ストーリー考察Ⅶ 物語前半部の諸々(ヤマトよ永遠に)
今回は、個別に考察するにはあまりに短く、ご都合主義を指摘するほどの内容でもなければ絶賛できるようなウマい描写でもないシーンをまとめて考察したいと思う。
考察①:高速連絡艇発進シークエンス
高速連絡艇が必要な場合は二つ。
一つは普通の移動。例えば、各惑星基地への激励のための使用である。アメリカ大統領も度々行っていることで、珍しい事ではない。どこの国の国家元首も頻繁ではないにせよ、よくある話。
もう一つは緊急退避。国家元首が死んでしまっては極めて緊急事態である。仮に国家元首が死んでしまった場合、指揮権継承が速やかに行われることが望ましいが、一番は国家元首の安全を確保することだろう。最悪、これは国家元首が乗っている必要はなく、レガリアがあれば――このレガリアは国家再建の際には国家元首以上に結構必要用件だったりする。それが共和政国家であれば、建国時の憲法の原文だろう。君主制国家であれば戴冠式で使う各種の宝物だろう。
ポーランド共和国では憲法がレガリアとして、ハンガリー王国では聖イシュトヴァーンの王冠などが国家の正統性を示す存在として扱われ、戦争時にはこれを死守するために決死の脱出が行われた。
問題はそこではない。
何で連絡艇の側から外部の開閉が操作できないのか。雪の説明からすれば、緊急脱出時にこそ力を発揮する存在のはずなのに。基本的にはロックがかかっていて、緊急時には誰かが外部のロックを解除しハッチを開ける。普通に考えて、緊急時に誰かが自己犠牲の精神を発揮しなければ脱出できないようなシステムなんて話にならない。機能不全も甚だしい。
艇の性質からして、内部からハッチを開け閉めできて当然だろう。艇の起動時にロックが解除されてしかるべきだろう。
それが出来ないってどういうことだ。緊急事態に使えないじゃないか。緊急とは、色々ままならないから緊急なのである。その緊急事態に対する処理をアシストしてこそ、緊急脱出用の意味を成す。あのままだと緊急時にあの区画だけ確実に死守しておく必要が有るが、誰かが犠牲になる必要が出てしまう。それじゃ平時の装備、ただの速い連絡艇以外の何物でもない。あの遠隔操作不可能な施設状況――これは非常に危険で高速連絡艇の目的が半分は達成できないというダメダメな設備になってしまっている。
整備不足でやらかした、というのであればわからんでもないが――地球連邦大統領専用の高速連絡艇でそんなミスは起きてはならないだろう。また別の問題が生じてしまう。これは、ご都合主義が前面に出てしまった設定だろう。
考察②:雪、落下
雪が落下した高さは不明。ただ、あの華奢なレディがあの落ち方すれば確実に重症を負うだろう。何なら死ぬよ。実際問題として、落ち方が悪いと2メートル程度でも死亡事故は起きる。
あの搭乗口は通常の旅客機の緊急脱出スライドと同等であろうから、4メートル前後と予想できる。古代が雪を掴んだ際の全身が見える描写ですでにあの階段から2メートルないし3メートルは飛び上がる形になっていた。更に数秒耐えていた為、それだけ高く宙に浮いていただろう。ざっくり6メートルぐらいは積み上がっただろうか。
つまるところ、雪は10メートル強の位置から全く受け身も何も取れる体勢ではなく全身を金属板ないしコンクリートにたたきつけられたのだ。
即死しても不思議はない。10メートルから落下しただ大事故だ、先に述べたようにこれより低い位置の事例は五万とある。
助かっても重傷は免れない。臓器損傷していても不思議はない。無論、暗黒星団帝国の科学技術であれば大した後遺症もなく生還できる可能性もあるにはあるだろうが――少なくとも傷んだ臓器なり身体器官のドナーが必要性も念頭に置くべきだろう。……あっちこっちに要員は転がってるか。少なくとも、ほんの数日で全快できるとは思えない。
少なくとも、雪があの場面で助かったのは――確率から言えばきっと、あり得ない話ではないのだろう。が、
さすがにほぼ無傷というのはご都合主義が過ぎる。
考察③:中間補給基地単独行
クルーの成長というストーリー上必要だし、軍事作戦としても非常に重要かつ必要だった。ただ、中間補給基地の記事でも述べたように、単独行はご都合主義だった。戦略的拠点なんだから、護衛ぐらい付けとけよ暗黒星団帝国軍。
以上です。
考察④:超能力と急成長
超能力がサーシャに備わっているのはどういう事なんでしょうか……イスカンダル人にそのような能力があると第一作であるとか、新たなる旅立ちで見られれば、ハーフである以上は合理的でなくとも整合性は取れる。
が、第一作では特に何もなかった。
それ以降でも特に超能力は無かった。
水のような濃度の星間物質によってタキオン粒子を用いた探索が出来ない、というのはタキオン粒子の性質からして確かにエネルギーを加えられると停止してしまうのだから、妥当ではあろう。意外かもしれないが。
だったら別の方式のレーダー使えよ。普通の水中レーダーあるだろ、同形式のレーダー何かしらあるだろ、それ使えよ。
わざわざサーシャが特別である演出の為に挿入したシーンであれば、はっきり言って無意味。それどころかご都合主義感満載で、作品の価値を棄損してしまっている。
急成長する件についても特に何の話もなかった。むしろ、長生き=急成長とは正反対のベクトルな感がある。
普通、生物は成長するのが遅いから長生きなのである。サメだってシーラカンスだってゾウだって長生きの場合は大抵繁殖に至るまでの成長が割と長め。イスカンダル人も同様であろうと推測できる。地球人と大して変わらない生態だし。
であるならば、何で丁度いい年齢まで急成長し、その後は地球人と同じ成長スピードになるのか意味が解らない。その必要性もない。まあ、イスカンダル人という民族を再建すべくの策としてわざと急成長できるように――ヤマトっぽさの欠ける設定だ。
つまるところ、無理やりロマンスを挿入しようと試み、最も観客が感情移入しやすい古代と恋仲になりやすい年齢に無理やり整えた――最悪のご都合主義であろう。擁護のしようがない。
と、以上のように結構やらかしが多いのがこのウラリア戦役、佳境たる〈ヤマトよ永遠に〉である。
無論、何も考えずにいれば楽しめるのかもしれない。ご都合主義をピックアップして批評を加えるという楽しみ方もあるかもしれない。
ただ……はっきり言って、日本アニメ史上稀有な存在である宇宙戦艦ヤマトシリーズでこんなにも残念なご都合主義が投入されているというのは――実に嘆かわしい。