくれば、この優位さは簡単にひっくり返る。
しかも、バルゼー艦隊は地球艦隊に対して優勢に戦闘を進める中で突撃の足を一切止めなかった。バルゼー総司令としては、砲戦距離まで接近できれば自艦隊の方が優位に立てるという算段があっただろう。拡散波動砲は中距離戦闘では圧倒的かつ一方的破壊力を有するが、遠距離戦闘は火炎直撃砲の独り舞台。近距離戦闘も衝撃砲の方がショックカノンよりも威力がある。
バルゼー艦隊は中距離戦闘から退くか、進むかさえできればいい。楽勝とは言わないが、非常に明瞭な方針で戦えばいい。
だが、彗星帝国本国が同じ判断を下したとは限らない。
何気、彼らは慎重なのだ。
ナスカの指揮能力は確かに疑問だが、一応偵察の役割は果たしていた。
一応、惨敗を避ける為にザバイバルに戦車軍団を預けたし、デスラー艦隊の代わりの艦隊を送っても敗北の危険は変わりない程度で、ガトランティスとしてはむしろ陸戦に持ち込んだ方が撃破のチャンスがあった。
太陽系への突入だけなのに、バルゼー総司令はわざわざ兵站補給基地を建設――ナスカの時と同じように、前線基地建設の重要性はガトランティス全体が理解していた所と言えるだろう。
案外、常識的な方針設定をするのがガトランティスなのだ。
であるならば彼らがバルゼー総司令の高速戦闘を安心して見ていたとは思えない。中距離戦闘を避けるという意図は理解していただろうし、同意もしていただろう。ただ、バルゼー総司令の戦い方をみるに、近接戦闘ならばかましても構わないと彼は思っていただろう。闘将ならば、近接戦闘も辞さない――これはあり得る。
だが、本国はもっとスマートな戦い方を要求していただろう。バカみたいに数のある駆逐艦ならば多数を消費してもまあ、ペイできる損失と思っていただろうが、万が一地球艦隊に後詰が居た場合、大戦艦に多数の損失があっては戦闘に支障をきたす。大戦艦は打たれ強い戦闘艦ではないのは周知の事実だ。
バルゼー総司令の戦闘を見て、万が一の敗北――白色彗星の緊急ワープ直前、地球艦隊は土星の環を目前都市、バルゼー艦隊も喰らい付いたまま突進をかましている。この不用意な行動は、岡目八目と言うべきか彗星帝国本国からすれば極めて危険と見えたかもしれない。
真面目な話、レイテで栗田艦隊がタフィ3に喰らい付いたまま湾に突入すればマッカーサー軍を粉砕できたという話がある。
だが、連合艦隊を温存させた、という意味では栗田中将の判断の方が正しく、しかも後方に不明な敵の存在を認識していた為――彼は反転が最善の判断だと認識した。結局誤報だったが、彼と同じ情報を得たならば、かなりの人数の指揮官が同じ判断を下すだろう。また、あのまま突っ込んだとしても普通にオルデンドルフの戦闘艦隊が迎撃に動いただろうし、多数の戦艦を擁するオルデンドルフ艦隊と撃ち合っている間にハルゼーの機動部隊が後方から襲撃を加えてくれば、その時点で連合艦隊はレイテ湾に枕を並べて眠ることになってしまっただろう。この可能性はかなり高かった。
敵に喰らい付いたまま突進するというのは、決して間違った判断ではないのだが、慎重に戦況を見据えなければならない。バルゼーがそれをミスった、と彗星帝国本国が認識しても、結構慎重な5世大帝なら不思議はない。
ならば、緊急ワープを行う事でバルゼー艦隊敗戦のダメージを最小限にする必要が有る。あるいは予想戦場に急にワープアウトすることで地球艦隊を粉砕し、バルゼー艦隊に対する勝利の価値を損なわせ、地球に降伏を迫る。
仮にバルゼー艦隊が勝利すればそれでいいし、劣勢になっていたとしても挽回させられる。壊滅していたら――その場合のリスクヘッジとしてワープを行うのだから気にすることはない。また、後方で白色彗星が不穏な動きをすれば、それだけ地球艦隊の注意はそがれるだろう。
実際は土方艦隊は白色彗星にかまっている暇はなく、気が付いたのはヤマトだけ。そのヤマトにしたって結局はタイタン前面域の戦闘に注力してしまい、結局気が付かなかったため――ある意味、この点においては白色彗星のワープの意味がそがれたともいえるだろう。
これらが、白色彗星の緊急ワープの理由や、その決定に至った様相として十分説明できるだろう。
白色彗星のワープ。まさか、本当に壊滅するとは思っていなかっただろうが、現実にはバルゼー艦隊は地球艦隊に敗北して全滅してしまった。ワープ開けでこのざまだから、きっとサーベラーはあの指揮棒をへし折って切れたか、劇場版よろしく開いた口が塞がらなかっただろう。
何はともあれ、白色彗星の緊急ワープは功を奏し、見事地球艦隊の戦力を削ぎかつ、全てを粉砕する事に成功した。
リスクヘッジの成功である。