旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

ネルソン級戦艦――英国一、最良で最大の問題児――

 

 ネルソン級戦艦大英帝国海軍が建造した唯一の16インチ(40.6センチ)砲艦である。また、ワシントン海軍軍縮条約の下に建造された条約型戦艦でもある。この特異な来歴と共に、その特異なヴィジュアルが海軍ファンのみならずその目を引いた。

 形状としては宇宙戦艦ヤマトのテレビシリーズ第3作品:ヤマトⅢに登場した護衛戦艦〈プリンス・オブ・ウェールズ〉に近い

 今回はこのネルソン級について考察・解説してみたい。

 

 

 データ(いつも通り、ウィキから拝借……)

 基準排水量:3万3313トン
 常備排水量:3万4000トン(満載排水量:3万8000トン)
 全長:216.4メートル(水線長:214.5メートル)
 全幅:32.3メートル
 吃水:9.1メートル(1945年時:10.8メートル)
 主缶:アドミラリティ式重油専焼三胴型水管缶8基 
 主機:ブラウン・カーチス式ギヤード・タービン2基2軸推進
 最大出力:45,000hp
 最大速力:23.0ノット/竣工時(23.9ノット/公試時)
 航続距離:16ノット/7,000海里
 乗員:1314名/平時(1640名/戦時)
 兵装:艦前方Mark I 40.6cm(45口径)3連装砲塔3基、艦尾舷側Mark XXII 15.2 cm(50口径)連装速射砲塔片舷3基、艦尾Mark VIII 12cm(43口径)単装高角砲2基・同砲煙突基部2基、同砲艦橋後部2基、艦橋前部2ポンド(4cm)ポンポン砲8連装4基、同砲後部測距儀基部2基、艦首舷側62.2 cm水中魚雷発射管単装片舷1基
 装甲舷側:356 mm(弾薬庫・傾斜角18度)、330 mm(機関区・傾斜角18度)、38(19+19)mm(水線下隔壁)
 甲板:159 mm(弾薬庫上面部)、95 mm(機関区上面部)
 主砲塔:406 mm(前盾)、279 mm(側盾)、184 mm(天蓋)
 副砲塔:37 mm(前盾)、25 mm(側盾)、25 mm(天蓋)
 バーベット部:381 mm(最厚部)
 司令塔:406~355~343 mm
 艦載機:なし(1935年、ロドニーのみ:水上機2基、カタパルト1基)
 搭載艇:艦載水雷艇2、大艇2、小艇1
 同型艦 1番艦〈ネルソン〉、2番艦〈ロドニー〉

 

 建造の背景

 ワシントン海軍軍縮条約は1922年署名、翌年発効の大型条約である。

 世界中の、特に列強と言われる巨大海軍を一律でその保有トン数を決めることで当時加速していた建艦競争に歯止めをかけることを目的としていた無論、欧米と日本とのバランスを維持するという目的もあるにはあったし、一方で多分アングロサクソン系国家の世界覇権の維持の方がもっと大きい目的だったと思われる

 条約に参加および獲得した最終枠組みは英5:米5:日3:仏1.67:伊1.67である。

 この中で大洋において作戦可能な戦力を持っていたのは英米日であり、建艦競争が質的にも量的にも大規模。故にこれらは主力艦の保有トン数が大きく制限させたのだが、全力でごねたのが日本――せっかくかなりの部分を完成させた〈陸奥〉、こいつが条約の第3項目の未成艦の廃艦に引っかかってしまうのである。

 これはもったいない

 

 そして日本のハードネゴシエーション、あるいはディールは結構大当たりする。

 つまり、英米に新造艦建造の承諾あるいは未成艦の建造続行の承認――引き換えにボロ艦をスクラップにする事で八方丸く収めたのだみんな、無きゃ無いでいい戦艦をお払い箱にでき、新造艦を建造できるようになり結構おいしい結果を見たのである。特に日本はいらん〈摂津〉を標的艦に替えただけで〈陸奥〉を確保できたのだから大勝利と言えた。

 一方でイギリス――この国も結構おいしい目を見た

 

 イギリスの保有していた戦艦は弩級戦艦6隻(すでに除籍・練習艦)+超弩級戦艦24隻総計50万トン。もっと言えばあと4隻あったが、設計が古かったこともありワシントン軍縮条約を見越す形で廃艦している。

 要は、どの艦も先の大戦の産物以下。超弩級戦艦〈オライオン〉の親戚であり、ユトランド沖海戦(スカラゲック海峡海戦とも)の際に色々と失敗した感を露呈した戦艦群で、少なくとも大規模な改装が必要な艦であった。この手合いの改装は――大規模かつ極めて手間がかかり、有効ではあるものの……だったら新造戦艦を創りたい

 このタイミングでたまたま日本がごねてくれた。渡りに船とばかりに、イギリスは新しい戦艦を模索し始めたのである

 

 

 方針

 建造方針はユトランド沖海戦の戦訓を取り入れる事。つまり――

 

 1:速度は装甲、ではない。

 2:あまり遅いと戦場に到達できない、出来れば足は速く。

 3:遠距離砲戦においては水平装甲が重要

 

 である。種を明かすと……この内、ネルソン級戦艦が完全に満たしたものは何一つない。薄っすらまんべんなく満たしているのみ

 特別遅いわけでは無いが、しかし決してどうあがいても速くはない。つまり脚に関しては期待できない。しかも装甲のために割を食った機関は信頼性が低い。

 水平装甲は結構厚めなのだが、これは色々と批判があって、面積が足りないとか張り付けた部分の選択が微妙とか。ただ、内よりかはマシだし――実は……英国海軍は昔からあまり敵艦隊と距離を取らないのである。

 加えて、この艦の積んでいる主砲は初速が速い、割に軽量な砲弾を利用している。これでは遠距離、何なら平均的な戦艦同士の砲戦距離でも威力が乏しい

 つまり、この艦の遠距離砲戦は考えるだけ無駄。

  まあ、相手にすべき欧州戦艦群は16インチ砲なんてものを持ってないから、十分牽制になるし、大した問題ではない。絶望的な船足ではないし、ダメな艦ではないが――大英帝国が粋を集めた戦闘艦にしては拍子抜けと言わざるを得ない。

 英国面の最たるもの、という見方もできるが

 

 

 火力・能力

 火力は大英海軍随一である。何といっても16インチ砲9門――色々と理由があるが、大英帝国唯一の16インチ砲艦。他の同国海軍戦艦を確実に圧倒する火力だ。

 艦首真正面を向くと残念ながら6門に過ぎないが、しかし角度を調整すると――左右120度方向への投射力は先にも述べたように9門にのぼる。大和〉は46センチ砲を徹甲弾で計算すれば艦首方向への投射量は8.76トンに及ぶが、このネルソン級929キロの砲弾を9発=8.361トンと見事に肉薄できる。敵を艦首方向へ捉えている限りにおいては、大和型戦艦以外のどの戦艦よりも大投射力という優位性を確実に確保できるのだ。

 少なくともビッグ7――〈長門〉、〈陸奥〉、〈コロラド〉、〈ウェストバージニア〉、〈メリーランド〉に加えて〈ネルソン〉と〈ロドニー〉――の内、確実に火力は最恐と断言できた。

 

 問題はこの大火力を艦首に集中させた事。正確に言えば――艦橋構造物の強度を考えていなかった事である。

 仮に艦尾方向へ射撃を行うと、艦橋に爆風がもろにぶち当たり窓ガラスは木っ端みじんになるわ揺れるわ、精密機械はぶっ飛ぶわ、とんでもない事になってしまう大英帝国海軍も馬鹿ではないから、明らかに衝撃を避けられる艦橋の横断面にしたのであるが、これが予想を上回る主砲の威力で大失敗だった。この艦は大英帝国海軍の中で初めて塔型艦橋を採用したのであるが、これは本来荒天に耐える為の物。だが、もしこの構造でなかったら最初の訓練で艦橋クルーは木っ端みじんに吹き飛んでしまっていたかもしれない。

 もっと言えば、この艦の主砲塔は3基あるのだが、第3砲塔(Q砲塔)は艦橋にあまりにも近く……下手な旋回をすると砲身が艦橋の薙いでしまう。誤射でもしようものなら、第2砲塔(B砲塔)のバーベットをぶち破ってしまいかねない。

 要は、安心して撃てるのは第1砲塔(A砲塔)と第2砲塔のみ……。

 

 

 集中防御のメリット

 ひとえに重量軽減であるそもそも、一つの砲塔に3つの砲身を収めるという方針自体が、軽量化志向。誰でもわかるだろうが、単装砲だとその側面装甲であるとかバーベットであるとかが完全に独立しているため、3基用意すればそれだけ無駄が出る。しかし3連装砲塔1基に収めれば、これらを共有できるため、単純な重量削減は不可能だが極めて大きな重量を削減可能なのである。これを突き詰めたのが4連装砲塔。

 困ったことに大英帝国海軍は何を思ったのか、3連砲塔の基部を艦全体の重量削減のためにケチってしまい、性能が不十分になってしまった。何故事前に気が付けなかったのか、そこがわからない……。

 さらに、重量軽減を発展、艦全体の配置にまでブラッシュアップしたのがこのネルソン級なのである

 

 バチっと防御すべき部分=砲塔基部の諸々をそれ自体装甲で覆うのは当たり前として、その周辺部もできれば軽くでも防御したい。

 具体的には砲室(砲身とかが入ってる所)、砲塔基部の作業区画は分厚くしておきたい。あんまり金属板自体が弱いと、これ重量がかさむため下手すると壊れてしまう……また、弾薬庫はできれば側面装甲を張りたい。さらに弾薬庫のある区画の上面には水平装甲を張りたい。当然、機関部も同じで、水平装甲や側面装甲がなければ危険極まりないだろう。

 もしこれがあちらこちらへと分散していれば、装甲しなければならない部分が広くなり、重量は当然かさむ。一つ一つ分厚い装甲を施してもいいのだが、重量配分を考えなければ船としてバランスが悪くなってしまう。全体的に防御しようとすれば、重量をか考えると薄くならざるを得ない

 

 だから、集中配置して余裕を稼ぎたい

 集中できれば、全体として防御しようとしてもその範囲は大して広くはない。穴をあけられてもいいような部分と、絶対突破させない部分が分けられればそれで十分。また、艦の重量配分としても、全体的にうまくばらけさせるより、集中させてしまえば何も考えず――っぽい感じでバランスを取れば案外それで丸く収まる。本当はもっと繊細な計算が必要だが、そうはいってもベースは極めてざっくりとしたもので十分。

 

 総合的観点から見て、ネルソン級はビッグ7の中でも最も充実したスペックを持つ戦艦と言えるだろう後出しジャンケンだしね

 

 

 ネルソン級のデメリット

 先ほどはいい事を出来るだけ述べたが、ネルソン級戦艦には数々の問題がある。見た目の事なんて、人それぞれだから別にどうという事はない。あんまり華々しい戦果はないという事も別にどうでもいい。

 

 シアがないというのもデメリットあれがないと容易に波が艦首にかぶってしまう――塩水が金属にぶっかかって無事なはずもないし、ヨーロッパは結構凍る。寒いのだ。そうすると、作戦地域によっては使い物にならなくなってしまう。第1砲塔と元から使えない第3砲塔という事は、第2砲塔3門しか……戦力にならないという事である。洒落にならない。

 よくよく考えてみれば、あのチーズをぶった切っただけのような舷側も……どうなんでしょうね、重心や重量配分的に……。

 

 それ以上に、集中防御がデメリット

 使い勝手の悪さ、狭さの割に――集中防御の効果が出なかった。結局条約に縛られるという最大のネックが見事に悪い方に大当たりおかげで水平装甲は微妙なレベルに落とし込まれ挙句、だが、副砲塔の基部が特に装甲なしってアンタら……。また、木材を以て非装甲区画の装甲補助に当てたが、あんまり意味があったかは言いたくない……。

 他方で、水雷防御はこれが意外とまとも。3メートル余りのバルジを設け、これで艦体に直接の破滅的影響を削いだのである。

 これを念頭に置いたのか、実戦では作戦上やたらに水中部分の攻撃を受けたが生き延びることに成功した。

 

 艦の運動性能自体は、これはどうやら意外とまともだったらしい。しかし、艦橋がかなり後方にある為、艦長はこれを勘定に入れないととんでもない事になる。これデメリット以外の何物でもない低速あるいは通常航行程度だと、どうにも揺さぶられて大変だったらしい

 他方、高速運動中――23ノットと割と低速なのではあるが――であれば、回転半径が小さく小回りが気利くのだ。そうなるとこの艦は、途端に戦闘でドワーフばりの活躍を見せる。また、荒天中も快適だったとか。初期における北海への配置は、ベストな選択と言えただろう。

 

 長い船であれば抵抗=舷側が大きいから旋回時に働く揚力よりも水の抵抗の方が大きくなるのでは。ずんぐりした船では揚力を創るための迎え角が必然的に大きくなるため、それだけ急に旋回――飛行機だと逆に失速してしまうレベルで大きくなる。

 反対に底が浅かったり平らだったりすると回転運動に逆らう力の発生源が無かったり、するとこれ操縦性能が悪くなる。あまりに船首船尾をシェイプアップしても、安定性に欠け、性能が悪くなる。

 

 ネルソン級は割に舵が大きいという点、艦体が割に短い点に加えて、艦尾が平底船的な形状である

 これらを勘案すると、高速運動中であれば当然に近い形で運動性能は高いが、浅瀬や低速運転の波の影響を受けやすい状況であればこれも当然に近い形で、運動性能は低いであろう。

 

 結構見込みのあるネルソン級だが――ところが、肝心の機関が無理なスペースに押し込められ、重量削減も相まってレベルが低く、ポンコツだったのだ。これは痛すぎるデメリット。これは発注側にも大問題があったのだが――結局製作を受け持ったジョン・ブラウン社が泣く羽目に。

 さらにこの貧弱な機関は戦争が終わると力尽きてしまい、艦自体が活動停止してしまった

 

 

 実際の活躍

 就役後、あれやこれやとさんざん言われたが、実は物凄く活躍した

 

 一番艦〈ネルソン〉は就役後長らく本国艦隊旗艦として飼い殺しにされ、いっぺん海兵がストを起こしたほかはくすぶっていた。

 だが、大英帝国海軍で2隻だけの16インチ砲艦の内一隻としてWWⅡ開戦早々、北海へ出動し。この任務中、潜水艦の卑怯な雷撃異を受けたが幸運にも不発。帰投中に触雷するも、そう大したことはなかった。その後は大西洋で船団護衛任務を行い、しかしビスマルク追撃戦に際し地中海到達を阻止すべくアフリカ東岸から北上しジブラルタルへと展開。

 結果H部隊へ配属となり、地中海を中心に作戦に参加し度々損傷するも本国に戻って修理し、戦場に舞い戻る。そして、アメリカなどと合同で作戦を何度も敢行――1943年9月29日にイタリア休戦の調印の舞台となった

 さらにイギリス本国に戻り修理を受けるとノルマンディー沖へ前進、Dデイの支援を行った。しかし損傷によって本国に帰還せざるを得なくなった。

 1945年11月、本国艦隊の旗艦として復帰したものの機関部の疲労激しく翌年には練習戦艦に類別変更。翌々年には除籍し1949年、インヴァーキーシングにて解体され、その生涯を終えた。

 

 

 一方の〈ロドニー〉は本国艦隊や大西洋艦隊に配属されたが、1931年に僚艦と共にインヴァーゴードン反乱を起こす。この賃金カットをめぐる水兵のストで大騒動を引き起こしたが――それ以外は特に何もなかった。

 WWⅡ開戦後、ネルソンらと共に北海地域へと進出。空襲を受けるがこちらもネルソン同様に不発――後にロドニーは北大西洋で英加間の船団護衛に従事する。1941年5月、任務途中のロドニーにビスマルク追撃の命令が下る。〈フッド〉の弔い合戦のために〈キング・ジョージ5世〉ら戦闘艦隊に合流し、ビスマルクを追いこれに徹底した艦砲射撃を敢行。さらに艦首魚雷発射管を以てこれを雷撃。圧倒的大火力を以てビスマルクを血祭りにあげ、見事キャッスルタウンベクより南西約600キロ付近に撃沈したのである。

 その後ロドニーはアメリカにわたり機関を修理、ジブラルタルでH部隊に配属されて以降は地中海で船団護衛を行い、Dデイでは僚艦と共にその上陸支援を行った。戦争末期は再び北海付近の船団護衛に従事し、そこで終戦を迎える。

 終戦を迎えた後、ロドニーは艦体の著しい疲労によって戦闘艦としては供されず本国艦隊の旗艦として係留されるも予備役へ回り、1948年インバーキーシングで解体され生涯を終えた。

 

 

 あまり期待されなかった戦艦だが、しかしそのスペック自体の高さと火力はホンモノ。ほかのビッグ7のあまりぱっとしない戦果に比べれば、戦艦としての戦果は別にすれば軍艦としては満点な活躍だったといえるだろう。

 

 斜陽の帝国――しかし依然として意気盛んな大英帝国海軍のその戦闘的な方針からも最前線に繰り出され船団護衛を数々こなし、上陸支援を大西洋および地中海地域の全域で行った。様々な不具合もひたすらガッツと幸運に守られ戦闘を続行、補修も大きなものはほとんど行われなかった。常に前線で敵艦隊を牽制し、銃後の守りとして連合軍を支え続けたのである。

 そして戦争が終わると、待っていたかのように全ての箍が外れ、戦闘艦としては全く役に立たない状態へと落ち込む。散々ダメだなんだと言われておきながら、だが最も献身的に祖国に身をささげることになった戦艦と言える。