ガトランティス兵器群 不明な艦艇―輸送艦―
輸送艦とは、ヤマト2の第6話にて登場したスペック不明の艦の事である。目立つ名前も何もないし、特にまとまった設定があるわけでもない。皆が輸送艦と表現するが、役割から言えば正確には揚陸艦だ。もう、この時点で錯綜してしまっている……
そうだ、何が何だかわからないのがこの艦である。
外観と様相
手足のない昆虫類のような外観で胸部=推進部と腹部=格納部に分かれている。格納部の底面には3本の半円筒スロープが設置されており、これが展開して装甲歩兵戦闘車を放出する。推進部の左右にフィンが張り出していて、これが昆虫らしさを強調。全体的に緑色塗装一本でまとめていた。
ナスカ艦隊に配備されており画面上では5隻が確認可能。それぞれ複数の歩兵戦闘車を放出した。
問題なのは全長その他の数値が設定されていない事だ。
装甲歩兵戦闘車は全長8.7メートル、全幅5メートル、最大速度120キロ毎時、対戦車ロケット砲1門、37ミリ対人対空連装レーザー機銃1挺と事細かに設定されているのに……。えらい違いである。どっちもヤマト2しか登場しないのに。
ここからざっくり推測する。
かの歩兵戦闘車は高さが設定されていないが、恐らく4メートル前後。
この歩兵戦闘車が上面から底部まですっぽりと円筒スロープに収まってしまう。当然、歩兵戦闘車の車輪は円筒の側面にへばりつくわけでもないので、底には平面が設けられている。余裕をもって8メートルぐらいの直径だろうか。これが3本、殆ど間隔を開けずに並べられている。スロープの外板の厚みは恐らく1メートル程度だろう。とすると、艦幅は最低で28メートルほどになる。このスロープは格納部の約3/5ないし4/5ほどを占める。一本のスロープは3つの円筒をつないで出来たもので、判然としないが一部品あたり7メートル弱。円筒スロープはスロープになっていない部分も含めると、大体35メートル弱を見込む。
という事は、格納部は全長42から45メートル、全幅が28メートル強となる。推進部との連結部は大体円筒の細分部品1つ分程度だから14メートルぐらいだろう。艦後部の推進部らしい部分はものすごい目算のざっくり数値だろ35メートル弱。円筒スロープ機構と大体同じぐらいの長さだから。左右に張り出したフィンは21メートル弱ぐらいか。
整理すると、輸送艦の劇中描写スペックは
全長:91メートルないし94メートル
全幅:28メートル(艦体のみ、フィンを含むと70メートル)
高さ:描写なし、不明。(扁平に見える為、雰囲気からして14メートル程度か)
運用方法もビーチングタイプの揚陸艦に近いし、スペックも全長から言えばLST-1やみうら型に近い。
さて、この輸送艦の搭載力はいかばかりか。LST-1は軽戦車24両ないしトラック27+上甲板に14両と兵員150名、みうら型は74式戦車10両と兵員200名を積みこめる。
容量の計算。
ガトランティスの輸送艦=揚陸艦は格納部は頑張って45メートル×28メートル×14――つまり容量は1万7640立米。かの歩兵戦闘車はざっくり217立米である。ごく単純計算で82両ほど。圧倒的じゃないかと言いたいところだが、上下左右ギチギチに詰めての輸送になる為、大変問題である。よくよく考えると、立米で考える必要、あんまりない。
整理しよう。まず、一段目(階高5メートル)はいくら突っ込めるかと言えば25両、戦闘車両の重さを考えた時1メートルか2メートル程度は床を強化したいし、揚陸部隊の収容スペースも確保したい。故に戦闘車両の収容スペースは二段で合計50両、最上部階高3メートルに揚陸部隊200名を想定する。
約100メートル級揚陸艦で搭載は50両と200名の兵員――割とまずまずな輸送艦に思える。車両収容部を幾らか減らしてその他の物資を積みこむことも可能だろう。輸送艦というより純粋な戦車揚陸艦としては100メートル近い艦体は珍しくなく、一方で無理のない数値らしい。
ただ、一つ問題がある。
戦車が乗らないかもしれない。いや、乗らない。
戦闘戦車
全長:8.5メートル
全幅:5.2メートル
最大速度:100キロ毎時
武装:188ミリ連装砲1門
指揮戦車
全長:11.3メートル
全幅:6.2メートル
全高:3.8メートル
最大速度:150キロ毎時
武装:200ミリ3連装砲1基(無砲塔固定)12.7ミリ対人対空レーザー機銃1挺
戦闘戦車の幅が微妙にはみ出る。お前突撃砲だろと突っ込みたくなる指揮戦車に至っては1.2メートルもはみ出てしまう。加えて、指揮戦車お前――全高逆サバ呼んでるだろ……。このままでは装甲歩兵戦闘車しか乗らないか、降下させられない。そりゃあ、効率面から言って多分どこかにハッチがあって、車幅に関係なく大量に乗り入れられるのだろう。だったら円筒スロープの必要性とは……?
もし円筒スロープを戦車も利用可能なように7メートルに数値を変更すると、再設定で――
全長:100メートル(格納部全長51メートル)
全幅:34メートル(艦体のみ、フィンを含むと74メートル)
高さ:20メートル
が最低限のスペックになるだろう。
突撃砲指揮戦車を基準に搭載量を考えると、1段目階高5メートル設定で縦に4両の5列で20両ぐらい。格納庫内が3階建てだと合計で40両で揚陸部隊は変更なしで200名ほど、4階建てだと車両は頑張って60両載せられるが、反対に装甲歩兵戦闘車の乗り入れに問題が生じる危険性が発生する。
何にせよ、装甲車両40から50両と揚陸部隊200人ほどの戦力投下は確実に遂行できるスペックと言えよう。
陸戦に供すべき戦車数とは……?
私が調べてわかった戦車の部隊として集中運用する定数は
陸上自衛隊を例にとると第7師団=3個戦車連隊(大隊)=200両(最盛期は約300両)。1個戦車連隊=65両(最盛期100両)は5個戦車中隊で編成される、1個中隊=14両(最盛期20両)は第13戦車中隊(第13師団所属)なんかを例にとると3個小隊で編成されるから……1個小隊は約5両(最盛期約7両)ほどの戦車を保有する。
細かい想定で多分間違っている部分が多いので――ざっくり、〈おおすみ〉(2代目)一隻が乗せられる18両が1個中隊定数と確定して問題はないはず。〈おおすみ〉は同型艦が3隻であり、集中運用をすれば3/5連隊分の戦力を陸揚げできる計算になる。
一隻の輸送艦が運べる1個中隊程度の車両でも、生身で突撃するのとは遥に攻撃力も生存性も向上できるだろう。
ガトランティスの歩兵戦闘車ははっきり言って戦車ほどの信頼性はないが、しかし当然何度も言うが生身で突撃するより遥にいい。そして揚陸艦一隻で原作の描写通りでも、これが50両投下できるのだからこれが5隻も集中運用できるならば、1個の基地を制圧するには非常に有用と言えるだろう。しかも数字にリアリティがある。
戦車を運用できるように幾らか大型化すれば少なくとも一隻当たり戦車を40両投下できるキャパシティを持つ揚陸艦となる。しかも、ナスカは5隻を集中運用していた。つまり、戦車ならば合計最大200両(実際は歩兵戦闘車合計250両)をあの基地1か所に叩きつけ得たのである。
現代国家の一個機甲化師団程度の戦力が第11番惑星守備隊に襲い掛かったのだ。基地の他は航空戦力も装甲車両もない、歩兵戦力しか有していなかった守備隊には反撃の手立てなど――男の矜持と空間騎兵隊のガッツしかなかっただろう。
ビーチング的揚陸方式の有用性は、宇宙戦艦であれば確保できる。
揚陸すべき車両は、歩兵戦闘車に限らずガトランティス軍は全て底面に噴射ノズルを有しており、軽く飛べる。要は、揚陸艦が着陸して万端整えて部隊を吐き出す必要はなく、空挺団の様に奇襲的にばらまくことが出来るのだ。
着陸すると言っても揚陸に適した平地があるかは不明だし、待ち構えた敵の修理中砲火を受ける危険もある。空挺団のような風向きに左右される、半分運で作戦を成功させるタイプのそれではやっぱり部隊集結が難しい。生身で降下すれば当然、どこに降り立とうとしても銃撃を受ける。
そこへ行くと、平地で集中砲火を食らうのはまずいがちょっとした銃撃程度耐えられる装甲車をばらまくのは安心安全と言える。実際、ソ連や日本も戦車を飛行機に仕立てて戦場に投入しようとした。これと似たような考え方と言えよう。車両を空輸するというのは今でも行われており、ばらまくのはさすがに――であるが空飛ぶ車両は考え方としては別に破綻したものではない。
ビーチング方式が廃れた理由は、ビーチング方式でなければ揚陸できない海岸線が地球上で約15パーセントほどしかないがためと言われている。
であるならば、宇宙空間であるとか、惑星表面への降下という予測しがたい状況ではむしろビーチング方式を取った方が有用なのではないのだろうか。
この艦に関しては、3倍設定は必要あるかどうかは不明。元の描写が案外リアリティがある為である。もう一度言うよ、リアリティにあふれる描写だから、こねくり回しは不要なのだ。
仮に3倍設定にすれば結局計算はしてしまう全長300メートル全幅222メートル全高60メートル、搭載量戦車120ないし180両となる。超大型揚陸艦だ。ナスカ艦隊配備の5隻では600ないし900両と陸自の保有主力戦車総数600を超える。ちなみに、アメリカなんかは6000両ほどを擁している。
艦の大きさの妥当性より問題なのは、どれだけの戦闘車両を投入すれば惑星を制圧できるかどうかである。
ドーバー海峡を渡り、ノルマンディーを上陸するだけで第一陣は戦闘艦艇130隻と15万もの兵力を投入したのにもかかわらずDデイは微妙な結果に。最終的には130万人ほどを送り込むことになった。少々遅れて反対側で開始されたバグラチオン作戦はソ連軍120万人に加えて4000両の戦闘車両が投入されている。
1個の街であるとか要塞を占領する、という事になればアーヘンの様に――それでも1万人は欲しいだろう。大規模戦力を結集した場合はクルスクなんかの例にあるように攻守合わせて6000両の戦闘を投入する事になった。新しい事例では第4次中東戦争での10月14日の戦車戦など、投入しようと思えばエグイほどの戦力を投入できるし、その必要はある。
仮に、複数の基地に擁護された強力な陣地を制圧するならば――どうも歩兵を100万人、戦闘車両を3000両程度は見込むだろう。
これをガトランティスが行うとすれば、3倍設定の30隻の揚陸艦を集結させれば3600から5400両を投下できる。人員は残念ながら多くて1万人程度だが、強力なデスバテーター隊の支援を受ければ十分だろう。元々の設定数値の場合は500隻ぐらい欲しい。Dデイよりかは圧倒的に小スケールの作戦だが、何気に大ごとになる。ナスカに指揮出来るかな……
懸念はそもそも陸上戦力は艦隊と違って陣地を築いて地下深く潜ることが出来る。しかも征服側は敵要塞から敵要塞へと潰す過程で地べたをトボトボ歩かなければならない事である。
これは大変面倒である。非常にざっくりとヨーロッパの首都級都市を制圧するにも、イギリスのような小さな面積で強力な国家は別にしてフランスのようなやたら図体のデカい国家は征服に苦慮をする。複数個所を同時襲撃する他方法はなく、仮に一か所に集中投入してしまった場合は――水曜どうでしょう班並みの強行軍が必要になる。
ヨーロッパを形成する大きめの国家16か国に打撃を与えるには、全首都16か所を奇襲する必要が有るだろう。つまり大型化した30隻の揚陸艦隊を16セット必要――480隻、5万7600両。これでヨーロッパを混乱に陥れられるだろう。それでも反撃を食らう可能性がある。ヨーロッパを征服する他方、これと同規模の部隊を各大陸に2セットずつぐらいを投下して……全球上に投下する量としては合計6720隻80万6400両が最低ラインとなろう。最悪、倍や3倍あっても多すぎることはないだろう。これを全惑星的に投入しなければならない。
だんだん隻数が2202化して参りました。
まあ、それだけの数が惑星制圧を正面切って行う場合は用意する覚悟が必要と言いたいだけ。
仮に隻数と言う意味の数字を減らすなら全長3キロ、全幅7.2キロ、全高0.6キロ、最大1800両の巨大揚陸艦に仕立て上げてもいい。そうすれば前述の戦力を400隻ほどで実現できるし、3倍になっても1200隻とまだ小さい数になる。推進部というか非格納部に当たる部分も接合部合わせて1キロ強ある為、この部分に車両を載せるなり一層の事デスバテーターや小型砲艇でも載せれば完璧な揚陸艦が完成する。あまりにも巨大すぎるし、反対に的になる危険が増す。
そもそも惑星全土を襲うよりも敵の守備艦隊を全滅させて適当な都市を艦砲射撃で壊滅させ、幾つかの都市を見せしめで占領する。そうやって惑星全体のGDPのうち占める割合の大きい数か国を徹底して破壊し、降伏を促す。という方法が一番簡単な征服法だろう。うまくいけば内乱を引き起こして勝手に自滅してくれるかもしれない。仮に反抗的であっても、絶対的優位を確保できれば、影響力行使に何の問題も無い。
第11番惑星のような弱勢の守備隊でしかも艦砲射撃や空襲を徹底的に繰り返した場合、さすがに1000両とか1万両のような戦力は必要ないだろう。やはり戦車にせよ歩兵戦闘車にせよ一個師団定数ほどの200両と言うのは妥当か。
もっと言えば、ナスカのとった戦術は案外――地球の機甲化師団がとり得る未来=輸送の障壁を取り払った軽量級の装甲車両を中核に据えた陸上戦、であると言えなくもない。攻守以外の能力の低い主力戦車よりもむしろ戦車的形態を取った歩兵戦闘車の方が有用な場合もある。こっちの方が軽いし、別にキャタピラじゃなくてもオフロードは走れる。
揚陸艦が歩兵戦闘車に特化した全長であるとした場合、これらの戦闘形態や投入車両の変化想定は、艦の合理性を幾らか保証してくれる。別にナスカの指揮とか発想がどうのこうのではなく、常に敵地への奇襲的攻撃を行うガトランティスの基本戦術が、一両一両重武装重装甲より、他の攻撃手段と合わせる事によってその攻撃力を担保し、地上戦力を速やかに展開するため車両自体はむしろ軽量化を行う事を欲している。そう説明づける事は可能だろう。
艦のスペック、搭載する車両、そのどちらもが非常にリアリティのある設定と結論付けられるのかもしれない。 惜しむらくは出番がたった数秒、しかもナスカの指揮下にあったという事……
陸戦部分については正直まるっきり自身がありません。元々エセ海軍オタだから海戦についても怪しいけど、陸上戦は余計に……。
ちなみに、この輸送艦は海外ではクラス名こそ〈Transporter〉と捻りがないが分類がLanding Craft Assaultとちょっとカッコイイ。どうでもいい話だが。