ストーリー考察Ⅶ・土方プランの追認
なぜ、第18話におけるあの土方総司令の無茶な配置転換が追認されたのか。
その合理的な説明を試みる。
結論、防衛会議の自己保身。
いつもの防衛会議批判です。
理由は簡単だ。まず、白色彗星の初観測時に防衛会議はどんな話をしたのか、思い出して欲しい。
全く脅威を認識せず、それどころか調査も観測続行もしない。他方で批判を行ったオブザーバーに対して不当な辞令を下すという極めてねじ曲がった対処を行った。白色彗星に対して本気で懸念を示し上奏した古代艦長にあまりに失礼な発言を行うなど、その態度自体が不真面目で話にならない。
まるで、会計処理の不透明性を確保するために公益社団法人の認定を返上した某協会のような開き直り――
結果、全ては防衛会議に跳ね返る。
白色彗星は敵であり、地球に狙いを定めて侵攻準備を行っていたのだ。確かに、あの時点で白色彗星の脅威評価を正しく行うのは難しかったかもしれない。
だが、あの全く持って話にならない対応と、制度をまるっきり理解していない発言は論外だ。
もっと言えば、さらばでは不当人事までやらかす。だって違法だもの。内示なしの辞令でしかも赴任の日付が通達の翌日。これは完全に違法、どっからどう見ても違法。内規で合法であってもその内規自体が違法。
最早、防衛会議は地球の防衛を議論するのではなく、地球を侵攻する存在を地球から防衛するための会議となってしまっている。
地球への脅威を放置したのだから防衛会議の大失態は確定的だ。
これをばらされたら多分アウト。
もし、メンバーの中に防衛関連企業から金銭を授受していたり、パワハラをやらかしていたり、普段から政権寄り過ぎる発言をしていたりすれば――週刊誌に全てを掘り返されてしまうだろう。うまくいけば捜査機関を巻くことはできるかもしれないが、世論はそれを許さないだろう。反対に、世論が忘れてくれても捜査機関はしつこく狙っているかもしれない。
そうなれば、二度と中央へは復帰できない。権勢を振るえない。だって犯罪者だもの。挙句先見の明がない事がバレている。
これを避けるには、どうやってもあの失態を覆い隠さねばならない。
これを知っている人間は誰だろうか――ヤマトクルーと長官、下手をすれば土方総司令だろう。
良かった、少なくて……。
他方、第18話の艦隊結集命令が実は防衛会議を通していない命令として整っていないものであるというのを、知っているのは誰であろうか。
長官以下の防衛司令部と土方幕僚部だ。
懲戒も戦死も腹をくくっている土方幕僚部が今更何のかんのとこの命令の違法性について騒ぐはずはない。
他方、防衛司令部は命令の違法性について吟味しなければならない立場だ。防衛会議を通していない艦隊配置はあってはならない事であるから。
また、戦術としても参謀長の言う通り、集中運用すると全滅して後詰がないという最悪の事態が発生しかねない。
他方、土方総司令の言う通り、集中しなければ勝てるものも勝てなくなる。
そして長官は、黙認することで土方総司令を支持した。
防衛会議をすっ飛ばし、防衛司令部と異なる命令を出した土方総司令はどっからどう考えても軍紀違反だ。軍紀違反が明確な人物とはいえ、懲戒や罷免を即座に行う事は難しいかもしれない。だが、差し当たっての謹慎程度ならば促せるだろうし、緊急事態なのだから長官に人事の専権が与えられても不思議はない。
だが、長官は土方総司令を支持した。
この時、防衛会議は反抗しようと思えば出来ない事はなかった。土方総司令も藤堂長官もまとめて違法行為で告発してしまえばよかったのだ。
だが、事情を知った所で長官は問題にするつもりはなかったのだから、防衛司令部からの告発は期待できない。あのワンマン体制な土方幕僚部からの告発も、恐らくあり得ないだろう。証拠が握り潰されていても不思議はない。
頼みの綱は参謀長だが、反対に長官が政治マターの問題として首相や大統領に相談した場合、すでに艦隊が土方幕僚部に集っている現状を政治家がひっくり返すことは難しいだろう。また、土方総司令の熱のこもった説得に、政治家は簡単にひっくり返されて、同意してしまう事も考えられる。
結局、大山鳴動して鼠一匹という事態に陥りかねない。
こうなったら怖いのは復讐。
何といっても、防衛会議は初手でミスってその存在を自ら否定してしまっている。これをばらされては、或いは政治家たちに防衛会議がお荷物であると認識されてしまっては……。選挙のネタに、〈防衛会議改革〉などというものをぶち上げられては困る。
防衛会議は、ずっと前から独立して動く手立てがなかったが、長官が土方総司令の指示を黙認した時点で打てる手立てを決定的に失った。防衛会議は組織の自己保身の為に、土方総司令の無茶な命令を長官同様黙認しなければならなかった。
それどころか、追認してその命令の正当性を確保しなければならないという屈辱な事態に追い込まれたのである。
もう一つ付け加えるならば、第10話で見たように、あの時点で防衛司令部は白色彗星を非常な脅威と認識していた。 倉田博士率いる中央天文台に観測を続行させ、ストを理由にむやみな宇宙渡航を制限する――後者に関してはかなりの荒業で事態の調整を図っている。また、土方総司令と密に連絡を取り、総司令は長官に戦力の不十分さを説いていた。
だが、現実的には第18話の時点でアンドロメダの姉妹艦は完成せず。長官は土方総司令が規模した戦力を確保できなかったという事になる。であるならば、防衛司令部がどうのこうのいうのではなく、ある意味罪滅ぼし的に土方総司令の行動を黙認する形で全権委任したと解釈可能。
ロシア皇帝ニコライ2世だって、どんくさいロシア帝国海軍上層部だって、第1太平洋艦隊(旅順艦隊)壊滅の報に際し、ヤバいと思って直ちにバルチック艦隊最後の戦力をまとめて太平洋回航=第3太平洋艦隊の追加派遣を決定している。挙句、制海権の奪回とか言っている人たち自身が疑問に思うような作戦目標を押し付けた。
結果は日本海海戦の完敗。
だが、上層部もあの戦力じゃ勝てはしなかったとわかっていて、しかもロシア政府が責任を以て提供すべき燃料の補給が非常に不安定であったりと、様々な要素が絡んだ。
そしてロジェストヴェンスキーとネボガトフには軍法会議にかけられたが――前者はあれじゃ勝てないとみんな分かっていた為、少将に降格したものの無罪。後者は戦闘放棄という重罪で死刑判決だったのだが、勝てるわけねぇのに大砲ぶっ放して何になると、懲役16年へと直ちに減刑している。さらに、体調崩した後はニコライ2世の勅命で解放。
要は、出来るといったことが出来なかったときは謝るなり、見合う対価を払うということ。
藤堂長官に至っては追加戦力すら提供できないのだから、実際に命を張る土方総司令の行動を容認する、そういうマインドになっても不思議はない。自滅した防衛会議に代わり司令部をほとんど全権掌握していた長官がOKを出せば、防衛会議も渋々ではあろうがOKを出さざるを得ない。
これが、土方総司令が結局罷免されなかった理由として、筋の通った説ではないだろうか。政治マターな説ではあるが。