旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

大艦巨砲主義対航空主兵論③ コスパで勝った戦艦、射程で勝った空母

 

 


 戦艦が廃れる危険性というのは、実は戦艦が登場したほとんどその瞬間から発生していた。つまり、機雷と魚雷の脅威である。

 

 

 第一の脅威の登場
 機雷(刺突水雷)は南北戦争頃から本格的に運用され、その威力の高さを認められた。そして更なる攻撃手段として、1866年に栄光あるオーストリアにおいて魚雷が形になった。この魚雷を主兵装として搭載した水雷艇が登場するに及んで、本格的に戦艦の主力艦の地位は揺らぐ。
 この戦艦に先立ち成立した安価で使い捨て兵器はあまりに恐ろしい脅威だったはした金で十分な数をそろえられるような木っ端兵器に、大金をつぎ込んだ新鋭戦艦が沈められてはたまったものではない。例え一隻でも沈んでしまえば国家機密、大量の資金、大量の資材、大量の水兵の命が全て一瞬で失われてしまうのである。割に合わない所の話ではない。

 

 この脅威に対して、各国海軍は当然様々な方策を打つ
 一つには水雷防御網である。金属製の網を艦の全周に張り巡らして物理的に邪魔をするという事だ。解りやすく言うとバリアである。
 もう一つは水雷艇駆逐艦を同伴させる事水雷艇より大型で撃破するだけの攻撃力を備えた快速艦艇が周囲を防備していれば、安心して任務を遂行することが出来よう。
 戦艦側の水中装甲も厚さを増し、マストや舷側に対水雷艇用の小口径砲を備える事で防護力を徹底的に向上させた。

 これらの必死な努力により、状況は大きく改善した。
 機雷や魚雷は確かに一撃で戦艦を葬る強力な兵器である。だが戦艦も、そうやすやすと接近を許すような真似はしなかったのだ

 

 

 

 第二の脅威、登場
 次に現れた戦艦の避けられぬ脅威は、ミサイルである。


 航空機ではないのか、空母やその艦載機ではないのか――実は違う可能性が高いこれらは戦艦の価値に疑問を抱かせる状況を生みはしたが、決して止めを刺すものではなかったのだ


 ミサイルとは、頭がよくなったロケットである。はっきり言って、それなりに高価であるトマホークは1発当たり型によって1億から7000万円の間、90式対艦誘導弾大体1億円程度と言われている。やっぱり高いよ――とは言いながらも、もし2発程度で大体1700億円のイージス艦を1隻沈められるのならば安いといえよう。
 イージス艦を1隻購入するのを我慢すれば、850発購入でき、425隻沈めることが出来る計算になる。

 

 イージス艦は22目標同時補足・12目標同時対処ができる為、空母任務群や遠征打撃群には3隻(場合によっては6隻)程度の防空艦が配備され、これらがリンクして共同迎撃を行う事で中核艦を守る。

 つまり、ロシア流に66発以上ないし132発以上のミサイルを先制して叩き込むことが出来れば、一発で護衛艦艇を空母や揚陸艦から引きはがすことも可能。

 次いで迎撃に発進するであろう――スーパーホーネットは最大14発の誘導弾と412発のバルカン砲弾を保有しているため、1機当たり20発程度差し向けるとして戦闘機標準搭載数の40機全機発艦して迎撃に当たる場合は800発。強襲揚陸艦の場合、F35は6発から最大11発の誘導弾と220発の機関ポッドを擁しこれを全力である20機展開したならば、300発が殺到した場合は……対処が非常に困難になる。

 

 強襲揚陸艦ドック型揚陸艦が合計3隻でこれらは強力な戦闘指揮システムを持っているため、艦を確実に撃沈するには22発以上の目標を殺到させる必要が有る。合計で66発以上。

 

 

 つまり、空母打撃群は888から954発程度、遠征打撃群は432から498発程度を叩き込むことでうまくいけば水上艦艇をほぼ全艦撃沈できる。少なくとも沈黙はさせられる。1千億で、第7艦隊の建造費約1兆円を海の底に叩き込めるのといえよう。さらに第7艦隊のソフト面(人員やそれに関わる諸経費)を考えれば数兆円規模の損失を与えることが可能なのだ。そこから考えると――

 費用対効果的には高価な戦闘艦を建造するよりも、少々高くても速くてよく当たるミサイルをたくさん造って配備する方が安上がりなのである
 全部単なる算数ですが。

 

 タイコンデロガはVLSを61セル、ズムウォルトは80セル。ウダロイ級は4連発射筒が2基、キーロフ級は20セル、オスカー級は24発。アーセナルシップ計画ではVLSを何と500セル。アーセナルシップを2隻を中核に、数隻の護衛艦を配置し――結局、ミサイル飽和攻撃も結局のところ、国民からすれば安くはないが、コスパ的には非常に安上がりである

 が、高性能なミサイルを多数保有する戦闘艦が海域に進出するという事自体が、一種の牽制になる。まして、空母のような航空優位を確保できる環境を造り得る存在が一緒になればなおの事脅威。

 

 


 

 大日本帝国海軍 軍艦のお値段は?

 さて、戦艦建造にはいくらかかるのだろうか。アイオワ級は1億ドルそれ以前の戦艦は7千万ドル同時代の空母は3180万ドル
 ちなみに、現役の空母群は一体幾らか。ニミッツ級原子力空母は大体4億5千万ドル、ジェラルド・R・フォード級は130億ドルだ。

 


 戦艦日向は価格が4千万円、経費が2500円、航行中は5000円であるとされる。戦前基準指数を用いて(頭良く見せたいから言っただけ)換算すると、日向の就役が大正7年、指数が1.246である。一方で平成30年は710.6――ここから計算すると、当時の一万円は現在の価値で570.305万円となる。

 つまり、建造費用は現在の日本円に換算すると228億円であり一日当たり142万、航行中は285万円かかる計算となる。


 大和はどうか。実は大和に関しては規模が大きすぎて計算が厄介で、指標によって換算値に大幅なブレが生じてしまう。ともあれこの戦艦、建造には破格の1億2800万円かかっている。昭和11年での指数が1.03であるから、689.903万円……現在の価値で883億円となる。

 もう一つ指標がありこちらを採用すると、分母は戦前基準のままとし、分子の方を昭和35年以降に新設された国内企業物価指数とする。つまり、平成30年の指数を101.3とする。となると、大正7年の1万円は81.3万円、昭和11年の1万円は98.35万円。そこから計算して日向の価格、日常経費、航行中はそれぞれ約32億5千万円、20万円、40万円となる。大和の建造費は125億8800万円となる。


 国力に相関させた場合の価格は少し異なり、大和は当時の国家予算22億中の3パーセント、現在の100兆円国家予算で計算した場合は3兆円と途方もない事になる。他方、当時の1円を消費物価(日用品の価格等から概算)から推測して2千円程度とすると、2600億円となる。

 

 私は悪乗りして、金の価格変動から算出してみたいと思う。
 金輸入自由化まで、つまり昭和48年まで日本の金価格は日銀が定める公定価格であった。大正9年においては1グラム当たり1.34円、昭和10年においては同グラム3.20円に物価上昇が進んでいる。世界経済の影響を受ける為一概には言えないが、世界的に不利になるような価格設定はしないであろうから、参考には値するだろう。そして金の自由化後の平成30年において金は1グラム約4900円である。最高価格ではなく年平均がこのぐらいの値段であり、並年から言っても別段高い値でもないため十分比較対象に出来ると思われる。
 大正9年と現在の金価格との差は6386倍、昭和10年と現在の金価格との差は15686倍。ここから単純計算する。
 戦艦日向の建造にかかる費用は2554億4000万円、1日当たりの必要経費が1596万5000円、航行中は3193万円となる。
 大和建造には2兆78億円となる。この数値に関しては国家予算に占める割合からの算出と近似するため、案外参考になるのではないだろうか。

 

 

 日本の所有した各空母の価格は、純粋な空母に限ると蒼龍飛龍共に4千万大鳳は重量級で1億翔鶴型雲竜型共に8千4~700万程度である。


 現在の価値に換算すると初期中型空母は戦前基準物価指数で275億(あるいは国内企業物価指数で39億3400万)大鳳は高額で689億(あるいは98億3500万)中型正規空母579億から600億円(あるいは82億6140万から85億5645万)程度の費用となっている。

 金価格での換算は面倒だったので省いた

 


 何が示したかったかといえば、ガワだけでいえば、空母の方が戦艦より安上がりであるという事。ガワだけでいえば。また一方で、軍艦が一隻沈むというのはこれだけの金額が海の藻屑になるという事である。造る事は大して無駄では無いが、戦う事がいかに無駄かという事を言いたかったのもある。

 

 

 

 

 

 空母艦載機隊を編成する

 ライト兄弟の初飛行後、航空機はどんどんと進化をしていった。
 航空機の初の軍用任務は偵察である。航空からこっそりと敵陣を俯瞰で観察し、帰ってくる。近眼の人間がメガネどころかメガネ型ウェアラブルを手に入れたようなものであるのだ。


 ただ偵察していくだけであった初期任務から次第に、レンガやスイカなどの重量物を投下する“爆撃”任務を帯びるようになってくる。だってこんな高性能な兵器を偵察だけに使っていてはもったいないじゃないのさ。

 こうして、攻撃兵器としての有用性を見出されてゆくのだ。
 以降、航空機はさらなる進化を遂げる。中でも、滑走距離の短縮という初歩的かつ困難な問題に対する対処は目を見張る。しかし――

 


 艦載機は戦艦の命脈を断つ存在ではなかった。
 これは私の持論である。

 

 


 なぜか。これは旧軍や戦術系が好きな人間の犯しがちな見落とし;パイロットの希少性に根拠を持つ。そもそも、機体だって決して安くはない

 (アジア歴史資料センターで公開中の各種記録を参考に色々と引っ張ります。)


 零式艦上戦闘機を例にとると、機体のみは5万程度だがもろもろを含むと、大体15万6千円程度で取得されていたという。つまり、戦前基準指数を用いて現在に直すと1億76万円一式陸上攻撃機は一機でゼロ戦5機分という話がある為――機体だけで25万円、もろもろ込みで78万円ぐらいか。現在の価値に直すと機体だけでいえば1億7247万、もろもろ込みだと5億3812万円程度か。


 全然違う金額として『母艦、艦載機維持費説明資料』では艦上戦闘機がもろもろ込みで6万2500円、維持費7万8800円艦上攻撃機がもろもろ込みで10万5000円、維持費13万9000円。次期各種艦上機は1万程度の上乗せである模様。前述の基準で換算すると計算上、戦闘機は取得費4311万で維持費が5436万攻撃機は取得費7243万、維持費9589万かかる。

 仮に翔鶴の搭載機=戦闘機18機、艦爆27機、艦攻27機に当てはめて計算する。つまり戦闘機取得に112万5000円=7億6939万円艦爆はデータが判らなかったため艦攻と同等として、艦攻は取得に283万5000円=19億3886万円翔鶴攻撃隊全機取得費用の総計が679万5000円=46億4712万円となる。これがハードの部分。

 

 ソフト=搭乗員の育成に掛る費用はどれだけか。『飛行時間に関する米国武官より照会の件』では飛行時間は300時間は欲しいとされている。これは陸軍の話であり、海軍航空隊は空母への着発艦や洋上目標への攻撃訓練が必要でありこれに50時間ほど費やす。訓練にかかる期間は8ヶ月から1年を見込む
 時間は分かった。あとは燃料である。
 残念ながら“赤とんぼ”の燃料搭載量等のデータが判らなかったので、栄エンジンの燃費=94リットル毎時を基準に訓練に掛る費用の概算を出す。当然、全速時は400リットル強をあっという間に消費してしまうし、栄は特別燃費のいいエンジンであるからして、他のエンジンの場合はもっと燃費がかさむ。が、これらの要素を完全無視して計算しよう。だってわかんねぇもん


 昭和15年からはガソリンは公定価格22銭である。時間×リットルの単純計算で3万2900リットル、7238円つまり――現在の価格に直すと飛行士一人を育成するのに必要なガソリンの値段は499万円となる。巷の物価指数では大体当時の1円=2000円と想定すると丁度いいという話もある為1457万6000円、あるいは昭和9年時点の金公定価格を基準として計算すると1億1353万となる。何にせよ、結構金がかかる。

 翔鶴飛行隊のパイロット数は戦闘機搭乗員1、艦爆搭乗員2、艦攻搭乗員3で計算すると最低でも153名が必要である。一切の余剰人員ナシの場合。彼らを育成するために必要なガソリンの総量は500万リットル以上、110万=7億5889万円となる

 

 さらに、給料をプラスする必要がある。
 昭和18年頃の月給について、尉官以下は20から75円、尉官以上は70から155円。佐官になると220から370円、将官になると416から550円である。飛行隊の主力は飛行兵曹であり、給料は間を取って55円ほどとどんぶり勘定する。彼らを束ねる隊長が尉官であり100円と勘定する。合計で8695円(本当は赤城の古い飛行隊編成を参考にした値なので、これより10パーセントほど上乗せした値が正しいと思います)で、12ヶ月分支給すると10万4千円となる。現在に換算すると7174万円
 飯代は知らん。
  

 合算する。
 機体取得費用679万5000円=46億8789万にパイロット訓練に掛るガソリン代498万円=34億3571万と搭乗員給与10万4千円=7174万円を上乗せして合計1187万9千円=81億9534万円
 これが翔鶴飛行隊に必要な最低限度の金額である。いや、忘れてた。まだ忘れてたことがある……


 航空隊が活躍するには整備士が不可欠。彼らはどうも、例の赤城の乗り組み表から推測して搭乗員とほぼ同数必要らしく、階級もそう違わないようなので当然給与も同程度と見られる。
 また、平時においては訓練と整備とでローテーションを組む為3つほどの飛行隊を用意しておきたい。予後が存在することで戦時に突入した際、生じた損失を速やかに補充することが出来るのだ。その損失補填に失敗したのが珊瑚海海戦後であり、完全に計画が崩れたのが南太平洋海戦である。(ミッドウェーは箱を失っただけだから軍略的にはそんなに問題はない)ギリギリの数では戦争は行えないのである。
 つまり、翔鶴飛行隊が完全に機能する形をとると、機体取得費用が2038万5000円=140億6367万円、搭乗員関連費が1525万2000円=105億2240万円、整備士関連費が10万4千円=7174万円。総計3574万1000円=246億5782万円艦そのものと合わせると何と約1億3000万円=約820億円 かかる計算


 時代が少し違うため、いまいち参考にならないが――戦艦日向を取得するのと同じ程度の費用が航空隊編成の初期投資として必要になってくる。しかも、機体取得費用以外の部分は毎年積み重なってくるのだ。全部もろもろ込々にすると、普通に大和型一隻に相当する費用
 金額という観点から見ると、実は空母やその艦載機が割安とはいえないのである

 

 

 

 

 大艦巨砲主義の終焉
 ミサイル飽和攻撃の時代にこれほどの金額をつぎ込まなければ建造できない戦闘艦を建造する理由は確かにない戦艦の新規建造など、明らかに無駄である

 

 一方で無価値かといえばそれは人間の心理というものにあまりに無知である。作戦を立てようという気概すらないのは話にならない。
 戦艦は、存在することで与える心理的影響は当然強いと考えられる。敵にとってはあんな巨大な兵器が海岸のすぐそばまで接近して巨砲を叩き込んでくるという絶望的な恐怖の根源。味方にとってはアメリカが国家の威信をかけて建造した歴戦の勇士が背後を守ってくれていると考えれば、おのずと士気が上がる。

 だから2000年代初頭まで予備役扱いしてモスボールしたのは賢明な判断であったといえよう。実際、イラク戦争までは海兵隊が今以上に殴り込み部隊としての性質を保有していたし、そういう傾向の作戦が多かった。

 戦艦は新しい時代に入っても巨砲のキャリアとして、あるいは新時代の砲弾と言えるトマホークのキャリアとして活動した。


 時代遅れではあったが、戦艦は無価値な存在ではなかったのである。しかし、この時以降、戦争の性質は完全に変わってしまった

 

 以前の高価な兵器を正面からぶつけ合うような戦い方や、人間が面と向かって銃を撃ち合う戦い方はしなくなってしまったのである。
 安価な使い捨て兵器を多用し、出来るだけ敵から離れて戦闘を行う。反対に敵側は優勢な存在を相手取る場合は速やかにゲリラ戦を展開していった。つまり、高価な兵器はそれまで以上に喪失を免れ得ないという事。しかもゴミみたいな兵器によって、しょうもない理由で潰されてしまう可能性が高くなったのである。

 

 戦艦が廃れた理由は何か。

 それは――

 

 

 大艦巨砲主義が時代遅れだからではない。
 戦艦同士が撃ち合う時代ではなくなったからでもない。
 航空機が他に対して優位になったからでもない。
 ただ、単純に高い艦船が割に合わないという時代になってきたのである

 

 

 空母にあって戦艦にない性質、それは純粋な攻撃範囲の広さであるアーセナルシップ計画がぽしゃったのも、大体同じ理由である。

 高価な戦闘艦を攻撃対象地点の周辺まで接近させるのはやはり危険なのだ。しかもアーセナルシップなんて単なる火薬庫以上のものでは無い。

 

 敵と戦う場合、どうしても反撃を受ける危険性がある。だが、空母はミサイル自身の射程に加えて艦載機の航続距離を加算することで大抵の攻撃兵器の射程圏外から攻撃を繰り出すことが出来るのである。太古から現在まで建造されてきた艦種の中で唯一、どんなに高くても建造する価値のある艦種が空母なのだ
 残念ながら戦艦には、そこまでの価値はなかった