旧作ヤマト考察協会

第一作から完結編まで、旧作宇宙戦艦ヤマトを出来る範囲で現実的に考察するブログです。

暗黒星団帝国 地球侵攻の哀しい理由

 

 

 なぜ暗黒星団帝国が地球に襲来したのか。
 それは認知閾にまで到達した暗黒星団帝国の社会問題に対するろくでもない解決方法、と一言で説明できるだろう。だが、一言で終わらせる必要もないので、出来るだけわかりやすくというか、長く考察・説明したいと思う。

 なお、アルフォン少尉の発言が事実であるという前提で話を進める。あの色惚けの話が全然違っていたら、この記事は全面アウト

 ※:暗黒星団帝国人とウラリア人という表現が混ざっていますが、私は特にかき分けたつもりはありません。うっかりです。

 

 


 暗黒星団帝国の事情
 困ったことに彼らは首から下が機械である。日頃椎間板ヘルニアであるとか関節痛に悩まされる我々地球人とは違い、彼らは体の不調に悩まずに済む。これは間違いなく大きなアドバンテージだ。

 だが、アドバンテージであると同時に問題でもあったのだ。

 

 あまりに機械文明が進みすぎ、脳さえあれば何でもできるようになった暗黒星団帝国。だが――それは生命としての姿を捨てたに等しい。人体は外部からの刺激を受ける受容体として働くと同時に、思考の出力装置としても働く。その装置にそれぞれ特質が存在し長所にせよ短所にせよ存在するからこそ、個々の存在がより際立ち唯一無二の存在となる。これを失ったのは文明としては大した事無いかもしれないが、生命としてはあるいは存在としてはあまりの衰退である。

 脳みそだけあればいいという事は、きっとケーブルを延ばすか神経を延ばすかして体を構成する機械に接続するのだろう……ある意味では真田さんの一歩先を行った体だ。別な作品で例えればクローンにクローンを重ね、最終的には脳みそだけで生きていたマモー。無論、体が動かせられない人が機械に頼ることは当たり前であろう。しかし、それは利便性を求めたというような理由ではなく、自己表現の幅を範囲を拡大するための方法であって本質的に異なる。生命の生命たるを表現するための機械化だ、暗黒星団帝国のそれとは異なる。

 機械文明の発達は当然、生活向上をもたらしただろう

 人工知能でもかませれば機械の体のスペック通りに動き、かけっこで嫌な思いをする事もない。不意に重いものを持ちあげてぎっくり腰になる事もない。足がしびれることもない。当然、老化もしないし痛みも感覚装置を切れば感じなくなる。人体を機械化したことは大いに意味のある事だ。研究や治療も全ての予算を皮膚と脳や目といった首から上の分野に集中すればいい。感染症だって繁殖する場所が限られているのだからかかりにくいかもしれない。多くの病気は過去のモノとなったに違いない。

 そして、失って初めて気が付くありがたみ――ウラリア人も肉体を欲したのである

 宇宙には機械化が進んでいない文明がいくつもあろう、そう言った文明を滅ぼしていく中で内省が行われることもあろう。傷つけば回復しがたい生身の体、だのに敵は必死に命を懸けて戦う……なぜか。大地を踏みしめる足、その時生身の人間は笑みを浮かべる……なぜだ。所詮感覚の全ては電気信号であり、疑似的に政策は可能だ。可能なはずなのに……。

 機械としての合理性を求めるあまり、感覚の最限度があまり高くなかったのかもしれない。そうして次第次第に、人工的な電気信号による疑似的な肌の感覚に満足できなくなってしまった。感覚としてマインドとして生身の肉体を欲したのだ。もう一度言うが、アルフォン少尉の言葉をそのままうのみにすれば。だとすれば、「本物の感覚を再び手に入れたい」と切に願い、自らの欲望と同時にある意味で生命としての姿を取り戻す希望である生身の肉体を手に入れるべく、地球に侵攻してきたとストーリーを展開できるだろう。

 生身の肉体を失ったがゆえの憧れとして欲し、地球侵攻の動機になったという説明は十分可能だろう。合理的ではないが、感情としては理解できるはず

 公開当時からすれば現代のような感覚さえ再現できる機械の登場は予想していなかったかもしれない、だとすれば人間の体こそが失われた人間の体の代わりになる唯一の存在と結び付けた判断も致し方ないだろう。現代の技術水準=バイオ技術からすれば、何もサイボーグになる事はないのにとお粗末極まりないとなるが――これは不可抗力。

 


 もう少し細かい内面的な説明を加えれば――

 ウラリア人の中で深い人間哲学が形成されるに至って、機械文明発展のためにそれまでないがしろにされていたヒトとしての自覚が芽生え、今更ながらに取り戻そうと考えた哲学的に自己を考えてやはり肉体があってこそ生命であるという確信に至った。

 しかし、ベースから思想がねじ曲がっていたため、他者を征服してその首から上を挿げ替えるという技術の挑戦と単純な発想の狭間に陥り実行してしまった

 自然界で弱肉強食は当然であり、自然淘汰は人間の構築した社会の中にすら大なり小なり見られる。それをデザリアム星外の生命に適応しただけで、むしろ自分たち暗黒星団帝国人をマクロコスモスの視点から観察した結果。

 本人たちとしては当然の事をしたまでだし、天則からいって何の不自然な事もしていない。むしろ哲学的に正しい行動をしているとさえ考えていたかもしれない

 というような説明に落とし込む事が出来るだろう。

 

 

 地球の位置取り
 地球が暗黒星団帝国の本拠地から40万光年離れているというのは非常に都合がいい

 往復29万6000光年で割とへいこらしていた上に、それだけの長距離を航行したのはあのヤマトのみというあんまり能力の高くない地球。侵攻するという事は復讐ないし脅威の排除のために逆侵攻を受ける可能性は非常に高い。だが、往復80万光年の長距離と自慢の暗黒星雲という遮蔽物の組み合わせは非常に強力な外界との壁になる。まず、遠征してこないはず。
 加えてカザンがヤマトのワープを見て早いと評していた事を鑑みると、暗黒星団帝国が今まで戦ってきた敵はヤマトより割と弱い。少なくとも航行能力に多少の疑問がある。ヤマトより強い敵がいるのかといえば正直ガトランティス以外には見当たらないが……だとすれば、これだけ離れてるから仮に攻撃が失敗しても、反撃を受けないから大丈夫と判断するのも無理はない。少なくとも仕留めればいいのはヤマトだけと判断できる

 


 作戦発案者・発動者
 発案者と発動者が同一かは実は考察しなければならない。なにせグレートエンペラーと聖総統とが、たかだか1年程度で最高指導者が交代しているのだ。政治が混乱していたと推測できる。


 発案者というか、需要は多分国民自身だろう。

 最初に述べたように、民自身が生物としての自身のあり方に疑問を抱いたとして不思議はない。この手合いの派手というか急な発想や哲学の発露は最初の内はまったく理解されないだろう。が、言い出しっぺが年齢を重ねて上に上がると……自然とそれが社会のありふれた価値観のように見えてしまう。その段階に到達すると、否を唱える人口と賛成する人間がおおむね同数になると予想できる。
 あるいは、生身の体というのは先に述べたように一種の哲学の源になり得る。これが一部の支配者層の特権であれば――なおの事、規制撤廃に動くだろう。

 どちらの想定でも暗黒星団帝国の国民が生身の体を望む理由は、容易に想像できる

 

 では、作戦を発動したのはだれか。
 これは聖総統であることが確実

 新たなる旅立ちの時点で開戦していた宇宙間戦争に敗れて帝国内が動揺し厭戦ムード蔓延ないし、それまで頼っていた機械文明への大きな疑問が生まれた――その波に乗ってグレートエンペラーを糾弾して聖総統スカルダートが台頭したとすれば、生身の体の獲得は彼のマニュフェストの一丁目一番地になりうる。グレートエンペラーと機械文明を結び付け、これを打ち倒し本来あるべき姿を繁栄を取り戻す第一歩として、生身の体獲得を聖総統が表明したという流れである。

 少なくともスカルダートが台頭した時点でその台頭に貢献した人間に対して対価を支払わねば彼の地位は危うくなるだろう。クーデターとはそういうもの。仮に彼らの要求が生身の体であるとすれば、反乱を避ける為に生身の体=対価を支払うべく、生身の体が確実に手に入る地球に侵攻したと――これは単純かつ当然のロジックだ。

 この場合は全国民が必ずしも生身の体を求めている必要はないが、拒否はしない範囲として収まる必要がある。また、聖総統スカルダートの支持者はほぼ全てが求めているという前提。この辺りの不安定材料は、聖総統の説得力ある声とクーデターを成し遂げたカリスマとしてのイメージ、指導者としてのイメージである程度は押し切れる。専制体制であろうグレートエンペラー時代の行政機構を混乱収拾のための一時的措置とかテキトーぶっこいて残しておけば、より簡単に乗り切れる

 リーダー不在の混乱は国家が戦国時代に突入するが、リーダーがいる場合は結構混乱は収拾して大人しくなるのが歴史の常である。

 

 問題は、マニュフェストを実行する時期だ

 あまり実現までに時間がかかってしまっては国民の不満は大きくなり、グレートエンペラーの二の舞を演じてしまう。だが、事業は簡単ではないどころか極めて困難。最も妥当な方策としてはバイオ技術を駆使して新しいボディを製造する事。

 まず、培養プラントを建設し首から下をオーダーメイドで製造する必要がある。もし、全身を造った場合は首をどうするかという問題……棄てるのかスペアとして維持するのか、これに答えを出す必要がある。そもそもの問題として、バイオ技術だと生身のボディの製造=成長には時間がかなりかかるのだが……これはいかんともしがたい大変残念な事だがボディ培養プラント建設、幹細胞抽出と培養、ボディの製造と一人のボディが出来上がるまで一体何年かかるかといえば……わかったモノではない。大体、製造中に首から上は齢を重ねる為、体が使える年齢に成長するまで大分待つ必要があり、首とボディに年齢的ズレが必ず生じる。これ結構まずい。

 成長を早めるという方法も使えなくはないが、考えてみてほしい。体だけが倍の速度で年を取っていくのだ。首から上が若ければ若いほど、頻繁な交換が必要になり負担が大きくなる。頻繁な交換が必要という事はそれだけスペアを時間差で作っておく必要があろう。するとドンドン費用がかさんでくる。保険適用したらしたで国が破綻しかねない。

 バイオプリントでプリントアウトすればいい、という向きもあろうが――人間の体クラスの巨大な物体を拒絶反応なしで育ててくれる苗床がどこにあるのでしょうか。少なくとも地球上には無い。人体ほどの巨大な物体が本当に丸ごとバイオプリントが効くのかは疑問。また、骨と肉と神経とを別個にプリントした場合はかなり効率の悪い事になり、結合手術が必要となろう。一括でプリントしなければならないが、果たしてそれが暗黒星団帝国にできるだろうか。

 もう一つ細かい問題で、新しく生まれた暗黒星団帝国人とボディを入手した古い暗黒星団帝国人との間でウェルネス的な格差が生まれる。これも案外社会の不安材料になりやすいだろう。

 これらを総合的に見れば、残念ながらバイオ技術で全国民にボディを供給というのは無理と言ってもいい。

 ならばどうするか……ドナーを見つける他ない

 遺伝子的に何とか互換性があれば後は拒絶反応をいかに抑えるかという事に焦点が移るのみ。征服先に億単位の人口があれば、暗黒星団帝国の人口がどれだけかは不明だが――さほど人口が多くなければ征服先の住民のボディが選り取り見取りとなる。首と年齢が一致すれば日常生活で見られる老化現象以上のモノは起きないだろうし、若い首が頻繁にスペアのボディに乗り換えるべく手術を重ねるという事も起きないだろう。

 拒絶反応を抑える薬も最早保険の範囲ではなく、水やガスや電気を供給するように供給すればいい。旧世代の暗黒星団帝国人が全員鬼籍に入れば、あとは普通に病気で必要とする人にいきわたらせるだけでいいから国家の負担は軽くなる。戦争をして国民を削るという非常識・非道な方法も取れるし幾らでも策はあるのだ。

 つまり、マニュフェスト実現までの費用と時間を最も節約できる最短ルートがボディの収奪。そう断言できるだろう。

 

 ボディを手に入れるという事は、実際にはグレートエンペラー打倒のための旗印に過ぎなかった。この手合いのレッテル貼りや分断は実に支持者をまとめるのに役に立つ手法。一方でボディを手に入れる事について暗黒星団帝国の社会的にはいろいろ議論され、ある程度の方向性が見えてきていた――だが、肝心の聖総統があまり真剣にとらえていなかったため実現のための策が全く上手く出来上がっていない。おかげでずさんで短絡的な方法に出てしまった。

 そもそもの間違いが聖総統がグレートエンペラーを機械文明と結びつけた事。そうしたがために、聖総統は立場上・自己演出上の理由で反対を行かざるを得ず。国民も本当にボディが欲しいかといえば微妙だが、グレートエンペラーにはご退場願いたかった。この微妙に齟齬のある国民と政治家の利害一致によって聖総統は権力を握った。

 握った以上はマニュフェストを実現しなければならない。国民もそこまで本気ではなかったが、俄然実現が目前に迫ると奮い立ち渇望を始めた。そして引き返す方法を全く失い地球人類と開戦――結果敗北し全てを失った。

 これが本来というか劇中のストーリーと齟齬をきたさずに深堀出来るルートだろう。

 

 国民全体が望むことであるかより、彼や彼の支持者にとってどれだけの意味があるか、という話。それで支持が強くなりついに政権を取った。政権を取ったからには実現しなければならないというのはこれは当たり前の話。問題は国民がどの程度、どのマニュフェストを、どれだけの人が支持していたかという部分。これを政治家は結構雑にとらえる。

 ただ、暗黒星団帝国の場合は国民も渇望していた様子であるから、聖総統としては政権運営はしやすかったのではないだろうか。成果を出せさえすれば……。

 

 

 無論、グレートエンペラーが生身の体を提供するという約束をしていたが果たせなかったため、聖総統がその約束を実行するために立ち上がったという可能性もなくはない。これは――確定するには情報が足りなすぎる為、個々人の好みでストーリーを設定することになるだろう。この場合、メルダーズが語っていた宇宙間戦争はボディを獲得するための戦争という事になろう。

 ただ、個人的にはこの筋はあまり妥当性があるようには思えない

 グレートエンペラーは大局観を持って大宇宙において戦争行為を行っていた。ボディを手に入れる為に戦争を起こすというのは非合理的で、主眼とするにはあまりに利益の限定的な目的だ。惑星一つを燃料に代えて戦闘を行う必要があり、それを重要だというのは支配域では燃料採掘が可能な星があまり無い可能性がある。また、戦っている最中の戦争相手がかなり強力・大規模で帝国が押され気味の可能性を示唆する。その苦しい見通しが現実味を帯び始めている状況で、全く本質的解決にならないボディ入手を優先する必要性など全くない。下手をすれば暗黒星団帝国で長らく忘れられていた食料であるとか、医療費とかの問題が再燃しまうのだ。むしろ害悪かもしれない。

 だからボディ獲得はグレートエンペラーが言い出したというよりも、グレートエンペラーと機械文明を結び付け打倒した聖総統のマニュフェストとした方が。地球侵攻を行う理由としては妥当性を帯びるのではないのか。と思う。

 

 


 動機のベースとしては暗黒星団帝国が社会として行き詰った可能性が非常に高い
 人間と機械の境界が判らなくなりつつあるという存在そのものへの疑問。仕掛けたのに負けたのか、社会の苦境を打破するために仕掛けたのに負けたのか。或いは勝ったけど得るものが少なかった宇宙間戦争。
 この最悪なストレスを社会が受けてグレートエンペラーから聖総統に元首が変わったとすれば、聖総統の生命線はストレスの発散か他所へ向けさせることの他にない。他所へ向けさせるためか、約束を果たすための行動かは不明だが、リスクを考えた場合に――多分後者だろう。仮にデザリアム星が臨時の首都とか、首都を要塞化したものとか、まあ色々可能性はあるゆえ、これでも結局理由が限定できないが……地球人の体欲しさに侵攻させたことについて合理性はあるにはある。

 あるいは、地球そのものが欲しかったか。
 地球という新たな拠点を手に入れ、そこへと移住し、すでに敵の侵攻対象になっている二重銀河を放棄するるつもりだったか。この辺りの話を深めるのはリメイクなりの仕事であろう。

 

 

 ともかく、かなり哀れ

  機会を捨て人間を取り戻そうとした結果、他者を抑圧するという人間が本来やるべきではない事を実行しようとした機械文明でありながら感情的な行動や判断を重ねるその精神性も、中々に悩ましい。生きるという事へ執着は激しく、同時に生きるという事への問いかけに対しては地球人より奥深かい考えを持っている可能性を劇中に見せた。ガミラスと同じぐらい生きる事に必死。

 ボディを手に入れたかった理由が「大地を踏みしめる足が欲しかった」という素朴で生命の本質的な部分に触れている――それなのに、自ら滅びの道を歩んだ。豊かになり得る精神的要素や思考の方向性を持って居ながら、すべてが悪い方に転がり戦争に結び付いたのだから……やはり哀れというほかない