旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

ストーリー考察Ⅴ 山上一家、バーナード星の悲劇

 

 

 ヤマトⅢは乗組員の成長も描こうとしていたといわれる(単なる又聞き、未確認情報)。故に銀河系大戦の推移から言えば、枝葉といって差し支えないエピソードが度々差し挟まれていた。

 バーナード星での一件も同じだろう。

 

 

 

  第8話、バーナード星の山上一家個人的にはどうしても「てじな~にゃ」で一世風靡した山上兄弟を思い出す。はい、全く関係ない話でございます。

 前話にて、数次にわたり奇襲を受けたヤマトは、攻撃の起点をバーナード星域と推定。これを受けて直ちに発進、同星域へと進出した。

 

 第8話においてヤマトは、惑星探査の目標でもあった当該惑星に降下しその様子を探る。極寒の、希望の見出せない世界がパネルに映し出される最中、不明な通信を確認した。

 通信の正体を確認するために古代らはコスモハウンドを駆って惑星に降り立つ。そこで出会ったのは――この、ある意味気の毒な一家との出会いはヤマトクルー的にはあまりいい思い出では無い。結果的に奇襲を受けるきっかけを作ってしまった出会いでもあるし……正直、ストーリー展開上はいくらでも代替案を提示できるレベル。他方、演出的な目的はというと……

 

 

 と、山上一家の話の前に黒田博士の悪あがきをさっくり振り返る

 彼は太陽エネルギー省において、太陽から中継基地を経由し地球に転送されるエネルギーをマイナスに転化させて太陽に送り込む冷却作戦を敢行。

 これ、地味にまだ異常増進を認めていないだって、燃焼の異常増進は普通に考えれば恒星内部の“燃料”がなくなったから起きる現象のはず

 

 太陽に限らず恒星は、長い年月をかけ中心核がカスカスなっていくに従い収縮し温度が上がり、周囲に核融合で出来たヘリウムの層を形成する。最終的に内部の水素を核融合に使い切った時、今度はヘリウムの核層を中心にその周囲にある水素が核融合を始める=赤色巨星化。中心は以前から続く重力によってしかも核融合でのエネルギーがないからより収縮していくし、しかし縮むから熱は発する。で水素を使いヘリウムも核融合に使うと、中にはより重い元素による核が形成される。ここまでくると星が大きすぎて重力の統制が効かず、外縁部の水素などから成る‟大気”が逃げてしまい核が露出してしまい――白色矮星となる。

 太陽の8倍ほどの質量を持っている恒星の場合は、核融合による膨張と重力による収縮が繰り返され、核も依然高温を保ち反応が鉄になるまで融合が起きる。鉛が原子崩壊の最終形=安定形であるように、鉄が核融合した物質の最終形態=安定形である為、これ以上の反応は起きない。核融合が起きないという事は、膨張せずに重力が強まるという事でありしかも収縮するため熱が生じる。そこで光崩壊が生じ、それによって核がもろくなり重力を支えられず重力崩壊、超新星爆発を起こす。

 

 これを冷凍ビームでどうにかしようというのは根本から意味不明で間違った方策だろうそりゃ、差し当たっての期間は何とかなるかもしれないが、根本的な解決策ではないから常にエネルギーを照射し続けなければならない。そもそも恒星を冷やすってどんな発想だよ……。

 

 黒田博士の計画は、原理としては恐らく、レーザー冷却(ドップラー冷却)の一種をやろうとしたのだろう。原子の進行方向へ迎え撃つ形でレーザー光を照射し、その光圧によって原子の動きを止める。動きが止まればエネルギーを受けてはいるがしかしそれは温度とは関係なく、動かないという事はこれは冷却が出来ているという事。水蒸気はあっちこっち分子は動いて霧散する、水は自由に形状を変えるが霧散はさすがにできない、氷に至っては形状を変えられない。というように分子の動きは冷えれば鈍くなる。

 

 或いは陽電子ビームをぶちかます

 陽電子は正のβ崩壊で放出させるか、1.022 MeV以上のエネルギーの電磁波と電磁場の相互作用で対生成が可能と割と達成条件は簡単。空想科学ではなく実際に利用されている技術だ。問題はこれをどう利用するかという事で――黒田博士はきっと……量子電磁力学の何かしらの現象を用いて、太陽が発する光を陽電子にブチ当ていわばディラックの海にぶち込んで、太陽の核融合異常増進により発生したエネルギーを全部なかった事にしようというパターン。

 わかって話してると思う? 微妙なラインです。これが文系人間の限界解説

 ともかく、黒田博士のやり方は根本から間違っているという事が言いたかった。多分、この点だけは正しいはず。

 当然ながら、このダメダメな計画は大失敗してしまう

 

 

 

 さて、山上一家のエピソードに戻る。

 このエピソードを、ヤマトⅢという作品全体=マクロ視点で見ると一つの大きな問題にぶち当たる。つまり、この人たちのエピソード、本当に必要だった?という点だ。

 真田さんが疑ったように、怪通信をダゴンの謀略としてバーナード星域での戦闘のボリュームを厚くして古代の艦長としてのセンスを演出するエピソードに代えても、シリーズの構成上問題はないはず

 

 構成上は他のエピソードを用意しても問題ないようなエピソードをわざわざ挿入するという事は――おそらくだが、新天地を目指すヤマトクルーとの重ね合わせであるとか、ヤマトⅢという作品50話の中のメリハリとしての、作品としての厚みを増すべく挿入したエピソードという事になるだろうが、手段が目的化している。

 エピソードも登場人物も――バーナード星のエピソードは山上一家が明確にコンコルド効果に捕らわれてしまって、挙句に人の命を振り回したじーさまの行動が派手過ぎて感情移入できない魅力的な人物が登場しないのだ

 

 

 ちなみに、コンコルド効果とは普通はサンクコスト(埋没費用)効果と呼ぶ。直接的に述べれば、「これだけ頑張ったんだから今やめたらもったいないよ」という圧力の事だ。本人がそれに陥る場合もあるし、周りが陥って圧力をかける場合もある。非常に迷惑な話である。

 失敗が目に見えていたり、当初から目的がずれたりしてもお構いなしで突っ込んでいってしまう、しかもこの「もったいない」というのが大義名分化しているから厄介。

 

 

 山上一家は5年前からバーナード星第1惑星の開拓を行ってきた

 この5年という月日はじーさまを第1惑星に縛り付けてしまうのに十分な時間だっただろう。それに地球の財産はすべて処分しただろうし、じーさまの嫁はとうに亡くなっている様子。唯一の家族と思われる息子一家を引き連れての星間移住だから、地球に帰還するという考えは彼にないのはある意味当然。

 しかしながら星間ロケットを爆破したり通信機を破壊したりはやりすぎ挙句に地球人であろうことが容易に推測できる恰好のヤマトクルーに対して威嚇ではなく当てに行った射撃をくらわすとは何事

 結局のところ、このじーさまは目の前で息子が死にそうというのをずーっと、漫然と眺めていただけで手を打っていなかった。ここまでくると……感情移入はしがたい。そして息子の死を発端として突然湧いてきた望郷の念。

 色々山上一家にも事情があるのだから、早く帰ればよかったのにね。などとは口が裂けても言ってはいけない

 が、だからといって同情はしがたい

 

 

 この第8話を評価しがたいエピソード足らしめているのは、場所がバーナード星第一惑星であったという事だろう。

 ヤマトはエピソード終盤で新反射衛星砲の奇襲を受けるが、ダゴンバーナード星方面に潜んでいることは以前受けたミサイル攻撃で解析済み。また、バーナード星は探査目標である。

 要するに、山上一家との絡みが無かったとしてもどっちみちバーナード星には向かわざるを得なかったし、そこで戦闘になるのも物の道理という奴である山上一家が居なければ成立しないエピソードではないし、彼らの存在がシリーズ全般に決定的な役割を果たすこともなかった。挙句にじーさまのハッスルで感情移入はしがたく、演出的にも大したやくわりを果たしたとは思えない。

 だから、このエピソードの価値というものに大きな疑問が生じるのである

 

 

 

 ――番外的解説――

 エピソードの細部の話だが、ご都合主義に思われがちな突然の病状悪化――実は、これは意外と説明がしやすい。

 例えばガンは若年性だと結構早く進行する。若ければば若いほど、細胞の活性が高く病原体や悪性腫瘍も割に活発になってしまう。認知症も若年性は一般に進行が早いと言われる。

 

 故に、逆説的だが年齢が高いと体力的に手術がしづらいという事があるものの、ガンの進行は遅い傾向にあるという。認知症も種類によるが、一定程度緩やかな進行が期待できる。

 だからバーナード星第1惑星の風土病が年齢依存性の物で進行が速くなるのであれば、若い息子の方が致命的で劇症的になりがち。一方でじーさまの場合はどれだけ自覚症状があったのか不明だが、基本的に症状は軽い状態で長く推移しある時突然に重症になる。そして重症化した時点では手の施しようがない。

 風土病にり患したそのタイミング自体は、実際にはじーさまも息子も同時か、何ならじーさまの方が早くり患していた。

 と説明が可能なのである。

 

 

 ――エピソードを総括します。

  はっきり言ってじーさまのキャラクターのせいでトモ子さんと旦那さん(名前設定なし、この人が一番の被害者)に感情移入というより、哀れという感情しか抱けないこの一家は事情が特殊過ぎて、激情にまみれすぎてクルーと重ね合わせるにはあまりに不適格な存在わと言わざるを得ない。

 無理に重ね合わせようとするがゆえに、余計にセリフが白々しく聞こえてしまっている。基本的にヤマトⅢは感情移入がしづらい。ストーリー展開もとっ散らかって、残念至極……。その傾向が如実に出たエピソードである。

 

 このエピソードの必要性を強いてあげるならば、バーナード星系に隠れていたダゴン艦隊本陣に対し、ご都合主義過ぎないように、偶発的に最接近する機会を与え、新反射衛星砲の奇襲攻撃=ビックリ演出につなげた。また、多くなり過ぎた新クルー(女性中心)らを退艦させるきっかけを作った。

 これらは演出的に成功だと思うし、シリーズの整合性・共通性を見出せる。更に、結局宙ぶらりんであった看護師の皆さんを帰還させたのは、アニメーターの仕事を幾らかでも減らせただろうし、シーンも節約できただろう。

 これらの点は評価してしかるべきだと思う。