旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

円形砲艦ノブゴロド/キエフ――特殊戦闘艦――

 

 

 ノブゴロドと言えば一部の海軍オタクには有名な戦闘艦である。ポポフ提督によって設計された、虚実ないまぜのよくわからない艦ではあるが、だからこそ見た目以上の興味を引かれる戦闘艦。

 何で取り上げるかと言えば、見てわかる通り暗黒星団帝国の艦艇に近い形状。ある意味、円盤型も流体力学的には十分飛行物体として合理的な形状らしいのであるが――さてこのノブゴロドはどうであったか……。データはいつもの通りウィキの受け売りです。

 

 

 一番艦:ノブゴロドНовгород
 起工:1871年12月29日
 進水:1873年6月2日
 就役:1874年 
 類別変更(沿岸防衛装甲艦):1892年2月13日
 除籍:1903年7月3日(売却・解体は1911年12月)
 建造所:新アドミラリティ造船所
 費用:283万ルーブル
 常備排水量:2531トン
 全長:30.8メートル
 全幅:30.8メートル
 吃水:4.1メートル 
 出力:3,360 ihp
 主缶:円筒形ボイラー8基
 推進:複式膨張蒸気エンジン6基6軸推進
 最大速:6.5ノット
 兵員:151名
 兵装:11インチ前装式施条砲2門
 装甲:舷側装甲帯178–229ミリ、バーベット178–229ミリ、甲板70ミリ

 

 ほぼ円形の艦体にイチョウ型に近い形状の居住区画を艦首側に、艦体中央にバーベットを置きその上に主砲を2門据える。その左右に煙突を1本ずつ、さらに通風筒を煙突の左右に1本ずつの合計4本。バーベットの後方には操舵関連部が続き、その左右に艦載艇が合計4隻が並ぶ。マストは針状の1本のみで、主砲2門の間にそびえたつ。

 時期によって形状が異なり、第1次改装では居住区画が一回り大きく、艦首に割合オーバーハングするようになった。続く第2次改装では後部操舵関連が充実し、部屋として形成され、空中甲板が設けられてバーベットから直接後部及び煙突回りまで歩けるようになった。更に第3次改装で海図室が後部空中甲板上に設けられ、最終改装ではマストの代わりに巨大通風筒が設けられ、バーベットの左右と海図室後部に2本の小通風等を設けられた。更に、この際の改装で推進軸が2本削減された。舵が非常に長い点は修正されなかった。

 カラーリングは艦底部は赤、それ以外はベースとして黒。煙突のみ白。或いは時期によって居住区画と海図室が白く塗られ、煙突は黄色く先端のみが黒い――黒海艦隊らしい塗装に修正された。舷窓は居住区画に限定されるが、改装により拡充された艦尾構造物にも設けられるようになった。

 

 

 実はノブゴロドには姉妹艦がある。正確には次級であるが、ほとんど同時に設計建造されているため姉妹艦といった方がいい。

 成果もわからないうちに、よくも似たような変な艦を建造できたものだ……。

 

 


 二番艦:キエフ(Киев)改め→ヴァイツ・アドミラル・ポポフ(Вице-адмирал Попов)
 起工:1872年9月8日
 進水:1876年10月7日
 就役:1876年
 類別変更(沿岸防衛装甲艦):1892年2月13日
 除籍:1903年5月2日(売却・解体は1911年)
 建造所:二コラエフ海軍造船所
 費用:326万ルーブル
 排水量:3658トン
 全長:38.7メートル
 全幅:35.9メートル
 喫水:5.8メートル
 出力:4,480 ihp (3,340 kW)
 主缶:円筒ボイラー12基
 主機:複式膨張蒸気エンジン8基6軸推進
 速力: 8.5ノット
 航続距離: 540海里(全速航行) 
 乗員:将校19+水兵187名
 武装:12インチ (305ミリ)前装式施条砲2門 、4ポンド3.4インチ (86ミリ)単装砲4基 
 装甲:舷側装甲帯406ミリ、バーベット406ミリ、甲板70ミリ

 

 円形の艦体の中央にバーベットと主砲を据える。その周囲を取り囲むようにひしゃげたひし形の居住区画が設けられ、独立した形で艦尾に操舵室が設けられている。煙突はバーベットの左右に設けられているが、当然居住区画の中に取り込まれている。主砲の間に通風筒がある為、マストは左右に分かれて小さいものがバーベットの外側にある模様。

 この艦も改装を重ね、結果艦尾独立操舵部はバーベットと甲板で繋がれ、しかもその上に巨大な海図室等々の部屋が設けられている。更に煙突から舷側へと空中甲板が設けられ、これがどうも二段重ねらしい。通風筒はあちらこちらに設けられ、煙突の左右と前に加えて海図室の前に2本の合計8本。艦載艇の置き場所は艦尾と空中甲板端部の3隻に+αで4隻。

 カラーリングはよくわからないのだが、はじめは艦底部が赤くそれ以外は黒。煙突は黄色だが先端が黒いと言うような塗装と思われるが――改装により上部構造物の全てが白か灰色に塗りたくられるようになった。どうやら舷窓は居住区画のみ。

  ちなみに、はじめはキエフ命名されていたのだが建造再開後に設計者の名前を冠したヴァイス・アドミラル・ポポフへと改名された。

 

 

 

 円形砲艦――建造の背景――

 ロシア帝国は依然として脅威であるオスマン帝国の攻撃に備える為、ドニエプル川河口とケルチ海峡の安全保障=アゾフ海防衛のための戦闘艦艇整備を必要とした。

 その際に必要とされる戦闘艦は、アゾフ海の様相からしてモニター艦の範疇内に収まらなければならない。しかし、弱くては話にならない。つまり、新造艦の要件は喫水が3.4メートル、279ミリの火砲を備えた重装甲艦で費用は400万ルーブル以内

 要は、強力な河川用モニターが欲しかったのである

 

 一方、その頃スコットランド人設計師のジョン・エルダーは艦幅を広げることで重武装化が容易であり速力もまた期待できるという論文を発表した。更にイギリス海軍の軍艦設計の最高責任者だったこともあるエドワード・ジェームス・リードがこれに同意した。円形ないし円形に近い艦容が、強力な火力と防護力を生むうえでは有効であるという事である。

 この、物凄く英国面丸出しのプランに、ポポフ提督は乗ったのだ

 

 

 円形砲艦の実力

 実際のところ、モックアップでは割と良好な結果を残し、皇帝アレクサンドル2世からは「ポポフキ」というあだ名を頂戴した。

 しかし、せっかくの設計も――予算オーバーが確実であったことから縮小を余儀なくされた。11インチ砲4門を備えた十分な武装ではあったが、建造費414万ルーブルと予定予算より14万ルーブルも超えていたのだからどうにかしなければならない。これを4隻調達しようものなら累積で56万ルーブル

 結果、一回り大きさを小さくし、武装を半減させ、予算も半分へと設計を変更せざるを得なくなったのだ。

 

 問題はココから再試験に用いたモックアップは実際の1/4程度の大きさなのだが、この手合いの物は小型であればあるほど、結果が良好になりやすい。この落とし穴に見事に引っかかったのがノブゴロドである。

 無論、平底で揺さぶれやすいとはいえ縦と横が同じ長さなのだから、通常の船に見られるようなローリングとは無縁。無縁なのだが、思った以上に直進性が乏しかったのだ。おかげで計画上の航洋性は全く持って実現不可となった。

 裏を返せば、高い安定性を以て大型火砲のプラットホームとしてはこれは十分機能したのであるところが、基部のターンテーブルなどの強度が不足していた為、二門の相次いでの発射であるとかは障害が生じたため、これを改修するまではうっかり反動で回ってしまったり、割と遅めな射撃スピードをさらに遅らせる必要などが生じてしまっていた――というのは内緒

 

 一方、ノブゴロドの轍を踏むまいと一時建造停止だったキエフ――改め、ヴァイス・アドミラル・ポポフは設計を一部変更し大型化。武装もワンランク上の物を採用し、居住性を強化して砲のプラットホームとしての能力を強化して建造を再開した。

 あんまり意味のある事であったかと言えば、その後類似した戦闘艦艇がどこの国にもないという事を見れば……明らかであろう

 

 

 さて――この艦が全く意味のない最悪な艦艇であるかと言えば、実は否

 元からあんな形状では舵がうまく利くはずもなく、直進性など高いはずもなく。その意味では、普通の艦艇のような直進性を求めること自体がナンセンス。一応進むのだから、それで十分だし、普通モニター艦は大して航洋性をを求められない。よって、直進性が乏しくとも、ゼロでなければ割とそれで十分なのである

 まあ、エンジン出力で右へ左へと転舵する――車みたいな艦となったのは痛い。だって面倒だもの。対艦戦闘ではほぼ確実に使えないという事は明らかだろう、機関にダメージを与えてしまうから。しかも、6軸推進だが、外側のプロペラシャフトは推進に対して役に立っていないという事が判明する。で、これを削減しても本当に悪い影響はなかった。

 この辺りのエピソードは確かに残念感満載

 一方でいわれていた射撃する度回るというのは、これは先に述べたように衝撃吸収が不十分だったという点に尽きる。ロシアの工業力ではお察しであるが、これも結局改善されたため、大きな問題では無かったと言えよう。

 

 

 これらよりはるかに問題だったのが、実は艦内の換気問題。これはまずかった。

 だって機関部がかなりの部分を占め、艦体に関してはほとんど使えるスペースがないのだ。で、密閉空間――これは暑い。居住区画も適正とはいえず、艦上部に設けられたあれは艦体内部からあふれた部分を収容するためのもの。そもそも船自体がその活動場所の関係上、密閉性を期待される。

 その上で、このノブゴロドは特殊な形状と艦の容量の関係から余計に換気が難しかったのであろう。

 

 

 この艦は何か沿岸防衛用の装甲艦である。この艦は、十分な装甲と十分な火砲――それも安定した射撃を期待できる。喫水は十分浅く、活動域は広い。何よりアゾフ海周辺で活動するのだから、端っから航洋性など捨てても良かったのだ。

 更に、出来れば安いことが求められた。若干、武装などの費用がかさみ、割高感が出てしまったものの、一応予算の範囲内に収まったのだから、要求は一通りクリアしたといえるだろう。

 その意味では、目的を達成したという事でこの艦は十分意味のある艦艇と言える。少なくとも失敗では無かったどう考えても成功した艦ではないが

 

 ただ、ノブゴロドの教訓が十分引き出せる状況になる前に2番艦を建造したのは、その計画に関しては明らかに失敗だったといえる。ノブゴロドは、戦略的に運用すべき艦であり、戦術面とか小手先の利用はかなり厳しい――そういう艦を簡単な設計変更で済ますのは、頂けなかった。