旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

シャルバート――超戦闘集団――

 

 ヤマトⅢのキーとなるのがシャルバート。このヤマトⅢという作品のメッセージ性を強く意識させると同時に大きく棄損する不思議な存在。

 今回は出来るだけ公平になる様に考察したいと思う。

 

 

 

 シャルバート教
 天の川銀河にあまねく信者を持つ古くからある巨大宗教。愛と平和を旨とし、その信義を貫き一段である。

 礼拝は跪いて右腕を高く掲げるスタイル。礼拝の主導役がマザーシャルバートの肖像(正面向き)を刻んだペンダントを掲げるのが肝心であり、礼拝中はマザーシャルバートの幻視が信者たちの前面高空に現れる。


 各地で巡礼が行われているようで、ヤマトが遭遇したのはボラーとガルマン・ガミラスの戦争に巻き込まれてその苦境を脱するため25年もシャルバート星を探し求めていた一団。他にも類似した集団はいくつもあると思われる。

 

 

 起源
 幾千年の昔、銀河系の星々を支配し愛と平和の恵みを与えた神秘の星。その国家は代々女性を君主に頂き、女神とも言うべき超人的権威を以て宇宙の秩序を守っていた。しかし、その力は衰え戦乱の時代を迎えてしまう――だが、その崇敬は宗教的な形を以て今も人々の心に根差している。
 色々鑑みると、石津版のヤマトに出て来たボルゾンを念頭に置いているのかもしれない

 

 シャルバート星は海洋、河川と豊かな緑の大地、大小の山をもつ極めて美しい星である。気候は穏やかかつ温暖。
 山はそびえたつような小規模なものが多く、海岸もリアス式に近い。シャルバート星王宮は河口ないし海岸部の小島に建っており、直角三角形を直立させたような形状で、頂点に極めて特殊な装飾が設けられている。また入り口は非常に長い5本程度のギリシャ風円柱が貫いている。一体どこにあるのかは不明だがかなり高い位置にテラス席がある模様。内部も同様の装飾があり――薄いレースのカーテンもある。さらに周囲には大小の差はあるが、ヴィジュアルは小トリアノン宮殿にある愛の神殿のよう。屋根は金色。それ以外の建物の形状は表現しがたく――一部はクノッソス宮殿にも見える形状。
 住民は長老らは古代ギリシャ風である一方、普通の住民は中世ヨーロッパ風の服装。普段使いの近代文明物は双胴のゴンドラ(ヴェネチアのアレ)ぐらい。住民はガトランティス人のように一言一言エコーがかかっている。

 

 渓流を遡ったところに、極めてな王墓群がある。屈折ピラミッドというより水晶の先端部に近い形状の墳墓群で、一基当たりの非常の規模が大きい。全体として黒く塗装され、頂上部や幾らか施された装飾部は金色である。
 肩に首が埋まったモヤイ像みたいな顔面を持つ直立した2メートルほどの石像が入り口を守護――全体的な印象はティキ像にも見える。内部は松本作品らしい光のエレベーターで移動する。
 王墓群の中には王の遺体が入っていないもの、あるいは別の物を収容できる巨大な空間を有するものがあり――その中にはガルマン・ガミラスの重爆撃機に似たもの惑星破壊プロトンミサイルの形状違いの物や、ハイペロン爆弾の形状違いの物などがある。また、戦闘艇も多数収容している。最も恐ろしいものの一つとしては、ハイドロコスモジェン砲だろう。
 また、この収容部の奥には祭壇があり、高い階段の上には馬蹄に近い形の――何かしらの金色に輝くレガリアが置かれている。そこで女王の即位=教祖化が行われる。

 


 劇中の登場
 第12話――バース星の強制収容所内で信者が礼拝を行い、以降ヤマトとも関わることとなる。この際に問題だったのは、背後にハーキンス艦の円盤部を艦尾に植え付けたような見た目の収容艇(赤色塗装)が2機程収容所に降下している最悪のタイミングだったこと。更に、暴動を起こした囚人がヤマトを占拠してシャルバート星へと向かおうと試みた。
 翌第13話――あーだこーだ矛盾しまくったインチキ話自分たちの受ける苦痛と平和への祈りを古代にペラペラとしゃべって発進を強要。「飛んだ迷惑をかけて申し訳ない」とはレバルスの言葉――もっともである。同話中、ガルマン・ガミラスでも軍事会議の参加者であるハイゲル将軍がシャルバート信者である上に、武装蜂起し全銀河に散らばる同志たちを蜂起・団結させようとした。


 第17話――信者はガルマン・ガミラスの首都防衛システムを損傷させるという暴挙にでた。更に第19話においてシャルバート教の巡礼船が劇中に登場、ヤマトに救ってもらったのであるが、ハーキンス艦隊との戦闘に巻き込まれた。信者は飢餓状態で、ヤマトクルーを襲おうとしたことは忘れてはいけない。貧すれば鈍する、シャルバート教とも同じようである。


 第22話――惑星ファンタムに匿われていたシャルバート星の次期女王、ルダ王女が登場。ヤマトに保護される。翌第23話、揚羽らヤマトクルーの献身と熱意に打たれたルダ王女は、地球の苦境を鑑みてシャルバート星への道案内を申し出た。
 第24話――シャルバート星登場。発光星雲を背にした暗い星に偽装した亜空間ゲートの向こう側、遥か彼方にシャルバート星はあった。すべての武器を放棄し、すべての戦争を否定する平和の星として、古代ギリシア的な様相を以て豊かな自然の元、その文明をはぐくんでいた。そして同話中、ゴルサコフ艦隊の襲撃を受けたが「やめなされ!」と叫ぶ以外はほぼ無抵抗で蹂躙され、ヤマトクルーとデスラー総統の活躍によってシャルバート最大の禍を避けたのである。

 

 

 

 シャルバート帝国
 数千年の昔に存在した天の川銀河最強の帝国であり、あまねく星々をその圧倒的武力で跪かせた軍事国家。また、長きにわたり命脈を保った特異な星間国家でもあり、代々女系で王位を継ぐ比較的珍しい体制を有する。さらに、その女王に神秘主義的な性質を加味させることで徹底した中央集権・崇拝化に成功した。
 しかし、肥大化した帝国を支え続けることは敵わず。勢力が揺らぐと急速にその支配領域を失い、本星はその所在すら不明となった。神秘の巨大帝国である

 使用する言語は不明だが、文字らしきものは王墓群の中にあった玉座の間とでもいうべき部屋の壁に描かれていた。それを見るに、クーフィー体に近い文字を使っていたとみられる。シャルバートって何に由来するか疑問だったが、ひょっとしてシャーベットの起源であるシャルバト(ペルシャ語表記:شربتなんじゃないかと思えて来た。イスカンダルつまりペルシャ語アラビア語化したアレクサンダドロスの名前を使う点といい、ちょいちょいローマ帝国風なデザインを用いたり、地中海世界やオリエント地域好みの製作陣を考えると遠くはないのかも。

 

 領域
 領域は天の川銀河のほぼ全域。シャルバート信者の散らばり方から考えて辺縁部はあまり勢力が確固たるものでは無かったとして当然。これ以上の領域を制圧していたかは不明だが、恐らく天の川銀河内にとどまっていたと思われる。(シリーズの釣り合いを考えない製作陣のいつもの思い付きじみた設定だろうという事はさておいて)たぶん、テレザートはその領域には無かっただろう。一方でギリギリ銀河系第11番惑星までは多少なり勢力が進出していて不思議はない。


 第11番惑星のあのジグラットに似たような大型建築物と、ドーリア風石柱とヘアバンドをした長髪の女神像など――シャルバートのデザインと言って差し支えないだろう。石像が極めて大型でアブシンベル神殿のラムセス2世像並みである為、隠遁後のシャルバート本星より高度な文明国家だっただろう。当然、全盛期のシャルバート帝国はこれより強力な文明国家であっただろうことが推測可能。

 

 ガミラスとの関係性は多分、シャルバート帝国のやり方ないし圧政ないし攻撃に耐えかねて、核恒星系からガルマン民族が脱出し、大小マゼラン雲へと移住した。

 そうであれば、マゼラン雲にシャルバート信者がいない理由と、なぜガルマン民族が民族をそのまま形成できるほどの大移動をしたのかの理由を一気に説明可能。
 


 軍事力
 王墓群の中に隠されていた戦闘艇やミサイル兵器群の形式からいって、地球防衛艦隊ないしガトランティス艦隊に近い事が考えられる。また、シャルバート星の建築物群も同様に地球に近い外観で、アクエリアスより地球に近い。アクエリアスの方は逆にガトランティスに近いゆえ、両者の中ではやっぱり地球に近い戦闘艦が想定されるのが妥当だろう


 惑星破壊ミサイルやハイドロコスモジェン砲などの極めて強力かつ破壊的な兵器が非常に多い。特にバカみたいな数の惑星破壊ミサイル保有量は恐ろしい限り
 これらからして、おそらく本星は巨大艦隊を有してはいなかっただろう。理由は非常に簡単で、奇襲的に敵星系の恒星前面にワープをかましハイドロコスモジェン砲をぶっ放せば、それで星系は凍り付かせることも超巨星に飲み込ませることも可能。ヤマトに積み込めるのだからキロ単位のような巨大戦艦は必要ない故、そこそこの大きさの戦闘艦艇と、護衛の戦闘艇を配せばそれで十分。

 むしろ巨大艦隊を維持する、その巨大艦隊が反乱を起こした場合のリスクの方が大きいと言える。


 防衛戦も本星周辺の惑星を強力な要塞として形成すれば、敵の巨大艦隊の襲来にも十分耐えられるだろうし、亜空間ゲートに隠れてしまえば何の問題もない。また、シャルバート帝国が後ろ盾となってその支配下の属国あるいは分国が軍事力を担保して巨大艦隊を供出すればいい。

 整合性を取れるエピソード形成として、ガルマン帝国がシャルバート帝国の前衛艦隊として敵と戦い、それが嫌で飛び出した一団がガミラス帝国を建国した。シャルバート帝国を伝えなかった理由は、ドイツがナチス的思想を徹底排除するようにその歴史を半ば禁忌として扱った為、途中で情報が散逸、デスラー総統も知らなかった。一方で本国は献身によって帝国を支えたものの、それゆえに疲弊し後ろ盾であったシャルバート帝国が崩壊した後は弱小国に転落。ボラー連邦の建国とその拡大攻勢に遭って征服されてしまった。とすることが可能。

 

 よって、植民星がシャルバート帝国の中核的戦力を担っていたとしても全く不思議はない

 

 

 天の川銀河の統一/パクス・シャルバーティカ

 シャルバート帝国(Shalbart Empire)による天の川銀河統治はまさにパクス・シャルバーティア(Pax Shalbartica)だっただろう。

 他に並ぶもののない超科学を以て天の川銀河を統治し、容易に恒星を一種の兵器と化してしまうその武力は他銀河やたとえ他次元の勢力であっても容易に天の川銀河に侵入することはできなかったとみて間違いない。それが妥当な推測。

 

 問題は内政面だが……決して強烈な搾取というものはなかっただろう。或いは、搾取が有ってもそれは最下層で中間層はちゃんと育っていたと思われる

 国が倒れた後、あるいは倒れる要因として新興勢力を想定する場合、あまりの圧政下による鬱憤が台頭の原因であるか、或いは順調に内部で勢力が育ち切ったその結果のどちらかである。前者の例は王政打倒したフランス革命だし、後者の例はパルティアの後に台頭したササン朝だ。

 シャルバート教と比較すれば、というかシャルバート帝国の後に誕生したシャルバート教という前提があるのだから猛烈に汚らわしい存在のように思えるだがしかし、まあ、普通の覇権国家と言えるだろう

 面白半分に他の国や星を滅ぼしたり、人民を犠牲にしたりはしなかったのだろう、そういう前提があれば、まさに覇権国家によるユートピアではないが、戦乱よりかはマシな平和な時代――パクス・シャルバーティカは実現できていたと言える

 

 ともかくとして、その新興国家のいずれもシャルバートには及ばない軍事力だったと言える。これは結構残念だが、歴史の流れからすれば妥当だろう。普通、覇権国家の覇権をそのまま引き継げる国家はそうはない。

 もし、ポスト・シャルバートとして天の川銀河にあまねく統治を行きわたらせた帝国があったならば、ガミラスもガトランティスも容易には侵入しなかっただろう。仮に侵入するとしても、もっと巨大な軍を組織してから突入し全面戦争で、我らならば白色彗星を以て敵をひしゃげ押しつぶしてバラバラにした。しかし、そんな面倒なことはなかった、する必要は無かった。

 つまるところ、どのポスト・シャルバートも、シャルバート帝国の後継者にはなりえなかったのであろうそりゃ、直径10万光年を制覇ではなく統治しようとするのは容易な事ではないのだから、土台無理な話だ

 

 戦乱よりマシ、という現代できな意味でのパクス――。まさにまさに、そのフィクションにおける忠実な実現令と言えるのがこのシャルバート帝国だ。パクス・シャルバーティカが、その戦乱よりかはマシという時代が次第に美化されてしまい、シャルバート教にまで昇華してしまう。

 アトランティス神話アメリカ神話大東亜共栄圏神話これらは当時や語られ始めた時期の政治的な動きや社会的な動き、或いはマーケティングといった側面を完全度返しして作られる神話だ。それとシャルバート教は全く同じであり、中身ははっきり言って空虚なものといえる。残念ながら、シャルバート帝国の統治:パクス・シャルバーティカには愛も平和も本義的な意味ではあったとは思えない。だが、人々はその事実を無視する形で美化したパクス・シャルバーティカの神話=シャルバート教にすがる。

 すがるほかない苦境にあるのかもしれないが、傍から見れば……なんともはや……。つーか、助けを求めてるんだから、直接助けてやれよマザーシャルバート。

 

 この非常に複雑な人間と覇権と歴史の関係性が、まさかアニメの中で忠実に再現されるとは、ある意味恐ろしい限り。この神話にすがる人間のもろさ……もし、これが深堀出来れば恐らくはもっと深いメッセージ性のある作品になったはずだが、残念な限りである。

 

 

 総括・劇中の役割

 はっきり言って自己中の極み話にならないレベル

 軍事力で天の川銀河の星々を打ち従え、しかし自己を鑑みて急に愛と平和に目覚めてそれを説くことすらせず星ごと隠遁。すべての星々の梯子を外すという暴挙に出て、天の川銀河を大混乱に叩き込んだ。

 シャルバート教についても、信者に対して勝手にすがってくるだけ――私もびっくりしてます的な姿勢。挙句、死んでもいいから平和を貫けなどと意味不明な事をのたまう。信者が愛と平和の名のもとに他者の命を危険にさらす許されざる暴挙をしているのに漫然と眺めるだけ。信者が間違った信義を貫いていることになんの言及も再布教もしない……。

 

 過去に登場した純粋に拡大傾向にある勢力としてガトランティスがあるが――こちらは全宇宙を手中に収めようと邁進し、アンドロメダ銀河を制覇してもその追求心・探求心は留まるところを知らない。しかも、制覇した地はぺんぺん草も生えない搾取を行う。確かに、こっちもかなり迷惑で自己中だ

 だが、ガトランティスはすべての既存の枠組みや勢力図を根本から変えた後、姿を消す。これが特徴的な所で、ガトランティスが立ち去った直後から被征服地で権力闘争・戦乱があるかと言えば……そんな余力を同地に残すほどガトランティスは甘くはない。仮に、長期的な支配維持を考えた場合、誰かとガトランティスが同盟を組む事はあるだろう。相手も大帝が認めた国家ないし国家元首とだけ、結ぶ。その場合はガトランティスの脅威のある限り、‟危険な平和”が維持されるだろう。

 ともかくとして、ガトランティスの通った後は、どっちみち天下を取ったであろう国が勢力を確立するか、数世紀銀河全体で後退するのかのどちらか。ある意味、戦役後の争乱は規模が小さい(ガトランティスが滅びるという異常事態を除いて)と考えられるだろう

 恐らく、彼らの宇宙制覇の野望は人間の欲望=支配欲に直結しているため、ガトランティスの旅はガトランティスが滅びない限り終わりはないはず。シャルバートと違い、急に消えるなどという事はないはず。

 その意味ではガトランティスは行動や影響が非常に分かりやすい為、ガトランティスを相手にした方が、生き残ることさえできればむしろ、その後の世界を予想・構築・安定化させやすいのではないのだろうか。これはある意味で、社会変革をもたらす、物凄い劇薬だアクエリアスの洪水ではないが、モノは使いようでガトランティスの到来は新しい強力な文明の幕開けになる可能性もゼロではない。

 

 一方でシャルバートは確固たる支配を築き、そして急に悟りを開いて消えた。おかげさまでただひたすら戦乱の種、或いは不安の種が天の川銀河にあふれる事となってしまったのである。

 ひょっとしてコイツら=シャルバートって、天の川銀河争乱混沌憎悪蔓延らせる為に活動していたんじゃねぇか?